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憎悪の矛先

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「ユウキ・・・俺と共に戦った時のことを覚えているか?」

ラーヴァスはニタニタと笑いながら問いかけてくる。

「忘れるものか・・・貴様のことはな・・・」

本音では思い出したくない・・・
あれは大魔王ギルヴェル配下の闇夜の魔導士サリナスと戦ったときだった。



魔導士サリナスに支配された城塞都市レンブランド。
そこに攻め入るイルジアンの兵たち。

モンスターとの激闘の最中、俺は凄腕の傭兵部隊と共にサリナスのもとへと急いでいた。
そこに立ちはだかる巨大な4匹のモンスター。

「我らはサリナス四天王・・・ここから先は通さん。」

それぞれが異形の魔族で禍々しいオーラを放っている。
明らかに今までの敵とは違う・・・

「大魔法使いさんよォ。ここはアンタに任せていいか?」

そう聞いてきた傭兵の一人がラーヴァス・ソドムだった。
禁忌とされた武具である魔弾を扱えるイルジアンで唯一の存在として名高い傭兵。
数々の魔族の幹部クラスを葬り去っていた程の実力者だった。

「しっかりと仕留めろ・・・俺ならばサリナス如き一人で十分だがな。」
「フッ・・・自信過剰なヤツだ。先にサリナスの首を獲って大金稼がせて貰うぞ。」

俺は両手から閃光を放ち、サリナス四天王の目を眩ませる。
その隙に傭兵部隊は先へと進んでいった。

「なるほど・・・貴様が噂のユウキ・ナザンか!! 仕留めればサリナス様どころかギルヴェル様もお喜びになられるぞ。」

四天王は傭兵部隊に目もくれず俺に向かってくる。

コイツら・・・俺が目的か・・・身の程をわきまえて貰いたいものだ・・・

俺は黄金の杖を振りかざすとサリナス四天王に立ち向かう。

「手始めにこれでも喰らえ・・・全てを燃やし尽くす業火・・・リエスマ・プラガラス・アヴァンサス!!」

リエスマの最高位魔法の1つ、大地が割れて炎が噴き上がり渦を巻いてサリナス四天王を包んでいく。

「グガッ・・・これしき・・・!!」

四天王の内の1体は燃え尽きて炭と化したが、残りの3体はダメージを受けながらもそのまま俺に襲いかかってくる。

「執念か・・・ならば・・・その命の種を消す・・・コークス・シエラス・ディンギマス!!」

次はコークスの最高位魔法の1つ、俺の両掌から緑の光と共に次々と鋭い矢が放たれていく。

「ぎゃっツ!?」

残りの四天王3体は断末魔と共に動きを止めた。
矢はそのまま奴らを貫くと木の枝と化していた。

「終わりだ・・・」

俺がそのまま魔力を木の枝に流し込むと四天王3体は爆散して果てるのだった。

傭兵達・・・やれているのか・・・
そんな悪い予感に俺は駆け出した。


なんだ・・・これは・・・

やがてサリナスの下に辿り着いた俺、しかしそんな俺の眼前に広がるのは地獄絵図。
何人かは生き残っているが、おびただしい数の傭兵たちの死体が転がっている。

「おっと・・・あぶねえ!!」
「何をする・・・グァァァ!?」

そして魔弾を手にしたラーヴァスが味方を盾にしながら逃げ回っているではないか・・・
飛び交う黒い球体の前に命を吸い取られていく傭兵達。

「な・・・何をしている・・・貴様ァァァ!!」
「だってコイツに魔弾があまり効かないからさあ・・・どうにも隙が無いんでこうやって少しでも生き延びようとしていたワケ!!」

コイツ・・・始めから協力し合おうという意識がない・・・
俺は光の球体を放つと黒い球体にぶつけて相殺していく。

「スゲーな、さすがユウキ!!やっぱ俺じゃ無理だからサリナスを倒しちゃってよ♪」
「貴様・・・」

あまりに軽薄なラーヴァスに俺は怒りが収まらない。

「仲間割れとは面白い。ユウキ・ナザン・・・辛いところだな。」

そんな俺に対し、ギルヴェル四天王の一人闇夜の魔導士サリナスは、白い仮面の中から鋭い眼光を向けていた。
今までの敵とは全く異質なのがよくわかる。
闇属性の魔法・・・邪呪ナーヴェスのマスター。
イルジアンの高名な魔法使い達が束になっても瞬殺されてしまう程の強さ。
だが・・・

「闇夜の魔導士サリナス・・・さあ・・・かかってこい。」

俺は手招きのジェスチャーで挑発。
多分、俺はやれる。

「ガキがァァァァ!! 舐め腐りやがってェェェ!!」

サリナスが両腕を天に掲げると巨大な黒い塊が俺の頭上に現れる。
そして破裂すると黒い雨が降り注ぐ。

これはッ!?

