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英雄奪還編 前編
五章 第三話 炎 対 獄炎
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この世界には八大帝王と呼ばれる世界のパワーバランスを保つ八人の者が存在する。帝王はそれぞれが自身の治める国にその身を置き、帝王の名の下にほぼ全ての国が長きに渡る繁栄を築いている。帝王同士が争えば世界に変化が生まれると言われるほど個々の力は強大でその名は世界中に轟き、その強さから力の無い種族にとっては信仰対象となる場合も少なくはない。
帝王の中でも鬼帝ゲルオードに加え、呪帝、巨帝、嵐帝と呼ばれる三人の帝王は古くから関係があり誰かが言い出して一つの場所に集まり話をするというのが通例になっていた。そして今回はゲルオードが全員を呼び出したことにより、ギルゼンノーズに他三人の帝王が集まった。普段ならば周辺国の情勢や他の帝王の動きなどから世間話をすることもあるその集まりは一人の話題で持ちきりになっていた。
「ゲルオード、お主ほどの者がたかが人間をそれほどまでに褒めるのは初めてではないのか」
「まあそうだな、だが一度見れば分かるだろう」
「ハッハッハ! だがその者に肩入れしすぎるような真似はやめておけよ。帝王という立場にあるのだ、その者が他から反感を買われる可能性も皆無ではない」
「しかしなあ」
「なあなあ! その人間はゲルからすれば自分の子のような存在なのか?」
「うーむ、まあジンは子というか孫というべきか。とにかくかわいらしいやつなのだ。頼まれれば何でも買ってやりたくなる」
「すっかり心が奪われておるな。それで今回はそのジンというものの話をしに来たのか」
「まあそれもあるが、今回は頼みがあってな」
「頼み?」
「ああ、ジンをこの会談に招いてもいいか?」
「私は構わないぞ! ぜひ見てみたい!!」
「それはお主が会いたいだけではないのか。まあ構わんが」
「人間と会話をするのはちと面倒だが今回は許してやろう」
(······ということがあったのだ。それでどうだ、来ないか?)
(私が行ってもいいの? 時間は空けられるけど)
(全く構わん。場所は首都ギーグだ)
(おいゲルオード)
すると途中でクレースが魔力波に入り込んできた。
(な、なんだクレース)
(安全なんだろうな、お前以外に三人来るんだろ)
(フッ、聞いていたのか。だが安心しろ悪い奴らではない。それにお前や他の者も来て構わんぞ)
(ああ、言われなくてもそうするつもりだ)
(準備にはまだ少し時間が要する。いずれまた連絡しよう)
ということなので予定が決まった。正直急に初対面の帝王三人と会うことは緊張するが、同時にワクワクもあったのだ。ともあれそれまでは用意するべきものなどはないので取り敢えずはいつも通りやることをする。
最近、ブレンドの特訓が本格化してきて今ではトキワの指導の下でリンギル、エルダンの二人と一緒に日々特訓をしている。木人族は先天的な能力が非常に高い上、成長速度もかなり早いらしい。それもブレンドの場合は、トキワによると恐ろしいほどの伸び代を持っているとのこと。どうやら今では植木鉢で眠れるくらいの大きさから、人間の子ども······ 私の身長くらいの大きさまで身体の大きさを自由自在に変更できるらしい。ちなみに今では、弱点の火を克服するという目標を立てつつ頑張っている。
するとその時、集会所のドアがノックされボルが入ってきた。
「ジン、今からトキワが戦うラシイ」
「えっ、誰と?」
「ゼステナサン。経緯は知らないけど、トキワの炎か自分の炎のどっちが強いかってなったラシクテ。トキワは面倒くさそうだったけどかなり人が集まってきちゃっテサ。もう結界を張って始めているとオモウ」
