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第21話 街道の隙間産業(ニッチ・ストラテジー)
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『帳簿記録:売上目標、銀貨10枚。ターゲット層、C級~B級冒険者。……商機は「無視された場所」にある』
俺たちが宿場町「ルーベン」に着いたのは、出発から三日目の昼だった。
距離は馬車なら一日半だが、経費節減の“自力移動”は想像以上にしんどい。
「……つ、着いたぁ……」
俺は肩に食い込んでいた革ベルトを外し、その場にへたり込んだ。
背後にあるのは、職人ドルゴが餞別にと譲ってくれた手引き荷車(ハンドカート)だ。『お前ら馬なんぞ買う金ねぇだろ? 車輪の軸を強化しといたから、人間でもスイスイ引けるぜ!』 というドルゴの言葉通り、性能は抜群だったが……それでも重いものは重い。
「健二、だらしないなぁ! あたしはまだ平気だよ!」
ケロッとしているのは、獣人のミナだけだ。
彼女の細腕のどこにそんな力があるのか、道中の上り坂はほとんど彼女が荷車を引いてくれた。
「……たく、獣人の体力には勝てねぇな」
ライルも息を切らせながら、荷車の幌を整えている。
中には商材である保存食や工具、そして修理用の機材が満載だ。
ここルーベンは近隣に手頃なダンジョンがあるため、多くの冒険者が集まる拠点のひとつだ。
だが、街の空気はどこか殺伐としていた。
「……チッ、また断られやがった」
グランツ商会の支店の前で、若い剣士が錆びついた剣を地面に投げ捨てていた。
装備はボロボロ、革鎧のベルトは切れかかっている。
典型的な駆け出し、C級冒険者のパーティだ。
「グランツ商会の支店、なんて言ったの?」
仲間の僧侶が尋ねる。
「『買い替えなら金貨2枚。修理は首都ノワルマルシュ送りで1週間待ち、銀貨5枚だ』だとさ! そんな金も時間もあるわけねぇだろ!」
剣士が頭を抱える。
「このままじゃダンジョンに潜れねぇ。でも潜らなきゃ稼げねぇ……詰んだな」
俺はその様子を、少し離れた屋台の陰から観察していた。
隣でライルが呆れたように肩をすくめる。
「相変わらずだな、グランツの殿様商売は。金にならねぇ下っ端は客じゃねぇってか」
「でも、その下っ端が一番多いんだよ」
俺はミナに目配せをする。
「ミナ、あの剣士たち、どんな匂いがする?」
ミナが鼻をひくつかせた。
「うーん……汗と、鉄の錆びた匂い。あと、すごい困ってる匂い! お腹も空いてるかも」
「だろうな。……よし、ターゲット確認(ロックオン)。ライル、店を開くぞ」
俺たちが広場の隅に展開したのは、ドルゴの荷車を改造した即席の露店だ。
看板には、手書きでこう書いた。
『冒険者サポート「あきんど」出張所 ~その装備、まだ使えます~』
「へいらっしゃい! 剣の研磨、鎧の紐交換、ポーションのバラ売り! グランツ商会で門前払いされた旦那方、一度見せてみな!」
ライルのよく通る呼び込みに、先ほどの剣士たちが足を止めた。
「……おい、修理やってんのか? でも俺たち、金が……」
「安心しな。うちは『新品』は売らねぇ。あんたらの『今ある武器』を生き返らせるのが仕事だ」
ライルは前に出て、剣士の錆びた剣を受け取った。
刃こぼれはあるが、芯までは腐っていないことを確認したライルは俺の耳元で囁いた。
「この剣、生き返るぜ……」
俺はにこやかな営業スマイルで流れるように提案した。
「研磨と油のコーティング、グリップの革紐交換で……大銅貨3枚(3000円)でどうだ?」
「えっ!? だ、大銅貨3枚!? 銀貨(1万円)じゃなくて!?」
剣士が目を丸くする。
「ああ。その代わり、新品同様にはならない。あくまで『次の探索を生き残るため』の応急処置だ」
俺はニッコリと笑う。
「それと、オプションでこの『ダンジョン生存セット』をつけるなら、5合わせて大銅貨5枚(5000円)にまけとくよ」
俺が差し出したのは、麻袋に詰め合わせたセット商品だ。
