竹刀と私の包帯と

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キッカケは人それぞれ

繋がる

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 たった数分だが、私は加奈を抱きしめた。
 自ら手放したものに、再び巡り合えた感情が私の体をどこまでも癒していく。
「ありがとうな、加奈。呼んでくれて」
「ずっと我慢していたんですけどね……」
 涙を拭い、壁に手を付きながらゆっくりと立ち上がる。ほんの少しだけ背が伸びているような気がした。
「奏良お姉ちゃんがそうしたってことは、何か意味があると思ったから。だから、我慢したのです」
「そっか」
「ただ、あの日の夜は本当に、本当に本当に寂しかったんですからね!!」
「はい……申し訳ありません……」
 申し訳ないのは変わらないが、子犬が一生懸命に吠えているようにしか見えない。
 可愛すぎるだろ。
「そんなことより、大変なんですよ!」
「あぁ、大変なのは把握している」
 ひとまず、また加奈があの男関連で渦中にいることは理解できた。
 今回初めて連絡をくれたということは、半年前は実際に家まであいつの魔の手が及んだことは無かったのだろう。明らかに状況が以前より悪化している。
 そして、気になる一言を手下の一人が言っていた。
「『昔の女には興味ない』って、いったいどういう事なんだ……?」
 こいつらは、加奈のことを襲いに来てたんじゃなかったのか?

「お姉ちゃんが、男の人に連れていかれちゃったんです!」
「なんだと、お姉さんが!?」
「どうしよう、奏良お姉ちゃん! お姉ちゃんが危険なのです!!」
 収まった涙が、またその瞳に溜まっていく。
 その涙が流れ落ちる前に、優しく指で拭ってあげた。
「今は泣いてる場合じゃない。情報をくれ、加奈!」
「……はいです」
 鼻をすすり、しっかりと我慢してくれた。
「でも、お姉ちゃんがどこに連れていかれたか全く分からないのです……」
「外で誰かが話しているのは聞こえなかったか? どこに行く、とか」
「ごめんなさい……怖くて耳を塞いでいました……」
 残念だが、仕方のないことだ。むしろ、二度も同じ目に遭いながらもしっかりしてくれているだけ助かる。
 あと、あの男は本気でぶっとばす。

「じゃあ、お姉さんはどこの学校に通ってるんだ?」
「お姉ちゃんは……関ヶ原高校です」
「さすが、努力が実ったんだな」
 話を聞いているだけで驚異のストイックさだったお姉さんだ。当然といえば当然か。
「私と同じ高校か……」
「そうなんですか? でも、奏良お姉ちゃんと少し制服が違うような……」
「私はめちゃくちゃ着崩してるからな。これでも関ヶ原高校の生徒だよ」
「奏良お姉ちゃんも凄いのです……!」
 私の場合は勉強ではないから、お姉さんほどの凄さは無い。剣道からも逃げていたしな。
「同じ高校なら、お姉ちゃんのこと知ってるかもしれないです! 結衣って名前なんですけど!」
「…………」
 ちょっとだけ言いづらい……けど、隠す必要もないので加奈に伝えた。
「私、あんま学校に行ってないから名前も覚えられない……」
 かろうじて交流があったのも、高梨と天音と陰キャくらいだからな……あいつらの名前、なんだったっけ。
「それは……悪い子なので、これからは直していきましょうね……?」
 なんだろう、本当に恥ずかしい。
「じゃあ、奏良お姉ちゃんは高校に友達はいないのですか?」
「えと……いない……」
 そこまで答えて、ふと思った。
「友達はいないが、アテはあるかもしれん」
 私より何倍も交友関係が広そうな人物。馬鹿で誰とでも仲良くなれそうな、幸せそうな奴がいるじゃないか。
 高梨なら、どっかで加奈のお姉さんと知り合いになってるかもしれない。
「じゃあ、その人に何か知らないか聞いてもらえますか!」
「わかった、すぐ連絡する!」
 急いでスマホを取り出し、高梨の連絡先を探す。

