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「主様、お味の方はいかがですか?」
「うん、とっても美味しい。ありがとうヘンゼル」

 色とりどりのフルーツと生クリームたっぷりのホットケーキを美味しくいただいくと、ご満悦のヘンゼルに問われ何も考えずに素で答えてしまう。自分の置かれている立場を完全に忘れていた。

 こんな美味しい料理を作る人に悪人なんていないよね?
“いいえいます。朋子さん、しっかりして下さい。食べ物なんかに釣られてはいけません”

 エミリーの激しい突っ込みに、正気を取り戻す。

 そうだった。

「もったいなきお言葉です。昼食は更に腕を振るいます」
「期待してるわ。所でヘンゼルは世界を滅ぼした後どうしたいの?」

 怪しまれないように探る計画だったのに、なぜか憎めず単刀直入に聞いてしまった。
 もしこれで窮地に立たされたら、それはその時に考えよう。

「世界には魔族の生き残りがわずかにいるので、彼らと力を合わせ魔族の世を作ります。我ら魔族は闇魔法を得意としていることもあり、気味が悪いと言われ続けてました。そして当時禁止されてた他種族の結婚を認めていたため、意見が合わなく長きに渡る戦争が起こり滅ぼされたんです」

 これが彼の本心か分からないけれど、真剣な眼差しの奥底は悲しげな瞳が隠されている。とんでもない嘘つきじゃない限り、嘘はついていなさそう。
 だからヘンゼルはグレーテルと契約を交わした。
 私の穴だらけの設定も現実になれば、ちゃんとした理由が付けられている。

“エミリー、ヌクにヘンゼルの主張が正しいかを調べてって頼んでくれる?”
“はい、もしかしたら魔族は心優しい種族かも知れませんね”

 一応私もそこまで馬鹿じゃないので、第三者の言い分も聞いて見ることにした。
 フランダー教授なら、何か知っているはず。

「そう。でも今は他種族の結婚は認められてるわ。話し合いはもう無理なの?」
「はて、主様はどうして人間の味方をするのでしょうか? 二度も人間に殺されたのですよ」
「今の私には味方となってくれる仲間がいるの。私の愛したクード様に逢わせてくれると、言ってくれました」
「主様、騙されてはいけません。そんなの罠に決まってるじゃないですか? 特に人間は平気で裏切るのですよ」
「そうよね。変なこと言ってごめん」

 たちまち空気は思いっきり怪しくなり、ヘンゼルの笑顔は凍りつき怖ろしい怒りと殺気が漂い始める。それでも一度は負けじと意見すると、更に怖ろしく鬼の形相になり何も言えなくなり謝罪。

 駄目だ。
 ヘンゼルは悪い人ではなさそうだけれど、もう何を言っても考えを改めてくれない。
 世界を滅ぼし、魔族の世を作るしか頭にないんだ。

「分かってくれればいいのです。確かにあの時と違い、人間・獣人族・鳥族の他種族結婚は認められいい方向になってるのは事実です。しかし魔族に対してはどうでしょう? きっと生き残りがいると分かれば、再び無差別の魔族狩りが行われると思います」

 頭に血が登っている割には冷静で、納得してしまい反論しようがない。

 魔族は不気味がられ恐れられている。

 なんでそこまで嫌われてるんだろうか?
 闇魔法が得意だからだと言っているけれど、今でも使う人間は少なからずいるよね? 確かに生贄や代償がある物が多いから印象が良くないけれどど、ぶっちゃっけそれだけの話。
 だとしたらまさか外見?
 でもヘンゼルは見た目紳士的なイケメン(笑顔が怖いけど)で八重歯がチャーミング。まさかこの外見は偽りで本当の姿は醜い物??
 グレーテルはヘンゼルの真の姿を知ってる設定だったっけぇ?

「ヘンゼルも色々大変だったのね。それで私に今すぐ世界を滅ぼして欲しいの?」

 無言でいたら怪しまれるだけなので、同情しながら新たな話題を振ってみる。
 これでさっさと世界を滅ぼせって言われたら、ヘンゼルの本心は私なんかどうでもいいと思っている。そしたら私も簡単に切り捨てられるから、気が楽だ。

「そうですね。今の主様にはそこまで絶望が感じられませんので、まずはこの世すべてに絶望をしていただきましょう」
「絶望?」

 非常に判断しにくい返答の上、嫌な予感だけしかしなくなる。

 私に絶望させるって何?
 エミリーだったらレオに婚約破棄をされることだけれど、それはもうないはず。

「はい。準備するのに時間が掛かりますので、それまで自室でお待ちください」

 ってかしこまわれた瞬間、私はさっきの部屋に飛ばされた。

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