中身は、少し硬くなった保存パン(賞味期限ギリギリの仕入れ品)、端切れ布(止血用)、そして岩塩の欠片。
首都ノワルマルシュで塩が手に入りにくくなっている今、この「岩塩」は貴重だ。
「か、買う! 頼む、すぐやってくれ!」
「それにしても、よくこの『岩塩』が手に入ったな。この辺りじゃ金貨を出しても買えないぜ?」
客の冒険者が、セット商品の塩を舐めて感心している。
俺は横にいるミナの頭を撫でた。
「うちの優秀な『仕入れ担当』のおかげですよ」
数時間前、 ルーベンの町外れでミナが突然言い出した。
「しょっぱい風の匂いがする!」
彼女の鼻を頼りに見つけた廃坑には、廃棄されていた岩塩の山があった。
「えへへ、鼻が役に立った!」
ミナは褒められて尻尾をブンブン振っている。
どんなに市場が封鎖されても、現場には必ず「埋もれた資源」がある。
それを見つけるのが、俺たちの仕事だ。
俺たちの店は、瞬く間に行列ができた。
B級下位、C級の冒険者たちは、常に金欠だ。
新品への買い替えを強要するグランツ商会よりも、安価なメンテナンスを求めていたのだ。
ライルが手際よく剣を研ぎ、ミナがセット商品を渡して代金を受け取る。
チャリン、チャリンという硬貨の音が、心地よいリズムを刻む。
だが、商売が順調な時こそ、トラブルはやってくる。
「おいコラァ!! 昼から客が来ねぇと思ったら……原因はお前らか!俺の店の前でガラクタ広げる詐欺師どもめ!」
怒鳴り込んできたのは、広場の向かいにある古びた武具屋の親父だった。
筋肉隆々で、顔中煤だらけの頑固そうなドワーフだ。
名前はドゥラン。
この街で代々続く武具屋らしい。
「ガラクタとは心外ですね。我々は顧客のニーズに応えているだけですが」
俺が冷静に対応すると、ドゥラン親父は真っ赤な顔で唾を飛ばした。
「ふざけるな! そんな『研いだだけ』の剣でダンジョンに行かせるなんざ、自殺行為だ! 冒険者なら、借金してでも一級品を持つべきなんだよ! 安かろう悪かろうを広めるな!」
彼の主張は、職人としては正しい。
だが、ビジネスとしては「市場」を見ていない。
俺は静かに反論した。
「ドゥランさん。あなたの店にある剣、一番安いものでいくらですか?」
「……銀貨30枚だ。俺の自信作だ」
「素晴らしい。ですが、ここに並んでいる彼らの所持金は、平均して銀貨2~3枚です。あなたの剣を買うには、あと10回ダンジョンに潜って生還しなければならない」
俺は行列の冒険者たちを指差した。
「彼らは今、その10回を生き残るための装備がないんです。あなたの『一級品』を買う前に、死んでしまう」
「ぐっ……それは……」
「我々が提供しているのは『つなぎ』です。彼らがこのメンテナンスで生き延びて、稼いで、B級やA級に上がった時……その時こそ、彼らはあなたの店の『一級品』を買いに来るでしょう」
俺はドゥラン親父に、一歩近づいた。
「いわば、我々はあなたの『未来の顧客』を育てているんです。……どうでしょう、提携しませんか?」
「て、提携だと?」
「ええ。うちで修理不可能なレベルの破損があった場合、紹介状を書いてあなたの店に送ります。その代わり、あなたの店で『金がなくて買えない客』がいたら、うちを紹介してください。互いに客を取り合うのではなく、住み分けるんです」
これが、『Win-Win(相互利益)』の関係だ。
ドゥラン親父は腕を組み、しばらく唸っていたが、やがて渋々といった様子で鼻を鳴らした。
「……フン。口の減らねぇ商売人だ。だが、言ってることは一理ある」
彼は俺を睨み、太い指を突きつけた。
「……だが覚えとけ。客を生かす商売は嫌いじゃねぇ。変な修理して死なせたら、俺が承知しねぇぞ」
「肝に銘じます」
俺はドゥランさんと交渉を終え、店に戻る。
そのタイミングで、メンテナンスを終えたC級冒険者のリーダーが恐る恐る話しかけてきた。
「あの……実は、修理だけじゃなくて、相談があるんだが」
彼は背中の袋を開けて見せた。
中には、魔物の牙や薬草が詰まっている。
「ダンジョンで素材を集めたんだが、グランツ商会が『今は買取停止中だ』って買い取ってくれねぇんだ」
