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2章 誘拐・融解事件
49話 違法と合法の境目
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「よわっ!! お前、弱すぎるだろ?! 今時レベル三とか、五歳のガキより弱いぞ?!」
「そんなに弱いのか……次のレベルアップまでの経験値も是非ご確認頂きたい」
覗き込んだガラテアが「ゲェ?!」とカエルのような声を上げた。
戸口に立っていた男女も和葉のステータスを覗きに来て、一様に「うえっ」「うそ?!」と表情を引きつらせた。
和葉の経験値はレベル三にも関わらず、五桁ある。一般的な経験値ではない。
「で、話を戻すんだが、こういった違法改造は……」
「待った。それは違法改造じゃない」
ケイからそう言われた。
「何でだろうか?」
「いや、寧ろどうして違法改造だと思ったんだ?」
「だって、見えるようにしておけば中身が把握できて便利だろう。それが常用領域に達していないということは、違法として制限されてるからなんじゃないのか?」
ケイが溜息を零した。
「ちなみに、違法で改造したらどれぐらいかかると思う?」
「分からないから、それもついでに聞きに来ました」
「白金金貨が十枚以上だろうな」
(いける!)
和葉の提案した酵母のレシピと温度調整機のセット販売が十桁以上の金額を叩き出している。
「それは人間が入れられるのも?」
「はっ。そっちの方がメインかよ」
人間が入れられるように改造した際の正確な金額を聞ければと思っている。最低でも三個は注文しているはずだ。その金額次第ではトラッドの事件に関与している人間像を絞り込めると考えたからだ。
「何というか、技術者は知ってたとしても聞き出せないだろうなと思って」
「で、別の切り口から聞き出そうってのか?」
「うーん……(食いついている)」
がラテアの目線が変わった。邪魔そうな人間から、こちらを見定める目に変わっている。
「正直あなたの話を聞いてから、私も考えてみた。結果、違法で片付けるのは一側面しか見られていない人間の言い分だと判断した。なので、技術者と店舗名を聞かずに、情報収集可能範囲を絞ったら、人が入るよう改造する技術料とその金額で止めるべきかな、と」
「何でだ。こっちは人の命が掛かってるんだぞ」
「『私が一時間寝たら、三十人が死ぬ』。何を作っていたと思う?」
「何だ急に」という言葉の後に、和葉は続ける。
「偽造パスポート。この世界にはないものだが」
地球上、とある国で実際にあった話だ。一方的な殺戮を受ける対象の人々を国外へ逃がすため、国を渡るのに必要な人物証明書である偽造パスポートを作り続けた男性の言葉。
昨日の発見された女性達のように不当な理由で奴隷にされた人々からすれば、これは持ち運び可能な救出用シェルターだ。
それが国内でも数百人か、世界中合わせれば千単位の人間が逃げ出せる。
何より、和葉からすれば違法とは思わない。
例えば帝国軍でもこのマジックバッグを持った専用の遊撃部隊がいれば、ダンジョン攻略方法と生存率が変わる。
モンスター戦で負傷した人間をマジックバッグ内に回収して、安全な場所まで運んでから治療ができれば人間の生存率が上がるんじゃないか。人々を庇いながら戦うのは大変だ。でも、バッグに入ってもらえればその制限はなくなる。
他にも、逃そうとしたが、逃げたその先にモンスターがいて殺されるなんてこともあり得る話だ。それなら、手元でがっちり守り抜ける方が安全だと思う。
