夢追人と時の審判者!(四沙門果の修行者、八度の転生からの〜聖者の末路・浄土はどこ〜)

一竿満月

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年ノ瀬

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 文禄三年の年末に吾輩は指月城下にいた。ご主人はこの日、伏見の小早川屋敷に頼まれ物のお菓子を届けていた。
 この年は徴用の為に米が大阪以西に集められて、京より東に米が不足して出回らなかった。
 そして、太閤検地により離農する人々が京に集まってきた。

■■■■…………
 文禄三年十二月に明の許可が降り、内藤如安が北京へ入城する。明朝政府では兵部尚書石星によって冊封と講和による戦争終結が進められていた。
 内藤如安は秀吉軍全面撤退、朝貢の要求禁止、今後侵略を行わない、という講和の三ヶ条を誓約する。朝鮮出兵や半島に駐留している理由、講和後の晋州攻撃などについての審問を受ける。
 十二月晦日に明朝政府は冊封を決定し、冊封使(正使:李宗城、副使:楊方亨)を任命する。
この頃明軍が朝鮮半島から北京へ撤兵を完了させる。 
 国内では、まず検地方針ないし検地条目が追加され、ついで奉行以下の検地役人が組織された。検地奉行に任命された者は多く、そのおもなものは浅野長政、石田三成、増田長盛、長束正家、小堀新介、片桐且元らであり、概して文治派の部将である。一国以上の大規模な検地には、何人かの奉行が任命され、そのうえに全体をまとめる惣奉行が置かれた。
 検地奉行らの一行は、村の一端から全村域にかけて田畑屋敷を一筆ごとに測量し、各筆の等級や面積・分米・名請人などを決めていった。その決定にあたっては、あらかじめ知行主や村方に書き出させた指出を参考にする場合も多かった。いずれにしても、田畑の等級については土地の肥痩、灌漑の便否、地形地質の良否などを考慮して上・中・下・下々などに格づけされ、さらに面積・分米・名請人も決められ、それらを記載して総面積・村高を明らかにした検地帳が作成され、それに奉行が署名して秀吉に提出し、また知行主・村方に渡した。
 以上のような実施内容のうち、とくに重要なのは面積・分米・名請人の決定であり、それらは細かく決められた。
 太閤検地は田畑各筆に一領主・一農民という一元的な領主―農民関係を樹立させ、純粋封建制を将来させたので、そこには小農民の自立を促す太閤検地の革新性がみられ、同時に石高の把握と相まって兵農分離の基礎があった。
 太閤検地が把握した分米=石高のうち、作徳分は農民に、残りはすべて領主に収取される原則であったから、土豪・有力農民は従来のように中間搾取して武士化、領主化することがむずかしくなり、兵農分離が推し進められた。
 太閤検地により把握された石高は、農民への年貢賦課をはじめ、大名や家臣への知行給付、軍役賦課、家格などの基準となったのである。
 なお、太閤検地で長さ・面積の単位が曲尺の六尺三寸を一間、三百歩を一段と定められ、枡も京枡に統一されたことは、隠田を摘発され、領地を失った一族は住む地を追われた。


□□□□…………小早川秀俊(信長)
 秀俊は小太郎に依頼し、お茶菓子を手配していた。
「内府殿改易での一件以降、仲良くやっておりますし、協力していただけると思いますけれど……」
 (改易された織田信雄が文禄元年の文禄の役の際に家康の仲介で赦免され、秀吉の御伽衆に加えられて大和国内に一万八千石を領した)
 つぶやきつつ……秀俊はテーブルの上のお菓子を眺めた。
 そこには、小太郎に頼んで揃えてもらった珍しい焼き菓子が並んでいた。
 ロシアケーキと呼ばれるそれは、型抜きクッキーと絞り出しクッキーを二度焼きしたクッキー生地の上に、甘い果実のジャムやチョコレートをコーティングしたり乗せて食べる、露国の伝統的なお菓子だった。
 ただ、用意されたジャムは、小太郎が精魂込めたワインのように美しい葡萄のジャム以外にも色々用意されていた。
 つぶつぶの果実がそのままの形で入ったイチゴジャムは、秀俊が見たどんなジャムよりも美しく、眺めているだけで、ついついうっとりしてしまう秀俊である。
 基本的に、宝石などの装飾類には、そこまで興味を示さない秀俊であるが、甘い食べ物に関しては別である。なにしろ、美しく美味しいものは、お腹の中に入れてしまえば、誰かに奪われることはないわけで。
 目を喜ばせ、舌を喜ばせることに重きを置く合理主義者、秀俊なのである。
「儂は、一人で全部できるとは思っておらぬ。それに、得意なことは人それぞれ。ならば、得意なことを得意な人にやって貰おうと思っているだけのこと。商売のことは商人に、戦は武士に、そして、関東の統治は、徳川殿に」
 というか、ぶっちゃけ、なんでもかんでも自らの責任にされてはたまらないと思う秀俊である。
秀俊がしたいのは、味見と昼寝、鷹狩と乗馬。後は、まぁ、ちょっぴり我慢して、俊定らが優しく、やさぁしく要約してくれた書類に「いいね!」することだけなのである。
「実は、近江の琵琶湖でこんな話が出ておる」
 そうして、話すのは、『魚の養殖』の話だ。
「なんと……魚の養殖を米不足の対策に活用……と?」
「あぁぁ。それを実現するためには、魚を生きた状態でいろいろな場所に運ばなければならない。そんなことが出来るのか……?」
「どう……なのでしょうか? メスが卵を抱えた状態で移動させることはできるのかもしれませんが……某も詳しくはありませんので……」
 ううむむ、と唸る家康に、秀俊はニッコリ微笑みかける。
「やるべきことは、まだまだ、まだまだ、たくさんある。大納言殿。意義のある事がたくさんあるのに、引退するようなことを口にするのは早すぎるのではないか?」
「はて? 私はただの一度も引退を考えているなどと申したことはございませぬが……」
 それから、家康は、むん、っと立ち上がり……。
「この体とて、長く働くために健康が必要と思えばこそやっていること……ふふふ、まだまだ、老け込むつもりもありませぬよ」
 朗らかな笑みを浮かべる。その笑みには邪気はなく、かつての狡猾な狸親爺の面影すらなく……あるのは、精悍な、夢に向かう若者のような、野心と生気に溢れた色だった。
 二人がそんなことを話しているうちに、俊定が余興の支度が出来たと話しかけた。

確か、柳生石舟斎による無刀取りだったはず……。
「それでは、当代きっての剣豪、柳生石舟斎による無刀取りです!」
その瞬間、家康の顔が引き攣った。
 秀俊周りの家臣達はそのことに気付かず。あちこちで、おぉー! とか、やっぱり! とか言う言葉が交わされている。
 静かなのは、徳川家の家臣たちと柳生家たちくらいだ。
ちなみに家康は、いつの間にか嬉しそうに秀俊と話している。
 
(隠田を摘発され、領地を失った柳生一族は住む地を追われた。石舟斎は新陰流を絶やさぬようにと小さな村に質素な道場を創設するが、そのことを聞きつけた小早川秀俊から、石舟斎の「無刀取り」の腕前を見てみたいと接見を望む書簡が届く。この接見が没落した一族にとっての好機になると考えた宗矩は、父・石舟斎を説得。石舟斎は秀俊に会うことを決意する)

 そして、柳生石舟斎と柳生宗矩が登場した。

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