「ゼグトスッ—」
「はい!!」
驚くほどに元気で早い返事だ。
「ゼステナとクリュスって正体は何なの? 人間ではないよね」
「ええ。一応、数百万年以上生きる龍です」
「······えぇ!? 止めないと!」
国で定めているルールとして他人への暴行行為は禁止している。閻魁が発端かは分からないが、特訓という名目ならば仕方ないということで手合わせをしているみんなをよく見ることがある。もしかして、いいやもしかしなくても戦闘狂が多いのだ。しかし今回は冗談では済まないかもしれない。すぐにボルに連れられ外に出た。
ことの発端はこれより少し遡る。クリュスとゼステナは早くもボーンネルが気に入り、二人並んで辺りの様子を見て回っていた。
「ねえクリュス姉、ここ普通に前いた場所よりも快適だよね」
「そうね、一度住んでしまうともう元には戻れない感じがしてしまうわ」
「それにしても皆働き者ばかりだ、つまらなくないのかな」
「私たちも今日はお休みを頂いているだけできちんと働かないとダメよ。それに誰も不満そうな顔は一切ないけれど」
「あっ、あの人って」
二人の前には資材を運ぶ閻魁、トキワ、リンギル、ガルミューラそれにブレンドの姿があった。
「おう! 美人さん達! ここでの生活はもう慣れたか?」
「お陰様で。そちらの女性はッ—」
「そっちの人は彼女!?」
クリュスの言葉を遮るようにゼステナは興奮気味に聞いた。
「いいや違うぜ。俺にはもったぃッ— 痛ってぇッ—! 何すんだよ!!」
キレた顔のガルミューラに無言で脛を蹴られたのだ。
「なあんだ、違うのか。それよりも君が魔力波をつくったんだね。すごいじゃないか」
「お、おう。まあ散々ジンに褒められたからな」
「それは君の武器かい?」
ゼステナはトキワの隣に置いてあった『炎』を指さして興味深そうな目をした。
「そうだぜ、武器に興味あんのか?」
「いいや、そういうわけではないんだけど。ぼくの魔力と同じ質だからさ······そうだ! 今からぼくと戦おうよ!!」
「いっ、いやあ俺もやることがあるからさ。また今度な」
「えぇ、でもどっちの火力が強いか試してみたいしさあ。あっ、それじゃあそっちの人型のッ—」
「ダァあああ待て待て。俺がやる」
ゼステナの強さに気づいていたため、閻魁を捕まえようとしたゼステナを引き留め渋々ゼステナからの決闘を承諾した。
「トキワさん、妹が申し訳ございません。周りには被害が及ばないように私が結界を張らせて頂きます」
「そうそう! クリュス姉の結界は今まで破られたことがないんだ!」
その会話は周りに聞こえ、いつしか辺りは賑やかになっていた。多くの国ならここで賭け事が起こりそうだったが周りは自身のための勉強や単純に勝負を見たいという純粋な観客しかいなかったのだ。
「なんだこの騒ぎは」
日課の訓練から帰ってきたレイはガルミューラの隣に立ち、不思議そうに向かい合う二人を見た。
「今から戦うそうだ」
「······そうか。勉強になりそうだな」
ということでレイも二人の戦いを見ることになった。クリュスはというと、二人の勝負を取り仕切る。意思のある武器を所有するトキワに対して、ゼステナは両手のみを光沢のある紅色の鱗で硬化させて武器は持っていないようだった。だがその両手からは空気が揺れるほどの熱気が放たれ、見るからに強力な武器のようだった。
(この状態のゼステナを前にしても心音は変わらないまま。ここまで来ると妙ね)
そう思いつつも外部から二人の姿がはっきりと見えるほどの透明な結界を張り、クリュスは静かに妹の前に立つトキワを見つめた。