「道具の善悪は使い手による。悪い方に使うか、良い方に使えるかは、当人次第だ。私たちが助けたい一人の為に、明日数十人も助けられるマジックバッグの可能性を否定することは私にはできない。奴隷制度が法律に存在している以上、私が奴隷にならない保証などないのだから」
ケイが、眉根を寄せた。
「奴隷制度は、一般人を無闇に陥れるような法整備ら……──」
「良いだろう」
そうガラテアが言った。
「ランドルフの坊主、お前はここで待ってな。ギメイ、お前はついてこい」
「えっ?」
ガラテアはもう部屋の外へ向かって歩き出していた。和葉は慌ててその後を追い掛ける。立ち上がろうとしたケイだったが、奴隷達に足留めされてしまった。
和葉は待っているよう声を掛けて、ガラテアの後を追った。
「お前、奴隷制度をどう思う」
「知能レベルが低い国がやることです。私が異世界人なのはご存じでしょうか。私が生きてきた世界では世界的に廃止されていて、それでも問題なく国は機能しています。奴隷制度は不要な制度である証明ですね(まぁ、日本は時間労働が代替みたいな部分があるけど)」
それは言ったらいけないと口を閉じる。ガラテアは、ははっと笑った。
「そりゃ、良い世界だ」
「えぇ……こんな私でも自力で生きられるように、さまざまな法律や機関が、たくさんある世界でした。感謝しかありません」
連れて行かれたのはガラテアの執務室だった。
さて、と椅子に彼女は腰掛ける。
「違法マジックバッグの購入者を知りたいってことだったね」
「……違法と言っていいかは分かりかねますが、そうですね。今現在、可能性が浮上しているのはペルーナ教会の司祭です」
顔写真を見せると、ガラテアは目をぱちくりさせて、「なるほど」と笑う。
「聞こう。何でアタシらが仲介者だと思った?」
「昨日、ガラテアさんが『関係ないからな』と最後に放った言葉からですね」
「あぁ? それだけで疑ったのか?」
「可能性が高いかなと思って当たってみたんです。正解でした」
「分かったよ」と彼女は手をひらひらさせる。
「なら明日、冒険者ギルドに『それらしいブツ』を渡してやる。アタシ達が手を出せるのはここまでだ」
「え? 大丈夫ですか?」
「人の心配してる場合か。それなに、バレないようにするにはやり方ってもんがあるんだよ」
(やっぱり、この人女神だった)
「やっぱり女神だった」
「うっせーな! そんな言い方されると…………むず痒いだろうがっ!!」
和葉の呟きに、ガラテアが顔を真っ赤にしてそう怒鳴りつけた。
「そんなに弱いのか……次のレベルアップまでの経験値も是非ご確認頂きたい」
覗き込んだガラテアが「ゲェ?!」とカエルのような声を上げた。
戸口に立っていた男女も和葉のステータスを覗きに来て、一様に「うえっ」「うそ?!」と表情を引きつらせた。
和葉の経験値はレベル三にも関わらず、五桁ある。一般的な経験値ではない。
「で、話を戻すんだが、こういった違法改造は……」
「待った。それは違法改造じゃない」
ケイからそう言われた。
「何でだろうか?」
「いや、寧ろどうして違法改造だと思ったんだ?」
「だって、見えるようにしておけば中身が把握できて便利だろう。それが常用領域に達していないということは、違法として制限されてるからなんじゃないのか?」
ケイが溜息を零した。
「ちなみに、違法で改造したらどれぐらいかかると思う?」
「分からないから、それもついでに聞きに来ました」
「白金金貨が十枚以上だろうな」
(いける!)
