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9婚約破棄しない王子様α
しおりを挟む「どう言うことですのっ!?何故元婚約者がここに!?」
「当事者だからだ。口を開く許可は与えて居ない」
「子供について話があるとおっしゃいましたでしょう!?そのために私は王城へ参りました!結婚のお話をされるのではなかったのですか!!」
「チェスター家に行った時にも話したが、私は私のノアの他に妻を持たない。これまでも、この先もだ」
「な、なんて事を!?子供に対して責任をお持ちにならないのですか!?」
「責任は持つ。様々な意味でな」
「…………」
僕はそばにいるアナスタシアさんに手を握られ、仁王立ちに立った御者さん……だよね?に守られている。
御者さんは真っ白な鎧を着ているけど、これって王妃様の私兵さんが着るものだったはず。大きな剣が腰に差されて、重たそうだ。
ここは王城、謁見の間。僕だけが椅子に座ってるんですが。
王妃様も、初めて見た王様ももちろんフィンも居て。そして、何故か第一王子様と末の姫君まで揃い踏みだ。
これから、フィンレーの子供について真相を追究、解明するらしいんだけど……偉い人ばっかりで場違いな気がしてる。
居心地が悪い上に、チェスター嬢とその一家に睨まれてしまって心臓がキュウっと縮み上がる。
膝の上の布を整える風を装って視線を逸らした。
「着慣れませんか?」
「う、うん……だって、この服高そうだもの。布がキラキラしてるし、宝石がついてる……しかも真っ白だし。汚したらどうしよう」
「ふふ、これから先はずっとこんなお洋服を着用されるのですから、慣れておきましょうね」
「うん?……あの、僕……いないほうがいいんじゃないかな。大切なお話をするんでしょう?」
「ノア様、ご心配召されるな。私がお守りいたします」
「いえ、そう言うことではなくて……うう」
か、かっこいい……。ちらり、と振り返った御者さんがウィンクを飛ばしてくる。お髭が生やした彼は大きな手のひらで剣をポン、と叩いた。
立っているだけでもすごい人だとわかる。地についた足がびくともしないし、重たそうな鎧を纏っているのにその動きは御者さんだった頃と変わらない。
「では、始めましょう陛下」
「あぁ」
フィンが胸に手を当ててぺこりと頭を下げ、王様に目線を送る。手に持った王笏で床をトン、と叩いた。
それと同時に入り口のドアが閉まって、沈黙が訪れる。
「――これより先は、この国を統べる私の前で口を開くこととなる。嘘をつき、偽りを並べ立てるのなら……その首を切り落とす。誓いを立てよ」
「王妃サンブックス・ベイラ、真実を述べると誓います」
「第一王子、ジェレマイアが陛下に真実を申し上げると誓います」
「第二王子、フィンレーが同じく真実を申し上げると誓います」
「第三王女、フィオナも真実を申し上げると誓います」
これは、身分の高い順番みたいだ……僕が一番最後で良さそう。末姫のフィオナ様の後、チェスター家のお父さん?だと思われる人が口を開こうとして、それを衛兵が遮った。
「お次はノア様です」
「えっ!?違いますよ。これはあの、偉い人から順番に……」
「ですから、ノア様なのです。座ったままでよろしいのですよ」
王様、王妃様だけじゃなく王族の皆さんに優しい微笑みを浮かべられて、背中に冷や汗が伝う。
何故僕が……?僕は婚約破棄をされるはずなのに……どうして。
「おかしいですわ!次は私の父が……」
「口を開くな、と言った。これは二度目の忠告だ」
「も、申し訳ございません……」
フィンがグレアを発してる。王族の厳格な決まりで、三度同じ事を言わせたら不敬っていうのがあるからステラさんも口を噤むしかない。
「さぁ、ノア様」
「は、はい……えと。ノア、です。僕も嘘はつきません」
「よくできましたね」
「はふ……はい」
アナスタシアさんに褒められて、ほっと息を吐く。僕の小さい声でも、天井が高いから広間中に響き渡って……心臓に悪いよ。
所在なさげな僕をみて、アナスタシアさんが手を握ってくれた。
チェスター家の皆さんも誓いを立てて、王様と王妃様は大きな椅子に腰掛ける。
王様のお顔はフィンにそっくりだ。微笑んだ顔にエクボが浮かび、優しい黒の瞳が真っ直ぐに僕を見つめている。
鼻の形も、唇の形も本当によく似てて……フィンも、ああなるのかな。とっても素敵な方だ。
「では誓いが終わったところで今回の事件について話しましょう。チェスター家の皆にも証言していただく」