 そして、連絡先なんて交換してなかったことを思い出した。
「奏良お姉ちゃん……急に固まって、どうしちゃったです?」
「加奈……この家って、自転車ある?」
「お姉ちゃんのがあるです。買い物とかで使うので」
「ちょっと貸してくれないか?」
「いいですけど、連絡はどうなりました??」
「連絡先を知らんかった……」
「えと……ごめんなのです」
 謝られた。
「家の場所は分かってるから、すぐに行こう!」
「でも、いきなり行っても迷惑じゃないでしょうか……?」
「大丈夫だ、あいつは常に迷惑な奴だからこれくらいお互い様よ」
「私には分からない関係性なのです……」
 戸惑いながらも、加奈は急いで自転車を用意してくれた。
「サンキュ、加奈! じゃあ、行ってくる!」
 自転車に跨ると、加奈もその後ろに飛び乗ってきた。
「私も行きます!」
「危ないから残ってろ!」
「あんな玄関が壊れた家にいても危険なのです! それに……私もお姉ちゃんを助けるために動きたい!」
 後ろからガッチリとしがみついてくる加奈は、きっと力づくで突き放しても走ってついてくるだろう。
「それに、お姉ちゃんの情報を詳しく知ってるのは私だけなので、その知ってるかもしれないお友達に説明するのも、私が適切なのです!」
「……分かった。でも、怪我をさせたらお姉さんに申し訳が立たん……自分を一番に行動してくれよ」
「了解なのです」
 加奈から借りたヘルメットを加奈に被らせ、私は全力でペダルを漕ぎ出した。



「おい!! 高梨!! いるんだろ! 出てこい!!」
 全速力の自転車で、やっと高梨の家まで着いた。私は息が切れるし、加奈は自転車酔いでずっと俯いてる。二人とも満身創痍だった。
 加奈を自転車に残したまま、私は高梨の家の扉を少し乱暴に叩いた。店の電気は消えていたが、その奥が薄っすら明るくなっていたので外出中ということはないはず。

 数秒して、奥から足音がした。小さな足音はトタトタと玄関に近づき、中から鍵を開ける。
 出てきたのは、ぶかぶかなパーカーに身を包んだ高梨だった。
「え、何どうしたの、猪川さん。カチコミ?」
「うるせえ」
「え、この状況で私が怒られることってあるの……?」
 今のは確かに私が悪かったかもしれない。
「いや……スマン。今急ぎなんだ」
「猪川さんが謝るなんて、よほど急ぎみたいだけど……どうしたの?」
「お前、友達は多いか?」
 一瞬だけ沈黙を生んだ。
「え……少ないけど」
「ふざけんな! なんで少ないんだよ!」
「それを本人に聞くのは酷じゃないかな!?」
 あの高梨が少しだけ泣きそうになっていた。
「まぁちょっと変わってるからね、私……てか、そんなことを聞きに来たの? どうしたの? 思春期?」
 高梨はチラッと自転車の方に目をやった。

「あれ、妹ちゃんじゃん。なんで二人が一緒にいるの?」
「お前、今なんて言った!?」
 勢い余って高梨の胸倉を掴んでしまった。
「え、妹ちゃんって……」
「加奈を知ってるのか!?」
 私の声を聞いて、加奈がまだふらつく足取りのまま自転車から降りてきた。
「知ってるも何も、同じ店のアイスを食う仲だよ。ね~」
「この声は……高梨さんですか……?」
 こめかみを押さえながら、ゆっくり近づいてきて私の腕にしがみついた。
「夜中にすみません、高梨さん……」
「いや、まぁそこは全然構わないよ。お父さんが少し腰を抜かしてただけだから」
 そう言いながら、高梨は私と加奈の顔を何度も見比べた。
「色々と聞きたいことはあるけど……急ぎの用って何?」
「加奈のお姉さんのこと、知らないか? 私らの同級生らしいんだ」
「え、知ってるけど……猪川さん知らないんだ」
 なんだ、その言い方は?
 誰もが知ってるような情報じゃないだろ、知り合いの兄弟事情なんて。
「知らない。だからお前ならと思って来たんだ」
「そうなんだ」
 高梨は少しだけバツの悪そうな表情で、私にはっきりと言ったのだった。

「妹ちゃんのお姉さん、天音さんだよ。猪川さんの犬猿の仲の」
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