俺とライルは顔を見合わせた。
物流が止まれば、金も止まる。
地方経済は壊死寸前だ。
「……分かった。俺たちが預かろう。手数料として売値の20%をもらうが、それでもいいか?」
「20%!? グランツ商会は普段から『手数料』だなんだと半値まで叩いてくるんだぞ? この状況で8割も俺たちにくれるなんて、神様だよ!」
俺は「預かり証」を発行しながら確信した。
俺たちの営業カバンは、今やこの国で唯一正常に動く「血管」になりつつある。
夕暮れ時。
俺たちは店じまいをし、売上を計算した。
銅貨と大銅貨の山。
〆て銀貨15枚(15万円)。
1日の売上としては上出来だ。
「やったな健二! ちりも積もればなんとやら、だ!」
ライルが銀貨を指で弾く。
「ああ。グランツ商会が『手間がかかる』と切り捨てた市場だ。拾えば宝の山になる」
「お肉! 今日は高いお肉食べれる?」
ミナが目を輝かせている。
「もちろん。今日はドゥランさんの紹介で、地元の美味い店に行こう」
その夜、俺たちはドゥランさんの武具屋の裏にある酒場兼食堂で、安い蒸留酒を酌み交わしていた。
「俺も昔は、お前さんみたいに『良いものを安く』広めようとしたことがあったんだ。だが、グランツ商会が来て、安価な量産品で市場を独占しやがった。俺の仲間はみんな廃業したよ」
ドゥランの太い指が、杯に食い込む。
「奴らは『効率』と言うが、そこには職人の魂も、使う奴への愛もねぇ。……だから俺は、意地でも高い『本物』を作り続けてきたんだ」
「その気持ち、分かります」
俺はドゥランさんに酒を注いだ。
「でも、これからは一人で戦わなくていい。俺たちが『つなぎ』ますよ」
「へっ、キザな営業マンだぜ」
ドゥランは笑ったが、ふと真顔になった。
「……そうだ、気をつけろよ。隣の領にある『獣人の集落』。あそこも最近、グランツの下請け業者が入り込んで、妙な『契約書』を押し付けてるらしい」
ミナの耳がピクリと動いた。
「……あたしの村?」
ドゥランの言葉が、酔いを一瞬で冷ました。
地方の職人の嘆きは、次の戦場への警鐘だったのだ。
翌日、俺たちは宿場町を歩いた。
ふと立ち寄った雑貨屋で、俺は再びあの「影」を感じることになる。
「……悪いねお客さん。木箱も在庫切れなんだよ」
店主が申し訳無さそうに言う。
「最近、ノワルマルシュからの荷馬車がめっきり減っちまってね。
なんでも、グランツ商会が『物流の再編』とかで、荷車を独占してるらしい」
俺の手が止まる。
「……ここでも、か」
首都から離れたこの街にまで、影響が出始めている。
「樽」や「塩」だけじゃない。
木箱、釘、梱包材……物流の基礎となる資材が、じわじわと吸い上げられている。
「……健二」
ライルも気づいたようだ。
表情が険しい。
「あの策士野郎、本気で国中の『流れ』を止める気かもしれねぇぞ」
「ああ。急ごう」
俺はミナを見た。
「次はミナの故郷、『獣人の集落』だったな。……あそこは自給自足に近いと聞くが、影響が出ていないとは限らない」
「うん……。なんかね、風がね」
ミナが鼻をひくつかせ、ぽつりと呟いた。
「村の匂いじゃないの。もっと……苦い匂いがする」
俺たちは夜空を見上げる。
銀貨の輝きは美しいが、その裏に広がる経済封鎖の闇は、確実に濃くなっていた。
「行くぞ。救える市場は、全部救う」
俺たちが宿場町「ルーベン」に着いたのは、出発から三日目の昼だった。
距離は馬車なら一日半だが、経費節減の“自力移動”は想像以上にしんどい。
「……つ、着いたぁ……」
俺は肩に食い込んでいた革ベルトを外し、その場にへたり込んだ。
背後にあるのは、職人ドルゴが餞別にと譲ってくれた手引き荷車(ハンドカート)だ。『お前ら馬なんぞ買う金ねぇだろ? 車輪の軸を強化しといたから、人間でもスイスイ引けるぜ!』 というドルゴの言葉通り、性能は抜群だったが……それでも重いものは重い。
「健二、だらしないなぁ! あたしはまだ平気だよ!」
ケロッとしているのは、獣人のミナだけだ。
