アヤカシバナシ『小説版』

如月 睦月

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靖子と猫ちゃん

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彼女は靖子、とある施設で清掃の仕事をしている。

160cmほどの身長に色白で茶髪、「女は捨てないっ!」を自分だけの合言葉に毎日筋トレやダンス、ストレッチなどをして自らを磨いている二児の母。武道経験者なので仕事には熱心で、やれることはやりたい!と言う今時めずらしい前向きな意欲の持ち主。

尚、好奇心旺盛。

しかし何でも知りたがる中年特有のアレ・・・ではなく、彼女の場合は真面目な好奇心。

その彼女には仕事を教えてくれた師匠が居るが、今は職場を離れている。
だがSNSを使って常に仕事の相談をしているので、頼もしさは感じているのだった。

今日も仕事が一段落した靖子が詰め所でスマホを取り、ちょっとした疑問を師匠である龍一に相談していた。

『龍一さん、相談があります』

『ほい!どうぞー』

『同僚の新井さんの件なのですが・・・』

靖子には一緒に働く同僚が2人おり、そのうちの一人が【新井】である。
新井は180cmはあるであろう長身の男性で、年齢は55歳程度。社交的ではない性格のせいで、殆ど自分発信で会話はしない。なのであまり彼をよく思うスタッフはいなかった。損していると言えばそうなのだが、世の中にはいろいろな人がいるわけですから責める事はできないのだが・・・と思いつつも、わかっていつつも靖子はその暗さが苦手で自然に距離を置いて仕事をしていた。

『新井さん?あぁ、つまんないでしょ?(笑)』

『ええ、とっても!って言わせないで下さいよ!』

『ごめんごめん、で?』

『あのですね、土曜日はゴミ回収車が早朝8時には来るんですよ、私の出社時間8時半じゃないですか、全く間に合わないんですよね、で、日曜日はゴミ回収休みなので、月曜日の早朝のゴミを入れるまで溜まりに溜まって入らなくなるんですよ、そういうのって早く来てやって良いモノなんですか?新井さんに変に気を遣わせることになりませんかね・・・。』

『単純に言えばイイよ、だけど早出残業つかないからサービスになっちゃう、それを良しとするならって話になっちゃうけどね、上司に相談すればシフトとかで早番作ったりするかもだけど、なら他のスタッフにも同等に早番が付いちゃうわけだし、他の2人が納得してフラットになる・・・かなぁ・・・』

靖子の同僚は2人、一人は新井、もう一人は釜林(かまばやし)。
釜林は160cm程の身長だが、身体の肉づきのせいなのか小さく見える。つやつやの黒髪ボブを後頭部の下の方で一本縛りにした、やたらとチャカチャカ動く元気印の女性。しかしスタッフ間の事に凄く好奇心があり、仕事そっちのけで話し込むこともしばしば。スタッフに問題があっても本人にズバリは言わないのに、靖子や新井の意見に対しては猛烈に反発するのがいつもの事だった、なので靖子は龍一の出した心配要素には100%賛同できた。

『ほっといてゴミ箱溢れさせたら?そしたら上がもう一つ買ってくれるかもよ』

靖子は龍一の、時折繰り出す投げっぱなしのようなテキトー発言も嫌いじゃなかった。しかしながら靖子自身、毎週末のうんざり案件は心底うんざりなのだった。

『いいや、早く来てやります』

『わかった、無理すんなよ』

龍一は止めても聞かない靖子の性格も若干わかっているので、納得できるまでやらせようと言うスタイルだった。

その週末、靖子は朝7時に出社して5階建ての施設のゴミを全て回収し、7時40分に出し終わり、8時10分くらいまで休憩をした。8時20分には新井が来るので3畳くらいの詰め所の空間に彼と2人きりは嫌だったのだ。人をあまり嫌がることをしない靖子だが、新井と2人きりであれば話のきっかけとリードを靖子がやらなければならない、靖子もそれが得意な方ではなかった、が故に新井への苦手意識も高まっていった。

次の週末、また靖子は土曜日出社となった。

先週と同じように午前7時40分にゴミを捨てた。

『ニャー・・・ニャー・・・』

靖子は消えそうな猫の鳴き声を聞いた。
声に集中し、顔を左に傾け、右耳をゴミ箱に向けて目を閉じた。
『ニャーニャー・・・』

ゆっくりと大きなゴミ箱をどかしてみると、ゴミ箱の後ろにボロ雑巾のようになった子猫が一匹居るのがわかった。靖子がゴム手袋で触れると、目を閉じて手に顔を擦り付けてきた。

『ふふ、可愛い・・・お腹空いてるの?なんでそんなにボロボロなの?まっててね』

靖子は詰所からお菓子をいくつか持ってきて子猫に食べさせた。

『連れてってあげたいけどできないの、ごめんね、でも元気出るまでおやつあげるからね』

それから数日、靖子は休憩時間に子猫の面倒をみた。師匠と離れ、若干の寂しさを隠せなかった靖子にとって、子猫の存在は大きくなっていったのです。子猫の存在は釜林にも話したところ『そうなんだ、面倒見てやればいいんじゃない?私は猫苦手だから任せるね』との事だった。

そしてまたやってきた土曜日出勤の日

出社してきた靖子の目にゴミ箱の前にいる新井と釜林の姿が映り込んだ。

とっさに夜勤者の車の陰に隠れた靖子。
午前7時だと言うのに新井がいる?そして本日休みなのに午前7時に居る釜林。
靖子は何処をどう考えても答えが導き出せなかった。

とっさに靖子は師匠の龍一に連絡を入れた。

『今アライとカマ居る、目の前、なんかしてるミエナイ』

急いだ文面だが察した龍一が即返事をくれた。
この勘の良さが靖子との連携の良さでもあった。

『見えなくてもイイから動画撮影しろ』

返事をせずに直ぐに靖子は撮影を始めた。

ビニール袋に黒いモノを入れた新井が袋を縛り、その場に置く。釜林が物置にあったスコップでその袋を何度も何度も叩いているのが見えた。もう一枚袋を用意して叩いた袋を入れ、釜林が更に大きな黒い紙袋に入れると、新井の肩を『じゃ!』と言う挨拶のように叩き、周囲を見回してから普段使ったことない裏道に消えて行った。

スマホを止めると龍一からメッセージがあった『あらいをつめろ』

直ぐに駆け寄った靖子は鼻息荒く、新井に詰め寄った。

『なにやってたんですか?』

『あ・・・いや・・・別に・・・』

いつものように言葉少なく、そそくさと玄関を抜け施設内にその姿を消した。

嫌な予感がよぎった靖子はゴミ箱の裏の子猫を呼んだ。

『ネコ太郎!ネコ太郎!』

声は無く、その姿は段ボールで作ったベッドごと消えていた。

撮影した動画を確認するが残念ながら何もわからなかったので、その動画を龍一に送った。しばらくして龍一から返信が来た。

『袋の中身は動物』

龍一が画像解析とか色々駆使して調べた結果、
袋に透けて見える断末魔の動物の顔が確認できたと言うのだ。

靖子は全てを悟った。
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