「じ、事件!?何を仰るのですか?」
「事件に相違ない。まず、ステラ嬢。あなたは私『第二王子フィンレーの子を宿している』と言った。間違いないか」
優しい微笑みから一転して、みんなが厳しい顔になってしまう。王族の皆様は王妃様を除き、みんなアルファだから強いグレアを発している。
僕の前に立ち塞がった御者さん……さっきの誓いで初めてお名前を聞いたけれど、彼はジェラルドさんと言うらしい。この国で一番の槍の名手と言われる人だった。
そんな人に馬車を引かれていたのは本当に恐縮してしまう。しかも、今その王族の方が発するグレアを打ち消して、守ってくださっているみたいだ。
ステラ嬢は……具合が悪そうだけど。
「ノア様、ご気分はいかがか」
「大丈夫です。お手間をかけてすみません」
「そういう時はお礼を言われたいですな、これから先はそうしてくだされ」
「え?は、はい……」
大人数の圧力を受けても、びくともしてない。ジェラルドさんはすごいなぁ。
「おっしゃる通り、私はフィンレー様のお子を宿しています」
「本当に、間違い無いのだな」
「間違いありません!何故、そのような事をおっしゃるのですか!?」
「それはいつ頃発覚した?」
「ええと、夏の始まりですわ。あなたにうなじを噛んでいただいてから……」
「私は6月に公爵邸に招かれ、そしてあなたと出会ったそうだ。正確に、いつ検査をなさいましたか」
「と、父様」
「7月の中頃に医者が検査をしました。娘なうなじを噛まれたのが、まさか第二王子様だとは思わず世迷言だと思っておりました。しかし、相手がどなたかわからずに困っていたのです。恐れながら、王族の方が発するフェロモンの香りがいたしまして……」
「なるほど。して、ステラ殿にお聞きしたい。私はどのようにしてあなたの頸を噛みましたか?」
「そ、そんな……恥ずかしいですわ!言えません」
「いえ、仰っていただかねばなりません」
「…………」
「第二王子フィンレー様。それはあまりにも……」
「儂からも問おう。息子がどのようにして頸を噛んだのか。申せ」
陛下に言われてしまって、ステラ嬢は顔を真っ赤にして俯く。
僕、聞きたく無いんだけどな……そのお話。
アナスタシアが握ってくれたままの手に力を入れてしまって、慌てて緩める。
大丈夫ですよ、と囁かれて握り返されてしまった。
「あ、あの日は雨が降っていましたわ。夏の始まりですのに、寒くて……私はパーティーのフロアから出て上着を取りに行きました」
――2階の控室、そこにはクロークの人がいるはずで……でも、誰もいないから仕方なくお部屋に入って暗がりの中で上着を探していたステラ。
雨降りで月明かりがないから、何も見えなくて困っていたところに、誰かの強いグレアを受けて腰がぬける。
ヒートが目前に迫っていたから、それが引き金になって熱を帯びていく体。起き上がれずに困っていたところに誰かがお部屋の中に入ってくる。
その人は第二王子だと名乗り、彼女を長椅子に横たえた。そして……。
「そこで、頸を噛まれました」
「……抵抗なさらなかったのですか」
「それは……その、意中の相手がおりませんでしたし。王子様がお相手なら父も喜ぶと思いました」
「なるほど、私を想っていた訳でもなく、顔は見ていない、声を聞いただけですね。私のフェロモンに反応した訳ではないと」
「……確かにそうですが……あの、でも金木犀の香りは確かにしていましたわ」
「では、もう一つ。頸を噛まれるまでに性行為はされたという事ですか」
「な、な……」
「お、王子といえど、そのように破廉恥な発言が許されるのですか!?」
「チェスター、口を閉じよ。お前と奥方には聞いていない」
チェスター家の当主である男性、その奥様も顔を真っ赤にして体を震わせている。……胸が、痛い。
そりゃ、頸を噛まれて子供を宿しているのだから、性行為をしたのは間違い無いと思うけど。
みんなの前でそんな事言わせるの……?
「私はあなたを抱いたんですね?」
「そ、そそそそうですわ!!!優しく慰めて、抱いてくださいました!」
「あなたは処女ではないと」
「そうですわ!!!な、何故こんな辱めを……うっ、酷い……」
泣き出してしまったステラ嬢、しかし彼女を見る王族の皆様の目は冷たいままだ。
「ありえんな」
「えぇ、ありえませんわ」
「……えっ?」
思わず声を発してしまい、慌てて両手で口を塞ぐ。ステラ嬢を見ていた時とは色の変わった優しい目線が僕に注がれた。
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