(一切のブレがない体幹に、立っているだけで伝わってくる恐ろしいほどに練り上げられた闘気。全開時のゼステナと同等、もしくは遥かに上回っている。そして意思を持つ武器との一体感と、急激に研ぎ澄まされた異常なまでの集中力。人族はいつこれほどまで強くなったのかしら)
これほどまでに真剣な顔をしているトキワを見るのはいつも会っているリンギルにとっても新鮮だった。特訓で実践練習としてトキワと打ち合うことが多々あるが『炎』を持った状態では一度も打ち合ったことはないからだ。そのためもいつも感じている雰囲気とは違うかった。
「······無限の炎」
考えていると近くにいたレイがそう呟いた。その言葉に一度は不思議に感じたがトキワの契約する武器の特性上、そうような技があるのかもしれないと、そう自分を納得させる。
そして向かい合った二人はジッと動かずに、ただゼステナのみ、僅かな動作に注意を払っていた。
「なあ美人の姉ちゃん」
「なんだい?」
緊迫状態にあった状況の中、久しぶりに緊張というものを感じていたゼステナは少し余裕ぶるために平気そうに返事した。
そして、時間が引き伸ばされたような感覚とともにトキワの暗い瞳が目に入る。
「避けろよ」
「ッ——!」
それは刹那の出来事。暗い瞳を捉えた視界に真っ赤な何かが見えた。
そしてすぐに気がついた。それは長らく見ていなかった自分の血だ。
しかしそれを認識する前に何かを避けるようにして左に体勢が傾いていた。自分でも理解する前に研ぎ澄まされた感覚がそうさせたのだ。
肩の辺りからの出血など気にも留めず、視界の左にあった槍を冷たい瞳で見つめた。
(うわぁ、これもう······)
ゼステナの頬には汗が伝わり、無意識に少しの焦りと好奇心が混ざったような笑みが漏れる。
(····人間やめてやがる)
今の一瞬だけでゼステナは確信した。
すかさず左手の巨大な爪で槍のある方を薙ぎ払い、懐に潜り込んでいたトキワに超高温のブレスをぶつける。
しかし至近距離から放たれたはずのブレスは標的を逃し、地面に爆発が起こった。
「ロスト」
(気配が消えた)
ロストにより音ともに気配を消したトキワはゼステナの視界を高速で移動し錯乱させる。野生の本能で敵を認識するゼステナにとって気配がなくなるというのは非常に面倒だった。極限状態まで研ぎ澄まされた集中力を発揮しつつゼステナの大きな瞳は頭を動かすことなく、高速移動する対象の動きを追尾した。
「地に伏せろ」
命令するような詠唱とともに、動きを止めるために一瞬にして強烈な重力場を発生させる。無意識に自分も巻き込んでしまうほどの強力な重力場を発生させた。手を抜けばただの魔力消費になってしまうからだ。
「効力反転」
「!?——」
だが想像とは異なり自身の身体はフワリと宙に浮いた。地面に強く踏ん張っていたものの突然の予想外の出来事に体勢を崩す。空中ですかさず姿勢を正すと同時に下から突き上げるようにゼステナでさえ少し熱を感じてしまうほどの熱気を纏った『炎』が迫ってきた。
爪で軌道をずらすと後ろに激しい熱が通り過ぎたのを感じる。
(さらに速くなっている)
トキワは炎から出される大量の熱波をうまく利用し、あり得ないほどの速度で時間とともに加速していた。
視力に全神経を集中させ、トキワの動きを目で追う。
「ロスト、解除」
(気づかれたッ)
突然巨大な気配が出現し、感覚が混乱する。
『炎』と爪が重なりあい、まるで重たい金属同士が激しくぶつかる音が響き渡る。
その光景に周りの観客は閻魁やクリュスまでも驚きの顔を隠すことなく息を忘れ見つめる。
(······ハハハッ! 久々に面白いや。試す価値はある)
急に変化したゼステナの雰囲気はトキワと炎にも伝わった。
(お? なんか来るな)
(トキワ、久々に火力全開でいってもいいか?)
