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ボーンネルの開国譚
第二十話 蹂躙劇
しおりを挟む———集落3
ゼグトスは集落を守護結界で覆うと静かに敵の進軍を待っていた。
「······来ましたか」
しばらくし集落に現れたのはAランクの魔物が数十体。
それに加えトキワ達の向かった集落に出現した赤色の外骨格を持つ魔物に酷似したものが一体現れていた。
その魔物は敵がゼグトスだけなのを確認するとニヒッと笑い魔物とともに進軍を始める。
「私はジン様の勇姿を見に行かなければければなりません。すぐに終わらせたいのではやくかかって来なさい」
「あぁ? 誰だそれ。どうせ今頃ダロットにボコボコにされてんだろうよぅ」
「······少し話をするつもりでしたが、もういい」
ゼグトスの声色は変化した。ジンを侮辱するような言葉。
少しは戦いを楽しもうとしていたゼグトスだったがその一言で魔物の死期は近づいた。
重々しい低音の声に魔物は萎縮し、立ちすくむ。
「······」
余裕の表情を浮かべいてた鬼の魔物は生まれて初めて感じる恐怖に襲われていた。
上位種として生まれた、そう錯覚していたことが間違いとその瞬間自覚させられる。
自身よりも圧倒的な格上と対峙したことがなかった魔物は形容し難い恐怖に呑み込まれていた。
「ジン様と同じ世界に存在するな」
本来、ゼグトスの前に立つことが許されるのは世界にほんの数人程度。魔物たちは間違えたのだ。
無意識の内に別の方法で死にたいと懇願していた。理由は分からない、だが最悪の結末が目に見えていた。
「この世で唯一、私の上に立つお方を侮辱した。それだけで殺す理由は十分でしょう」
恐怖は伝播し重たい空気で満たされた。
見るに耐えない一方的かつ迅速的な蹂躙が始まったのだ。
*************************************
———再び集落2
リンギルは困惑していた。先ほど目の前で強い感じのオーラを放っていたはずの鬼の魔物は今、ボルの足元に頭をおいて倒れている。数十体の魔物も同様、意識を失い無力化されていた。
(クソッ—何もできなかった)
リンギルが見たのはAランクの魔物すら雑草のように狩られていく様子だった。先日、自分がAランクのサラマンダーに苦戦していたのがバカらしくなるような圧倒的な蹂躙。途中から魔物は襲って来ることなく、ただ恐怖し逃げていくだけだった。
(ボル······)
リンギルが何よりも恐れたのは「武器忘レタ」と言いながら素手で戦っていたボルの姿だ。
素手のはずがボルは槍を使うトキワとともにAランクの魔物をねじ伏せていたのだ。先程まで威勢の良かった魔物は絶望した顔で地面に顔をつけ、まるで何が起こったのかもう一度よく考えているかのようだった。
呆然としているのは、後ろで守られていた剛人族の者たちもであった。目の前で起こったことが信じられず、口を開けたままただ眼前に広がる光景を見ていた。ただ全員、トキワとボルが味方であることに安心していたのだ。
「ここの奴ら避難させてジンの様子見にいくか」
「ウン」
「おい、なに口開けてんだよはやく行くぞ」
「あ、ああ」
集落に攻めてきた魔物の内、逃げ切れたものは一匹として存在せず、二人の前に倒れ伏したのだ。
*************************************
———集落1
ダロットは剛人族を盾にするように陣形を取っていたため無理に攻め込めない状況にあった。
人質を取り有利に戦いを進めていた、しかしそう考えていたのはダロットだけだったのだ。
「私が全員眠らせる」
「はぁ!?」
クレースが全員を片付けてしまうので魔法で眠らせるの一番いい。
不利なように見せかけて実は魔法がかけやすいように誘導していたのはこっちだ。
「でかした、これで心置きなく暴れられる」
人質のいなくなったエルダンはAランクの魔物をいとも簡単にねじ伏せていく。
その実力はたった一人でこの場を制圧するほどだったのだ。
「おかしいだろッ!! Aランクだぞ!」
ダロットは目の前で起こる事実に困惑し焦っていた。
流れ込むようにして襲いくる魔物は既にエルダンの敵ではなかったのだ。
(やはりこいつだけ別格と言ったところか)
しかし何かを感じ取るとダロットは途端に笑みを浮かべた。
(転移魔法の準備がもうできる。こいつらを生贄にすれば残りの魔力は足りるな)
「まずい····離れてエルダンッ——」
ダロットが魔法陣を展開すると同時に激しい暴風が巻き起こった。
魔法陣は光りながらエルダンの倒した魔物だけでなく眠りについていた剛人族の者の下まで広がっていく。
「魔力じゃない······」
ジンはすぐさま魔法陣を打ち消そうとしたが何故か弾かれた。
魔力ではない他の力——魔法陣を覆っていた妖力に阻害されたのだ。
「ジン、私の後ろにッ——」
すぐさま気づき魔法陣を再び破壊しようとするが既に手遅れだった。
魔法陣に取り込まれた者達は生贄となり魔力に変化したのだ。
エルダンの背に寒気が走り、身体はダロットに向かい動き出していた。
「貴様ァァああッ!!」
「エルダン突っ込むなッ—魔力の渦に巻き込まれるぞッ——」
しかしクレースの言葉がエルダンに届くことはない。
「ハハハハァアッ!!! 哀れだなぁ!?」
ダロットの嘲笑うような声が響き渡りエルダンはその渦に吹き飛ばされた。
「お前達にはこいつを出す必要があるなぁ、認めてやんよぉ」
転移魔法陣が完全い展開されると同時にガルの毛が激しく逆立った。
次の瞬間、重々しい圧が近くにいたエルダンを襲う。転移魔法から召喚されたのはまさしく災厄であった。
『閻魁』——その災厄は出現とともに辺りへ向かい凄まじい邪気を放った。
「ハァアアアアッ———!!!」
見上げるほどの巨体。エルダンはすぐさま飛び上がりその視界に閻魁の頭を捉えた。
剛轟の状態の上、激しい怒りが加わった今、エルダンの放つ打撃の威力は凄まじい。
「ブハッ———」
だが重たい金属音とともにその身体は地面に叩き潰された。
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