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第1章

【エルフの森姫】

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 部屋についたアリエルは、自分のベットに相沢を寝かせる。大丈夫だ、まだ眠っている。すやすやと息をたてる相沢を見てアリエルは安堵する。
椅子に座り、ふぅ‥と一息をつく、こんなに疲れたのはいつぶりだろうか?姫に選ばれたあの日と同じくらい疲れたのではないか?と考えながら頬を軽く叩く、まだ休む前には行かない何故なら先ほどから、カリカリと檻の中から聞こえている音の正体の

「ねぇ~ここから出して下さいよぉ~狭いですよぉ~檻の作りが雑すぎて至る所に毛が絡まって痛いですぅ」と言いながら檻を爪で引っ掻いているこの黒い毛玉をなんとかしなければならないからだ。

「ねぇ?貴方そこから出たい?」

彼女は冷たい声で黒猫に声をかける。黒猫はアリエルの方に向き替えると、

「あたりまでしょう?こんな狭い部屋に入れられたあげく作りが雑なんですよ?例え助けって貰ったとしても嬉しくありません」

「ざ、雑にしてるのはわざとです!!私が本気になれば貴方が快適に過ごせるくらいの猫ちゃんハウスを‥じゃなくて!!」

とアリエルはもう!と言いながら黒猫の檻を木で作られた簡素な机に置く黒猫はこの机からアリエルの微量な魔力を感じ、『やっぱり練習してるじゃないですかぁ』と思い、呆れて、はぁとため息をついてしまう。

「そのため息はなに?やっぱり隠し事をしているのかしら?」

とアリエルは黒猫を睨みつけると黒猫は「いえ?やっぱり雑だなぁと思いまして」と返す。しかし、先ほどのような会話はなく

「確認よ、貴方が死ねば相沢さんは死ぬそうよね?」

「‥はいそうですよぉ、ワタクシとご主人様はリンクしていますからぁ」

と嘘を流す。命なんてリンクしていない、ましてやリンクなどしていたらいくつ体があっても足りなそうにない‥

「転生者は不死の能力があって死ぬことがないのは知ってるわよね?じゃあなんでわざわざ死ぬ可能性がある方を選ぶの?」

「さあ?それは本当に分からないのです。ご主人様が契約してからワタクシは作られたので」

アリエルは不服そうな顔をしたあと次の質問をする

「貴方を作った神てっ誰?」

その答えを黒猫から聞こうとした瞬間黒猫の雰囲気が変わり
「閨槭″縺溘>縺ァ縺呻シ」と発した。アリエルは耳を塞ぐ。
聞いてはいけない、理解してはいけないと体は警告している。分かっているはずなのだが、引けない‥引いてはならないだって相沢が何故あのようなことになったのか知らなければ、ならないその為なら

「い「姫!!!南の村に大量の人間が攻めてくるいう情報が!!!」

「なんですって!!!」
急に開けられた扉から兵士が部屋の前に跪く、兵士は自分達では止めることが出来ないため、アリエルに救援に来てほしいと話す。黒猫の方を見るとニヤニヤ笑いながら

「助けてあげたらどうですかぁ?[お姫様]」

と煽るように答える。もう一度アリエルは兵士の様子を確認する。身体中ボロボロで今にも倒れそうなその姿を見て【行かない】なて言えなかった。いや言えるわけがない!
「ごめんなさい!少しぼーとしていて、すぐに向かうから待っていて!」

そう答える。彼女は兵士を優先した。アリエルは黒猫の方を見ると小さな声で「帰ってきたら続きを聞かせて貰うから!」と言ってスタスタと部屋から出て行く。足跡が聞こえなくなった黒猫は

「ん、よいしょお」と言って人の姿になり、檻を壊す。その壊れた破片を指で転がしながら、一人で笑っていた‥



           ※※※※※※※※※※※


 南の森は沢山の木の実が取れる場所だ。ミルウェールの森の中でも作物を育てることに特化している土は、季節によって様々な自然の恵みを実らせる。

━はずだったのだが

今では木々は炎により、真っ赤に染まり美しかった森など何処にあったのか?と言わんばかりに炎と熱気で包まれてた。

「酷い‥」

言葉が見つからない。なぜ?どうして?我々が何をしたというの?アリエルはグッと拳に力をいれて、エルフとダークエルフの兵達に支持を出す。

「水の魔力に長けているものは消化を!!医療魔法士達は傷ついたエルフたちの手当を!」

今の自分にはこれが精一杯出来る努力だと感じてはいる、いるのだが自分の無力さに悔しくなり下唇を噛む。

「姫様!ご報告します!負傷者14名、重症者3名、死亡者0名です!!」

その報告を聞いてホッと胸を撫で下ろす。『今度は救えた』と思い次の指示を仰ごうとした次の瞬間━


「━━あれぇ?エルフが生きてるよ?エルデ?」

「本当だ、始末しないといけないねデイン?」

そこにいたのは白色のスーツを着たエルデとよばれた男と黒色のスーツを着たデインと呼ばれる。顔がそっくりな二人組だった。

「え、エデンの転生者!!どうしてここに?!」

エルフ達がざわつき始める中、アリエルはこの二人を見た瞬間血の気が引いた、何故ならこの二人は【現在いる転生者の中でもTOPクラスで危険な人物だからだ。】

「みんな!早く逃げてここは私が!!」

そう言って逃げるように指示を出す。しかしエルフ達は「姫を置いて行くことなんて!!」とさらにパニックになる。早く逃げてそう叫ぼうとした瞬間、アリエルの隣にいたがエルフの兵士の頭が吹き飛んだ

