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【第50話】『出撃、Ωシャングリラ──選ばれなかった者たちの夜明け』
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シェルトファウス最終決戦スΩシャングリラの前日嘆
ネメシス本部・第六戦略分析室。
重厚なドーム型の天井の下、巨大なホロスクリーンに映し出されているのは、かつて「ヒーロー」と呼ばれた者たち──Z-DIVの映像記録だった。
ノア・クレインは無言でその戦闘ログを見つめていた。
机の上には未開封のティーカップと、開かれたデータパッド。
その端末には、いままさに作成中のファイル名が表示されている。
──【戦力比較レポート:Ωシャングリラ/Z-DIV】
「これが、“もう一つの正義”の座標軸か……」
呟いた声に、部屋の奥から機械式のブーツ音が近づく。
「報告書に“感情”を混ぜ込むのは、分析官の職務違反では?」
姿を見せたのはゼクスだった。
黒い外套を翻し、無表情にノアの隣に立つ。
「分析は分析、判断は上がする。私はそれを支えるために比較するだけです」
ノアはそう言いながらも、ほんの一瞬、スクリーンに映るΩシャングリラの映像に視線を投げた。
画面には、戦闘中のラミアが映っている。
サクラの肩を支えながら、ジーンの神経触手に対抗して電磁バリアを展開していた。
「……たとえ性能で劣っても、人の意志がどこまで力を持てるか。それを見たいと思うのは、子供じみた幻想でしょうか?」
ゼクスは答えなかった。ただ目を細め、別の画面へ切り替える。
Z-DIV RED──ヴィル・クロードの映像だ。
仮面越しの無表情が、機械の声で“有罪”を宣告する。
次の瞬間、ターゲットの首が、音もなく落ちた。
「完璧な制裁。迷いのない抹消。これがセイガンの“成果”だ」
「……それは、“未来”と呼べるのか?」
ノアは静かに端末を閉じると、傍らのゼクスにデータ送信を実行した。
「この報告書は、近く全体会議に提出します。ΩとZ-DIV、どちらが“次の正義”かを測る材料として」
「決めるのは君か、彼らか──それとも、戦場そのものか」
ゼクスの言葉にノアは軽く笑った。
だがその笑みは、どこか寂しさを孕んでいた。
「それでも私は、選ばれなかった者たちに、もう一度“選ばせて”やりたいんです。正義を、未来を──」
ホロスクリーンに映る五人の影。
イツキ、ラミア、サクラ、レン、カレン。
彼らの戦いは、まだ始まったばかりだ。
そして、その先にあるものが、“制裁”か“再生”か──
その答えを知るのは、この世界そのものだった。
──ネメシス開発区画《アーク・バイン》。
無機質なコンクリ壁の奥深く、かつて人体改造や怪人兵の実験が繰り返されていた地下施設。
その薄暗い空間には、赤い非常灯が点滅を繰り返し、空調の低いうなり声が響いていた。
ノアは中央制御台の前に立ち、静かに端末を操作していた。そこには、ゼロディバァイドの過去戦闘ログから抽出した膨大なデータが、幾何学模様のように並んでいる。
「……やはり、明確な連携軌跡はない。ゼロディバァイドは“単独完結型戦力”。……ならば」
呟く声が端末のスクリーンに反射して揺れた。
「その能力単位を封じることができれば──連携できない彼らは、一気に戦術が崩れる」
背後で足音が止まる。
「ようやく見えたな、勝機の“輪郭”が」
低く響く声。そこにはゼクスの姿があった。
その隣には、すでに整列した数十体の“旧怪人”たち。
中には、歪な義肢を持つ者や、背に異形の器官を抱える者もいる。そのほとんどが、かつてセイガンに敗れ、破棄され、ネメシスに拾われた者たちだった。
「こいつらは、自分の意志で来た。戦いたいと言ってな」
ゼクスは一歩進み、無言で頷く怪人たちを見渡した。
