19 / 33
キッカケは人それぞれ
大事なお姉ちゃんを助けてください
しおりを挟む
そろそろお姉ちゃんが帰って来る時間です。
今日は、高梨さんの家に遊びに行ってから帰るということだったので、帰りが遅くでちょっと寂しかったです。
でも、高校入学までのお姉ちゃんは、勉強とか家事とかに一生懸命で、自分の時間を殆ど作らなかったので、私は安心しています。
早く私も大きくなって、お姉ちゃんを助けてあげたいのです。
今こうやって、2人ながら楽しく生活できるのもお姉ちゃんのおかげ。
今日の晩御飯の当番は私だったので、お姉ちゃんの好きなシチューを作っておきました。ソーセージの入った、天音家特製のシチュー。お母さんがよく作ってくれていました。最近はその味まで再現できるようになってきたので、私は料理の天才かもしれませんね。えっへん。
「お姉ちゃん、早く帰ってこないかな?」
時計をみると、もう七時になろうとしています。
外も暗くなり、近くの街灯が点き始めました。
帰る時間を見計らって皿に盛ったシチューが、美味しそうな香りを漂わせている食卓で、テレビも点けずに待っています。テレビを点けてても良いのですが、帰ってきた時にちゃんと玄関に迎えに行きたいので、出遅れ防止の対策なのです。
そんなこんなしていると、玄関の方で声がしました。
お姉ちゃん……と、男の人の声です。
何を話しているのか、その内容までは分かりませんが、何とも親しげな口調で男の方は話しています。お姉ちゃんのお友達でしょうか?
……もしかして、今日はその方と一緒に遊んでいたんでしょうか?
だとしたらスクープです。大ニュースです。報道陣が黙っていません。
少し寂しい気もしますが、お姉ちゃんの恋をあれば私も全力でサポートせねばなりません。今まで私のために頑張ってくれたお姉ちゃんの幸せ、これを望まずにいられますか!
ただ、相手がどのような人かを見極めるのは大切です。いくらお姉ちゃんが好きだろうとも、悪い男ならそれを諭してあげるのが優しさというもの。お姉ちゃんは面倒見が良い分、俗にいう『ダメ男』に捕まりやすそうなのですよね……。
この間観たドラマの女性も、良くない男と恋をして、泣かされていました。
その女性の性格がまた、お姉ちゃんにそっくりだったんですよね……本人は全くと言っていいほど気付いていない様子でしたが。
ここは一つ、憂いを無くして全力で応援するために、こっそりとお相手のことを確認させてもらいましょう!
対面して話すのはちょっと緊張しちゃうので、こっそり玄関の覗き穴から見て判断しましょう。そこなら、話の内容も少しは聞こえるでしょうし!
玄関まで足音を立てないように近づき、息を殺しながらそっと外の様子を覗き込みました。
その瞬間、お姉ちゃんは男に後ろから殴られ、倒れたのです。
そもそも、話している男以外に数名、大きな男の人がいました。大きな男たちは何も言わずにお姉ちゃんを担ぐと、どこかへ行ってしまいました。
いつも元気なお姉ちゃんが、まるで人形のように倒れこむ瞬間を見てしまった私は声を出しそうになるのを、口を手で覆って何とか免れました。
どうしよう。お姉ちゃんが連れていかれちゃった。
恐怖と動揺で、覗き穴から離れられません。
滲み出る汗が額から頬へ伝います。
「おっと、ご家族の方にも挨拶をしないとだね」
残った小柄の男はそう呟き、自分の足元に落ちている何かを拾い上げました。
お姉ちゃんが持っていた、家の鍵です。
倒れた拍子に落としたのでしょう。それを拾い上げると、ゆっくりとこちらへ歩いてきました。
あちらからは見えていないはずなのに、まっすぐにこちらを見ているようで、逃げるにも足がいう事を聞いてくれません。
荒くなりつつある呼吸を聞かれないように、必死に息を殺しました。
鍵が差し込まれ、ゆっくりと回されていく。
私はそれを急いで抑え、鍵が回りきらないようにしました。
「あれ、開かないぞ」
鍵を回す力が強くなります。
私も必死に抑え、絶対に空けないように抵抗しました。
「……もしかして、そこに誰かいる?」
「……!!」
男の冷たい言葉が、私の心臓を串刺しにしました。危うく声を出しそうになりましたが、何とか生唾と一緒に飲み込みます。
数秒、何時間にも感じる長い沈黙の後、静かに鍵は抜かれました。
「建付けが悪いのかな? まぁ良いか」
男が諦めたようで、玄関から離れていきました。
「おい、お前ら。玄関で見張ってろ。家の人が出てきたら、学校に連れてこい。大人しく連れて来られるなら、手段は選ばん」
「「はい」」
