マイホーム戦国

石崎楢

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第117話:畿内統一への布石

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1568年10月河内国小山城。

三好家家臣三好為三以下守兵たちは疲労を隠せなかった。
畠山軍に囲まれてひと月以上、最後の頼みの綱である同族の山田家家臣三好康長も動かない。

「もうそろそろ頃合いだな。三好為三といえどもあきらめざるを得まい。」

畠山軍の大将を任されている畠山政尚。
その軍勢は紀伊の国人衆を主力とした三千の兵であった。


「最早・・・これまでか・・・。」
三好為三は家臣団を見回すも、誰もが顔を上げない状況である。
そんな中で一人の男が大広間に現れた。

「三好為三殿。拙者は飛鼠と申します。遊佐信教様からの使者として参った。」
「草の者か?」
「まあそんな塩梅で♪」

為三は飛鼠と名乗った男を見定めていた。

「その風情から草の者かと思ったが・・・貴様もの人間のようだな?」

そう言うと含み笑いを浮かべる。

「まあ・・・まだまだ我が正体は畿内にも知れ渡ってはおりませぬが、いずれは知ることになるでしょうな。故に三好為三殿には長生きをしてもらわねばなりませぬ。」
「たわけが・・・フッ・・・遊佐からの話を聞かせてもらおうか。」

飛鼠の不遜な態度が為三には心地良く思えたのだった。



和泉国岸和田城。和泉国守護代である松浦信輝の居城である。
ここに紀伊からの畠山秋高の軍が待機していた。

「高屋城の遊佐信教に謀反の疑いがあるというのは本当か?」
畠山家当主である畠山秋高は松浦信輝に詰め寄っていた。

「遊佐殿は独自に軍勢を集めておりますぞ。今回の修理亮様(畠山高政)の出兵に際し、異論を唱えられておりました次第、これを機に河内の覇権を奪おうとしておるのではと。」
「そうか・・・だが動くとは限らぬ。」
「小山城の三好と密約をしておるのですぞ。我が方の間者が掴んでおります。」

その信輝の一言で秋高の表情が激変した。

「許さん・・・。松浦殿、そなたも兵を出していただきたい。高屋城を攻める。」
「ははッ!!」

憤りながら大広間を出ていく畠山秋高に対し平伏したままの松浦信輝。
横目でちらりと家臣の一人を見やる。

それで良いのですぞ・・・松浦様。

その男は紫恩であった。

和泉国の覇権を確実なものにする。都に認めてもらうために消えてもらうぞ・・・遊佐、そして畠山よ。

隠していた野心に満ちた眼光を露わにした松浦信輝は顔を上げた。


そして1568年10月23日未明、河内国高屋城。
突然のけたたましい怒号のような声が響き渡る中、遊佐信教は物見櫓の上でただ立ち尽くすしかなかった。

「敵は畠山秋高公と松浦信輝・・・我らの策を先読みされましたかな・・・。」
その隣で灰月がつぶやく。

「堪えられるか・・・否か・・・。」
「山田家に援軍を要請すればよろしい。」
「しかし間に合うか・・・」
「既にこのような状況になることも踏まえて我が仲間が大和に入り込んでおりますぞ。」
「おお!!」

思わず歓喜の声を上げる信教を尻目に灰月は物見櫓から下りていった。

好きにはさせぬぞ・・・果心居士よ・・・

そんな灰月を遠くから見つめている橙火。
冷たい表情でニヤリと笑うと静かに姿を消した。


二日後の10月25日。
高屋城は畠山・松浦連合軍の猛攻に早くも大手門が突破されそうな状況に陥っていた。

「逆臣遊佐信教の首を討ち取るのじゃ!!」
畠山高政が大声で兵たちを鼓舞する。

城内の遊佐信教は大手門の裏にて兵を率いて打って出る準備を整えていた。

大手門を破られるか・・・それとも・・・

そのとき灰月が信教の耳元でささやいた。

「仲間からの合図がございました。打って出ましょう」
「まことか?」
「結果的に挟撃になりますぞ。」

その一言に覚悟を決めた遊佐信教は馬上の人になると刀を抜いた。

「者共ォ!!畠山の下で河内国は平穏であったか?否、三好との無益な戦で民は疲弊しておる。まだ若輩者である私だがついて参れ!! 必ず良き国にしてみせよう!!」

信教が高らかに声を上げた。

「オオオォォォ!!」

兵達の声と共に高屋城の大手門が開いた。
遊佐軍二千の兵が一斉に畠山・松浦連合軍に突撃していく。

「まさか打って出るとはな・・・。」
畠山秋高は本陣からその様子を眺めていた。

「愚かな・・・我らの兵は一万ですぞ。」
松浦信輝はそう言うとただニヤついている。

予想よりも早く遊佐が自滅してくれるとは・・・


しかし、そんな松浦信輝の野望を打ち砕くような歓声が東の方角から聞こえてきた。

「東の方角より多数の軍勢が我が方へ押し寄せて参りますぞ!!」
松浦家の家臣の一人が駆け込んできた。

「なんじゃと・・・東・・・東といえば大和ではないか!?」
狼狽する畠山秋高。

山田が援軍に来るのは想定しおったが、予想よりもあまりに早すぎるぞ・・・紫恩!!

