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第六章

私の考えるハッピーエンド

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 戦闘を行なってどのくらいたっただろうか?、厄十の神もだいぶ弱って来ているがまだ倒れない。だが、最初戦っていたよりも攻撃が弱くなっているのは確かだ先程から体を縮こませ「ォォォ‥」と唸っているだけなのだ

その様子を見てルドガーの顔が険しくなるそれはまだ何かある、と言いたげな表情だ。しかしほとんどの冒険者達は「勝てる、押し込め!」と押し込み続けている

「‥?」

ルドガーには何か聞こえるまだ小さい何かの声がそれはまるで

「ビカラ!!!全ての冒険者に撤退命令を!!」

急にルドガーが叫ぶ、それを聞いたビカラは直ちに自分の家族達に冒険者達を撤退するように伝えるが、ほとんどの冒険者達はその撤退命令を"無視した"それを聞いて撤退した冒険者もいるが僅か20人程度

「あぁもう‥だから慢心した奴は嫌いなんだよ‥」

そう言ったルドガーはビカラの家族だけ撤退させるように指示する。ビカラ以外の鼠達が皆ポンと音をたてて消える、その異変に気づいた冒険者もまた退避するが戻って来たのは先程撤退した冒険者と今撤退した数を合わせてもたったの50人程度しかいなかった。

『ハイラ戻って、君も危ない』

ルドガーは念話を使い撤退命令を出す、それを聞いたハイラという龍も天に帰っていくと同時に太陽、南雲、アンドルフ、アズサがテレポートしてくる。

「アルフ君!」

「おお!アルフ殿!」

「アンドルフさん!ご無事で良かった!」

そう言ってアディ、政宗、エレナが駆け寄って来る。それを見たアンドルフも【守る事が出来た】と安堵した。
アンドルフはレイトを見る、彼女は儀式がもう少しで完成するのか集中しているようだ
 
そこにレプゼンも降りて来る、「やっぱりこのくらいか‥ミルウェールの信者達はほとんどあそこにいるんだよね?ルドガー」

「ああ‥ビカラ達が撤退命令を教えてもしても小動物がなんか言ってる程度にしか思ってないっぽい、動物の危機管理能力を知らない奴は痛い目を見ればいい」

「痛い目で済めばいいけどね」とレプゼンが言うと撤退した冒険者達を包み込むように防御結界を貼る。

「なになに、まだ何かあるの?」

アディが心配そうに聞くとそれに太陽が答える

「俺達も昔厄十の神と戦ったことがあるんだよ、だから分かる。まだ終わりじゃない何か隠してる、それもかなりの厄災を」
 
「あれよりもやばい何かがあるの?!」

アディが驚いているとそこにセレナが彼女を落ち着かせるように話しかける

「まあ、あれは不完全だからどのくらいの規模なのかは分かんないけど‥【海神】よりはましだと思う!多分、きっと!」

「て、適当すぎない?!」

だが、その会話のおかげか少しだけ緊張が解れたアディは厄十の神を見る。

「ねぇ、あそこ膨らんでない?」

背中が少し膨らんでいる、まるで風船に空気を入れたようにそれは大きくなっていく

「!!全員気をしっかりもって最後の一撃だ!!」

レプゼンがそう叫ぶと同時に厄十の神の背中から現れたのは人間の赤ん坊だった、まだ目を閉じているが。見ただけで吐き気を覚えるほどの邪気だ。それが少しずつ目を開けると

「ァァァァ‥ヘッヘッ‥アアアア!!!ホンギャ~~!!ホンギャーーー!!アアアアアアアア!!!」



その泣き声はレプゼンが貼った防御結界すらも震わせる、今にでも割れてしまいそうなその声はまるで今自分がここに生まれたと言っているようなものだった。

「ッッッッ‥!!」

「だァァァァうるせぇ!!!」

「何ちゅう声じゃ!!!」

「‥?なにこれぇ?なんでぇ?涙止まんないよぉぉ‥」

元転生者とレイト以外はこの産声を聞いて、男性陣はたちまち耳を塞ぐが女性陣はその声を聞いて涙を零すそれが何故なのか分からないため困惑している中アンドルフには何を言っているかが分かったそれは土地神とあの赤子の慟哭だと

『あぁ、辛かっただろうな、愛されるはずの親に殺されて、そして女神の呪いで自ら愛した土地を汚し、その土地に住む我が子同然の人間達を殺めたのだから』


鳴き声がやみ戦場を見ると小さな池が出来ていた、それは真っ赤な池、よく見ると鎧やローブが浮いている

その産声を上げた赤子はそのまま眠りにつく、そのまま厄十の神は沈黙した


         

 レイトの体が桃色に輝き始める、その輝きは彼女の両手に集まると小さな光の球になる。彼女はそれを厄十の神に向けて飛ばす。
その光の球が厄十の神の体に入るとボロボロと崩れ始める。それと共に雲の隙間から太陽の光が降り注ぐ、崩れた残骸に囲まれた場所で翁面を被った男が小さな命を抱きしめている。その命はスウスウと寝息を立てている

そこに人柱の邪神が近づく、ボロボロで今にも倒れそうだがそんな事を感じさせないように一歩一歩力強く翁面の男に近づく。その足音に気がつき前を見る、自分の元に歩いて来るその邪神を見て土地神は眠っている子供を守るように姿勢を変え

「我はどうなってもいい、だがこの子だけは助けて下さりませんか?」

「‥」

その問いに邪神は答えない

「お願いします!!この子は本当は愛される存在だった!!だけど愛させれず、そのまま‥我が生き返らせたのです、だから、、」

「‥」

その問いにも邪神は答えない

「我は禁忌を犯した挙句そのまま呪いをばら撒いた、しかし子のは関係ありませぬ、だか「俺は‥いえ私はハッピーエンドの話が好きです」

「え?」

土地神は邪神を見る、その顔は恨んでもおらず憐れんでもおらずただ安堵している様子だった

「私は幸せな話が好きです、面白くない、駄作と言われても私が幸せな気分になればそれはハッピーエンドだと考えています」

そう言って土地神に手のひらをかざす 

「私的には貴方がここで赤子と逃げました、おしまい。みたいな感じな話がいま見たい気分です、だから逃がします。遠い遠い場所にあの女神でさえ手が出せない場所にそうして生きるなり死ぬなりして下さい」

そう言った後土地神と赤ん坊を包むように魔法陣が形成される

「我は生きてもよいのですか?厄十の神にまでなってしまったのに!!こんなにも醜いのに!」

「はい?そんなの知りません。私はお前とその赤子が逃げる話が見たいだけなので、お前の意見なんてどうでもいい、貴方はただここからその赤子と一緒に逃げればいいだけです」

光が強くなる、土地神はその光で赤ん坊の目が潰れないように目を隠す。それから邪神に対して頭を下げる、そして頭を上げると邪神が口を動かしている。声は聞き取れない、だが口の動きである程度分かった

【お元気で貴方達が幸せに生きてくれる事を私は願っています】

そう言っているように見えた
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