マイホーム戦国

石崎楢

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第22話:美佳と忍びの道中記(1)

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山田城改め宇陀川城。
春も終わりを告げる頃・・・
城下町もかなり発展してきた。
多分、宇陀では一番栄えているのかもしれない。

そんな中、また一人の有能な人材が仕官してきた。
龍口千之助、伊賀上忍の百地家に所縁のある20歳の若者だ。

宇陀川城の練兵所。
「千之助。なんか忍術見せてよ?」
美佳が言う。
「忍術・・・ですか?」
千之助はきょとんとしている。
「ほら・・・分身の術とか。」
「分身の術・・・?」

「アネキ! 千之助さんが困っているだろ。漫画やアニメじゃないんだって。そんな忍術はないんだよ。」
岳人は呆れ顔だ。練兵所の屋敷の縁側で寝転んでいる。
「ああ・・・もういいから・・・凄いの見せてよ。」
美佳は退屈そうに言う。

九兵衛は吐山城のオジサマのところだし・・・
一馬と義成はパパのお供だし・・・
おりんは嫁にいっちゃったし・・・
楓は鉄ばかり打っているし・・・
サスケは山の中をうろうろしているし・・・
ママ・・・ママは放置だよ・・・

「景兼に言ってパパの後、追いかけよう。千之助ついてきて。」
美佳は千之助を連れて城へ戻っていった。

「アネキのマイペースぶりはここのところ酷いな。」
岳人はつぶやく。
「正直、どうしていいのかわからないのかもしれないわ。」
そこに楓がやってきた。岳人の隣に座る。

「色々あるのよ・・・あなたのお姉さまはね♪」
「そうなのか・・・」

しばらくすると美佳が城から練兵所に戻って来た。
「あたし旅に出る。」
某ドラ●エの女武闘家のコスプレをしている。
「美佳?」「アネキ?」
驚く楓と岳人を尻目に武器を準備し始める。

「鎖鎌OK・・・。」
美佳はリュックに武器を詰め込んでいく。

「岳人、パパを追いかけるから・・・あのわからずやの軍師様に言っておいて!! バイバイ楓!!」
美佳はそのまま行ってしまった。

「・・・美佳一人じゃ危ないって・・・わたしがついていくから。」
楓はそう言い残し、美佳を追いかけていった。

しばらくすると千之助が練兵所に息を切らして走ってきた。
「若君、美佳様は何処へ行かれましたか?」
「なんか・・・旅に出るって・・・楓が追いかけていったよ。」
「うおおおッ・・・なんてことだ!!」
千之助は頭を抱えた。

その頃、大広間では
「・・・。」
景兼はため息をついていた。

美佳様に何かあったら・・・とは思うが・・・
楓、千之助・・・よろしく頼む。

千之助は口笛を吹く。
すると空から一羽の鷹が降りてきた。

「スゲー・・・鷹呼んだよ!!」
岳人の驚きの声。

「これで良し・・・」
千之助は書状をしたためると鷹はその書状を口に加えた。

「頼む。」
「ピィーッ!!」
千之助の言葉にまるで答えるように一声鳴くと鷹は飛び去っていった。

「ありゃ~スゲーな・・・。」
練兵所で訓練している兵たちの感嘆の声。

「凄いじゃん、千之助!!」
「ありがたきお言葉・・・。」
「あの鷹の名前は?」
「センカイでございます。我が一族は鷹を代々扱っているのです。」

岳人と千之助は空を見上げた。


宇陀川城を出て間もなく、楓は美佳に追いついた。
「美佳・・・わたしが一緒に行くよ。」
「やったー!!」
美佳は楓に抱きつく。

「そうとなれば・・・」
美佳はリュックから衣装を取り出した。
「これを着てよ。」
「!?」
「お願い!!着てってば!!」

近くの農家の納屋を借りて、楓はその衣装に着替えた。
「何・・・これ?」
「女魔法使いよ♪」
楓は某ドラ●エの女魔法使いのコスプレを着せられてしまった。
「凄く・・・恥ずかしい。」

照れている楓の胸元を見て農家の主人と息子が鼻血を流している。

「でも・・・なんか気持ちいいかも♪」
楓もコスプレに目覚めてしまった。

「・・・なんだ・・・あの娘たちは♡」
「おお・・・♡」

街道を歩く美佳と楓を旅人たちや沿道の男たちがガン見している。

「美佳様、楓殿!!」
ここで千之助が追いついてきた。

「千之助♪ 来てくれると思った♥」
「・・・くれぐれもご無理はなさらぬように。」
笑顔の楓を見て呆れ顔の千之助。
「龍口殿、ありがとうございます。」
楓が頭を下げる。
「・・・と・・・とんでもないッス・・・」