彼女の細腕のどこにそんな力があるのか、道中の上り坂はほとんど彼女が荷車を引いてくれた。
「……たく、獣人の体力には勝てねぇな」
ライルも息を切らせながら、荷車の幌を整えている。
中には商材である保存食や工具、そして修理用の機材が満載だ。
ここルーベンは近隣に手頃なダンジョンがあるため、多くの冒険者が集まる拠点のひとつだ。
だが、街の空気はどこか殺伐としていた。
「……チッ、また断られやがった」
グランツ商会の支店の前で、若い剣士が錆びついた剣を地面に投げ捨てていた。
装備はボロボロ、革鎧のベルトは切れかかっている。
典型的な駆け出し、C級冒険者のパーティだ。
「グランツ商会の支店、なんて言ったの?」
仲間の僧侶が尋ねる。
「『買い替えなら金貨2枚。修理は首都ノワルマルシュ送りで1週間待ち、銀貨5枚だ』だとさ! そんな金も時間もあるわけねぇだろ!」
剣士が頭を抱える。
「このままじゃダンジョンに潜れねぇ。でも潜らなきゃ稼げねぇ……詰んだな」
俺はその様子を、少し離れた屋台の陰から観察していた。
隣でライルが呆れたように肩をすくめる。
「相変わらずだな、グランツの殿様商売は。金にならねぇ下っ端は客じゃねぇってか」
「でも、その下っ端が一番多いんだよ」
俺はミナに目配せをする。
「ミナ、あの剣士たち、どんな匂いがする?」
ミナが鼻をひくつかせた。
「うーん……汗と、鉄の錆びた匂い。あと、すごい困ってる匂い! お腹も空いてるかも」
「だろうな。……よし、ターゲット確認(ロックオン)。ライル、店を開くぞ」
俺たちが広場の隅に展開したのは、ドルゴの荷車を改造した即席の露店だ。
看板には、手書きでこう書いた。
『冒険者サポート「あきんど」出張所 ~その装備、まだ使えます~』
「へいらっしゃい! 剣の研磨、鎧の紐交換、ポーションのバラ売り! グランツ商会で門前払いされた旦那方、一度見せてみな!」
ライルのよく通る呼び込みに、先ほどの剣士たちが足を止めた。
「……おい、修理やってんのか? でも俺たち、金が……」
「安心しな。うちは『新品』は売らねぇ。あんたらの『今ある武器』を生き返らせるのが仕事だ」
ライルは前に出て、剣士の錆びた剣を受け取った。
刃こぼれはあるが、芯までは腐っていないことを確認したライルは俺の耳元で囁いた。
「この剣、生き返るぜ……」
俺はにこやかな営業スマイルで流れるように提案した。
「研磨と油のコーティング、グリップの革紐交換で……大銅貨3枚(3000円)でどうだ?」
「えっ!? だ、大銅貨3枚!? 銀貨(1万円)じゃなくて!?」
剣士が目を丸くする。
「ああ。その代わり、新品同様にはならない。あくまで『次の探索を生き残るため』の応急処置だ」
俺はニッコリと笑う。
「それと、オプションでこの『ダンジョン生存セット』をつけるなら、5合わせて大銅貨5枚(5000円)にまけとくよ」
俺が差し出したのは、麻袋に詰め合わせたセット商品だ。
中身は、少し硬くなった保存パン(賞味期限ギリギリの仕入れ品)、端切れ布(止血用)、そして岩塩の欠片。
首都ノワルマルシュで塩が手に入りにくくなっている今、この「岩塩」は貴重だ。
「か、買う! 頼む、すぐやってくれ!」
「それにしても、よくこの『岩塩』が手に入ったな。この辺りじゃ金貨を出しても買えないぜ?」
客の冒険者が、セット商品の塩を舐めて感心している。
俺は横にいるミナの頭を撫でた。
「うちの優秀な『仕入れ担当』のおかげですよ」
数時間前、 ルーベンの町外れでミナが突然言い出した。
「しょっぱい風の匂いがする!」
彼女の鼻を頼りに見つけた廃坑には、廃棄されていた岩塩の山があった。
「えへへ、鼻が役に立った!」
ミナは褒められて尻尾をブンブン振っている。
どんなに市場が封鎖されても、現場には必ず「埋もれた資源」がある。
それを見つけるのが、俺たちの仕事だ。
俺たちの店は、瞬く間に行列ができた。
B級下位、C級の冒険者たちは、常に金欠だ。
新品への買い替えを強要するグランツ商会よりも、安価なメンテナンスを求めていたのだ。
ライルが手際よく剣を研ぎ、ミナがセット商品を渡して代金を受け取る。