(了解、調節は任せるぜ相棒)
ゼステナの爪が真紅に燃え、魔力が凝縮されると同時に隠し切れないほどの真っ赤なオーラがゼステナの体から噴き出た。『炎』を握るトキワの手も強くなりさらに激しい熱気をその槍に纏う。
「すまないけど、殺す気でいくよ」
「構わねえぜ。そっちこそ、火傷すんなよ?」
ガルミューラの組んでいた腕には力が入り、少し焦りの表情が顔に出た。
そして両者の火力は頂点にまで達する。
「炎龍の宴ッ!!!」
「果てしなき炎ッ」
しかし二つの大技がぶつかる直前、二人の視界には誰かが飛び込んできた。
そして剣を持ち、サッと一振りする。
「虚無の王」
「はぁあああ!?」
ゼステナは思わず叫んだ。目の前で起こった光景に驚きを隠せなかったのだ。
夢かと思い、一度目を閉じてもう一度開けるが、現実は変わらない。
自身の渾身の一撃が現れた巨大な空間の中へと消えていったのだ。
帝王の中でも鬼帝ゲルオードに加え、呪帝、巨帝、嵐帝と呼ばれる三人の帝王は古くから関係があり誰かが言い出して一つの場所に集まり話をするというのが通例になっていた。そして今回はゲルオードが全員を呼び出したことにより、ギルゼンノーズに他三人の帝王が集まった。普段ならば周辺国の情勢や他の帝王の動きなどから世間話をすることもあるその集まりは一人の話題で持ちきりになっていた。
「ゲルオード、お主ほどの者がたかが人間をそれほどまでに褒めるのは初めてではないのか」
「まあそうだな、だが一度見れば分かるだろう」
「ハッハッハ! だがその者に肩入れしすぎるような真似はやめておけよ。帝王という立場にあるのだ、その者が他から反感を買われる可能性も皆無ではない」
「しかしなあ」
「なあなあ! その人間はゲルからすれば自分の子のような存在なのか?」
「うーむ、まあジンは子というか孫というべきか。とにかくかわいらしいやつなのだ。頼まれれば何でも買ってやりたくなる」
「すっかり心が奪われておるな。それで今回はそのジンというものの話をしに来たのか」
「まあそれもあるが、今回は頼みがあってな」
「頼み?」
「ああ、ジンをこの会談に招いてもいいか?」
「私は構わないぞ! ぜひ見てみたい!!」
「それはお主が会いたいだけではないのか。まあ構わんが」
「人間と会話をするのはちと面倒だが今回は許してやろう」
(······ということがあったのだ。それでどうだ、来ないか?)
(私が行ってもいいの? 時間は空けられるけど)
(全く構わん。場所は首都ギーグだ)
(おいゲルオード)
すると途中でクレースが魔力波に入り込んできた。
(な、なんだクレース)
(安全なんだろうな、お前以外に三人来るんだろ)
(フッ、聞いていたのか。だが安心しろ悪い奴らではない。それにお前や他の者も来て構わんぞ)
(ああ、言われなくてもそうするつもりだ)
(準備にはまだ少し時間が要する。いずれまた連絡しよう)
ということなので予定が決まった。正直急に初対面の帝王三人と会うことは緊張するが、同時にワクワクもあったのだ。ともあれそれまでは用意するべきものなどはないので取り敢えずはいつも通りやることをする。
最近、ブレンドの特訓が本格化してきて今ではトキワの指導の下でリンギル、エルダンの二人と一緒に日々特訓をしている。木人族は先天的な能力が非常に高い上、成長速度もかなり早いらしい。それもブレンドの場合は、トキワによると恐ろしいほどの伸び代を持っているとのこと。どうやら今では植木鉢で眠れるくらいの大きさから、人間の子ども······ 私の身長くらいの大きさまで身体の大きさを自由自在に変更できるらしい。ちなみに今では、弱点の火を克服するという目標を立てつつ頑張っている。
するとその時、集会所のドアがノックされボルが入ってきた。
「ジン、今からトキワが戦うラシイ」
「えっ、誰と?」
「ゼステナサン。経緯は知らないけど、トキワの炎か自分の炎のどっちが強いかってなったラシクテ。トキワは面倒くさそうだったけどかなり人が集まってきちゃっテサ。もう結界を張って始めているとオモウ」
「ゼグトスッ—」
「はい!!」
驚くほどに元気で早い返事だ。
「ゼステナとクリュスって正体は何なの? 人間ではないよね」
「ええ。一応、数百万年以上生きる龍です」
