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夜に現れる聖女の亡霊
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彼女は献身的に俺の身の回りの世話をし、甲斐甲斐しく俺の世話を焼き始めたのである。
「マルス、今日の調子はどう?」
「ああ……何とか……」
両親は既に他界し兄弟も居ないので、この家は俺とレ二しか居ない。だから、彼女が俺の介護をする事は容易であった。
「今日は天気がいいから庭で食事にしない?」
「……そうだな……」
彼女は甲斐甲斐しく俺の世話をし、そして俺を愛してくれる。その思い遣りが心に染みて嬉しかったのだ。
だが、彼女の好意に応える事が出来ないでいるのである……。何故なら俺は自分の命が、この先短いのを悟っているからだ。
「レ二……ありがとう」
俺は食事の用意をしている彼女に礼を言った。すると彼女は少し照れながら答える。
「いいのよ……私は好きで貴方の介護をするために傍にいるんだから」
「……そうか……」
「だから気にしないで」
そんな彼女の好意に甘えている自分が情け無く感じる。何故なら、魔王を倒した英雄から衰弱して死を待つ病人に成り下がったからである。
しかし、呪いは衰退だけでなく夜になると異変も引き起こすようになる……。
ある日の夜、俺はベッドで眠っていると異変が起こったのだ。
暗がりの中、ふと目が覚め俺の枕元にアルティアが口から血を流しながら恨めしい目で俺を眺めているのである。
「うわぁあっ!!」
俺は恐怖で思わず叫び飛び起きる。叫び声を聞きつけレ二が心配そうな顔で寝室を伺いに来たのである。
「マルス……叫び声が聞こえてきたけど?」
「あ、ああ……悪夢を見ただけだ……」
彼女を心配させないように嘘を吐き額の汗を拭き溜め息をつくと、改めて周りを見回すがアルティアの姿は無かった。
俺の様子を見てレ二は安堵し部屋を出ていったのである。
「……何だったんだ?」
レ二が去っても暫く、動悸が止まらなかった。しかし、冷静になり考えた結果、聖女の亡霊か呪いによる幻覚であると考える。
「くそっ!」
思わず悪態を吐くと再びベッドに横になるが眠れない……その理由は先程見た光景が忘れられないからだ。
その晩、俺は一睡もする事が出来ず朝を迎える事になるのであった……。
そして、その後も異変は続き夢と現実の狭間があやふやになってくる。
俺は次第に気力を失っていき顔から生気が失われていくのである。ただ、レ二の為にも狂気に陥らないよう必死に耐えていた。
そして、ある日の事……。
俺の元に仲間達が見舞いに訪れに来たのである。
「マルス……調子はどうだ?」
「王都に居た時より具合悪そうだね……」
グリントとロアンは心配そうな声でベッドで伏している俺を見て語りかけてきた。俺はそんな彼らに心配掛けないよう微笑む。
「ああ……少しづつ悪くなっているが、何とか生きているよ……」
「そうか……あまり無理するな」
ドワーフが優しく言葉をかけてくれるが、俺はその言葉に胸が締め付けられる思いだった。その理由は俺に気を遣っているのが、ひしひしと感じるからである。
そんな俺の心情を察してかグリントが冒険の話を切り出す。
「マルス……魔王を倒した話、国中に広まっているぞ」
「そうか……」
「王都にマルスが不在だけど、おいら達も英雄と呼ばれて鼻が高いよ!」
「それは良かったね……」
その言葉に仲間として誇らしげに思うが、アルティアの呪いは消える事が無い。その度に心と体が蝕まれていくのである。
それから暫くして、グリントが冒険の懐かしい話を語ってくる。
「マルス、憶えているか? ルギメルの町を解放するため魔王の側近達と雌雄を決する戦いをした事を……」
「ああ、あったな……」
俺達はルギメルの町を開放する為に、魔族の強者と戦った事を思い出す。