チャリン、チャリンという硬貨の音が、心地よいリズムを刻む。
だが、商売が順調な時こそ、トラブルはやってくる。
「おいコラァ!! 昼から客が来ねぇと思ったら……原因はお前らか!俺の店の前でガラクタ広げる詐欺師どもめ!」
怒鳴り込んできたのは、広場の向かいにある古びた武具屋の親父だった。
筋肉隆々で、顔中煤だらけの頑固そうなドワーフだ。
名前はドゥラン。
この街で代々続く武具屋らしい。
「ガラクタとは心外ですね。我々は顧客のニーズに応えているだけですが」
俺が冷静に対応すると、ドゥラン親父は真っ赤な顔で唾を飛ばした。
「ふざけるな! そんな『研いだだけ』の剣でダンジョンに行かせるなんざ、自殺行為だ! 冒険者なら、借金してでも一級品を持つべきなんだよ! 安かろう悪かろうを広めるな!」
彼の主張は、職人としては正しい。
だが、ビジネスとしては「市場」を見ていない。
俺は静かに反論した。
「ドゥランさん。あなたの店にある剣、一番安いものでいくらですか?」
「……銀貨30枚だ。俺の自信作だ」
「素晴らしい。ですが、ここに並んでいる彼らの所持金は、平均して銀貨2~3枚です。あなたの剣を買うには、あと10回ダンジョンに潜って生還しなければならない」
俺は行列の冒険者たちを指差した。
「彼らは今、その10回を生き残るための装備がないんです。あなたの『一級品』を買う前に、死んでしまう」
「ぐっ……それは……」
「我々が提供しているのは『つなぎ』です。彼らがこのメンテナンスで生き延びて、稼いで、B級やA級に上がった時……その時こそ、彼らはあなたの店の『一級品』を買いに来るでしょう」
俺はドゥラン親父に、一歩近づいた。
「いわば、我々はあなたの『未来の顧客』を育てているんです。……どうでしょう、提携しませんか?」
「て、提携だと?」
「ええ。うちで修理不可能なレベルの破損があった場合、紹介状を書いてあなたの店に送ります。その代わり、あなたの店で『金がなくて買えない客』がいたら、うちを紹介してください。互いに客を取り合うのではなく、住み分けるんです」
これが、『Win-Win(相互利益)』の関係だ。
ドゥラン親父は腕を組み、しばらく唸っていたが、やがて渋々といった様子で鼻を鳴らした。
「……フン。口の減らねぇ商売人だ。だが、言ってることは一理ある」
彼は俺を睨み、太い指を突きつけた。
「……だが覚えとけ。客を生かす商売は嫌いじゃねぇ。変な修理して死なせたら、俺が承知しねぇぞ」
「肝に銘じます」
俺はドゥランさんと交渉を終え、店に戻る。
そのタイミングで、メンテナンスを終えたC級冒険者のリーダーが恐る恐る話しかけてきた。
「あの……実は、修理だけじゃなくて、相談があるんだが」
彼は背中の袋を開けて見せた。
中には、魔物の牙や薬草が詰まっている。
「ダンジョンで素材を集めたんだが、グランツ商会が『今は買取停止中だ』って買い取ってくれねぇんだ」
俺とライルは顔を見合わせた。
物流が止まれば、金も止まる。
地方経済は壊死寸前だ。
「……分かった。俺たちが預かろう。手数料として売値の20%をもらうが、それでもいいか?」
「20%!? グランツ商会は普段から『手数料』だなんだと半値まで叩いてくるんだぞ? この状況で8割も俺たちにくれるなんて、神様だよ!」
俺は「預かり証」を発行しながら確信した。
俺たちの営業カバンは、今やこの国で唯一正常に動く「血管」になりつつある。
夕暮れ時。
俺たちは店じまいをし、売上を計算した。
銅貨と大銅貨の山。
〆て銀貨15枚(15万円)。
1日の売上としては上出来だ。
「やったな健二! ちりも積もればなんとやら、だ!」
ライルが銀貨を指で弾く。
「ああ。グランツ商会が『手間がかかる』と切り捨てた市場だ。拾えば宝の山になる」
「お肉! 今日は高いお肉食べれる?」
ミナが目を輝かせている。
「もちろん。今日はドゥランさんの紹介で、地元の美味い店に行こう」
その夜、俺たちはドゥランさんの武具屋の裏にある酒場兼食堂で、安い蒸留酒を酌み交わしていた。