俺は光の波動で黒い雨を防ぎきるが、傭兵達は黒い雨を浴びると身体が溶けて骨と化していた。
詠唱破棄でこの威力の邪呪を・・・サリナスは予想以上か・・・
その時だった。

「チッ!?」

俺は大きく飛び退いた。
頬を何かがかすめていた、血が滴っている・・・まさか・・・

「惜しい・・・惜しい・・・惜しいねえ♪」

魔弾を構えているラーヴァスが狂気の笑みを浮かべていた。
まさか、俺に魔弾を放つとは・・・

「フハハハ・・・面白いぞ、魔弾の人間!!」

笑い出すサリナス。

「そうでしょ? サリナス・・・」
「闇と光の崇高なる戦いを邪魔するなァァァ!!」
「ぐえッ!?」

ラーヴァスはサリナスの逆鱗に触れて、ナーヴェスの一撃を喰らい消し飛んだのだった。



「あの時、死んでいなかったのか・・・まあ・・・いい・・・我の前にひれ伏せよ、スマグマ・ヴァイログス!!」

俺は印を構え呪文を唱える。

「そうだな・・・死んだと思っていたんだが、何故か生きていたんだよォ!!」

ラーヴァスが魔弾を放った。
しかし、俺の目の前で魔弾は威力を失い地面に落ちていく。

「なんだァァァ?」

魔弾が通用せずに憤りを露わにするラーヴァス。

「俺の前の重力の壁の前に貴様の魔弾は意味を成さない。物理攻撃は今の俺には無効に等しい。」

更に魔弾を連射するラーヴァスに俺は諭すように言い放つ。

優輝くんは重力系の魔法も自在なのね・・・ホント・・・底が知れないわ・・・

エリスは塞がった傷跡をさすりながら戦況を見つめていた。


「クックックッ・・・仕方ねえなあ・・・本気出すか。」

ラーヴァスの両手から漆黒のオーラがほとばしる。
その両手には刻印が刻まれていた。

「ラーヴァス。それはヴィーザムの芽か・・・」

そんな俺の言葉に答えることもなくオーラを増幅させている。

「ウオオオォォォ!!」

魔弾が巨大なバズーカに変化した。

「これぞ、魔弾の究極・・・天驚魔弾砲だァ!!」

ラーヴァスは目をむき出しにして叫ぶ。


「ヤバイ・・・エリス!! 舞花と穂香を!!」
「わかった!!」

そんな俺たちをあざ笑うかのようにラーヴァスは天驚魔弾砲を構えた。

「さあ・・・全部消えてしまえェェェ!!!」

強力なエネルギー波が放たれる。

「ぬおおおおッ!!」

俺は重力の壁で何とか防ごうとするもその威力に飲み込まれそうになる。

「くそ・・・全魔力解放・・・」

ダメだ・・・以前のようなチカラが・・・魔力が俺にはないのか・・・
そのエネルギー波は俺たちを包み込んだ。
そして大爆発を起こす。


「やった・・・マジかよ・・・。」

一瞬だけ勝利を確信したラーヴァスの笑顔がひきつった。

「ユウキ様。」
「ダーリン♪」

俺は何とか堪えきることができていた。
ウンディーネとドリアードが俺に魔力を注いでくれたのだ。

雨降って地固まる・・・か・・・

エリスは舞花と穂香を庇って空中に逃れていた。


「くそがァ!! これじゃ仇が討てねえじゃねえか・・・ミアンの仇が・・・」

ラーヴァスは恐ろしい形相で俺を睨みつける。

どういうことだ・・・俺が・・・仇だと・・・

「思い出せないか・・・ならば思い出させてやるよ・・・。」

ここまで憎しみを・・・憎悪を向けられたことはなかった俺はただ立ち尽くすだけだった。

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