和葉の提案した酵母のレシピと温度調整機のセット販売が十桁以上の金額を叩き出している。
「それは人間が入れられるのも?」
「はっ。そっちの方がメインかよ」
人間が入れられるように改造した際の正確な金額を聞ければと思っている。最低でも三個は注文しているはずだ。その金額次第ではトラッドの事件に関与している人間像を絞り込めると考えたからだ。
「何というか、技術者は知ってたとしても聞き出せないだろうなと思って」
「で、別の切り口から聞き出そうってのか?」
「うーん……(食いついている)」
がラテアの目線が変わった。邪魔そうな人間から、こちらを見定める目に変わっている。
「正直あなたの話を聞いてから、私も考えてみた。結果、違法で片付けるのは一側面しか見られていない人間の言い分だと判断した。なので、技術者と店舗名を聞かずに、情報収集可能範囲を絞ったら、人が入るよう改造する技術料とその金額で止めるべきかな、と」
「何でだ。こっちは人の命が掛かってるんだぞ」
「『私が一時間寝たら、三十人が死ぬ』。何を作っていたと思う?」
「何だ急に」という言葉の後に、和葉は続ける。
「偽造パスポート。この世界にはないものだが」
地球上、とある国で実際にあった話だ。一方的な殺戮を受ける対象の人々を国外へ逃がすため、国を渡るのに必要な人物証明書である偽造パスポートを作り続けた男性の言葉。
昨日の発見された女性達のように不当な理由で奴隷にされた人々からすれば、これは持ち運び可能な救出用シェルターだ。
それが国内でも数百人か、世界中合わせれば千単位の人間が逃げ出せる。
何より、和葉からすれば違法とは思わない。
例えば帝国軍でもこのマジックバッグを持った専用の遊撃部隊がいれば、ダンジョン攻略方法と生存率が変わる。
モンスター戦で負傷した人間をマジックバッグ内に回収して、安全な場所まで運んでから治療ができれば人間の生存率が上がるんじゃないか。人々を庇いながら戦うのは大変だ。でも、バッグに入ってもらえればその制限はなくなる。
他にも、逃そうとしたが、逃げたその先にモンスターがいて殺されるなんてこともあり得る話だ。それなら、手元でがっちり守り抜ける方が安全だと思う。
「道具の善悪は使い手による。悪い方に使うか、良い方に使えるかは、当人次第だ。私たちが助けたい一人の為に、明日数十人も助けられるマジックバッグの可能性を否定することは私にはできない。奴隷制度が法律に存在している以上、私が奴隷にならない保証などないのだから」
ケイが、眉根を寄せた。
「奴隷制度は、一般人を無闇に陥れるような法整備ら……──」
「良いだろう」
そうガラテアが言った。
「ランドルフの坊主、お前はここで待ってな。ギメイ、お前はついてこい」
「えっ?」
ガラテアはもう部屋の外へ向かって歩き出していた。和葉は慌ててその後を追い掛ける。立ち上がろうとしたケイだったが、奴隷達に足留めされてしまった。
和葉は待っているよう声を掛けて、ガラテアの後を追った。
「お前、奴隷制度をどう思う」
「知能レベルが低い国がやることです。私が異世界人なのはご存じでしょうか。私が生きてきた世界では世界的に廃止されていて、それでも問題なく国は機能しています。奴隷制度は不要な制度である証明ですね(まぁ、日本は時間労働が代替みたいな部分があるけど)」
それは言ったらいけないと口を閉じる。ガラテアは、ははっと笑った。
「そりゃ、良い世界だ」
「えぇ……こんな私でも自力で生きられるように、さまざまな法律や機関が、たくさんある世界でした。感謝しかありません」
連れて行かれたのはガラテアの執務室だった。
さて、と椅子に彼女は腰掛ける。
「違法マジックバッグの購入者を知りたいってことだったね」
「……違法と言っていいかは分かりかねますが、そうですね。今現在、可能性が浮上しているのはペルーナ教会の司祭です」
顔写真を見せると、ガラテアは目をぱちくりさせて、「なるほど」と笑う。
「聞こう。何でアタシらが仲介者だと思った?」
「昨日、ガラテアさんが『関係ないからな』と最後に放った言葉からですね」
「あぁ? それだけで疑ったのか?」
「可能性が高いかなと思って当たってみたんです。正解でした」
「分かったよ」と彼女は手をひらひらさせる。
「なら明日、冒険者ギルドに『それらしいブツ』を渡してやる。アタシ達が手を出せるのはここまでだ」
「え? 大丈夫ですか?」
「人の心配してる場合か。それなに、バレないようにするにはやり方ってもんがあるんだよ」
(やっぱり、この人女神だった)
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