松浦信輝は傍らに控えている紫恩を睨みつける。

おのれ・・・灰月め。ここでも邪魔立てするか・・・
その首を斬り落とすしかないようだな・・・

紫恩は怒りに満ちた表情で立ち尽くしていた。


「よし、我らの出番が遂に来たぞォ!! 畿内に十市の勇名を響かせるのだァ!!」

十市遠長を先頭にした二千の兵が畠山・松浦連合軍の横合いへと斬り込んでいった。

「大和の侍を舐めるでないぞォ!!」
十市家きっての強者である森本主水介が槍を振るい次々と敵兵を薙ぎ倒していく。

「主水介。おぬしばかりに手柄は取らせんぞ。」
同じく十市家きっての手練れである中井才三郎も次々と敵兵を槍で突き伏せていく。


「十市に負けるでないぞォォ!!」

続いて越智軍二千が十市軍に続いて突撃をかけていく。
越智家広は大刀を得物に先頭を切って敵兵たちをふっ飛ばしていた。

「今日の殿は気合が違うな。」
「ああ・・・だが深入りさせては危険だ。」

越智家家臣薩摩伝五郎と寺崎希信は主君である越智家広の後を追いかけていく。

「ふんぬ!!」
越智家広は松浦家の騎馬武者を次々と討ち取っていた。

「・・・!?」
そこに一人の紫装束の男・・・紫恩がゆらりと現れた。
両手に二対の刀を握り締めたまま、あっという間に家広の懐に入り込んでくる。

「くッ!?」
慌てて馬から飛び降りた家広。
その眼前でその愛馬は血飛沫を上げながら真っ二つになる。

「死ね!!」
紫恩は舞うかの如く刀を振るう。

「ぐぬッ!!」
何とか防ごうとする家広であったが・・・耐え切れたのは数合であった。
紫恩の嵐のような攻撃がその太ももを貫き、肩口から斬り裂かれてしまう。

「殿ォォ!!」
伝五郎と希信がそこに駆け込んでくるも

「ぐあッ!?」「うわッ!?」
紫恩の一撃を耐え切れずに吹っ飛ばされてしまった。

「とどめだ。」
吐血してうずくまる越智家広に歩み寄る紫恩。
しかし、その背後に何かの気配を感じて立ち止まった。

「緑の次は紫・・・わたしは紫という色は好きよ。あなたは嫌いだけど。」
橙火が笑みを浮かべてその背後に立っていた。

やられる!?

橙火が静かに振るった一撃を身を翻してかわした紫恩だったが・・・

「ぐぬゥゥゥ・・・・ッ」

腹部を斬り裂かれると二、三歩後ずさりして倒れ込む。

「やるわね・・・さすが・・・」

しかし橙火も腹に刀が刺さっていた。
吐血しながら刀を腹から抜くと紫恩の前に立った。

「言い残すことは?」
「灰月に伝えておけ・・・手遅れだ・・・!?」

橙火の刀が閃くと紫恩の首が身体から離れて転がっていくのだった。

「ゴフッ!?」

ふらつく足取りと吐血を繰り返しながら橙火は乱戦の中に姿を消していく。
越智家広と伝五郎、希信はただ茫然とそれを見つめるだけであった。


そして激戦はやがて畠山・松浦連合軍を窮地へと追い込んでいく。

「さあ、突撃じゃ!!」
三好康長率いる山田軍二千が北から・・・そう背後から襲い掛かってきたのだ。

「小山城への援軍は?」
乱戦の中で三好康長のもとに合流した十市遠長が問いかける。

「問題ないですぞ。あの男が畠山軍を蹴散らしておったわ。ワハハハ!!」
豪快に笑う三好康長。

さすがじゃぞ・・・長虎よ。


河内国小山城。
畠山政尚軍が敗走していくさまを見つめる一人の騎馬武者。

「久々の戦は気持ちが良いものだ。」

三好長虎は槍を高らかに掲げて勝利を兵たちに示す。

「エイエイオ―!!」

兵達の勝ちどきの声が響き渡る中、小山城へと入城していった。
山田軍の精鋭二千の兵を率いて、三好康長軍と合流した三好長虎は小山城を囲んでいた畠山政尚の軍に奇襲をかけて蹴散らしたのである。


そして高屋城でも遊佐軍と十市軍、越智軍、そして山田軍の凱歌が上がっていた。
散々に打ちのめされた畠山・松浦連合軍は敗走していったのだ。

この一戦により、畠山家は衰退の一途を辿っていくことになる。
そして山田家による畿内統一への布石となるのであった。

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