「いつまで話しているのでしょか?遅すぎて引き金を引いてしまいました」

そう言って彼はデリンジャーによく似た銃をこちらに向けていた、それを見た民衆がさらにパニックになる前に

「「早く逃げない!!!これは姫としての命令よ!!!!!」」

と叫んだ。今までにない声を聞いたエルフ達は叫びながら逃げて行く。それを追おうとした二人の前にアリエルは立ち塞がる。ポロポロと大きな涙を流しながら

           ※※※※※※※※※※※※※

アリエルは帽子から傘を取り出した。エルデとデインはそれを見て目つきが変わりデインが先に口を開いた「お前‥転生者かぁ?だよなぁ?それプライズだろ?」デインの質問にアリエルは答えない。そのかわり

『ここは、我の知恵の森汝らこの森を汚さんとするならば‥長耳の姫として汝らをここで打ちのめす!!』

そう叫ぶと周りから先ほどまで燃え広がっていた森がまるでなかったかのように新たな木々が生えそろい沢山の小さな光がアリエルの周りを飛んでいる。

「‥詠唱中に邪魔すれば勝てたんじゃないの?」

そうアリエルが二人に聞く二人は顔を見合わせて、

「「そんなつまんないことするわけねーじゃん? ないでしょ??」」

そう答えたアリエルは呆れた様子で「転生者は他の転生者のテリトリーを荒らすのは禁止されているはずよ!」

と聞き返す。転生者同士は神から与えられたギフトとプライズを持っている。ギフトは身体能力の向上や魔力を体内で作ることが出来るようになる、そしてプライズとは神が転生者に異世界で住んでるものより一歩強くなれる道具や武器を渡す、俗にいうチートアイテムだ。これをプライズと呼ぶがあまりにも強すぎるため、転生者同士は自分の所属している。テリトリーに手を出してはいけないとルールが決められていたのだが

「知ってた?エルデ?俺初めて聞いたぁ~」

「そうなのかい?デイン?仕方がない今度教えて上げるよ」

そう言って二人はケタケタと笑う。━━悪魔だ森を焼き払い罪のないエルフを殺す。化け物のような二人に

「そう‥戦うのね、分かったわ、最初にそちらが仕掛けてきたんだから文句言わないでよね!!!」

そう言ってアリエルが傘で二人を指すと周りの光が強くなると同時に、10体のジャイアントゴーレムが地面を破るように現れる。

「ヒュー~♩」と口笛を鳴らしたデインは自分の腹の辺りに手を入れてチェーンソーを取り出す。その刃は紫色で何故か脈を打っている。

「みんなお願い!!!」
そうゆうとジャイアントゴーレム達が一斉に地面を叩き地割れを起こす。デインは笑いながら、周りの木々の破片を使って常に空中にいる、エルデはそんなパワータイプのデインとは違い、足元に既に結界を張っており、したからアリエルを見上げている。

「まだまだこんなものじゃないんだからぁ!!」そう言うと

「汝ら我らの森を汚しし罪人!その命を対価に大地を潤せ!!」

その言葉と共に二人の体に変化が現れる。

「おや?私の手から可愛らしいお花が」

「頭にきのこ生えたんだけど!!ひっーはっはっは!!」

二人の体の至る所に植物が生えていく、それは千切っても千切っても治ることはない。それどころかどんどんと力を失う感覚に襲われる。

「むふぅ‥なるほどね?パワードレイン系ですか」

そうエルデは呟くアリエルを見ればすぐ分かる。さっきまでの傷が【癒えていってる】それどころか

「うわ!あぶね!なんだよこのデカブツ!!」
ジャイアントゴーレムの速度もどんどん上がっているのだ。これではデインが思うように動けない‥そう考えたエルデは自分の胸の辺りに手を入れてスナイパーライフルを取り出す。そして

「バァン」とデインの頭を打ったのだ、頭を打たれたデインはさっきまで壊れた笑う人形のようだったのにぴたりとも動かなくなった。

「?!仲間割れ?」とアリエルは驚いていたがこれがチャンスだと考えたアリエルは「みんないまよ!!あの落ちて行く人間を狙って!!!」そうゆうと10体のジャイアントゴーレムが一斉に拳を突き出したその時‥





「あっはぁ楽しもうぜ?!なぁ!」

その声ともにデインの意識は覚醒した。殴りかかったジャイアントゴーレム達が跳ね除けられる。


「っ‥!なんで動けるの!?」

驚きのあまり声が出てしまう、ゴーレム達は跳ね除けられた反動により動きが鈍くなる。

「エルデ~特効薬頭に打たなくてもいいじゃんかぁ~いてぇんだぞあれぇ!!」

「すみません、だってデインの頭から可愛らしいきのこが生えていたので取ってあげようかと」

と二人は無駄話をしているだが会話の中に聞き逃せない単語があったそれは【特効薬】だ。さきほどの呪文は簡単に言えば体内の魔力を糧にして植物が生える魔法だ。この植物は宿主の魔力を吸って詠唱者の体力を回復するものなのだが、治療することは出来る。しかし、すぐに治る特効薬を瞬時に作ったというのか?

