ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
1 / 240
ボーンネルの開国譚

第一話 ボーンネルの開国譚

しおりを挟む
『何か』がぽっかり空いた夢を見た。
 でももう、なくなってしまった『何か』はわからない。
 掴もうと手を伸ばしたが、そこにはもうない。
 もう戻ってこない、理由も無くそう確信し喪失感に襲われた。
 しかし目が覚めると体の全身が暖かくて心地よかった。
 そしてなぜか、懐かしかった。

 ************************************

 二度寝をしようとした少女の真っ白なほっぺたを小さな狼が鼻でつつく。
 少女は小さく笑みを浮かべもう一度ゆっくりと目を開いた。

「おはようガル」

「ガゥ!!」

(あれ、どうしてこんなに嬉しいんだろ)

 そう思い記憶を辿るも思い当たる節はない。
起き上がるとガルが手に抱きついたままだった。

 ガルというその狼は綺麗な毛並みで小さくかわいらしいフォルムをしている。
 飼い主に絶え間ない愛情を注がれガルは優しく穏やかに育った。
 大きくあくびをしてその飼い主を見つめる。世界で一番大好きな人、ガルにとっては親友だった。
 会話はできないがガルはそう確信している。

 少女の名前はジンという。
 真っ白な髪に雪のような肌。宝石のような赤い瞳に端正な顔立ち。
 ガルにとってジンは自慢の存在だった。

「よしよ~し」

 ジンはしばらくガルをわしゃわしゃした後、ガルを胸の高さまで抱きかかえて立ち上がった。

「起きよっかぁ」

「ガゥ!」

二人が住むのは海の近くに建てられた小さな白い家。家の前には小さな墓石が置かれている。
家の前にある墓石にはまるで紫や白のドレスを着たような美しい花々が彼女を見守るように添えられていた。


 ジンが住む国の名前はボーンネル、ある英雄が眠る国である。

「ゼフじい、おはよう」

「おはようジンよく来たな、ガルもおはようさん。ゆっくりしていおいき」

 ゼフはまるで孫に話しかけるように優しい口調で、そして笑顔でこたえた。それにガルも軽く吠えて挨拶する。
 ゼフは鍛冶屋を営んでおり、この地域で唯一の鍛治職人だ。
 ジンは物心がついた頃には両親を失い、それからはこの世界の成人年齢である16歳までゼフに育てられたのだ。そのためゼフとジンは実際に血は繋がっていないものの本当の家族のような関係になっている。

「ロードの調子はどうだ? 何かあったらいつでも持ってくるんだぞ」

「大丈夫、今は家で休んでるよ」

 ロードはゼフが作成したジン専用の武器である。ロードのような名前を持つ武器は『意思のある武器』と呼ばれ、武器自身が意思を持ち所有者とだけ会話をすることができる特殊な武器なのだ。

 ジンがゼフの家でゆっくりしているとそこにカラカラと音を鳴らしながら誰かが入ってきた。コッツという名前でガイコツの見た目をしている。だか魔物ではない、ジンが生まれる前からずっとボーンネルに住んでいる一種の種族である。コッツは丁寧に挨拶するとゼフに話しかけた。

「ゼフさん、ここの腕の骨にヒビが入ってしまいまして。新しいものをいただけますか?」

 そう言ってコッツはヒビの入った右手の骨をゼフに見せた。
 コッツの骨は頭の先から足の先まで全て取り外し可能であり壊れるといつもゼフの元へと来るのだ。

「こりゃあまた派手にやらかしたなあ、取り替えられるからって無茶するなよ」

 ゼフは優しく笑うと奥から骨を取ってきてコッツに取り付けた。コッツはよく骨を壊してしまうのでゼフの鍛冶屋に骨のストックが置いてあるのだ。

「いえいえ、ご心配には及びません。先ほど薬草採集で森に入っていたのですがガーグに攻撃されましてね。いやあお恥ずかしい」

 ガーグは小型の魔物で多くの地域に生息している。
 現在確認されている魔物は人間により設立された「中央教会」により上からG、S、A、B 、C、Dとランク付けされており、ガーグはDランクに指定されているがガーグの上位互換であるガーグナイト、ガーグロードはそれぞれCランク、Aランクと定められているのだ。

「あっそうだ! クレースに呼ばれてるんだった。そろそろ行かないと」

「クレースさんにお呼ばれとは羨ましいですね、いやぁ私もお呼ばれされてみたいものです」

「そうか、気をつけてな」

「うん、また来るね」

 そしてジンはガルを抱きかかえてクレースの家に向かった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...