それで混戦になり両陣営ともども死闘を繰り広げたな……。今思えば懐かしい話だが当時は一歩間違えれば全滅していたのは俺達の方だったのだ。
「あの時はマルスが大活躍だったな……まさに獅子奮迅の活躍だったぞ!」
グリントが俺を褒め称える。そして、俺はその言葉に当時を思い出し胸がすく思いであったのだ。
だが、その記憶と共にアルティアの無謀な言動も思い出してしまう。そして、その記憶は仲間の事を全く取るに足らない存在とみなす聖女らしからぬ言動であった……。
それはグリントが魔族と戦い傷を負った時の事だった。
彼女はその傷を癒すため祈りを捧げる。
「全知全能の我等の神よ……どうかこの者の傷を癒したまえ……」
祈ると彼の傷は見る見るうちに回復していきグリントが感嘆の声をあげる。
「おお……相変わらず凄いぞ、アルティア!」
すると、彼女はグリントを見詰めて微笑む。その表情はとても美しく聖女と呼ばれるに相応しいものであった。
しかし、次に出てきた言葉は聖女として似使わない言葉だったのだ。
「傷が治ったら、すぐ戦いに赴きなさい! 私は貴方が何度でも傷付けば癒し続けるまでよ!」
「儂は、お前の操り人形かっ!?」
「黙りなさい……この戦いは神への信仰の証……さあ! 再び戦ってきなさい!!」
グリントが怒って聞き返すと、彼女は神に仕える身としての使命感を説き命令してきた。そして、その発言は仲間を仲間とは思えない発言であったのだ……。
「……ってな事があったな」
「……ああ、そうだったな……」
確かにそんなやり取りがあったのを思い出す。
始めは仲間達を思い敢えて厳しく鼓舞していたのではと思っていた。
しかし、彼女の本質は誇大的で傲慢な人間であったのだ……。本当に彼女は神の声を聞いていたのだろうか?
今となっては、そんな疑問が浮かんでくる。
「マルス、どうしたの? 何だか考え込んでいるみたいだけど?」
俺の気難しい表情を察しロアンが声を掛ける。何でもないと誤魔化すように愛想笑いを返す。
次に彼がアルティアとの冒険の思い出話を切り出すのであった……。
「マルス、今日の調子はどう?」
「ああ……何とか……」
両親は既に他界し兄弟も居ないので、この家は俺とレ二しか居ない。だから、彼女が俺の介護をする事は容易であった。
「今日は天気がいいから庭で食事にしない?」
「……そうだな……」
彼女は甲斐甲斐しく俺の世話をし、そして俺を愛してくれる。その思い遣りが心に染みて嬉しかったのだ。
だが、彼女の好意に応える事が出来ないでいるのである……。何故なら俺は自分の命が、この先短いのを悟っているからだ。
「レ二……ありがとう」
俺は食事の用意をしている彼女に礼を言った。すると彼女は少し照れながら答える。
「いいのよ……私は好きで貴方の介護をするために傍にいるんだから」
「……そうか……」
「だから気にしないで」
そんな彼女の好意に甘えている自分が情け無く感じる。何故なら、魔王を倒した英雄から衰弱して死を待つ病人に成り下がったからである。
しかし、呪いは衰退だけでなく夜になると異変も引き起こすようになる……。
ある日の夜、俺はベッドで眠っていると異変が起こったのだ。
暗がりの中、ふと目が覚め俺の枕元にアルティアが口から血を流しながら恨めしい目で俺を眺めているのである。
「うわぁあっ!!」
俺は恐怖で思わず叫び飛び起きる。叫び声を聞きつけレ二が心配そうな顔で寝室を伺いに来たのである。
「マルス……叫び声が聞こえてきたけど?」
「あ、ああ……悪夢を見ただけだ……」
彼女を心配させないように嘘を吐き額の汗を拭き溜め息をつくと、改めて周りを見回すがアルティアの姿は無かった。
俺の様子を見てレ二は安堵し部屋を出ていったのである。
「……何だったんだ?」
レ二が去っても暫く、動悸が止まらなかった。しかし、冷静になり考えた結果、聖女の亡霊か呪いによる幻覚であると考える。