「ヒーローにもなれず、怪人としても使い捨てられた連中だ。だが……誰よりも、この世界の理不尽を知っている」
ノアは深く頷いた。
「整備計画を開始します。Ω計画に基づく、対ゼロディバァイド戦力の再構築を」
指先が端末を叩く。
「REDに対抗するには、出力を強制的に“0”にするジャマーを第一群に。BLACKには幻覚中和用の周波フィルター、WHITEは治療フィールドを乱す神経遅延波。そしてYELLOWには……電子視認撹乱を反転させる、逆干渉フィードバックを」
数人の整備班が動き出し、旧怪人たちに次々と改良型装備を装着していく。
ある者は両腕のブレードを外され、精密なパルス砲へと換装され、ある者は脳に直接視覚遮断装置が組み込まれていく。
「痛みは?」
ノアが振り返り、一人の怪人兵に声をかけた。背中に大きな冷却器官を持つその男──かつて“冷血殺戮獣ブリザード”と呼ばれた存在は、ふっと笑った。
「痛み? 今さら怖がるほど、俺は未練で出来ちゃいねぇよ」
その言葉に、整備班の一人が思わず手を止めて笑う。
「なかなかに勇ましいことを」
ゼクスは黙ってその様子を見ていたが、やがて一歩前へ出て、怪人兵の肩に手を置いた。
「これは贖罪でもなければ、自己犠牲でもない。
お前たち自身が“選び取った戦い”だ。誰のためでもなく、自分の意志で立て」
ノアはその言葉に、小さく頷いた。
「……Ωシャングリラは、あなたたちの存在が加わって初めて“戦える戦隊”になります。希望に変えましょう、この力を」
整備班が次々と動き出し、作業は加速していく。中央ホログラムには、戦術フローチャートの中で“Ω戦力ユニット”が光を放ち始めていた。
ノアはひときわ強く拳を握った。
「……急がないと。ゼロディバァイドは、次の出撃を準備しているはず」
ゼクスが鋭く頷いた。
「間に合わなきゃ意味がない。可能性が見えた今、止まっている暇はない」
冷たい空気の中、かすかに機械音と筋肉のきしむ音が交差する。
──かつて誰にも見向きもされなかった存在が、今、“希望”となって立ち上がる。
それは、未来を奪われた者たちが放つ最後の光 ──“Ω”の名の下に。
──ネメシス戦闘演習場《エクリプス・リング》。
鋼鉄のアリーナに、スポットライトがゆっくりと降り注ぐ。
その中央には、Ωシャングリラの5人──イツキ、ラミア、レン、サクラ、カレンが整列していた。
空気は張り詰めていて、誰一人として言葉を発さず、ただ“その瞬間”を待っていた。
やがて、円形ステージの端から白いコートを翻して歩み出る人物。
ノアだった。彼の背後には、戦術オペレーターたちと、重装の警備兵。
少年のような外見に不釣り合いな重圧を纏いながら、ノアは中央に立った。
「……各員、注目」
マイクもなく放たれたその声が、戦闘演習場全体に響き渡る。
「Ω計画に基づき、我々はゼロディバァイドの戦闘ログを完全解析した。
その結果導き出された“反応可能な特異対抗戦力”を、今ここにお披露目する」
重々しい格納扉が、ギィィィィィン……と唸りを上げて開く。
冷却スチームが吹き上がる中、影から一体の怪人が現れた。
「まず──対RED。
ヴィル・クロードの“裁定能力”を無効化するために生まれたのが……」
ノアは、掌を静かに掲げる。
「《黒鋼の無罪者(インノセント・ドレッド)》・ガラム」
重厚な黒鉄の装甲を纏い、両肩には罪を問う天秤のような装置。
その足取りはゆっくりだが、一歩一歩が床を震わせるほどの重量感。
「“断絶フィールド”により、精神裁定を完全に遮断。視認されても、判定は下らない。
さらに“匿名化戦術”で個体情報を揺らがせ、REDの判定アルゴリズムそのものを破壊します」
「……正義を測れない相手には、何もできない。皮肉ね」
ラミアが小さく呟いた。
ノアはすぐに次の扉に目を向けた。
「次は──対WHITE、クラリス・ノイシュヴァン」
