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第163話:両兵衛戦いの序曲
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1569年6月、播磨国三木城。
別所安治の居城に岳人率いる山田軍が到着した。
その報は播磨国内に広まっていたが、兵の数が三千と大軍ではないことが逆に緊張感を高めていた。
「現在は志方城の櫛橋秀則、神吉城の神吉頼定の両名が赤松の侵攻を食い止めている状況でございます。ここを崩されるとかなり我らが不利になります。既に赤松領内に近い城は持たぬでしょう。」
別所安治が地図を広げて説明する。
「既に我が居城である南山田城は陥落しております。」
沈痛な面持ちの後藤基国。
「ここより西はほぼ全て赤松家の勢力圏と言えます。。よもや赤松義祐と赤松政秀が手を組もうとは・・・。」
播磨守護である赤松家の現在の当主は赤松義祐。先代の当主である赤松晴政を追放しての家督相続であったが為に、その晴政が頼りにした家中の実力者であった赤松政秀と義祐は敵対を続けていたのだ。
浦上家の後ろ盾によりお家の存続を試みる義祐とお家を再興を願う政秀の争い。
「元を正せば浦上は赤松家の家臣。我ら別所も赤松からの流れでございます。確かに赤松家による播磨平定は筋道は通っておりますが、実際には浦上の・・・いや・・・宇喜多直家の思うがままでございます。」
そんな別所安治の言葉は切実だった。
事実、浦上や宇喜多の兵を、備前や美作の兵を借りての侵攻。
だからこそ私たち山田家の力を借りようというのが別所家の思惑だった。
「仲裁などできましょうか?」
重治は岳人に聞いていた。ただその答えはわかりきっていること・・・
「無理でしょうね。おおよその見当はつきました。」
岳人は首を横に振ると別所安治を見た。
「浦上や宇喜多は播磨から東に攻めるという考えはないでしょう。奴らは毛利を崩すことを第一に考えています。まず私ならば播磨ではなく但馬を攻めます。東進を願うならば但馬を制圧してからの播磨攻め。しかし我らが・・・いや私の父である山田大輔の考え方を逆手に取っての今回の播磨国への介入。非常に厄介極まりない展開ですね。」
「申し訳ございません。」
岳人の言葉に平伏する安治。
「ただ・・・策はあるんですよ。」
「なんですと!?」
「我らで播磨を平定する策・・・手間はかかりますが、やってみる価値はあります。ここは私に任せてくれませんか?」
自信に満ちた岳人の表情。
「もったいないお言葉・・・もったいないお言葉でございまする。」
安治はひたすら平伏を繰り返すのであった。
同じ頃、播磨国御着城。
城主であり赤松家家臣小寺政職は大広間で次々と伝えられる朗報に笑みを浮かべていた。
「庄山城を陥落させたわが軍は敗走する別所重棟を更に追撃しております。」
「そうか・・・程々にしておけ・・・我らには別所殿に恨みはないからな。」
家臣からの報を受けた小寺政職の前ではひたすら地図を眺めて思案している一人の男。
小寺家家臣黒田官兵衛考高である。
「官兵衛。おぬしの策は全てが的中しての勝ち戦・・・あっぱれじゃ!!」
「ありがたき幸せ。」
しかしその表情は冴えなかった。
気になる出来事、それは山田家が仲裁の為に播磨国入りをしたことである。
風魔小太郎が日ノ本で最も警戒すべきは山田岳人だと言っていた。
山田家の次期当主は麒麟児だと。
果たしてこの播磨の為に何をするつもりか・・・
私が小太郎たちの毛利崩しに協力した理由は播磨を守る為。
そして都に集う猛者、傑物達を見極める為。
山田家を知る為・・・
やはり気になるのが、竹中半兵衛重治。
天才的な軍略であの男が山田家入りしてからまさしく破竹の勢い。
このままでは確実に戦うことになるだろう。
出来ることならば戦うより、論を交わし合いたい。
最後に山田大輔。
優れた家臣団を惹きつける何かがあるのだろうとは思うが・・・
坂上田村麻呂公の血統との声も、都で魑魅魍魎や鬼退治をしたという噂もある。
一度は会ってみたいとは思うのだが。
それから数日後、御着城に山田家から使者が訪れた。
「なるほど山田の若君がこちらに向かわれていると。」
平静を装う小寺政職ではあるが、動揺が家臣団の目には丸見えであった。
「ではこの御着城の後に置塩城と龍野城を訪れるということですな。」
黒田官兵衛考高は山田家の使者に確認するとため息をついた。
自ら来るか・・・三千の兵で・・・討たれても良いという覚悟でもあるというのか・・・
それとも他に何があるというのか・・・何を求める?