「くそっ!」
思わず悪態を吐くと再びベッドに横になるが眠れない……その理由は先程見た光景が忘れられないからだ。
その晩、俺は一睡もする事が出来ず朝を迎える事になるのであった……。
そして、その後も異変は続き夢と現実の狭間があやふやになってくる。
俺は次第に気力を失っていき顔から生気が失われていくのである。ただ、レ二の為にも狂気に陥らないよう必死に耐えていた。
そして、ある日の事……。
俺の元に仲間達が見舞いに訪れに来たのである。
「マルス……調子はどうだ?」
「王都に居た時より具合悪そうだね……」
グリントとロアンは心配そうな声でベッドで伏している俺を見て語りかけてきた。俺はそんな彼らに心配掛けないよう微笑む。
「ああ……少しづつ悪くなっているが、何とか生きているよ……」
「そうか……あまり無理するな」
ドワーフが優しく言葉をかけてくれるが、俺はその言葉に胸が締め付けられる思いだった。その理由は俺に気を遣っているのが、ひしひしと感じるからである。
そんな俺の心情を察してかグリントが冒険の話を切り出す。
「マルス……魔王を倒した話、国中に広まっているぞ」
「そうか……」
「王都にマルスが不在だけど、おいら達も英雄と呼ばれて鼻が高いよ!」
「それは良かったね……」
その言葉に仲間として誇らしげに思うが、アルティアの呪いは消える事が無い。その度に心と体が蝕まれていくのである。
それから暫くして、グリントが冒険の懐かしい話を語ってくる。
「マルス、憶えているか? ルギメルの町を解放するため魔王の側近達と雌雄を決する戦いをした事を……」
「ああ、あったな……」
俺達はルギメルの町を開放する為に、魔族の強者と戦った事を思い出す。
それで混戦になり両陣営ともども死闘を繰り広げたな……。今思えば懐かしい話だが当時は一歩間違えれば全滅していたのは俺達の方だったのだ。
「あの時はマルスが大活躍だったな……まさに獅子奮迅の活躍だったぞ!」
グリントが俺を褒め称える。そして、俺はその言葉に当時を思い出し胸がすく思いであったのだ。
だが、その記憶と共にアルティアの無謀な言動も思い出してしまう。そして、その記憶は仲間の事を全く取るに足らない存在とみなす聖女らしからぬ言動であった……。
それはグリントが魔族と戦い傷を負った時の事だった。
彼女はその傷を癒すため祈りを捧げる。
「全知全能の我等の神よ……どうかこの者の傷を癒したまえ……」
祈ると彼の傷は見る見るうちに回復していきグリントが感嘆の声をあげる。
「おお……相変わらず凄いぞ、アルティア!」
すると、彼女はグリントを見詰めて微笑む。その表情はとても美しく聖女と呼ばれるに相応しいものであった。
しかし、次に出てきた言葉は聖女として似使わない言葉だったのだ。
「傷が治ったら、すぐ戦いに赴きなさい! 私は貴方が何度でも傷付けば癒し続けるまでよ!」
「儂は、お前の操り人形かっ!?」
「黙りなさい……この戦いは神への信仰の証……さあ! 再び戦ってきなさい!!」
グリントが怒って聞き返すと、彼女は神に仕える身としての使命感を説き命令してきた。そして、その発言は仲間を仲間とは思えない発言であったのだ……。
「……ってな事があったな」
「……ああ、そうだったな……」
確かにそんなやり取りがあったのを思い出す。
始めは仲間達を思い敢えて厳しく鼓舞していたのではと思っていた。
しかし、彼女の本質は誇大的で傲慢な人間であったのだ……。本当に彼女は神の声を聞いていたのだろうか?
今となっては、そんな疑問が浮かんでくる。
「マルス、どうしたの? 何だか考え込んでいるみたいだけど?」
俺の気難しい表情を察しロアンが声を掛ける。何でもないと誤魔化すように愛想笑いを返す。
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