今度は細身のシルエットがゆっくりと登場する。
白銀の装甲と赤い棘を纏い、まるで儀式用の棺を背負ったような姿。
「《共鳴の棘姫(ヴァイタル・ロザリオ)》・イレーナ」
彼女が歩み出ると、どこからともなく低く澄んだ鈴のような音が響く。
「“逆再生波動”は、治癒を“拒絶反応”へと反転させる。
再生しようとする細胞を、あえて自己崩壊させる技術……その結果、WHITEの“救い”は“毒”へと転じる」
「……私たちが何度も望んだ救いを、彼女は刃に変えたんだね」
サクラの声音には、少しだけ悼みの響きがあった。
第三の扉が開く。霧の中から、無数の複眼が光る。
「対BLACK、ジーン・オルフェル。
その幻覚と痛覚による支配に抗するために──」
「《静寂の多眼(サイレンス・ルーチェ)》・バルム」
全身に埋め込まれた眼球様の機器が、ゆっくりと動き、全方向を見渡す。
その歩みは静かだが、目を逸らせない不気味な威圧感があった。
「“虚無視界”により、幻覚信号を中和。
逆探知機能も備え、幻覚の発信源を特定する“反照領域”を常時展開可能」
レンが短く頷いた。
「……ジーンの“夢”は、届かない。彼の世界は静寂に沈む」
続いて、光の粒子が舞う中、第四の怪人が姿を現す。
「対YELLOW、オルカ・ゼルナート。
不可視の情報撹乱への対応には──」
「《記録守りし者(メモリア・クレスト)》・セフィ」
少年の姿をしたその存在は、透き通るような青い目と、背中に羽根のような幾何学模様の光を浮かべていた。
「“観測固定”──それは存在座標を常時記録し、情報干渉すらも記録により矯正する能力。
撹乱されようと、欺かれようと、記録された“真実”から逃れることはできない」
「かわいすぎて逆に怖いわね……真実をずっと見られてるなんて」
カレンが半ば冗談めかして呟いた。
最後の扉が開き、ノアは声を張った。
「以上、Ω計画によって新たに選抜された五体。
かつて捨てられ、今ここに、“世界を選び直す者”として再起した戦力」
イツキが一歩前へ出て、真っ直ぐ彼らを見る。
「──俺たちが選ばれなかったように、君たちも選ばれなかった。
だがそれは、何も終わりを意味しない。
むしろここからが、始まりだ」
静かに、しかし力強く──
「ようこそ、Ωシャングリラへ」
その瞬間、五体の新戦士は一斉に拳を胸に当てた。
それは敬礼でも、従属でもない。
──誓い。
かつて世界に捨てられた者たちが、もう一度、世界を選び直すために立ち上がった瞬間だった。
■
──旧文化センター区域・地上隔離帯。
かつて人々の学び舎だったその施設は、今や廃墟と化し、空中には静電気混じりの瘴気が渦巻いていた。
鉄骨むき出しの高層棟に、緊急信号が点滅する。
イツキはその光を見上げながら、小さく息を吐いた。
「……動いたな、ゼロディバァイド」
隣に立つラミアが静かに頷く。
「出撃構成──RED、BLACK、WHITEの三体。YELLOWは情報撹乱のために後方配置」
「予想通り、最悪の組み合わせだな」
イツキは背後を振り返った。
そこには、Ωシャングリラの面々──レン、サクラ、カレン。
そして、その後ろに整列する五体の新怪人戦士たち。
「ガラム、イレーナ、バルム、セフィ。お前たちの出番だ」
それぞれが一歩前に出る。装甲が軋む音すら、誓いのように聞こえた。
ノアが前に進み出て、タブレット型端末を掲げた。
「戦術マップ、展開します」
瞬時に空中ホログラムが浮かび上がり、ゼロディバァイドの進行ルートと戦術予測が表示される。
「これまでの出撃ログから導き出したアルゴリズムでは、REDは最短突入ルート、BLACKは高所奇襲、WHITEは中央医療棟に向かうと予測。
YELLOWは衛星通信帯を掌握済み。視覚・聴覚の撹乱が始まるのは数分後」
レンが腕を組みながら言った。
「つまり──連携の“無さ”が裏目に出る構成ってわけだな」