『どうしよう‥精霊のみんなも疲れてきてるのに』

と内心焦っているとエルデが

「やっぱりね、貴方の魔法は大地そのもに力を貸して貰ういわば【他力本願】な魔法なんですねぇ」

と答える。‥その通りだ、彼女の魔法はこの森にいる精霊に力を貸して貰う。長耳、エルフの姫のみが使える魔法。しかしどうやって見ぬいたのだこの男は?

「‥‥っ!」

バレている。この短時間で?そう驚いているアリエルを見ながら淡々とエルデが喋り出す。

「簡単ですよ、だって貴方‥【指示】しかしてないじゃないですか?使う魔法も精霊頼みのものばかり、しかもそのほとんどが上級魔法、流石に魔力も尽きるはずなのに、なくならないそれってつまり魔力タンクがいるってことですよね?!」

全部バレている‥だからといって攻撃を休めるわけにはいかない、アリエルは次の呪文の詠唱をしようとしたその時、

2体のジャイアントゴーレムが真っ二つになっていた。そこから血液のように泥が流れ落ち、地割れを起こしていた地面が素の綺麗な地面に戻る。

「っ‥嘘でしょ?精霊が作ったゴーレムよ?!」

精霊が作ったゴーレムはそう簡単には壊れない‥なぜなら【祝福】
を受けているからだ、祝福は神や精霊などが使えるギフトのようなもので、人物に与えられれば転生者と近い能力に、ものに与えられれば200年以上壊れないほどの耐久を手に入れる事が出来るはずなのに、目の前の男はそれを簡単に壊した。

「あ、言い忘れてました」

と呑気に飴を舐めているエルデは拡張機を持ってアリエルに向かって叫ぶ。

「デインのプライズは加護とかそう言ったものには滅法強いんです。なんせ、あの子は【悪魔】なのでね?」


しかしその忠告はあまりにも遅かったアリエルが乗っているジャイアントゴーレムの肩まで、デインがジャンプをしてアリエルの目の前に現れる。。

「この高さをジャンプだけで!?」

デインは、すでにアリエルの目の前にいたデインはチェンソーをアリエルに振り下ろそうとする。

「おらっ"!」

と振り下ろされたチェンソーをギリギリの所で、アリエルは魔法障壁を出すことに成功した、チェンソーの刃が障壁に当たるたびに耳をつん裂くような音が周囲に鳴り響く、デインはそのまま下に落下して行くがそのまま力強く着地すると

「おしい!!あとちょっと顔面切断出来たのに!!」

そう言って地団駄をふむ
━━イかれている人を殺すことに躊躇いを全く感じないそれどころか

「次は当てる、必ず当てる、その小さい顔を真っ二つにする‥」

と目が充血し血の涙を流し始める。その姿に恐怖を覚るがそうは言ってられない。自分も、攻撃しなくては‥!

「みんな、今よ!!!」

とジャイアントゴーレムに命令をするが一体も動かない。何故?どうして?気づくと自分の肩にダーツ状の注射器が刺されていた。それに気づいた時にはもう遅い、ゴーレム達はドロドロと崩れていき、それを見たデインがダンッ!と思い切り地面を蹴飛ばしチェンソーを構え瞬時に間合いを詰める。『呪文を!!でも間に合わない!!』そう思い手で頭を守ると、チェンソーの刃が届かない。むしろデインの怒りの声が聞こえる

「はぁ?!なんだよこれぇ!!これ!じゃ!切れねぇじゃんかよ!!!クソが!!!」

キラキラと美しい鏡のような結界に守られている。アリエルはこの結界を知っている、この温もりを知っている。━━これは

「っ!デイン撤退ですその子【女神の寵愛】を受けています。下がって」

「え?まじ?これが寵愛かぁ~へぇー」

そう言って結界を思い切り蹴飛ばしてエルデの方へ戻ると二人はヒソヒソと話しながら背を向ける。アリエルは力が抜けてその場に座り込む、だが二人から視線が離せない

「まさか寵愛を見ることが出来るなんてラッキーでしたねデイン」

「あんなの、ただの【祝福】なだけでしょ?だる~萎えるわぁ俺のチェンソーで切れねぇの」

そう言って二人は目の前からいなくなる。それを見届けたアリエルは「こ、ここは私の居場所よ‥」その言葉を口にだすとその場に倒れ込んでしまう。


       



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