マイホーム戦国

石崎楢

文字の大きさ
215 / 238

第208話:浅井長政の告白 前編

しおりを挟む
1570年12月、山城国勝竜寺城。

「来たわね・・・」
美佳は大手門の前で手を振る。
その隣には険しい表情の景兼の姿。

「美佳姫・・・相変わらず元気そうだな。」
「疋田様まで律義な事ですな。あまり機嫌が良さそうではないが。」
清興と六兵衛率いる山田軍が入城していく。
その中に馬上で両手を縛られた一人の侍の姿。北近江の雄だった浅井長政である。

「・・・生き恥とはこのことだ・・・」
そう呟く長政。
「何を言っても届かねえぜ。」
五右衛門がその側で冷たい言葉を放つ。



同年11月22日、炎上する小谷城本丸。

「来いよ・・・」
五右衛門は白虎の刀を受けたまま、青彪を挑発する。

「貴様・・・調子に乗るな・・・調子に乗るんじゃねえ!!」
青彪は槍を構えた。

「待て・・・青彪。石川五右衛門を討っては岳人様の面目が・・・」
白虎がなだめようとするも青彪はそのまま鋭い槍の一撃を放った。

「!?」

しかし、その瞬間である。
青彪の槍の穂先が真っ二つに叩き落とされた。

「ぬうう・・・」
「止めろ。これ以上はさすがに我慢はできんぞ・・・」
ダルハンは青彪の槍の穂先を一刀両断するとそのまま青彪の間合いに入ってその腕を掴んでいた。

動けん・・・何という馬鹿力・・・信じられん・・・

青彪の額に冷や汗が滲む。
業火の中に見るダルハンの鋭い眼光。

ワシが恐怖しているだと・・・ワシは恐れはしない。明帝でさえ恐れはしなかったのだぞ・・・

青彪の身体から闘気がほとばしる。
ダルハンもそれを受けて間合いを取るとニヤリと笑みを浮かべた。
青彪は長刀を手にすると手招きで挑発。
強者同士の本能が理性を封じ込めた状態になってしまう。

「いい加減にしろォ!!」
それを察した五右衛門が両者の間に割って入る。

「邪魔するなァ!!」
Үхсэн死ね!!」

それと同時に青彪とダルハンが五右衛門に斬りかかった。

「クソ共ォォォ。俺を舐めるなァァァァ!!」

五右衛門の叫ぶような声と共に信じられない光景がそこにあった。

「この二人の攻撃を同時に・・・信じられぬぞ・・・」
白虎は動揺を隠せなかった。
浅井長政はただ茫然と立ち尽くすだけ。

五右衛門は右手の刀でダルハンの攻撃を食い止め、左手の刀で青彪の攻撃を弾き返したのだ。

「いい加減にしろ・・・。オマエらもそれぞれに目的があるんだろうが!!」

五右衛門はそう言うと浅井長政の腹に拳を入れた。

「ぐはッ・・・」
気を失った長政。
そこに杉谷善住坊が現れると長政の身体を肩に乗せる。
「石川殿。そろそろ時間だ・・・」
更に複数名の山田忍軍の忍びたちが集まってきた。

