マイホーム戦国

石崎楢

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第57話:信長の影

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北勢の神戸城。
北畠家と繋がりの深い伊勢国人の神戸氏の居城である。
この数年、織田家家臣の蟹江城城主滝川一益との小競り合いが続いていた。

その本丸大広間にて一人悩む男がいた。
神戸具盛。七代目当主にして戦・政に長けた名君と誉高かった。

美濃の次は伊勢だ・・・間違いなく織田は攻めてくるだろう。
このときに矢面に立たされるのは間違いなく我ら神戸だ。
だが屈するわけにはいかぬ。

そのとき急使が駆け込んできた。
「一大事でございます。滝川一益の軍がまたもこちらに向かっております。」
「そうか・・・。」
「尾張の織田軍も加わっての大軍かと思われます!!」

やはりな・・・

「大御所様に援軍を要請だ。そして長野と関にも力を貸してもらう。」
具盛は立ち上がると力強い口調で言った。


数日後、多聞山城。
景兼不在の為、龍王山城から岳人が戻ってきてくれた。
会うたびに男らしく成長を遂げている姿が頼もしい。
義輝から武芸も学んでおり、背も伸びて逞しくなっていた。

そこに北畠から急使である。
「北勢に滝川一益がその主君である織田信長の援軍と合わせて攻め入っております。山田殿に援軍をお願いに参りました。」

いつかこうなると思っていたが、遂にこのときが来たね。

岳人は私を見る。

「わかりました。北畠家と我々との仲を考えればお助けしないといけません。」
「ははッ・・・ありがたきお言葉・・・大御所様もお喜びになられるでしょう。」

私の返事に大喜びの急使が帰った後、
「どうしましょうか・・・。」

私は返事をしたものの三好と松永との戦の準備もあるのだ。
いつ、奴らが攻めてくるかわからない。

「父さん、三好と松永は早々攻めては来ないよ。」
そんな私の心中を察したかのように岳人が言った。

さすがだ・・・この若君はなんと聡明なのだ・・・
光秀は思わず感嘆すると笑みを浮かべる。

「三好三人衆の拠点はそれぞれバラバラだし、松永弾正への信頼も薄い。畠山の動きもあるし時間がかかるよ。」
岳人は続けた。
「でも時間をかけた分、大軍で大和の国に攻めてくる。その為の布石としてここは僕らの力を北畠家に示しておく。そうすれば決戦の際には多めの援軍を期待できるってことだよ。」
「なるほど・・・。」
「これから織田は美濃を獲り、伊勢に攻め入る。ここで滝川一益と織田の援軍を完璧に撃退すれば北畠に対し慎重になるだろうね。」

もう家督を岳人に譲った方が良いかも・・・
私は家臣たちを見ると一様に岳人の話に聞き入っていた。

「今、僕らは軍備増強に専念している。それと同時に周囲の国々に恩を売るということも必要だよ。僕は近江の六角とも結びつくべきだと思う。六角は浅井に追い込まれているし、正直言って大名としては滅びの運命にあると思うんだけど・・・」

岳人の眼光が鋭くなった・・・こんな表情をするとは・・・

「ならばその運命を変えたらどうなるのか・・・六角が勢力を取り戻せば織田や三好への抑止力になるはず。ただ、六角家の当主である義定は優れた人物だけど実質は暗愚な父の義賢と兄の義治に実権を握られているのが現実。ここをどうするかだよね・・・」


こうして私たちはまず北畠への援軍を編成した。

「これは僕にやらせてよ。」
「ダメだ。」
岳人の言葉に私は反対するも

「私が側につきます故、若君にお任せください。」
光秀の進言もあり、渋々受け入れた。

「殿様、若は俺が命に代えても守るから安心しろって。」
五右衛門が岳人の護衛をしてくれるのは安心ではあるが・・・

岳人率いる援軍の数は三千。副将には光秀、義成、純忠と慎之助。
すぐさま夜通しかけて編成が始まった。
そして多聞山城を出発する岳人の軍を天守閣から見送る私と朋美と美佳。

「なんか岳人って逞しくなったよね。」
美佳は思い出していた。
あの芳野城攻めの時の岳人を・・・
そして見違えるように精悍な表情を見せる現在の姿。
岳人に対して、心配よりも頼もしささえ感じていた。

「大丈夫かしら・・・。」
朋美はさすがに泣きそうな顔で見送っている。
そんな妻の肩を私はそっと抱いた。

「あなた・・・」
「大丈夫・・・私たちが思っているより岳人は大人だよ。」
そんな私の顔を見て朋美は寄り添う。

パパとママを見ると安心するよ・・・
岳人・・・頑張れ!!

美佳は笑顔で岳人たちに手を振るのだった。


そして六角氏には毒蝮の金蔵と啄木鳥の権八が潜入した。
「殿様、俺たちに任せておけよ。」
そんなことを言ってくれる頼もしい二人である。

この二人が時間をかけて六角氏の内政に関与していく。
このことが畿内の勢力図に大きな変化を及ぼすこととなるのであった。


所変わって北勢に攻め入る滝川一益の軍。
既に神戸城を望む場所にて陣を構えていた。

「突然、本腰を入れて攻め入れとは参ったものだ。」
滝川一益はただ苦笑いしかなかった。
「まあ良いではないか、殿に逆らっても何も得することなどないぞ。」
「それにしても勝家殿をよこして下さるとはありがたいですが・・・」
「それだけ本気ということじゃ・・・ワハハハ!!」

織田軍の援軍の将は柴田勝家。
その武勇は織田家随一と誉高かったが、この当時はあまり重用されていなかった。

此度の戦でワシが再び織田家で這い上がれるかがかかっておる・・・

勝家は拳を握りしめる。
織田家の家督相続の際に信長に敵したこと・・・
これを帳消しにしたくば攻め落とせということだ。
何があっても命に代えても神戸城を落とす。

その勝家の側に控えている四人の男。
それぞれが異様なまでの殺気を放っており、一益は怯えていた。

私が矢面に立つ必要はなさそうだ・・・その方が良いだろう。
更なる援軍も来るだろうしな・・・

滝川一益、柴田勝家の兵、その数八千。
森可成、池田恒興といった信長のお気に入りの家臣たちによる更なる援軍も合流する予定である。
その数を合わせると一万二千。

対する神戸軍は二千、長野と関はそれぞれ一千、北畠からの援軍は五千。
合わせて八千。

その戦いの火ぶたがまもなく切って落とされる。
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