完結『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』

カトラス

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【最終話】『また逢う日まで』

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 未明の東京。
 雨粒も届かぬほどに低く垂れ込めた雲の下、街は深い眠りの中にあった。
 その上空を、黒い影が滑る──ステルス型輸送機5機。静音飛行モードで、息を殺すように首都中枢へと進む。

 「ターゲット確認。首相官邸、防衛省、内閣府……各降下ポイントに到達まであと90秒」

 機内の隊員たちは一言も発せず、装備の確認に集中していた。
 ネメシス特務部隊“Ωインシジョン”──選抜された最小精鋭。
 彼らの任務はただひとつ。

 日本政府、岸破政権の無血拘束。

 地上では、既に別動隊が配置に入っていた。
 全通信帯域はノアの演算によって制御され、警察・自衛隊の指揮系統も完全遮断。
 報道各社も映像回線を断たれ、“事態”は誰にも気づかれないまま進行していた。

 「作戦コード、Ω-LUCID発動。全チーム、侵入を開始せよ」

 ノアの短い指示が入ると、輸送機からワイヤーで次々と人影が降下する。
 その様はまるで、夜を裂く刃のようだった。

 午前4時37分──
 首相官邸・執務室。

 岸破首相は、薄明かりの中で何かの異変を察知していた。
 室内の警報が鳴らないことに、むしろ違和感を覚える。

 「何だ、この静けさは……?」

 その瞬間、重々しいドアが開かれた。
 先に入ってきたのは、漆黒の軍装を纏った男──クレイン総帥だった。
 その背後にはゼクスとノア。そして完全武装のΩインシジョンの数名。

 「……っ、誰だ君たちは。ここがどこだかわかっているのか!」

 机を挟んで対峙するクレインは、冷静だった。

 「わかっているさ、岸破。ここが、正義を騙った支配の中枢であるということもな」

 「君たち……何をしようというのだ? これはクーデターだぞ!」

 「いや、これは“矯正”だ」
 総帥は一歩前に出る。

 「セイガンという名で民衆を欺き、Z計画を進めてきたその罪。
 貴様の下で行われたあらゆる『選別』と『監視』に、我々は終止符を打つ」

 「そんなもの、正義のための必要な措置だ!」

 「正義……?」
  ネメシス総帥クレインの目が冷たく光った。

 「君が使うその言葉には、裏がある。──この国は長らく、ディープステートに操られていた。
 君たち岸破政権はその傀儡に過ぎない。日本という国家は、とうに主権を失っていた」

 岸破は机の上の警報ボタンに手を伸ばしたが──

 「無駄だ」
 ノアが静かに言い、腕の端末を操作する。
 部屋の照明が切り替わり、壁の巨大モニターにクレインの顔が映し出された。

 ──それは、全国すべての公共電波にも同時に流れていた。

 『国民の皆さん。午前五時、日本政府岸破政権を拘束しました』
 『この行動は暴力による反逆ではない。これは“正義の仮面”を脱がすための無血革命です』
 『我々Ωは、ディープステートによる影の支配を完全に断ち切ります』
 『誰かに選ばれるのではなく、自ら選べる社会を創る。Ωはそれを実行する』

 街が目を覚ましたとき、すべては終わっていた。
 自衛隊基地では混乱もなく、霞ヶ関の高層ビル群も静かに沈黙を保っていた。

 午前6時、首相官邸の屋上に掲げられていた日の丸が静かに降ろされる。
 代わって、白地に円環の意匠を施した新たな旗がゆっくりと掲げられた。

 総帥はその様子を静かに見上げながら、隣に立つノアに言った。

 「始まったな──“選ぶ側”の時代が」

 「ええ。ですが、これで終わりではありません。今度は、どう導くかです」

 「導くのではない。……共に立つんだ、国民と」

 風が、あの旗を静かにはためかせた。
 ネメシスによる無血クーデターは完了した。

 そして、かつて“正義”と呼ばれた体制に代わり──
 傀儡国家として操られていた日本に、新たな主権の夜明けが訪れようとしていた。

 
■ 

 ネメシス本部の最上階。かつて作戦会議が開かれていた広いホールは、今は静かな祝勝の場として開放されていた。
 天井には控えめな光の帯が流れ、壁際には簡素なテーブルと椅子。華やかな装飾も、盛大な料理もない。それでも、そこには確かに“戦いの終わり”と“新たな始まり”の空気があった。