「ダルハンとか言ったな。」
「・・・」

五右衛門とダルハンは互いに見つめ合う。

「若君を・・・山田岳人を頼んだぞ。」
「わかった・・・この命に代えても!!」

ここに生まれた因縁からこの二人に奇妙な友情が芽生えるのは後の話である。



時は戻り、勝竜寺城大広間。

「・・・」
浅井長政は縛られたままで、その真ん中に座していた。
一馬や義成といった山田家家臣団からの冷たい視線を全身に浴びせられている状態。

耐えられん・・・

長政は顔を紅潮させて、ただうつむくだけであった。

「浅井長政殿、お待たせいたしました。」
そこに美佳が景兼を伴い現れる。

「・・・!?」
可愛らしい美佳の声に反応して顔を上げた浅井長政。

「・・・なんと・・・」
長政は美佳の顔を見るとそのまま硬直してしまう。
そんな長政の姿に微笑む美佳。

「景兼。浅井長政殿に無礼であろう。縄を解きなさい。」
「ははッ・・・(チッ・・・)」
美佳の声に渋々とした表情で景兼は人を呼び、そして長政の縄を解かせた。

「浅井長政殿、あなたが我が義妹である市姫にした仕打ちは決して許せません。でも・・・」
「ははッ・・・どのような処分でも構いませぬ!!」

美佳の言葉をさえぎって頭を床に打ち付けながら声を上げる浅井長政。

「な・・・なんだ・・・この展開・・・」
「なんか悪い予感がするぞ・・・」
一馬と義成は顔を見合わせる。

「ですが、この救っていただいた命・・・是非、京都所司代様の為に使わせてくれませぬか!!」
長政の言葉に勝竜寺城の大広間は静まり返った。

「まだ話は途中なのよ・・・」
「美佳様の為に一命をなげうつ所存・・・グエッ!?」

そんな長政の顔面に美佳の拳が入る。

「殴った・・・本気で殴ったんだね、美佳様。」

どこかで聞いたことのある名言のような言葉を発する長政・・・家臣団は思わずズッコケてしまう。

「市姫様の件、全く反省の色が見えませぬぞ。私が斬り捨てましょう。」
景兼は長政の前に立つ。

「ああ・・・斬ってくだされ・・・」
待ちかねたかのように長政は首を差し出す。
しかし、再び美佳がそれを制した。

「景兼・・・下がってね。浅井長政殿、御戯れはよろしくてよ。市姫とのこと、織田とのこと、あの明の者たち、蒙古の者たちについて全部話していただくわ。」
「さすがに切れ者ですな・・・山田美佳・・・」

長政は笑みを浮かべると、そのまま太々しい態度で大広間の真ん中に立つ。

「そろそろか・・・」
「全てを話してもらうぞ。」
清興と六兵衛も大広間に姿を現した。

俺は全部聞いている・・・今から長政が話すことが真実ならば・・・
真実ならば上杉やら北条やらのことで日ノ本が混乱している場合ではない。

五右衛門は大広間の片隅で壁にもたれて静観していた。
そこになずながやってくる。

「石川様・・・」
「なずなは下がれ。オマエは殿の側室だ。もうくのいちではない。」
「いえ・・・この子の母として全てを知っておきたいのですわ。」

お腹をさすっているなずな。
五右衛門はそれを見ると複雑そうな表情になる。

殿の子か・・・竹中半兵衛重治。
この乱世、何があっても山田大輔の血は絶やさないということか・・・

そして再び座り込んだ浅井長政は語りだす。


始まりは1567年9月。
小谷城に織田家から急使が訪れた。

「ぬ・・・ぬあんだとォォォ!?」
書状を受け取った浅井長政は怒りに打ち震える。
織田家当主織田信長の妹である市姫との婚約が破談となった。

「大和国守護山田大輔が長子である山田岳人と祝言をあげた・・・だと・・・」

それから長政には夜も眠れぬ日々であった。
知らぬ男にお市が抱かれているであろうことばかりを考えてしまう。
実際には長政自身、顔合わせぐらいでお市とまともに話したことさえないのだが・・・

そして10月。小谷城に長政への面会を求める男たちが現れた。

「俺は相模国北条家の風魔忍軍頭領風魔小太郎だ。」
「同じく上忍廖鬼。」「巖鬼。」

「風魔小太郎・・・」
身震いしているのは浅井家家臣遠藤直経。

「ほう・・・どこかで見た顔だと思えば伊賀の遠藤か・・・浅井についているとはな。落ち着かぬ奴め。」
嘲笑する小太郎。
「我が遠藤の家は元より浅井家譜代の家臣だ。伊賀にいたにも訳がある。」
「知っとる。」
「うぬう・・・」
直経は小太郎の態度に思わず斬りかかろうとさえ考えたが、勝てないことも悟っており手が出せない。

「我らが力を貸してやっても良いぞ。」
「北条といった東国の者達の助力を受けても何もあるまい。」
長政は小太郎の申し出に首を横に振るだけ。

「だがな・・・」
長政は懇願の表情で小太郎たちを見つめた。

「どうにかしてお市を我がモノにしたいのだ・・・。」

ここから続く家臣団の白熱した討論。
そしてその矛先は小太郎の不遜な態度に向けられたのである。(第84話参照)

そして小太郎の吐いた言葉。

「既に手は打ってある・・・面白いことが起こるぞ。事と次第によれば浅井家が天下を取れるかもしれぬぞ。」
「・・・なんだとォ・・・」

長政は天下という言葉に思わず反応してしまった。
武人たるもの一度や二度は天下の夢を見る。
それを見ず知らずの他者から告げられたのだ。

「よろしければ人払いを・・・。」
小太郎はそう言うと平伏するのだった。


ここから風魔小太郎が浅井長政に告げること・・・
少しずつ山田家による歴史改変の裏側が紐解かれていくのである。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...