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「陛下から言われている」
「わ、我々はそんなこと聞いていません!」

 青と紫色のマーブルのオーラがグネグネと蠢いている。動いているのは、激しい焦燥感。紫は誤魔化し。だが、青色だ。罪は黒だから嘘を吐いてはいない。

「自分達の失態を隠しても結果は変わらないぞ」
「なっ?! ちっ、違う! 俺達はちゃんと仕事ていた! 本当だ!!」
「ならば、お前達の招いた失態について私から陛下に直に伝えてやろう。お前達が自分達の失敗を認めて上司に報告するならこのまま帰るが」

 顔を見合わせた兵士が二人、バタバタと走って行った。普通は片方残るべきなのだが。
 アルトは溜め息を溢しながら地下牢を下っていく。地下にいた兵士まで止めてきたが、外の奴が報告しに行ったと聞くなり、それ以上引き留めることはしなかった。

 暗いこの場所に、灯りを遮るほどの黒色で地下牢が塗り潰されている。アルトには大半この先は見えない。持ち歩いている魔力遮断の眼鏡を掛けて、視界が眼鏡の範囲内だけクリアになった。

 こちらを睨む犯罪者達。その視線の間を抜けて、コナーの姿を探す。
 だが案の定、彼らが見せたオーラから推測できる答えが、空の牢にある。

「……」

 壁に空いた大穴。通気孔の格子が消えている。通気孔の穴では成人男性のコナーは抜けられない。だが、その穴ならば抜けるのは簡単だ。

 向かいには誰もいない。囚人に話を聞くが素直には当然答えない。だが、誰も物音を聞いていないことは真実だった。

 この地下牢は歩くだけで響く。通気孔を外すのにも穴を開けるのにも大きな音になるはずだ。

 だが、誰も聞いていない。それどころか、通気孔の鉄格子や穴を開けた際に発生するであろう瓦礫すら見当たらない。

 穴の前に、山となって積もっている灰色の砂以外には。

「……はぁ」

 アルトは溜め息を溢して踵を返す。
 これは間違いなく面倒な事件になると悟って。逃げたいが逃げたら後が面倒そうだ。
 地下牢から出てアルトは盛大に溜め息を溢すと、どっと疲れが襲ってきた。

「あぁ、ヴァレリア……パパ、しばらく家に帰れないかもしれない」
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