山田家の使者が帰っていくのを単身追いかけていった考高。
「待たれよ。山田の使いの方。」
立ち止まって振り返ったその使者は啄木鳥の権蔵であった。
「何故、この小寺城に立ち寄る理由があるのか? この城は赤松軍の中核・・・何をされても構わぬという覚悟があると・・・」
「大丈夫。アンタがいるからそんなことはしないだろうとウチの若君と天才軍師殿が言ってたぜ。」
権蔵の一言に思わず笑みを浮かべる考高。
それから更に数日後、御着城の城下に山田軍が姿を現した。
その整った軍容に小寺政職も考高も思わず息をのむ。
「何という鉄砲の数じゃ・・・そして見たこともない武具を揃えておる。」
驚愕する政職の脇で考高はひたすら感嘆するしかなかった。
あの盾や槍、大小の鉄砲・・・どのような戦術をとるというのか・・・
そして大広間に入った岳人たちは小寺政職と向かい合う。
この男が黒田官兵衛考高か・・・才気みなぎる佇まいだ。
重治は考高をじっと見据えていた。
竹中半兵衛重治・・・どのような美丈夫かと思ったが噂にたがわぬ男。そして油断も隙もない面構えだ。
考高も重治から目を反らさない。
それを横目に見ながら岳人は心の底でほくそ笑んでいた。
やはり歴史は嘘をつかない。この二人は天才同士で惹かれ合っている。僕は手に入れたい。
”この両兵衛”を手に入れてどこまでやれるか試してみたい。
日本を完全に統一するにはどちらかが欠けることがあってはならない。
父さんに感謝するよ。半兵衛さんを助けてくれて。
秀吉でも成し得なかったことを試せるかもしれないんだ。
播磨国の緊迫感溢れる情勢と裏腹に山田家には二つの大事件が起こっていた。
「朋美御前様がご懐妊されました!!」
多聞山城からの急報を受けて私は美佳を伴って六兵衛の護衛の下、大和へと急いで帰った。
そんな矢先である。
「疋田様・・・どうやらわたしもお腹に・・・」
「なんですとォォォ!!」
大きく取り乱す大剣豪疋田景兼の前で真紅が顔を赤らめていた。
なんと真紅も妊娠してしまったのである。
「殿にいきなり御子が二人も・・・なんというめでたいことだ!!」
景兼は大広間にて喜びの声を上げるのだった。
この新しい二人の子の存在が山田家の命運を大きく左右することになるのである。
別所安治の居城に岳人率いる山田軍が到着した。
その報は播磨国内に広まっていたが、兵の数が三千と大軍ではないことが逆に緊張感を高めていた。
「現在は志方城の櫛橋秀則、神吉城の神吉頼定の両名が赤松の侵攻を食い止めている状況でございます。ここを崩されるとかなり我らが不利になります。既に赤松領内に近い城は持たぬでしょう。」
別所安治が地図を広げて説明する。
「既に我が居城である南山田城は陥落しております。」
沈痛な面持ちの後藤基国。
「ここより西はほぼ全て赤松家の勢力圏と言えます。。よもや赤松義祐と赤松政秀が手を組もうとは・・・。」
播磨守護である赤松家の現在の当主は赤松義祐。先代の当主である赤松晴政を追放しての家督相続であったが為に、その晴政が頼りにした家中の実力者であった赤松政秀と義祐は敵対を続けていたのだ。
浦上家の後ろ盾によりお家の存続を試みる義祐とお家を再興を願う政秀の争い。
「元を正せば浦上は赤松家の家臣。我ら別所も赤松からの流れでございます。確かに赤松家による播磨平定は筋道は通っておりますが、実際には浦上の・・・いや・・・宇喜多直家の思うがままでございます。」
そんな別所安治の言葉は切実だった。
事実、浦上や宇喜多の兵を、備前や美作の兵を借りての侵攻。
だからこそ私たち山田家の力を借りようというのが別所家の思惑だった。
「仲裁などできましょうか?」
重治は岳人に聞いていた。ただその答えはわかりきっていること・・・
「無理でしょうね。おおよその見当はつきました。」
岳人は首を横に振ると別所安治を見た。
「浦上や宇喜多は播磨から東に攻めるという考えはないでしょう。奴らは毛利を崩すことを第一に考えています。まず私ならば播磨ではなく但馬を攻めます。東進を願うならば但馬を制圧してからの播磨攻め。しかし我らが・・・いや私の父である山田大輔の考え方を逆手に取っての今回の播磨国への介入。非常に厄介極まりない展開ですね。」
「申し訳ございません。」
岳人の言葉に平伏する安治。
「ただ・・・策はあるんですよ。」
「なんですと!?」
