異世界賢者の魔法事件簿

星見肴

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2章 誘拐・融解事件

68話 ペルーナ教会がやばい

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「神晶石は同時にご神体でもある。ペルーナ神の神晶石は祈りを願いに変える力を持っていると言われているわ。亡くなったアイリスさんの願いを神晶石が叶えていたんじゃないかって、思うわ」

 最初の時期、アイリスは神晶石が持ち出されている事実を知り、それを外部に伝えようと祈力を使い果たしてしまった。

 マルセイ達が使おうとした時、祈力が不足していることに気付いた。慌てて代替品の魔力を注ごうとしてガラテアの所から奴隷を奪い取り注いでもらうも足りない。だから、また被害者を出して補おうとした。それをまたアイリスが『夢のお告げ』に使用するというループが完成した。

「アイリスなら教会内部に神晶石ご神体がないことの重大さを知っている……エルドヴォーグ家は幼い頃からここの聖職者達とは懇意にしてもらっていた。光誕祭以外でもご神体を何度も見せてもらったことがあるんだ。時にはアイリスがねだったこともあって、その時も、快く見せてもらっていた……──」

 いつものように、事情を知らないシスターや神官に頼んで神晶石を見せてもらったことで、その事実を発見することになったのかもしれないと、フレッドが悔しげにそう添えた。

 夢の中で直接神晶石が持ち出されている事実を告げなかったり、その映像を出さなかったのは、グラシアやフレッドが真実を知ったら単独行動を取ることを懸念したからではないだろうかとサビータは言った。

「でも、その、シンショーセキだかゴシンタイだかがないと、何が問題なんだ?」

 ヴォルグがそう投げ掛ける。

「『国教条約』の要だからだ。いざという時、特に国防において神晶石をの祈力を使って帝都に結界を張るという契約を結んである」
「えっ? ですが、以前のレッドドラゴンの襲撃の時……」

 そう呟いたシーラにアシュレイの表情は、この場にいない司祭達への侮蔑へと変わる。

「連中は『国防の範囲じゃない』と吐き捨てたんだ。治癒師もいないからと教会は門扉も閉ざしたままだった」
「ペルーナ教会ってヤバイなぁ」

 ヴォルグがそう言った。
 そう言って、「はっ!」と顔を上げた。

「何でペルーナ教会やばいんだっけ?!」

 これまで散々情報を見ていれば分かることだが、今更そんなことを言ったヴォルグに誰もが視線を送り付けた。中には何いってんだコイツ、の視線もある。
 失言に気付いたヴォルグが「ええっと! ヤバイのは知ってるんだけど!」と言葉が出てこなくて苦戦しているようだった。

「落ち着け、ヴォルグ……」
「あれでしょ?」

 ランチ客が落ち着いたからか、戸口に立っていたキーラがそう声を掛けた。

「ゴルドバ建設の社長が、酒に酔った時に『ペルーナ教会はやばぁ~い』って言ってたってやつ」
「そうだ! それだ!!」

 ヴォルグが叫ぶと、中に入って来たキーラを見た。

んだ?!」
「言われてみれば、確かに何で知ってたのかしらね?」

 きょとんとするキーラ。
「ちょっと俺、社長に確認取ってくる!」と言ったヴォルグがダブの元へ駆けて行く。

「ダブさん、ハト貸してくれ!」
「レザーはハトじゃねぇ! ブルーファルコンだ!!」

 ヴォルグが触ると途端に彼の姿もブルーファルコンへと変わる。
 とっさにサビータが魔法を使い、観音開きの窓が開け放たれると、会議室内で旋回したヴォルグが窓から飛び立って行った。その後を追うように、レザーも窓の外へと飛んで行く。ダブが「待って!」と叫ぶがもう二羽は空の彼方だ。

 二匹から発生した風圧のせいでた、書類がばさばさと舞い上がって、部屋はしーんと静まり返った。

「えっ……今、鳥に変身しませんでしたか?! 格好良い!」

 はしゃいだダニエルに「ブルーファルコンだよ!」とダブが突っ込む。

「ダブ、ヴォルグを追跡できるかしら?」
「えっ? あぁ、多分できるけど……」
「勢いで飛び出して行っているが、おそらく空路からではエルドランド領内にあるフレガースト町の場所は分からないだろう。陸路と空路では、景色が全く違う。変な方向に行っている可能性もあるから、道案内頼めるだろうか」

 ケイもそう添える。
 ダブは仲間の魔獣と視界や声帯を共有できる。しかし、魔獣と彼女自身の距離が離れれば離れるほどその共有魔法のつながりが弱くなる。ダブが集中できるように彼女には別室に移動してもらった。

 ■□■□■□

 ヴォルグは視界が物に遮られない空を飛んでいることに感動していたが、途中で気付いた。

(あれ、フレガーストってどこだっけ?)
「やぁああぱり、全然違う所飛んでるじゃない!」
(ぉおおおぉお?! ダブさんの声?!)

 声はヴォルグに付いてきているブルーファルコンから声が聞こえてきた。
 ヴォルグはというと、「アァー!」とハヤブサ特有の鳴き声しか出ない。

「ついてきな! フレガーストまで案内してやる!」
(ありがとう!)

 旋回したブルーファルコンを真似て、ヴォルグも旋回した。
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