覗き穴から見えない角度から、別の男の声がいくつかしました。まだ他にも仲間がいるのでしょう。もう何が何だか、私には理解が追い付かないのです。
まるでドラマみたいな展開で、なのに本当に自分に降りかかってて。
しかも、唯一の家族である大切なお姉ちゃんが攫われていきました。
どうしよう。
ふと、近くに立てかけてある傘に目が付きます。
武器を持てば、私にも戦えるでしょうか。
いや、簡単に傘を奪われ、お姉ちゃんと同様に連れていかれるだけです。私には武術の嗜みも無いし、何より大きな男に立ち向かう度胸もない。
頼れるお姉ちゃんも今はいない。
そんな私に、何が出来るのでしょう。
玄関の外から感じる威圧で、どんどん呼吸が浅くなっていきます。
息苦しい。助けて。
……そういえば、こんな事が前にも一度だけありました。
その時は、お姉ちゃんじゃなくて私が男に襲われていたのです。
あれは、お母さんとお父さんが死んで間もない頃の夜でした。
お姉ちゃんに反抗し続けていた、最後の夜の話でした。
震える指で、自分のスマホを操作して、今までのメッセージ履歴を遡りました。
先月、先々月、もっともっと前まで。
幸い、お姉ちゃんとしかやりとりをしないので、すぐにそのメッセージを見つけることが出来ました。
「お願い……助けて……」
あの日の夜、私はヒーローに出会いました。
男に襲われる私を、ヒーローは颯爽と飛び出して男達に立ち向かい、武器を手に大立ち回りを繰り広げ、その悪者を追い払ってくれたのです。
月明かりに照らされたヒーローの笑顔を、声を、私は忘れることはありません。
震える指が、何度も入力ミスを繰り返します。
どうしても上手くいかず、私は音声入力をタッチしました。
もう、最後に連絡してから何か月も経っています。
もしかしたら、この声は届かないかもしれない。
それでも、もしもう一度あなたがヒーローになってくれるなら……。
「お願い……助けて……奏良さん……!」
消え入りそうな声が、メッセージ履歴のトップに表示されました。
今日は、高梨さんの家に遊びに行ってから帰るということだったので、帰りが遅くでちょっと寂しかったです。
でも、高校入学までのお姉ちゃんは、勉強とか家事とかに一生懸命で、自分の時間を殆ど作らなかったので、私は安心しています。
早く私も大きくなって、お姉ちゃんを助けてあげたいのです。
今こうやって、2人ながら楽しく生活できるのもお姉ちゃんのおかげ。
今日の晩御飯の当番は私だったので、お姉ちゃんの好きなシチューを作っておきました。ソーセージの入った、天音家特製のシチュー。お母さんがよく作ってくれていました。最近はその味まで再現できるようになってきたので、私は料理の天才かもしれませんね。えっへん。
「お姉ちゃん、早く帰ってこないかな?」
時計をみると、もう七時になろうとしています。
外も暗くなり、近くの街灯が点き始めました。
帰る時間を見計らって皿に盛ったシチューが、美味しそうな香りを漂わせている食卓で、テレビも点けずに待っています。テレビを点けてても良いのですが、帰ってきた時にちゃんと玄関に迎えに行きたいので、出遅れ防止の対策なのです。
そんなこんなしていると、玄関の方で声がしました。
お姉ちゃん……と、男の人の声です。
何を話しているのか、その内容までは分かりませんが、何とも親しげな口調で男の方は話しています。お姉ちゃんのお友達でしょうか?
……もしかして、今日はその方と一緒に遊んでいたんでしょうか?
だとしたらスクープです。大ニュースです。報道陣が黙っていません。
少し寂しい気もしますが、お姉ちゃんの恋をあれば私も全力でサポートせねばなりません。今まで私のために頑張ってくれたお姉ちゃんの幸せ、これを望まずにいられますか!
ただ、相手がどのような人かを見極めるのは大切です。いくらお姉ちゃんが好きだろうとも、悪い男ならそれを諭してあげるのが優しさというもの。お姉ちゃんは面倒見が良い分、俗にいう『ダメ男』に捕まりやすそうなのですよね……。
この間観たドラマの女性も、良くない男と恋をして、泣かされていました。
その女性の性格がまた、お姉ちゃんにそっくりだったんですよね……本人は全くと言っていいほど気付いていない様子でしたが。
ここは一つ、憂いを無くして全力で応援するために、こっそりとお相手のことを確認させてもらいましょう!
対面して話すのはちょっと緊張しちゃうので、こっそり玄関の覗き穴から見て判断しましょう。そこなら、話の内容も少しは聞こえるでしょうし!
