ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
207 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第五十六話 それでも今だけは

しおりを挟む
 
 ジンはアウロラと別次元の戦いを繰り広げていた。戦闘中幾度となく時間停止を繰り返し、もはやほとんどの者に戦いは視認できない。時間停止中は動けないパールとガルを庇いながらの戦闘。結界も時間が停止していれば無意味に等しかった。

「手を抜いているようですが、並行して何かをやっているのですか?」

「いっ、いや····やってないよ。とても真剣だから」

 みんなにはあんな命令したけど流石に無理がある。それにみんなに強化魔法も付与できていない。そのためここに来てすぐインフォルとゾラに一つ頼み事をしていた。その頼み事が気になっているのは確かだ。

「······ふぅ、あなたには私の能力も意味を成しませんね」

「いいやちゃんと効いてるよ。時間が止まってると動きにくいもん」

「そうですか」

 アウロラは指をパチンと鳴らすと止まっていた時間が再び動き出した。ガルとパールは依然としてこの場にいる。アウロラから距離を取るよりもジンの後ろにいる方が安全だったのだ。

「じん、頭いたい。ぐらぐらしてるぅ」

「がぅ」

「えっ、大丈夫? 魔力濃度高かったかな。おいで」

「えへへぇ」

 無邪気に懐くパールを見てアウロラの顔は曇っていた。

「······あなたがこのままその天使と関わっていても何一つよいことはありません。論理的に物事を考えなければいつか足元を救われますよ」

「それは····ないかな。この子が私を母親だと言ってくれるから、関わる理由なんてそれで十分だよ」

「そうですか。忠告はしましたよ。ですが関係はありませんね。あなたは直ぐに死ぬのですからッ!」

 アウロラの魔力は時間に干渉する特殊な属性である。放たれたその魔力は衝撃波を纏い広がりゆっくりと進み始めた。爆風を巻き起こしながら進む魔力の渦に触れれば激しい振動が細胞を震わせ肉体は瞬時に崩壊する。
 予想外の難敵にアウロラは焦り、この戦いを早急に終わらせようとしていたのだ。

(ジンちゃん今ええか?)

 魔力が迫り来るその時、インフォルの魔力波が飛び込んできた。

(あっ、もしかして終わった?)

(おうよ! ゾラはんの手助けあってこそやけどな。ほな後は任せたで)

(ありがとう、また後で)

 インフォルとゾラには強化魔法のための準備を手伝ってもらっていた。遠隔で全員に強化魔法をかけるなんてことはできない。そこで二人に頼みモンドにいる味方全員に魔力をマーキングしてもらったのだ。僅かな魔力でもいい、媒体が必要なんだ。

「何をよそ見しているのですか! あなたの敵は私でッ——!?」

ロード・オブ・マティア

 王の瞳の発動と同時に放たれたアウロラの魔力はかき消された。ガルはパールに覆い被さりマティアによる威圧から身を守る。

「ラストエント。ディア・インフィニティ」

 その瞬間、ジンを中心に膨大な魔力がモンド内を駆け巡った。女神陣営にとっては最悪の魔法。幸か不幸か、その強化魔法はある者は命を救われまたある者にとっては決着を決める決定打となった。

「隠していたのですか。女神を相手にして······」

「別にそんなつもりはないけど····お姉さん強かったよ」

 アウロラは数秒考え込みジンを見つめた。アウロラの魔力の込められた瞳は対象者の未来、そして過去を見ることが可能である。しかしこの目でジンを見るのは二度目だった。

「······フフフ、私らしくもない。論理的に物事を考えられていないのは私でしたね」

 突如としてジンを見つめるアウロラの姿勢は変化した。それは敵対するものへ向ける姿勢ではない。張り詰めていた空気は消え去りアウロラは自身の魔力を抑え込んだ。

「ガル、頼んだよ」

「バゥ!」

「ジンまって! どうしッ——」

「ロスト」

 パールとガルはロストによる空間に包まれ完全に音が遮断された。必死に抵抗し離れようとするパールをガルは尻尾を使い抑え込む。そしてジンとアウロラはその場所から距離を取った。

「どうやら話をしてくれるようですね」

「敵対してる様子はないから。私に聞きたいことがあるの?」

「戦いが始まった時、私の目にはあなたの最期が見えました。そして私は勝利を確信しあなたと戦うことを決めました······ですがそうではなかった。あなたが死ぬのはもう少し先の話。あなたは······」

 ———カランカランッ

 アウロラが何かを言いかけたその時、突然ロードが音を立てて落ちた。さらに何かを訴えかけるように魔力を纏い光を放つ。

(ジンッ! そいつの言うことを聞いちゃだめだ!)

(······どうして?)

(それは····その)

「意思と話しているのですか。どうやらその意思は多くのことを知っているようですね」

 ロードを拾い上げ鞘に納めた。多くのことを知っている。その言葉の意味がどこかわかるような気がする。いつからか分からない。一つ気になることがある。

(もしかしてロードは····何かを見てきたの?)

(ッ———僕は、その)

(ロードの話は必ず後で聞くよ。私は大丈夫だから)

(······)

「ごめんさない。話を続きを聞いてもいい?」

「ええ。ですがその前にある呪いについて話をしましょう」

「呪い?」

「そう、呪いです」

 アウロラは拳を強く握り呼吸を落ち着かせる。そしてゆっくりと話し始めた。


「今より遥か昔。女神と悪魔の大戦争が起こった時です。
 相反する者同士、互いの威信をかけた戦争。
 お互いの戦力差はほぼ互角であり日々多数の犠牲が出ました。
 そして長く続く戦争の間、悪魔は戦争により失われた魂を代償に凶悪な呪いを作り出しました。
 女神を葬り去るほどの呪いは凄まじい瘴気を放ち天界を蝕みましたが、女神の力によりその呪いは抑え込まれました。しかし呪いの力は完全に消え去ることなく半減し地上へと落ちていったのです。
 呪いは数百年を周期に発現し地上にいる者たちへ無作為に取り憑きました。
 呪いにかかったものは必ず十年も経たぬうちに死を迎え、さらに呪いは時が過ぎるにつれ濃くなっていきました。
 我々女神は天使達に地上の者達を下界の民と呼ばせ天界と地上を差別化しこの呪いが地上の民に対する必要悪であるとしました。
 しかし一人の女神はその呪いを地上から消し去ると言い出したのです。
 天使や他の女神はその女神の意見を酷く反対し、何度も止めようとしました。
 ですがその女神は自身の子に呪いを宿し、その子を葬り去ることで呪いを完全に消し去ると言いました。
 私達はその考えを了承し女神は子を生み出しました。
 ······しかしその女神は呪いを全て自身の身体に宿し子には女神としての力を与えました。
 結果として呪いを宿した女神はその身体を蝕まれその子どもは天界で忌み嫌われました。
 子の名はパール、女神の名はハーレと言います」

「パールの·····お母さん」

「私たちにとってハーレの存在はあまりにも大きいものでした。
 私達は必死に彼女を救う方法を探しようやく見つけることができました。
 ハーレが絶命した瞬間、パールに流し込んだ力を元に戻し発現した呪いをパールへと移す。
 女神の力と呪いの力、入れ替える形ならば呪いは飛散しません」

「それじゃあパールはッ!」

「呪いを宿した瞬間、呪いと共に女神の炎で焼き払います」

「そんなことッ———」

「分かっています。それしか方法を見つけられなかったのです。呪いの力は既に元へと戻り仮に他の者へと移ったとしても一瞬で呪い殺し周期もなく無際限に生命を刈り取ります。そしてここからが本題です」

 ロードは再び震え始めるがこれは必ず聞かなければならないことだ。ロストでパールへの音を遮断したのはやはり正しかったのかもしれない。

「あなたはいずれ、その呪いに蝕まれ死にます。しかしただの人間であるはずのあなたは三十日呪いに耐えた後、呪いと共に消え去る。これが私の見た未来です」

「パールはどうなるの」

「呪いの影響を受けず死ぬことはありません」

(ジン······君はっ)

「よかったぁ」

「ッ————」

(ッ————)

「あなたは理解していませんッ——ハーレでさえ耐えることのできない激痛が休む間も無く襲ってくる。歩くこともままならず悪夢を見ながら一日中目を覚まさない日もある。あの呪いはあまりにも強力です」

「それでも今だけは私がパールの母親だから。お母さんは子どものことを守ってくれるんだ。私がそうだったように。だからあの子が生きられるならいいよ」

(ジンッ!! 君は何を言ってるんだ!!)

 その時、初めてロードはジンに対して激怒した。抑えていた感情が溢れ出し刀身は魔力を放ち震える。だが反対にジンは落ち着いていた。

(ロード、戦いが終わったら後で話そう)

(———でも······)

(大丈夫だから)

「今回の戦いは機人族が関わっているから複雑かもしれない。だけど女神側の目的は私がいれば達成できる。これ以上戦う必要はないでしょう? 私は機人族の王様と話をつけてくる」

「本当に、いいのですか」

「当たり前だよ。任せて」

「そうですか······あなたには返し切れないほどの恩を作ってしまいますね。お前達」

「ハハッ——」

「この戦争を終わらせます」

 こうして女神アウロラはこの粛清を終わらせるため動き出したのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...