呪われた勇者の罪と罰~神の筋書きに翻弄された彼の最後~

nene2012

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勇者の罪

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 魔王が厳つい顔で愚弄するように勝ち誇った笑いを上げていた。

「ふははは! どうする? 勇者よ、聖女ごと我を斬るか?」

 彼の胸元には盾にされた彼女が悲痛な目で俺を見ている。そして、震える様な声で俺に囁いていた。

「た……助けなさい……それが勇者の使命でしょ!」

 聖女の自身の命乞いの一言が、俺の癇に障り旅の中で積み重なった苛立ちが、限界を迎えようとしている。
 俺は剣を握りしめると頭の中に声が囁いていた。魔王と一緒に聖女を刺し貫いてしまえ!……と言う声が頭に鳴り響いている。

 握り締めている剣はアストラル・ソウルと呼ばれる聖剣だ。神に選ばれし勇者だけが扱える剣である。
 この剣で数多の魔物を屠り、幾多の困難を乗り越え仲間を守り、聖女の命令に従ってきた……。

 旅の中で俺は彼女を信じ従ってきた。神の声を聞ける聖女は世界の希望だと……。
 だが、彼女の信仰と命令は次第に狂気を孕み仲間達は疲弊し、俺の心は軋んでいった。

 魔王の盾にされ前に立っている彼女を見て、俺はようやく理解する。
 聖剣は魔王だけでなく聖女の命も奪う事を成し遂げる為の剣であると……。
 そして、この剣で魔王と一緒に聖女も貫いて亡き者にしてやると、俺の心に蠢く怒りの感情が囁き続けていたのだ。

「うぉおおおおおおおお!」

 俺は剣を構え躊躇なく聖女ごと魔王の胸を、自らの信仰も聖剣で貫いていく。

「ぐおぉおおおお!!」
「ぎゃあああああ!!」

 魔王の断末魔と聖女の悲鳴がこだまする……。
 アストラル・ソウルはグサッと2人の胸を穿ち抜けていった。
 貫かれた魔王と聖女の胸から血が溢れ流れ落ちる。2人の血が聖剣を伝い赤く染めていくのである。

「がはぁああ……まさか……聖女ごと刺し貫くとは……」

 彼は血を吐きながら、俺を睨みつけていた。だが、同時に聖女も愕然とし恨めしい目で俺を睨んでいる。

「ど……どうして……」

 彼女も口から血を吐きながら、か細い声で恨み言を呟く。
 俺は彼女の声を無視してアストラル・ソウルを彼女の胸から引き抜くと、聖女は崩れ落ち魔王は未だ血を流し立ったまま笑っていた。

「は……ははは……お前に……天罰が下るぞ……」

 嘲り笑う魔王の首めがけて聖剣を薙ぎ払う。ゴトッと奴の首が落ちる音がし胴体が、ゆっくりと倒れていく。
 そして、俺はアストラル・ソウルを鞘に納めると、2人の亡骸を見詰め無言で立ち尽くしていた……。

「やったね!」
「流石、勇者! お主は世界の英雄だぞ!」
「マルス! 魔王を倒したのですね!」

 仲間達が歓喜の声を上げながら駆け寄ってくる。
 だが、俺は仲間達の声を無視しながら、ただ黙って俯いているだけだった。

 仲間達も俺の様子が只事ではないと感じ辺りを見回すと、聖女と首を失った魔王が死んでいるのを目の当たりにして、皆一様に暫く黙り込む。

「アルティア……死んじゃったね……」
「……聖女が犠牲になったか」

 ドワーフの戦士グリントとハーフリングの盗賊ロアンが少ししてから言葉を発する。
 ロアンはハーフリングなので見かけと大きさは子供みたいだが、人間で言えば大人である。
 無邪気で人懐っこい顔をしているが、すばしっこくドワーフ並みのタフさがあるのだ。

「何故、こんな事に……」

 魔術師のオーガストも凄惨な様子に心を痛め彼女の死を悔やんでいる。
 仲間達は俺を恨む事無く、アルティアの亡骸を見詰めては、悲しみに打ち震えていた。
 だが、俺は仲間達に本当の事は話せず嘘を吐く。

「彼女が盾にされた時、自分もろとも魔王を突き刺せと言ってきたんだ……」
「ふむ、そうか……」
「彼女がそう言ったのですね……」

 俺が嘘を吐いた事を仲間達は疑っていないようだ。誰もが彼女の死を受け入れ俺を糾弾する者はいなかったのである。
 すると、オーガストが俺の元へ来て悲しそうに言った。

「マルス……あなたは間違っていませんよ」

 彼はそう言うと、微笑みながら優しく俺を抱き締める。

「魔王は倒した。そして、アルティアも神に召された……。あなたは勇者として正しい事をしたのです」
「ありがとう……オーガスト……」

 俺は彼の胸で涙を流していた。だが、それは悲しみの涙ではなく安堵と解放感から来る涙であったのだ。

「 魔王を倒した英雄マルスよ! 万歳!」

 そんな俺の様子を見て仲間達が歓喜の声を上げながら、俺を勇者と称えている。
 こうして俺は勇者として魔王を倒し世界を救った英雄となった。
 だが、それはただの虚飾に塗り固められた欺瞞に満ちた日々の始まりだったのだ……。

 それから、俺達は王都へ帰還すると国王から盛大な歓迎を受けた。そして、俺達は魔王討伐の英雄として称えられる事になる。
 しかし、俺はそんな名声などどうでも良かったのだ。ただ、王と配下達が歓喜し俺を讃えているのを見ても俺の心に響く事はなかったのである。
 それと、魔王を倒してから体が衰弱していく謎の症状を発症していたからだ。その病は俺の体を静かに、確実に蝕んでいく。

「マルス殿! この国の英雄だ!」
「マルス! 魔王討伐の旅、見事であったぞ!」
「マルス様! 我が国の誇りです!」

 口々に俺を讃える者達を傍目にしながら、俺は国王に感謝を述べる事になる。

「陛下から、そのようなお言葉をいただき光栄です……」
「いや、そなたこそ英雄だ! 魔王を倒した事を余は国を代表して感謝するぞ……だが、聖女の件は残念だったな」

 国王はそう言うと手を差し出してくる。聖女の名が王から出てくると心がざわついてくる。
 俺は平静を装って、その手を取り握手を交わした。すると……。

「……!」

 突如、体に力が入らなくなり足がもつれるのである。そして、俺の視界が揺れ暗転していき倒れていくのが分かった。
 その時、俺はまだ知らなかった。これも、神の筋書きの“罰”であるという事を……。
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