「······えぇ!? 止めないと!」
国で定めているルールとして他人への暴行行為は禁止している。閻魁が発端かは分からないが、特訓という名目ならば仕方ないということで手合わせをしているみんなをよく見ることがある。もしかして、いいやもしかしなくても戦闘狂が多いのだ。しかし今回は冗談では済まないかもしれない。すぐにボルに連れられ外に出た。
ことの発端はこれより少し遡る。クリュスとゼステナは早くもボーンネルが気に入り、二人並んで辺りの様子を見て回っていた。
「ねえクリュス姉、ここ普通に前いた場所よりも快適だよね」
「そうね、一度住んでしまうともう元には戻れない感じがしてしまうわ」
「それにしても皆働き者ばかりだ、つまらなくないのかな」
「私たちも今日はお休みを頂いているだけできちんと働かないとダメよ。それに誰も不満そうな顔は一切ないけれど」
「あっ、あの人って」
二人の前には資材を運ぶ閻魁、トキワ、リンギル、ガルミューラそれにブレンドの姿があった。
「おう! 美人さん達! ここでの生活はもう慣れたか?」
「お陰様で。そちらの女性はッ—」
「そっちの人は彼女!?」
クリュスの言葉を遮るようにゼステナは興奮気味に聞いた。
「いいや違うぜ。俺にはもったぃッ— 痛ってぇッ—! 何すんだよ!!」
キレた顔のガルミューラに無言で脛を蹴られたのだ。
「なあんだ、違うのか。それよりも君が魔力波をつくったんだね。すごいじゃないか」
「お、おう。まあ散々ジンに褒められたからな」
「それは君の武器かい?」
ゼステナはトキワの隣に置いてあった『炎』を指さして興味深そうな目をした。
「そうだぜ、武器に興味あんのか?」
「いいや、そういうわけではないんだけど。ぼくの魔力と同じ質だからさ······そうだ! 今からぼくと戦おうよ!!」
「いっ、いやあ俺もやることがあるからさ。また今度な」
「えぇ、でもどっちの火力が強いか試してみたいしさあ。あっ、それじゃあそっちの人型のッ—」
「ダァあああ待て待て。俺がやる」
ゼステナの強さに気づいていたため、閻魁を捕まえようとしたゼステナを引き留め渋々ゼステナからの決闘を承諾した。
「トキワさん、妹が申し訳ございません。周りには被害が及ばないように私が結界を張らせて頂きます」
「そうそう! クリュス姉の結界は今まで破られたことがないんだ!」
その会話は周りに聞こえ、いつしか辺りは賑やかになっていた。多くの国ならここで賭け事が起こりそうだったが周りは自身のための勉強や単純に勝負を見たいという純粋な観客しかいなかったのだ。
「なんだこの騒ぎは」
日課の訓練から帰ってきたレイはガルミューラの隣に立ち、不思議そうに向かい合う二人を見た。
「今から戦うそうだ」
「······そうか。勉強になりそうだな」
ということでレイも二人の戦いを見ることになった。クリュスはというと、二人の勝負を取り仕切る。意思のある武器を所有するトキワに対して、ゼステナは両手のみを光沢のある紅色の鱗で硬化させて武器は持っていないようだった。だがその両手からは空気が揺れるほどの熱気が放たれ、見るからに強力な武器のようだった。
(この状態のゼステナを前にしても心音は変わらないまま。ここまで来ると妙ね)
そう思いつつも外部から二人の姿がはっきりと見えるほどの透明な結界を張り、クリュスは静かに妹の前に立つトキワを見つめた。
(一切のブレがない体幹に、立っているだけで伝わってくる恐ろしいほどに練り上げられた闘気。全開時のゼステナと同等、もしくは遥かに上回っている。そして意思を持つ武器との一体感と、急激に研ぎ澄まされた異常なまでの集中力。人族はいつこれほどまで強くなったのかしら)
これほどまでに真剣な顔をしているトキワを見るのはいつも会っているリンギルにとっても新鮮だった。特訓で実践練習としてトキワと打ち合うことが多々あるが『炎』を持った状態では一度も打ち合ったことはないからだ。そのためもいつも感じている雰囲気とは違うかった。
「······無限の炎」
考えていると近くにいたレイがそう呟いた。その言葉に一度は不思議に感じたがトキワの契約する武器の特性上、そうような技があるのかもしれないと、そう自分を納得させる。