「俺も昔は、お前さんみたいに『良いものを安く』広めようとしたことがあったんだ。だが、グランツ商会が来て、安価な量産品で市場を独占しやがった。俺の仲間はみんな廃業したよ」
ドゥランの太い指が、杯に食い込む。
「奴らは『効率』と言うが、そこには職人の魂も、使う奴への愛もねぇ。……だから俺は、意地でも高い『本物』を作り続けてきたんだ」
「その気持ち、分かります」
俺はドゥランさんに酒を注いだ。
「でも、これからは一人で戦わなくていい。俺たちが『つなぎ』ますよ」
「へっ、キザな営業マンだぜ」
ドゥランは笑ったが、ふと真顔になった。
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ミナの耳がピクリと動いた。
「……あたしの村?」
ドゥランの言葉が、酔いを一瞬で冷ました。
地方の職人の嘆きは、次の戦場への警鐘だったのだ。
翌日、俺たちは宿場町を歩いた。
ふと立ち寄った雑貨屋で、俺は再びあの「影」を感じることになる。
「……悪いねお客さん。木箱も在庫切れなんだよ」
店主が申し訳無さそうに言う。
「最近、ノワルマルシュからの荷馬車がめっきり減っちまってね。
なんでも、グランツ商会が『物流の再編』とかで、荷車を独占してるらしい」
俺の手が止まる。
「……ここでも、か」
首都から離れたこの街にまで、影響が出始めている。
「樽」や「塩」だけじゃない。
木箱、釘、梱包材……物流の基礎となる資材が、じわじわと吸い上げられている。
「……健二」
ライルも気づいたようだ。
表情が険しい。
「あの策士野郎、本気で国中の『流れ』を止める気かもしれねぇぞ」
「ああ。急ごう」
俺はミナを見た。
「次はミナの故郷、『獣人の集落』だったな。……あそこは自給自足に近いと聞くが、影響が出ていないとは限らない」
「うん……。なんかね、風がね」
ミナが鼻をひくつかせ、ぽつりと呟いた。
「村の匂いじゃないの。もっと……苦い匂いがする」
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何者かになりたかった。
だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。
そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。
導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。
冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。
目指すのは、ただ生き延びることではない。
一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。
渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。
異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~
北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。
実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。
そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。
グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・
しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。
これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。
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