 「乾杯……とか、したほうがいいのか?」

 イツキが少し照れたようにグラスを掲げると、ラミアが笑ってそれに続いた。

 「……なら、乾杯。勝利と、再出発に」

 他のメンバー──サクラ、レン、カレン、イレーナ、そしてガラムまでもが、それぞれのカップを軽く掲げた。
 グラスが軽く触れ合う、優しい音。

 「……お前ら、よくぞ生きて帰ってきた」

 ゼクスが腕を組んでホールの隅に立ちながらも、どこか誇らしげに彼らを見つめていた。

 「本当に……終わったんだね」

 カレンの呟きに、サクラが頷く。

 「でも、始まったとも言えるよ。私たちは、これからの日本を守る“Ωシャングリラ”なんだから」

 その言葉に、誰もが表情を引き締めた。

 「追放されて、捨てられて、壊された。でも──それでも立ち上がって、ここまで来た」
 イツキの言葉に、ラミアがそっと寄り添うように言葉を添える。
 「だからこそ、私たちが守れる。もう誰にも奪わせない、この平和を」

 温かな拍手が、自然と湧き上がる。
 誰の指示でもなく、心からのものだった。

 一方、ネメシス本部の静かな奥室では、クレイン総帥がノアの前に立っていた。

 「……これで、私の役目は終わった」

 ノアが俯いたまま、小さく震える声で問いかける。
 「どこに行くの……?」

 クレインは微笑む。その瞳には、遠い時間の記憶が揺れていた。

 「彼女が、待っている。もう、ずっと……思念だけの存在になってしまったけれど、ようやく俺もそちらへ行ける」

 「でも……でも、あなたがいないと、みんな……!」

 ノアの言葉を遮るように、クレインはそっと頭に手を置いた。

 「お前がいるじゃないか。イツキたちも。私はもう、何も心配していない」

 「……っ、父さん……」

 「さあ、未来を頼んだぞ。ノア」

 クレインの身体は、まるで光の粒に還るように、静かにその場から消えていった。

 ノアはその光の余韻を見つめながら、ぽつりと呟いた。

 「……お父さん、ありがとう」

 祝勝会が終わり、廊下を歩くイツキとラミア。
 静寂の中、ふたりの足音だけが響く。

 「……やっと、終わったな」
 イツキがぽつりと呟いた。

 「そうね。けど、ここからが本当の始まり」

 ラミアはそっと微笑み、イツキの横顔を見上げた。

 「なあ……俺、お前と一緒に生きていきたい。正義のためとか、使命とかじゃなくて──ただ、隣にいてほしい」

 「……うん。私もそう思ってた」

 言葉はもう、必要なかった。
 イツキはラミアを優しく抱きしめ、そのまま額を寄せ合い──軽く、温かなキスを交わした。

 窓の外には、夜が明け始めた空。
 新しい時代の一歩が、今、静かに踏み出されようとしていた。

 そして、数日後。
 灰色の空が広がる東京。
 コンクリートの割れ目から雑草が顔を出し、ビル群の間を縫うようにして瓦礫の路地が続く。
 遠くで鳴るパトカーのサイレンが、かつての秩序の残響を思わせた。

 だが──その沈んだ都市の一角を、風を切るように疾走する影があった。

 「目標、南東第七区画。瓦礫の中に不審反応あり」
 レンの冷静な声が、通信越しに響く。

 「了解。サクラ、右から回り込め」
 イツキが指示を飛ばすと、サクラが軽やかに頷いた。

 「敵かどうか、まだわからないけど……それでも守るのが私たちの正義よね」

 Ωシャングリラ。
 かつて追放され、裏切られ、戦火をくぐった者たちが今、かつての首都を駆け抜ける。
 その背に、確かな決意と新たな正義を乗せて──

 (終わり)