サクラがホログラムを指差す。
「バルム、あなたは高所の制圧に集中して。
幻覚が発生する前に、展開域ごと沈めて」
「──了解」
バルムの低い声が響き、足元の地面に影のような静寂フィールドが広がった。
イツキは怪人たち一人ひとりの顔を見渡し、そして静かに口を開いた。
「いいか、これは俺たち“選ばれなかった者たち”の初陣だ。
ヒーローでも怪人でもない。
正義と悪の線を踏み外した俺たちが、それでも立つ意味を──ここで見せる」
カレンが微笑みながら答えた。
「つまり、いつも通りってことね」
その言葉に場がわずかに和んだが、すぐにサイレンの音が遠くから聞こえてきた。
ゼロディバァイドが来る。
ノアの声が静かに重なった。
「Ω計画、第1フェーズ、発動」
──出撃前。
鋼鉄の出撃ゲートの前。
Ωシャングリラと五体の新戦士たちは整列し、最後の出陣準備を整えていた。
そこに、クレイン総帥とゼクス、そしてノアが姿を現す。
総帥クレインは一人ひとりの顔を見つめ、言葉を選ぶように歩を進める。
「お前たちに、ネメシス……いや、この国の未来がかかっている」
その呟きは風に乗り、誰にも届いたかどうかも定かではなかった。
だが確かに、重みだけは伝わった。
ゼクスが短く頷き、
「行け。必要な力は、お前たち自身の中にある」
とだけ言った。
ノアは静かに拳を握り締めたまま、ただ無言で見送る。
イツキが手を掲げる。
「Ωシャングリラ、出撃──!」
鋼鉄のゲートがゆっくりと開かれ、彼らは走り出した。
かつてのヒーロー。
かつての敵。
かつての落伍者たち。
今、“世界を選び直す”ために並び立つ者たちがいた。
ネメシス本部・第六戦略分析室。
重厚なドーム型の天井の下、巨大なホロスクリーンに映し出されているのは、かつて「ヒーロー」と呼ばれた者たち──Z-DIVの映像記録だった。
ノア・クレインは無言でその戦闘ログを見つめていた。
机の上には未開封のティーカップと、開かれたデータパッド。
その端末には、いままさに作成中のファイル名が表示されている。
──【戦力比較レポート:Ωシャングリラ/Z-DIV】
「これが、“もう一つの正義”の座標軸か……」
呟いた声に、部屋の奥から機械式のブーツ音が近づく。
「報告書に“感情”を混ぜ込むのは、分析官の職務違反では?」
姿を見せたのはゼクスだった。
黒い外套を翻し、無表情にノアの隣に立つ。
「分析は分析、判断は上がする。私はそれを支えるために比較するだけです」
ノアはそう言いながらも、ほんの一瞬、スクリーンに映るΩシャングリラの映像に視線を投げた。
画面には、戦闘中のラミアが映っている。
サクラの肩を支えながら、ジーンの神経触手に対抗して電磁バリアを展開していた。
「……たとえ性能で劣っても、人の意志がどこまで力を持てるか。それを見たいと思うのは、子供じみた幻想でしょうか?」
ゼクスは答えなかった。ただ目を細め、別の画面へ切り替える。
Z-DIV RED──ヴィル・クロードの映像だ。
仮面越しの無表情が、機械の声で“有罪”を宣告する。
次の瞬間、ターゲットの首が、音もなく落ちた。
「完璧な制裁。迷いのない抹消。これがセイガンの“成果”だ」
「……それは、“未来”と呼べるのか?」
ノアは静かに端末を閉じると、傍らのゼクスにデータ送信を実行した。
「この報告書は、近く全体会議に提出します。ΩとZ-DIV、どちらが“次の正義”かを測る材料として」
「決めるのは君か、彼らか──それとも、戦場そのものか」
ゼクスの言葉にノアは軽く笑った。
だがその笑みは、どこか寂しさを孕んでいた。
「それでも私は、選ばれなかった者たちに、もう一度“選ばせて”やりたいんです。正義を、未来を──」
ホロスクリーンに映る五人の影。
イツキ、ラミア、サクラ、レン、カレン。
彼らの戦いは、まだ始まったばかりだ。