そして向かい合った二人はジッと動かずに、ただゼステナのみ、僅かな動作に注意を払っていた。
「なあ美人の姉ちゃん」
「なんだい?」
緊迫状態にあった状況の中、久しぶりに緊張というものを感じていたゼステナは少し余裕ぶるために平気そうに返事した。
そして、時間が引き伸ばされたような感覚とともにトキワの暗い瞳が目に入る。
「避けろよ」
「ッ——!」
それは刹那の出来事。暗い瞳を捉えた視界に真っ赤な何かが見えた。
そしてすぐに気がついた。それは長らく見ていなかった自分の血だ。
しかしそれを認識する前に何かを避けるようにして左に体勢が傾いていた。自分でも理解する前に研ぎ澄まされた感覚がそうさせたのだ。
肩の辺りからの出血など気にも留めず、視界の左にあった槍を冷たい瞳で見つめた。
(うわぁ、これもう······)
ゼステナの頬には汗が伝わり、無意識に少しの焦りと好奇心が混ざったような笑みが漏れる。
(····人間やめてやがる)
今の一瞬だけでゼステナは確信した。
すかさず左手の巨大な爪で槍のある方を薙ぎ払い、懐に潜り込んでいたトキワに超高温のブレスをぶつける。
しかし至近距離から放たれたはずのブレスは標的を逃し、地面に爆発が起こった。
「ロスト」
(気配が消えた)
ロストにより音ともに気配を消したトキワはゼステナの視界を高速で移動し錯乱させる。野生の本能で敵を認識するゼステナにとって気配がなくなるというのは非常に面倒だった。極限状態まで研ぎ澄まされた集中力を発揮しつつゼステナの大きな瞳は頭を動かすことなく、高速移動する対象の動きを追尾した。
「地に伏せろ」
命令するような詠唱とともに、動きを止めるために一瞬にして強烈な重力場を発生させる。無意識に自分も巻き込んでしまうほどの強力な重力場を発生させた。手を抜けばただの魔力消費になってしまうからだ。
「効力反転」
「!?——」
だが想像とは異なり自身の身体はフワリと宙に浮いた。地面に強く踏ん張っていたものの突然の予想外の出来事に体勢を崩す。空中ですかさず姿勢を正すと同時に下から突き上げるようにゼステナでさえ少し熱を感じてしまうほどの熱気を纏った『炎』が迫ってきた。
爪で軌道をずらすと後ろに激しい熱が通り過ぎたのを感じる。
(さらに速くなっている)
トキワは炎から出される大量の熱波をうまく利用し、あり得ないほどの速度で時間とともに加速していた。
視力に全神経を集中させ、トキワの動きを目で追う。
「ロスト、解除」
(気づかれたッ)
突然巨大な気配が出現し、感覚が混乱する。
『炎』と爪が重なりあい、まるで重たい金属同士が激しくぶつかる音が響き渡る。
その光景に周りの観客は閻魁やクリュスまでも驚きの顔を隠すことなく息を忘れ見つめる。
(······ハハハッ! 久々に面白いや。試す価値はある)
急に変化したゼステナの雰囲気はトキワと炎にも伝わった。
(お? なんか来るな)
(トキワ、久々に火力全開でいってもいいか?)
(了解、調節は任せるぜ相棒)
ゼステナの爪が真紅に燃え、魔力が凝縮されると同時に隠し切れないほどの真っ赤なオーラがゼステナの体から噴き出た。『炎』を握るトキワの手も強くなりさらに激しい熱気をその槍に纏う。
「すまないけど、殺す気でいくよ」
「構わねえぜ。そっちこそ、火傷すんなよ?」
ガルミューラの組んでいた腕には力が入り、少し焦りの表情が顔に出た。
そして両者の火力は頂点にまで達する。
「炎龍の宴ッ!!!」
「果てしなき炎ッ」
しかし二つの大技がぶつかる直前、二人の視界には誰かが飛び込んできた。
そして剣を持ち、サッと一振りする。
「虚無の王」
「はぁあああ!?」
ゼステナは思わず叫んだ。目の前で起こった光景に驚きを隠せなかったのだ。
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彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
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※表紙のイラストはAIによるイメージです
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