「我らで播磨を平定する策・・・手間はかかりますが、やってみる価値はあります。ここは私に任せてくれませんか?」
自信に満ちた岳人の表情。
「もったいないお言葉・・・もったいないお言葉でございまする。」
安治はひたすら平伏を繰り返すのであった。
同じ頃、播磨国御着城。
城主であり赤松家家臣小寺政職は大広間で次々と伝えられる朗報に笑みを浮かべていた。
「庄山城を陥落させたわが軍は敗走する別所重棟を更に追撃しております。」
「そうか・・・程々にしておけ・・・我らには別所殿に恨みはないからな。」
家臣からの報を受けた小寺政職の前ではひたすら地図を眺めて思案している一人の男。
小寺家家臣黒田官兵衛考高である。
「官兵衛。おぬしの策は全てが的中しての勝ち戦・・・あっぱれじゃ!!」
「ありがたき幸せ。」
しかしその表情は冴えなかった。
気になる出来事、それは山田家が仲裁の為に播磨国入りをしたことである。
風魔小太郎が日ノ本で最も警戒すべきは山田岳人だと言っていた。
山田家の次期当主は麒麟児だと。
果たしてこの播磨の為に何をするつもりか・・・
私が小太郎たちの毛利崩しに協力した理由は播磨を守る為。
そして都に集う猛者、傑物達を見極める為。
山田家を知る為・・・
やはり気になるのが、竹中半兵衛重治。
天才的な軍略であの男が山田家入りしてからまさしく破竹の勢い。
このままでは確実に戦うことになるだろう。
出来ることならば戦うより、論を交わし合いたい。
最後に山田大輔。
優れた家臣団を惹きつける何かがあるのだろうとは思うが・・・
坂上田村麻呂公の血統との声も、都で魑魅魍魎や鬼退治をしたという噂もある。
一度は会ってみたいとは思うのだが。
それから数日後、御着城に山田家から使者が訪れた。
「なるほど山田の若君がこちらに向かわれていると。」
平静を装う小寺政職ではあるが、動揺が家臣団の目には丸見えであった。
「ではこの御着城の後に置塩城と龍野城を訪れるということですな。」
黒田官兵衛考高は山田家の使者に確認するとため息をついた。
自ら来るか・・・三千の兵で・・・討たれても良いという覚悟でもあるというのか・・・
それとも他に何があるというのか・・・何を求める?
山田家の使者が帰っていくのを単身追いかけていった考高。
「待たれよ。山田の使いの方。」
立ち止まって振り返ったその使者は啄木鳥の権蔵であった。
「何故、この小寺城に立ち寄る理由があるのか? この城は赤松軍の中核・・・何をされても構わぬという覚悟があると・・・」
「大丈夫。アンタがいるからそんなことはしないだろうとウチの若君と天才軍師殿が言ってたぜ。」
権蔵の一言に思わず笑みを浮かべる考高。
それから更に数日後、御着城の城下に山田軍が姿を現した。
その整った軍容に小寺政職も考高も思わず息をのむ。
「何という鉄砲の数じゃ・・・そして見たこともない武具を揃えておる。」
驚愕する政職の脇で考高はひたすら感嘆するしかなかった。
あの盾や槍、大小の鉄砲・・・どのような戦術をとるというのか・・・
そして大広間に入った岳人たちは小寺政職と向かい合う。
この男が黒田官兵衛考高か・・・才気みなぎる佇まいだ。
重治は考高をじっと見据えていた。
竹中半兵衛重治・・・どのような美丈夫かと思ったが噂にたがわぬ男。そして油断も隙もない面構えだ。
考高も重治から目を反らさない。
それを横目に見ながら岳人は心の底でほくそ笑んでいた。
やはり歴史は嘘をつかない。この二人は天才同士で惹かれ合っている。僕は手に入れたい。
”この両兵衛”を手に入れてどこまでやれるか試してみたい。
日本を完全に統一するにはどちらかが欠けることがあってはならない。
父さんに感謝するよ。半兵衛さんを助けてくれて。
秀吉でも成し得なかったことを試せるかもしれないんだ。
播磨国の緊迫感溢れる情勢と裏腹に山田家には二つの大事件が起こっていた。
「朋美御前様がご懐妊されました!!」
多聞山城からの急報を受けて私は美佳を伴って六兵衛の護衛の下、大和へと急いで帰った。
そんな矢先である。
「疋田様・・・どうやらわたしもお腹に・・・」
「なんですとォォォ!!」
大きく取り乱す大剣豪疋田景兼の前で真紅が顔を赤らめていた。
なんと真紅も妊娠してしまったのである。
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