そして、その先にあるものが、“制裁”か“再生”か──
その答えを知るのは、この世界そのものだった。
──ネメシス開発区画《アーク・バイン》。
無機質なコンクリ壁の奥深く、かつて人体改造や怪人兵の実験が繰り返されていた地下施設。
その薄暗い空間には、赤い非常灯が点滅を繰り返し、空調の低いうなり声が響いていた。
ノアは中央制御台の前に立ち、静かに端末を操作していた。そこには、ゼロディバァイドの過去戦闘ログから抽出した膨大なデータが、幾何学模様のように並んでいる。
「……やはり、明確な連携軌跡はない。ゼロディバァイドは“単独完結型戦力”。……ならば」
呟く声が端末のスクリーンに反射して揺れた。
「その能力単位を封じることができれば──連携できない彼らは、一気に戦術が崩れる」
背後で足音が止まる。
「ようやく見えたな、勝機の“輪郭”が」
低く響く声。そこにはゼクスの姿があった。
その隣には、すでに整列した数十体の“旧怪人”たち。
中には、歪な義肢を持つ者や、背に異形の器官を抱える者もいる。そのほとんどが、かつてセイガンに敗れ、破棄され、ネメシスに拾われた者たちだった。
「こいつらは、自分の意志で来た。戦いたいと言ってな」
ゼクスは一歩進み、無言で頷く怪人たちを見渡した。
「ヒーローにもなれず、怪人としても使い捨てられた連中だ。だが……誰よりも、この世界の理不尽を知っている」
ノアは深く頷いた。
「整備計画を開始します。Ω計画に基づく、対ゼロディバァイド戦力の再構築を」
指先が端末を叩く。
「REDに対抗するには、出力を強制的に“0”にするジャマーを第一群に。BLACKには幻覚中和用の周波フィルター、WHITEは治療フィールドを乱す神経遅延波。そしてYELLOWには……電子視認撹乱を反転させる、逆干渉フィードバックを」
数人の整備班が動き出し、旧怪人たちに次々と改良型装備を装着していく。
ある者は両腕のブレードを外され、精密なパルス砲へと換装され、ある者は脳に直接視覚遮断装置が組み込まれていく。
「痛みは?」
ノアが振り返り、一人の怪人兵に声をかけた。背中に大きな冷却器官を持つその男──かつて“冷血殺戮獣ブリザード”と呼ばれた存在は、ふっと笑った。
「痛み? 今さら怖がるほど、俺は未練で出来ちゃいねぇよ」
その言葉に、整備班の一人が思わず手を止めて笑う。
「なかなかに勇ましいことを」
ゼクスは黙ってその様子を見ていたが、やがて一歩前へ出て、怪人兵の肩に手を置いた。
「これは贖罪でもなければ、自己犠牲でもない。
お前たち自身が“選び取った戦い”だ。誰のためでもなく、自分の意志で立て」
ノアはその言葉に、小さく頷いた。
「……Ωシャングリラは、あなたたちの存在が加わって初めて“戦える戦隊”になります。希望に変えましょう、この力を」
整備班が次々と動き出し、作業は加速していく。中央ホログラムには、戦術フローチャートの中で“Ω戦力ユニット”が光を放ち始めていた。
ノアはひときわ強く拳を握った。
「……急がないと。ゼロディバァイドは、次の出撃を準備しているはず」
ゼクスが鋭く頷いた。
「間に合わなきゃ意味がない。可能性が見えた今、止まっている暇はない」
冷たい空気の中、かすかに機械音と筋肉のきしむ音が交差する。
──かつて誰にも見向きもされなかった存在が、今、“希望”となって立ち上がる。
それは、未来を奪われた者たちが放つ最後の光 ──“Ω”の名の下に。
──ネメシス戦闘演習場《エクリプス・リング》。
鋼鉄のアリーナに、スポットライトがゆっくりと降り注ぐ。
その中央には、Ωシャングリラの5人──イツキ、ラミア、レン、サクラ、カレンが整列していた。
空気は張り詰めていて、誰一人として言葉を発さず、ただ“その瞬間”を待っていた。
やがて、円形ステージの端から白いコートを翻して歩み出る人物。
