ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第二十一話 鬼城近くでの

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ギルゼンノーズに鬼帝の率いる軍団はいない。
その場にいたのはゲルオード、アルメドそして閻魁の三人のみであった。

「本当に良かったのですか? 何もこれほど温存しなくても」

「今は温存などではない。戦士には戦う時と場所がある······認めたくはないが敵の強さを考えればこれが最善だ」

現在、三人以外は全員鬼幻郷の中に入っていた。
しかしゲルオードにとってこの策は自身の強さから出た傲慢さなどではない。
先程ダイハードがやられたという報告を受け敵の強さを十分に理解した結果である。
圧倒的な強さの前で数はただの人質と化すからだ。

「フハハハハッ——!! それで我を呼んだのか、お主に見る目があったとはのう」

「消去法だ。ベインあたりが来てくれれば助かるのだがな。それにお前はまだ”破壊衝動”如きに身体を奪われるほど未熟だろ。期待はしておらん」

「なッ——成長したわ!」

「あのお二人とも、敵が現れました」

アルメドの言葉で二人は同時に振り返った。
目の前にいるのは機人族三人に加え十体のメカ。一人として天使や女神の姿は見当たらない。
しかし一国を滅ぼすには十分過ぎる戦力である。

「他の者は本当に大丈夫か? 怒られるのは我なのだぞ」

「今鬼幻郷は内側からしか開かぬ······ようやくこちらの気持ちが分かったか」

「············?」

「フフッ—確かに同感です。昔はこの鬼さんを止めるのに必死でしたもんね」

敵がゆっくりと近づいてきたタイミングでゲルオードは阿修羅を取り出した。
刀身は妖力を纏いゲルオードの昂る感情に呼応しながら赤黒く光りだす。

(まさかお前とこの国を守る日が来るとはな。あの時は想像も出来なかったものだ)

ゲルオードは阿修羅を取り出し軽く息を吐いた。紫色の妖力を纏った阿修羅は隣にいた閻魁の放つ妖力と激しくぶつかり合う。全く波長の違う妖力は互いに干渉し合うようにして空に舞い上がり二色の妖力が二人の周りを満たした。
だが互いに相殺し合うことはない。最大限の妖力を放出したまま万全な状態になったのだ。

「アルメド」

「はいッ」

アルメドはゲルオードのみに自身の持ち得る最大の強化魔法をかける。
そして閻魁にかけられた強化魔法を注意深く観察した。
何かを諦めた顔には呆れたような小さい笑みが浮かぶ。

(これは······)

アルメド自身閻魁に自分の強化魔法をかけることが烏滸がましいと感じてしまった。
それ程までに閻魁にかけられた強化魔法は洗練され到底超えることの出来ないものであったのだ。

(ゲルオード様に申し訳ありません。私の強化魔法では話にならない。ここまでするのに······一体どれほど)

機人族は前に出ることなくメカのみが動き始める。
メカが大陸に存在していた昔。中央教会が設定していた魔物としてのメカのランクはSランク以上。
Gランクには及ばないものの絶対不可侵の存在であった。

「昔戦ったことはあるか」

「うむ、厄介なものであったな」

「来ますッー」

十体のメカは同時に奇怪な音を立てその体全体にエネルギーが充填される。
メカは三人を囲い込むように瞬間移動した。

「座標確認。予期し得る回避ルートを計算」

目から放たれたビームは四方八方から飛来し枝分かれする。三人に直接向かうものに加え退路を断つように進行するビーム。さらにビームは通り過ぎた後向きを変え三人の元へと進路を定める。

鬼帝門きていもん

阿修羅を地面に突き刺すと同時に地面は揺れる。
巨大な門が現れ、退路を絶っていたビームと衝突し無傷のまま攻撃を防いだのだ。

「やれ、閻魁」

妖々慟哭ようようどうこく

「······はぁ。阿呆、今は使えぬだろ」

「うむ……そうであっ—」

閻魁が手に込めた妖力と魔力は不発に終わり、身体にビームが衝突する。

「フハハハハ! 効かぬわぁア!!」

しかし強化された閻魁の肉体にはメカのビームでさえ傷をつけることが出来ない。
衝突と同時に閻魁は飛び上がり上空で両手に妖力を溜め同時に巨大化する。
腕の筋肉は肥大化し炎を纏ったかの如く激しい熱を帯びた。

「「空間に干渉を開始。座標を設定…完了」」

「無理に身体を動かすな。捻れるぞ」     

(空間操作か。トキワで慣れておる)

メカの干渉を無視し閻魁は両腕を振り下ろした。
その凄まじい力は空間を歪めメカの干渉を無に帰す。

「効かぬわぁア」

「多重結界を形成」

一体のメカに振り下ろされた腕は結界に衝突し妖力を纏った衝撃波が広がる。

「そのまま抑えていろ」

ゲルオードの声が聞こえるとともに阿修羅がメカの胴体を貫く。
鋼鉄の装甲も阿修羅の前では屑鉄同然であった。

「自己修復プログラムを実コッ—」

メカが再生する前に胴体へ阿修羅を深く突き刺しその再生を停止させる。

「大紅蓮」

ゲルオードから灼熱の光線が飛散し二体のメカを追尾した。音速を超えるその攻撃はメカを貫き超高温の熱が内側から身体を溶かし始める。

「流石ですゲルオード様!」

(いいや、どこかおかしい)

三人を囲い込むようにした相手の陣形。
メカがやられようと三人いる機人族の表情は変わらなかった。
そしてゲルオードの違和感は的中する。

「アルメドッー」

僅か一瞬。視界にいたアルメドは姿を消しゲルオードと閻魁から離れた位置に転移させられる。

「対象を座標に誘導。位置を固定」

(おや、身体の自由が効きません)

アルメドは空中で静止しメカに囲まれた。アルメドの足元には結界が現れ、魔力だけでなく妖力まで制限される。自身に対する結界さえも無い完全なる無防備状態であった。

「対象を消去可能」

「おいゲルオード。まずいぞ」

「心配いらん」

「……消去失敗。例外処理…退避」

その時、結界内に止まっていたアルメドの頭から二本の角が生えてきた。口からは巨大な牙が生え、爪は龍のように鋭く変形する。完全なる鬼の姿になったアルメドは結界を裕に破壊した。

「フゥ……すみません。力は温存しておきたいので後はお任せします」

アルメドは再び姿を戻し二人の元に移動した。そして機人族は初めて口を開く。

「ここまでで良い。戦闘データは十分に取れた」

「もう終わりか? 我はまだ動き足りぬぞ」

「誇れ。お前達は十分な危険因子と判断された。近い未来、お前達と一戦を交える日を期待しよう」

そう言い残し、倒れ伏した三体のメカを置いたまま機人族は立ち去ろうとする。

——だがその時だった。

血相を変えた一人の機人族が高速で飛来し三人の機人族の前へと降り立った。

「何事だ」

混乱した様子の機人族は軽く息を吐き一度落ち着いた。

「今すぐお戻りください」

「······」

「バルハールに向かったバグ様が······戦闘不能に」
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