 廃墟と化した旧セイガン本部。
 高層ビルの外壁は焼け焦げ、風に舞う灰がガラス片の上をさらさらと転がる。かつて世界最強と呼ばれたヒーロー部隊の拠点に、人影はない。

 ただひとり。
 セイガンゴールド──コードネーム・クロウ。
 戦闘用のスーツは傷つき、右肩のエンブレムは半ば焼け落ちていた。

 彼はかつての作戦室の中央に立ち、通信端末を手にしていた。スクリーンはまだ真っ暗なままだ。

 「……応答願う。こちらセイガンゴールド、認証コードXV-05。生存を報告する」

 無機質な沈黙が数秒流れた後、端末のスクリーンにノイズ混じりのシルエットが現れた。

 「……お前か。生き残っていたとはな」

 その声は男とも女ともつかぬ機械的な響きだった。

 「“影”の方か……我々はすべてを失った。ゼロディバァイドは全滅し、首都は制圧された」

 セイガンゴールド──クロウの声には、感情がこもっていない。それが教育の成果か、それとも絶望によるものかは定かでない。

 「今後、私はどうすればいい?」

 しばらく沈黙が続いた。

 やがて、画面の向こうの“影”は短く告げる。

 「……とりあえず、帰国しろ」

 「了解」

 通信が切れた。

 クロウは黙って端末を握りしめ、かつての仲間たちの写真が焼け残った壁に目をやる。

 誰もいない空間で、風が静かに吹き抜けた。

 彼は背を向け、廃墟の本部をあとにする。
 その背に、いまだ消えぬ“正義”の痕跡がちらついていた──。

 そして、直前に通信端末にもう一度だけ、短い英語のメッセージが表示された。

 “We have prepared a new force for you.”

 “Vengeance is ours, in the name of Nemesis.”


※※※

【あとがき】
 まずは――最後までこの物語をお読みくださったすべての読者の皆さまへ、心より感謝申し上げます。

 全52話+そして総計26万文字超。気がつけば、とんでもない長旅になっていました。毎回楽しみにしてくださった方も、まとめ読みをしてくださった方も、偶然たどり着いた方も――このページに至ってくださったそのご縁に、深くお礼を申し上げます。

 本作『戦隊ヒーロー追放された俺、なぜか敵の幹部になって世界を変えていた件』は、最初は「ヒーロー物を逆から描いてみようかな」という軽い思いつきから始まりました。主人公イツキが追放されるところまでは計画的でした。……が、そこからは、もうキャラたちが勝手に動き始めてしまって。

 特に悩んだのは「新怪人の能力」と「Ω計画の設定」でした。
 「この能力、ゼロディバァイドのあの技に勝てるか?」と机の上で指を折りつつ考えたり、夜中に「もっと語感カッコいい名前ないか……!?」と寝かけの脳を酷使したり、最終的には「いやこれ怪人の設定にしては手術内容リアルすぎない……?」と我に返ったこともしばしば。

 途中から登場したクレイン総帥に至っては、作者の予想を超えてあの落ち着きと存在感で物語を支配し始め、しまいには「クーデター起こしてもいい?」とキャラ自ら筆者の頭の中で提案してくるような勢いでした(笑)。

 そして気づけば26万文字。
 正直に言えば、あとがきでこのように締めくくっている今も、まだ筆を置きたくない気持ちでいっぱいです。イツキやラミア、ノア、レン、サクラ、カレン、そしてΩシャングリラの面々のその後……描きたいことは山ほどあります。でも、一つの物語には「終わり」と名のつくページが必要です。

 本音を言うと、まだまだ続きを書けます。
 けれど、だからこそ今はこの“終わり”に価値があると信じて。
 あのディストピアの東京を駆け抜けるΩシャングリラの背中に、物語の灯火を託したいと思います。

 いつかまた、彼らが帰ってくる日があれば――その時はぜひ、またこのページをめくっていただければ嬉しいです。

 それでは、改めて。

 本当に、ありがとうございました!

(作者)

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のりこ
2025.07.07 のりこ
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