ノアだった。彼の背後には、戦術オペレーターたちと、重装の警備兵。
少年のような外見に不釣り合いな重圧を纏いながら、ノアは中央に立った。
「……各員、注目」
マイクもなく放たれたその声が、戦闘演習場全体に響き渡る。
「Ω計画に基づき、我々はゼロディバァイドの戦闘ログを完全解析した。
その結果導き出された“反応可能な特異対抗戦力”を、今ここにお披露目する」
重々しい格納扉が、ギィィィィィン……と唸りを上げて開く。
冷却スチームが吹き上がる中、影から一体の怪人が現れた。
「まず──対RED。
ヴィル・クロードの“裁定能力”を無効化するために生まれたのが……」
ノアは、掌を静かに掲げる。
「《黒鋼の無罪者(インノセント・ドレッド)》・ガラム」
重厚な黒鉄の装甲を纏い、両肩には罪を問う天秤のような装置。
その足取りはゆっくりだが、一歩一歩が床を震わせるほどの重量感。
「“断絶フィールド”により、精神裁定を完全に遮断。視認されても、判定は下らない。
さらに“匿名化戦術”で個体情報を揺らがせ、REDの判定アルゴリズムそのものを破壊します」
「……正義を測れない相手には、何もできない。皮肉ね」
ラミアが小さく呟いた。
ノアはすぐに次の扉に目を向けた。
「次は──対WHITE、クラリス・ノイシュヴァン」
今度は細身のシルエットがゆっくりと登場する。
白銀の装甲と赤い棘を纏い、まるで儀式用の棺を背負ったような姿。
「《共鳴の棘姫(ヴァイタル・ロザリオ)》・イレーナ」
彼女が歩み出ると、どこからともなく低く澄んだ鈴のような音が響く。
「“逆再生波動”は、治癒を“拒絶反応”へと反転させる。
再生しようとする細胞を、あえて自己崩壊させる技術……その結果、WHITEの“救い”は“毒”へと転じる」
「……私たちが何度も望んだ救いを、彼女は刃に変えたんだね」
サクラの声音には、少しだけ悼みの響きがあった。
第三の扉が開く。霧の中から、無数の複眼が光る。
「対BLACK、ジーン・オルフェル。
その幻覚と痛覚による支配に抗するために──」
「《静寂の多眼(サイレンス・ルーチェ)》・バルム」
全身に埋め込まれた眼球様の機器が、ゆっくりと動き、全方向を見渡す。
その歩みは静かだが、目を逸らせない不気味な威圧感があった。
「“虚無視界”により、幻覚信号を中和。
逆探知機能も備え、幻覚の発信源を特定する“反照領域”を常時展開可能」
レンが短く頷いた。
「……ジーンの“夢”は、届かない。彼の世界は静寂に沈む」
続いて、光の粒子が舞う中、第四の怪人が姿を現す。
「対YELLOW、オルカ・ゼルナート。
不可視の情報撹乱への対応には──」
「《記録守りし者(メモリア・クレスト)》・セフィ」
少年の姿をしたその存在は、透き通るような青い目と、背中に羽根のような幾何学模様の光を浮かべていた。
「“観測固定”──それは存在座標を常時記録し、情報干渉すらも記録により矯正する能力。
撹乱されようと、欺かれようと、記録された“真実”から逃れることはできない」
「かわいすぎて逆に怖いわね……真実をずっと見られてるなんて」
カレンが半ば冗談めかして呟いた。
最後の扉が開き、ノアは声を張った。
「以上、Ω計画によって新たに選抜された五体。
かつて捨てられ、今ここに、“世界を選び直す者”として再起した戦力」
イツキが一歩前へ出て、真っ直ぐ彼らを見る。
「──俺たちが選ばれなかったように、君たちも選ばれなかった。
だがそれは、何も終わりを意味しない。
むしろここからが、始まりだ」
静かに、しかし力強く──
「ようこそ、Ωシャングリラへ」
その瞬間、五体の新戦士は一斉に拳を胸に当てた。
それは敬礼でも、従属でもない。
──誓い。
かつて世界に捨てられた者たちが、もう一度、世界を選び直すために立ち上がった瞬間だった。
■
──旧文化センター区域・地上隔離帯。