玄関まで足音を立てないように近づき、息を殺しながらそっと外の様子を覗き込みました。
その瞬間、お姉ちゃんは男に後ろから殴られ、倒れたのです。
そもそも、話している男以外に数名、大きな男の人がいました。大きな男たちは何も言わずにお姉ちゃんを担ぐと、どこかへ行ってしまいました。
いつも元気なお姉ちゃんが、まるで人形のように倒れこむ瞬間を見てしまった私は声を出しそうになるのを、口を手で覆って何とか免れました。
どうしよう。お姉ちゃんが連れていかれちゃった。
恐怖と動揺で、覗き穴から離れられません。
滲み出る汗が額から頬へ伝います。
「おっと、ご家族の方にも挨拶をしないとだね」
残った小柄の男はそう呟き、自分の足元に落ちている何かを拾い上げました。
お姉ちゃんが持っていた、家の鍵です。
倒れた拍子に落としたのでしょう。それを拾い上げると、ゆっくりとこちらへ歩いてきました。
あちらからは見えていないはずなのに、まっすぐにこちらを見ているようで、逃げるにも足がいう事を聞いてくれません。
荒くなりつつある呼吸を聞かれないように、必死に息を殺しました。
鍵が差し込まれ、ゆっくりと回されていく。
私はそれを急いで抑え、鍵が回りきらないようにしました。
「あれ、開かないぞ」
鍵を回す力が強くなります。
私も必死に抑え、絶対に空けないように抵抗しました。
「……もしかして、そこに誰かいる?」
「……!!」
男の冷たい言葉が、私の心臓を串刺しにしました。危うく声を出しそうになりましたが、何とか生唾と一緒に飲み込みます。
数秒、何時間にも感じる長い沈黙の後、静かに鍵は抜かれました。
「建付けが悪いのかな? まぁ良いか」
男が諦めたようで、玄関から離れていきました。
「おい、お前ら。玄関で見張ってろ。家の人が出てきたら、学校に連れてこい。大人しく連れて来られるなら、手段は選ばん」
「「はい」」
覗き穴から見えない角度から、別の男の声がいくつかしました。まだ他にも仲間がいるのでしょう。もう何が何だか、私には理解が追い付かないのです。
まるでドラマみたいな展開で、なのに本当に自分に降りかかってて。
しかも、唯一の家族である大切なお姉ちゃんが攫われていきました。
どうしよう。
ふと、近くに立てかけてある傘に目が付きます。
武器を持てば、私にも戦えるでしょうか。
いや、簡単に傘を奪われ、お姉ちゃんと同様に連れていかれるだけです。私には武術の嗜みも無いし、何より大きな男に立ち向かう度胸もない。
頼れるお姉ちゃんも今はいない。
そんな私に、何が出来るのでしょう。
玄関の外から感じる威圧で、どんどん呼吸が浅くなっていきます。
息苦しい。助けて。
……そういえば、こんな事が前にも一度だけありました。
その時は、お姉ちゃんじゃなくて私が男に襲われていたのです。
あれは、お母さんとお父さんが死んで間もない頃の夜でした。
お姉ちゃんに反抗し続けていた、最後の夜の話でした。
震える指で、自分のスマホを操作して、今までのメッセージ履歴を遡りました。
先月、先々月、もっともっと前まで。
幸い、お姉ちゃんとしかやりとりをしないので、すぐにそのメッセージを見つけることが出来ました。
「お願い……助けて……」
あの日の夜、私はヒーローに出会いました。
男に襲われる私を、ヒーローは颯爽と飛び出して男達に立ち向かい、武器を手に大立ち回りを繰り広げ、その悪者を追い払ってくれたのです。
月明かりに照らされたヒーローの笑顔を、声を、私は忘れることはありません。
震える指が、何度も入力ミスを繰り返します。
どうしても上手くいかず、私は音声入力をタッチしました。
もう、最後に連絡してから何か月も経っています。
もしかしたら、この声は届かないかもしれない。
それでも、もしもう一度あなたがヒーローになってくれるなら……。
「お願い……助けて……奏良さん……!」
消え入りそうな声が、メッセージ履歴のトップに表示されました。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
俺が宝くじで10億円当選してから、幼馴染の様子がおかしい
沢尻夏芽
恋愛
自他共に認める陰キャ・真城健康(まき・けんこう)は、高校入学前に宝くじで10億円を当てた。
それを知る、陽キャ幼馴染の白駒綾菜(しらこま・あやな)はどうも最近……。
『様子がおかしい』
※誤字脱字、設定上のミス等があれば、ぜひ教えてください。
現時点で1話に繋がる話は全て書き切っています。
他サイトでも掲載中。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる