賢き皇子の遁走曲

アソビのココロ

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最愛の人

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 任せるところはルーク殿下に任せて支持を一本化させ、一方でアメリア嬢とフォレスタル公爵を醜聞から救う。
 我が辺境伯領の魔物の脅威を減少させて耕地を拡大、さらに魔物由来のアイテムと素材で経済を潤す。
 最も得をするのが誰あろうこの俺とあっては、王家に通報してカイを手放すはずもない。
 完璧な策だ。

「そして私も愛する人を手に入れました」
「ハハッ」
「来ましたね」
「カイー!」
「ネル様、いらっしゃい」

 カイの胸に飛び込むネル、俺の孫の一人だ。
 一度帝都のパーティーで会ってビビッときた、当時六歳のネルを愛しているから伴侶にくれと言った時は、こいつは頭がおかしいのかと思った。

 冷静になって考えてみれば、一二歳差はそう無茶な年齢差でもない。
 皇帝家の捜索班は当然カイの交友関係女性関係も洗っているだろうが、さすがにネルはノーマークだろうなあ。

「ネル様、愛しておりますよ」
「わたくしもだ。カイはいい男だからな!」
「光栄です」

 我が孫ながらネルは生きがよいというか、野性味があり過ぎる気がする。
 辺境伯領ではそう欠点にもならないが、帝都の社交界では問題になるだろうなあとは思っている。
 ましてや元第一皇子の妃としてはどうなのかと。

 しかしカイはネルの飾り気のない瑞々しさを気に入っているようだ。
 虚飾で塗り固められた令嬢を好まないのかもしれない。

「私はネル様に出会えて大変光栄です」
「わたくしもだぞ」

 イチャイチャして。
 今は大人と子供だが、もう五、六年も経つと男女として見られるようになってくるだろうな。

「ああ、メイジーが結婚するそうだ。俺のところに式の招待状が来た」
「そうでしたか」

 ヒューム男爵家はマーカッフ辺境伯家の分家だ。
 婚約破棄劇にメイジーを助演女優としたのも、うちの親戚だからに違いない。
 まったくどこまで計算しているのやら。

「む? メイジーとは誰だ?」
「私が辺境伯領に来る際に世話になった男爵令嬢ですよ」
「カイの元恋人ではあるまいな?」
「まさか。私の最愛はネル様ですから」

 ネルの悋気がいっちょまえで笑える。
 魔道具師にして篤農家のカイ。
 いずれ何らかの姓を名乗らせて余剰の爵位を与えよう。
 いや、ネルが辺境伯を継ぐ手もあるか。

 輝かしい未来が温かな愛情に包まれているのを確かに感じる。
 俺も幸せだ。
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