かつて人々の学び舎だったその施設は、今や廃墟と化し、空中には静電気混じりの瘴気が渦巻いていた。
鉄骨むき出しの高層棟に、緊急信号が点滅する。
イツキはその光を見上げながら、小さく息を吐いた。
「……動いたな、ゼロディバァイド」
隣に立つラミアが静かに頷く。
「出撃構成──RED、BLACK、WHITEの三体。YELLOWは情報撹乱のために後方配置」
「予想通り、最悪の組み合わせだな」
イツキは背後を振り返った。
そこには、Ωシャングリラの面々──レン、サクラ、カレン。
そして、その後ろに整列する五体の新怪人戦士たち。
「ガラム、イレーナ、バルム、セフィ。お前たちの出番だ」
それぞれが一歩前に出る。装甲が軋む音すら、誓いのように聞こえた。
ノアが前に進み出て、タブレット型端末を掲げた。
「戦術マップ、展開します」
瞬時に空中ホログラムが浮かび上がり、ゼロディバァイドの進行ルートと戦術予測が表示される。
「これまでの出撃ログから導き出したアルゴリズムでは、REDは最短突入ルート、BLACKは高所奇襲、WHITEは中央医療棟に向かうと予測。
YELLOWは衛星通信帯を掌握済み。視覚・聴覚の撹乱が始まるのは数分後」
レンが腕を組みながら言った。
「つまり──連携の“無さ”が裏目に出る構成ってわけだな」
サクラがホログラムを指差す。
「バルム、あなたは高所の制圧に集中して。
幻覚が発生する前に、展開域ごと沈めて」
「──了解」
バルムの低い声が響き、足元の地面に影のような静寂フィールドが広がった。
イツキは怪人たち一人ひとりの顔を見渡し、そして静かに口を開いた。
「いいか、これは俺たち“選ばれなかった者たち”の初陣だ。
ヒーローでも怪人でもない。
正義と悪の線を踏み外した俺たちが、それでも立つ意味を──ここで見せる」
カレンが微笑みながら答えた。
「つまり、いつも通りってことね」
その言葉に場がわずかに和んだが、すぐにサイレンの音が遠くから聞こえてきた。
ゼロディバァイドが来る。
ノアの声が静かに重なった。
「Ω計画、第1フェーズ、発動」
──出撃前。
鋼鉄の出撃ゲートの前。
Ωシャングリラと五体の新戦士たちは整列し、最後の出陣準備を整えていた。
そこに、クレイン総帥とゼクス、そしてノアが姿を現す。
総帥クレインは一人ひとりの顔を見つめ、言葉を選ぶように歩を進める。
「お前たちに、ネメシス……いや、この国の未来がかかっている」
その呟きは風に乗り、誰にも届いたかどうかも定かではなかった。
だが確かに、重みだけは伝わった。
ゼクスが短く頷き、
「行け。必要な力は、お前たち自身の中にある」
とだけ言った。
ノアは静かに拳を握り締めたまま、ただ無言で見送る。
イツキが手を掲げる。
「Ωシャングリラ、出撃──!」
鋼鉄のゲートがゆっくりと開かれ、彼らは走り出した。
かつてのヒーロー。
かつての敵。
かつての落伍者たち。
今、“世界を選び直す”ために並び立つ者たちがいた。
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~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
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外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
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※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!
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