「・・・。」
美佳は楓に対する不自然な千之助の返事にニヤついた。

「千之助も着替えなさい。」
美佳はリュックから衣装を取り出した。

近くの民家の納屋を借りて着替える千之助。
出てくると・・・

「なんじゃこりゃァァ!!」
千之助は絶叫する。
「遊び人よ。」
美佳は棒読みで返事をした。
某ドラ●エの遊び人のコスプレ衣装だった。

「ぷッ・・・」
楓は笑いをこらえるのが必至だ。

「美佳様、もっとカッコいいのをお願いします。楓殿に・・・笑われております・・・」
千之助は泣きそうである。
「ゴメン・・・。」

「いや・・・でもなんか楽しいですよ。何というか・・・龍口殿のお姿を見ていると和みます。」
楓は優しい顔で千之助に声をかけると
「私はこれで行きます。なんか動きやすいんですよ~。」
なんとも分かりやすい千之助であった。


更に街道を進んでいくと赤埴付近に差し掛かった。
関所と砦があり、怪しい格好の三人はすぐに呼び止められた。

「手形はあります。」
美佳が通行手形を関所の兵に見せるも
「怪しいのう・・・。」

そりゃ疑われるでしょ・・・
ここで止められて引き返すことになればいいんだけど
楓は心の中で祈っていた。
しかし、その祈りは届かなかった。

「これは美佳様ではないですか・・・。」
砦から一人の武将がやってきた。
「あっ・・・赤埴殿の家来の人だ。」
「家来の人ではございませぬ、拙者は矢谷源之進ですぞ。皆の者、頭が高いぞ!! この御方は宇陀川城城主山田大輔殿が姫君の美佳様じゃ!!」
矢谷源之進の声に兵たちは一斉に平伏する。

こうして関所を通過した美佳たちが歩いていると
「美佳様、美佳様!!」
馬に乗って赤埴信安が追いかけてきた。
「・・・。」
しかし美佳たちのコスプレを見て絶句する。
「赤埴信安殿・・・どうしたのですか?」

「美佳様に護衛の兵をつけようかと思っておるのだが。」
信安の背後に10名ほどの兵がついてきていた。

「かえって目立つので大丈夫ですわ。」
美佳は信安に真っすぐな眼差しで答えた。

いや・・・その恰好十分に・・・もの凄く目立つんですけど。
っていうか怪しすぎるんですけど・・・特に男の方・・・
そして楓殿の胸元にどうしても目がいくんですけど・・・

信安の視線に気がつき楓は顔を赤くして胸元を隠す。

「・・・変態オヤジ・・・」
美佳は信安の耳元でささやいた。
「!!?」
信安は固まった。

へんたい・・・ヘンタイ・・・変態オヤジ・・・ですか・・・

そんな信安を置き去りにして美佳たちは先へと進んでいった。
更に赤埴領の関所と砦を越えると北畠家の領地になった。

「この辺りにはかつて滝谷城がありました。」
千之助が言う。
「滝谷・・・六ちゃんや九兵衛の・・・?」
美佳が聞き返す。
「そうかもしれませぬ・・・かつて宇陀にはたくさんの国人がおりましたが、それぞれの勢力争いや近隣諸大名の侵略行為で潰されていきましたから・・・。」
千之助は言うとため息をついた。

更に歩いていくと街道沿いに民家がなくなってきた。
「そろそろ敵が現れるパターンね。」
美佳が言ったときだ。

「金だせ、コラ!!」
山賊が集団で現れた。その数は10人程か。

「出たな・・・って!?」
美佳が構えるより早く楓と千之助が山賊たちに飛びかかっていく。
あっという間に山賊たちを叩きのめしてしまった。

「お許しを~。」
山賊たちは逃げていった。

「チートだよ・・・。」
美佳がつぶやく。
「どうしたの・・・美佳?」
楓が聞き返す。
「二人共、チートすぎる・・・っていうかパパに仕えている人たちってみんなチートだよ。」
美佳が答えると千之助は首を横に振った。

「強くならなければ守れないのです。大切な人を・・・自分の命を・・・。だからどこまでも強くなりたいと願うのです。少なくとも私はそう思っています。」
千之助は楓を見る。
うんうんとうなずきながら楓は微笑む。

「ごめん・・・千之助。その姿でかっこいいこと言っても伝わらない。」
「アンタが私に着せたんやろが!!」
美佳の発言に千之助がブチ切れた。
「ごめんってば・・・って!!」
美佳は逃げ出す。
「もう我慢できんぞ・・・わがまま娘!!」
美佳の足元にクナイを投げつけた。
「殺す気かァ!!」
「殺しませんけど・・・懲らしめてやりたいのです!!」

「大丈夫なのかな・・・絶対に殿に追いつけなさそうね・・・」
楓は呆れ顔でつぶやいた。


こうして吉野に向かった私を追いかけるために美佳と楓、千之助が旅に出た。
この先に何が待ち構えているのだろうか・・・。








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