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ジンとロードの過去編

第五話 アルムガルドの助っ人

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一方その頃、武器の世界アルムガルドは慌ただしい雰囲気に包まれていた。

「ニュートラルドに敵が侵入したらしいぞ」

「どうも外から侵入したみたいだ」

「外から!? 一体どうやって」

アルムガルドではニュートラルドから入ってきた情報に『意思』たちの驚きと戸惑いの声が響き渡っていた。フィリアが助けを求めてなんとかアルムガルドだけに情報を流したのだ。そしてアルムガルドに住む意思たちにとってもニュートラルドは中立かつ不可侵の存在である。そのため、この状況にあたりは混乱していた。

「ふぅ」

そしてそんな中ゆっくりと深呼吸をして集中するようにアルムガルドの結界の前に一人の意思が立っていた。

フィリア本人から情報を受け取った武器の意思、メルティは一人でニュートラルドに通じる道を開くため、結界を破ろうとしていたのだ。メルティは以前までニュートラルドで中立の意思として存在していたが、武器の意思としてニュートラルドから転移したのだ。

「フィリア、無事でいて!」

三つの世界を区切る役割を持つ結界は初代の武器と道具の王が展開したものであり、自己修復機能がついているため、一度破ってもしばらくするとすぐに元に戻ってしまう。さらに結界自体も強力で簡単に破ることができず、結界を通って移動するのは容易ではないのだ。

「メルティさん、あまり無茶なことをしてはいけませんよ」

そうメルティに話しかけてきたのは、同じく武器の意思でありおっとりとした顔をしながら屈強な体を持っているゼルタスという男であった。そしてゼルタスはメルティと同じく、以前までニュートラルドに住んでいた意思なのだ。

「ゼルタス! どうしてここに」

「当たり前ですよ、フィリアさんには私もお世話になりましたから。私もご一緒させていただきます」

「ふぅ、まああなたがいれば心強いわね。それじゃあ頼むわ」

そして二人の込めた魔力はニュートラルドに通じる巨大な結界に小さな穴を開ける。

「いくわよ!」

「はい」

メルティとゼルタスは僅かに開いた場所に飛び込む、その瞬間、ニュートラルドに転移する二人の意識は薄くなりそれぞれ別々の場所に放り出される。無事にニュートラルドへの転移に成功したのだ。


ニュートラルド地下。

トキワとボルは暗く視界が悪い中、鳴々を守りながらの戦闘に苦戦を強いられていた。

「チッ、派手な技を出せば岩に押し潰されちまうな」

トキワは周りの地形をよく観察しながらそう言った。辺りは狭く、今にも崩れ落ちそうな天井で思うような戦いが繰り広げられないのだ。一方ログファルドはファンネルの作った黒く特殊な衣を纏い、黒い煙の影響を一切受けることなく斧を振り回してくる。

「おいおいどうしたよぉ? さっきまでの威勢は!」

トキワとボルが手も足も出ないと思い、調子に乗ったログファルドはさらに斧を振り回しながら間合いを詰めてくる。

(それにしてもあの二人はなんだ。なぜ我の煙の影響を受けない。普通ならもう死んでもいい量の煙を浴びてるぞ)

本来、ファンネルの特殊な黒い煙は少し触れれば皮膚が剥がれ、呼吸器系には大きなダメージを与えるものなのだ。

「あっ!」

そんな中、突然鳴々は二人の元から離れて奥に走っていく。

「おい嬢ちゃん、離れるな危ねえぞ!」

鳴々が二人から離れた途端、ファンネルが鳴々に向かって黒い煙を浴びせる。黒い煙は空間全体を伝わり、すぐに鳴々の元までたどり着く。

(間に合わッ!······)

しかし黒い煙は一瞬にして何もなかったかのように消え去った。

「何!?」

その光景を見て驚いた顔でファンネルは声を上げた。

「やれやれ、こんないたいけな少女に何をするんですか」

ゼルタスが現れて辺りの煙を一瞬にして消してしまったのだ。

「ゼルタス!」

鳴々はゼルタスの声を聞くと嬉しそうに笑って抱きつきにいった。

「鳴々さん、大丈夫ですか?」

「うん、この二人の人が助けてくれたの」

そう言って鳴々はボルとトキワの方を指さした。

「それはそれは、どうもありがとうございます」

ゼルタスは二人に丁寧に頭を下げる。

「いいぜ、気にすんな、俺はトキワってんだ。それよりこっちも助かったぜ」

「ありがトウ。 僕、ボル」

そしてゼルタスは優しそうな瞳から急に暗い瞳でログファルドとファンネルの方を一瞥した。

「あなた方は敵ということでよろしかったですね?」

「ケッ、一人増えたところで変わらねえんだよ」

ログファルドは依然として威勢のいいままでいた。確かにファンネルの煙を考えると今の状況は不利であったのだ。ゼルタスもそれを理解しているようで無理に攻め込もうとはしない。そして、ボルの方をむいて右手に握るハンマーをじっと見つめる。

「ボルさん、私と契約しませんか?」

突然、何の躊躇いもなくゼルタスはそう言ったのだ。
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