呪われた勇者の罪と罰~神の筋書きに翻弄された彼の最後~

nene2012

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偽りの聖女

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 オーガストはアルティアを刺したのは俺の意志だったのかと、突然問い掛けてくる。俺は彼の質問に対して何も答えられず沈黙するしかない。

「マルス……無理に言わなくてもいいです……。ここで、その事を問いただそうとしている訳ではないのです」
「……」

 彼は俺の様子から無理に答えなくてもいいと気遣ってくれる。その心遣いは有難かったが、どう答えるべきか思い悩んでいた。

「……私は貴方が彼女を刺した事を、後悔しているのではないかと思っていたからです」
「……」

 俺は彼の指摘に何も答えられなかった。確かに俺はアルティアを殺した事を今も後悔していたからだ。
 あの時、俺が彼女を殺していなければ魔王が優位に立ち、俺達は全滅し世界は滅んだかもしれないと……。
 しかし、彼は俺の気持ちを察して優しく言うのであった。

「私はアルティアを刺した事を責めるつもりはありません……彼女が死んだ事により歪んだ神の神託が人々に伝わる事は無くなりました。それによって魔王以外の脅威からも世界は救われたのです」
「世界が……救われた……?」

 オーガストの言葉に理解が追い付かなくなる。だが、確かに魔王とアルティアを刺した事で、世界に平和が訪れたのだ。
 そして、オーガストは更に話を続ける。

「マルス……私は貴方に感謝しています」
「何だって……?」

 彼は突然、俺に感謝の言葉を伝えるのであった。俺は訳が分からず困惑してしまう。

「人質にされた聖女を魔王と一緒に貫くとは並大抵の意志では出来ないからです。その決断が出来た事も又、マルスが勇者である所以です」
「そんな事はない。 俺は……そんな高潔で強い人間じゃない……」

 確かに自分の意志で彼女の心臓を貫き殺したのは事実だ。だが、それが本当に正しかったのか今では分からなくなっていた。
 そんな俺の心情を察したオーガストは穏やかな顔で言う。

「私は貴方の行動が間違っていたとは思っていませんよ」
「……」

 彼は俺を慰めるように言葉を掛ける。しかし、それでも俺は素直に喜べなかったが彼は話を続ける。

「アルティアが生きていれば彼女の狂った言動で世は混乱を招いていたでしょう……私も彼女がこの世からいなくなって良かったと思っています」
「そうか……」

 俺は彼の言葉を聞くと何故か心が軽くなり気持ちが楽になるのを感じる。そして、彼は更に言葉を告げる。

「私はアルティアが神の声を聞けると言うのは虚言だったのではと思っています。教団や王国を騙し、自らが神に選ばれた聖女であると偽っていただけなのではないかと……」
「そうかもな……」

 彼がアルティアが神の声を聞けるというのは虚偽ではないかと言うので、俺も思わず同調するのであった。

「マルス……彼女の事はもう忘れなさい。そうする事で自身の罪悪感と咎めから解放され、貴方自身も安らかに天に召される事が出来るでしょう……」
「そうだね……」

 オーガストの言葉を聞き、今まで悩んでいた気持ちが楽になった。すると彼は穏やかな顔で俺に言うのであった。

「マルス……私は貴方を尊敬すると共に祝福しますよ」
「……有難う」

 俺は彼に感謝の言葉を伝える。そして、彼に向かって手を差し出すと彼も応えて手を握り返すのであった。
 それから世間話など語り合った後、面会が終わりオーガストは家を後に帰路につく。

 彼が帰った後も俺は暫くの間考え事をして眠りに就けないので、寝室を出て夜風に当たるのであった。
 暫くして俺は杖を突きながら庭に出て夜空を眺めていた。星々が煌めき、満月の光が夜の世界を明るく照らしている。
 その美しさに見とれていると突然、背後から声を掛けられるのであった。

「マルス……眠れないの?」

 振り返るとそこにはレ二が立っていた。彼女は心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。そして、俺は彼女に答えるのであった。

「ああ……ちょっと眠れなくって、夜風に当たって……」
「そう……良かった」

 俺が答えると彼女は安心したように笑みを浮かべる。俺はレ二に心配を掛けないように明るく振る舞って話し掛ける。

「どうしたんだい?」
「うん……ちょっと、貴方と話をしたくて……」
「そうか」

 どうやら彼女は俺と話すために待っていたようだ。そして、彼女は俺の隣に立つと静かに話し始める。

「……マルス……覚えている? 子供の頃に私と貴方が森の獣に襲われた時のことを……」
「勿論、覚えているよ」

 俺は懐かしみながら答える。あの時の事は今でも鮮明に覚えていたのだ。すると、彼女は楽しそうに昔の思い出を語り出すのであった。

「あの時ね……子供ながらに私を命がけで守ってくれた、その姿がまるで勇者のようだと思ったんだ」
「あはは……そんな大層な事じゃないよ」

 レ二が懐かしみ尊敬する様に話し掛けるので俺も謙遜混じりで答えた。しかし、彼女は真剣な眼差しで話を続ける。

「……でも貴方は本当に勇者になって、魔王を倒し私の元に帰ってくれた」
「……ああ、帰って来たよ」
「そして、世界に平和が戻り、今こうして一緒に生活している……本当にありがとう……」

 彼女は感謝の言葉を俺に言う。俺は彼女の言葉を聞きながらも、複雑な気持ちでいた。
 レ二は知らないが、俺はアルティアを殺した事で世界に平和が戻ったと感謝される現実に少々違和感を覚えていたからだ。

「マルス……貴方は私の永遠の勇者よ」

 はにかみ微笑みながら俺に言うのであった。その笑顔は美しく、そして儚げで思わず見惚れてしまった。

 すると、突然レ二は俺に向かって抱き着いてくる。突然の事に驚いて肩に力が入る。
 彼女の体は温かく柔らかくて心地良い感触が伝わってくる。俺は緊張しながら彼女と見つめ合う。

「レ二……」

 俺は彼女に問い掛ける。しかし、彼女は無言のままで何も答えない。そして、目を瞑り口を閉じる。
 まるで何かを待っているかのように……。

 ゆっくりと彼女を抱き寄せ決心すると唇を交わした。そして、暫くしてからお互い離れると再び見つめ合うのであった。

「……マルス」
「レ二……」

 俺達はお互いの名前を言い見つめ合う。そして、再び唇を重ねるのであった。今度は先程より長く深い口づけを交わすのであった……。
 それから少し経って、俺達は家に戻る。寝室に入ると、いつものようにアルティアが青白い顔で恨めしい目をして凝視する中、ベッドに入るのであった。
 しかし、今夜はいつもと様子が違い口元がパクパクと動き何かを言っているのであった……。
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