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しおりを挟むバシン
エミリーと交代するなりレオに素早く駆け寄り、きれいな平手打ちをお見舞いした。やはりグーパンはなかった。
「エミリー?」
「レオ、見損ないましたわ。その程度の試練で悩む程度の愛なら、さっさと別れてあげなさい。シャーロットのためよ」
「その程度ではない。何年いや何十年掛かるか分からないんだぞ?」
「そう言うことをまず話し合って、決めればいいのです。そもそもあなたに平民になるという選択肢はないの? 皇太子の座を弟のノルンに譲ればいい」
「でも俺はエミリーのことも愛してる。やはりどちらかなど選べない」
本気で𠮟るエミリーだったが、レオは頭を抱えたまま情けなく呟くだけ。
両方諦めたくない。
自信を持って言うのならカッコいいんだけれど、両方が無理である以上それはわがままでしかない。格好悪いの一言。
こんな人エミリーには似合わないと言うより、シャーロットはこんなんでもいいんだろうか?
皇太子で将来王子で将来有望だから? それともレオ自身?
「それをシャーロットにそのまま伝えなさい。あなたの上辺だけを好きになったのなら速攻振られるでしょうけれど、中身が好きだったらまだ可能性があるかも知れないわ」
「…………」
「振られたら私が励ましてあげますわ。あなたが婚約破棄するまで、私はあなたの婚約者ですから」
すっかり凹み言葉を失くすレオに、エミリーはクスッと笑い手を伸ばし優しい言葉を投げかける。
格好良かった。
レオにも幻滅したけれど、エミリーに胸キュン。男キャラだったら間違えなく好きになる。
悪役令嬢はイケメン令嬢でした。
「エミリー。どうやら俺は君の方が好きらしい」
「え、何をおっしゃってるの? シャーロットは?」
エミリーに惚れ直したレオは、差し伸べられた手を取り口づけされる。
当然の結果なだと思うのに、エミリーには想定外だったのか激しく動揺。腰がくだけその場にへたりつく。
胸の鼓動がバクバク高鳴って、私まで恋を錯覚しそう。
「重婚がどうしても駄目と言うのならば、シャーロットとは別れる。俺にはエミリーの方が必要なんだ」
「嘘よ。嘘嘘そんなの嘘!! 私が絶対に認めない」
シャーロットのとち狂った声が、部屋全体に響き渡る。
驚きシャーロットに視線を向ければ、眼差しはもろ殺意があって背筋が凍りついた。まるでメドゥーサのよう。
「レオ、あなたのせいでシャーロットがおかしく──元はと言えば私のせい?」
「いいや、俺に全責任がある。ここは俺に任せてくれ」
お名誉返上と言わんばかりに今度はレオが格好良くそう言いきるけれど、言葉通りすべてはレオのせい。
いくら重婚が認められてるとは言え、愛想をつかし婚約破棄をすると言っていた女性とよりを戻す。
挙げ句の果てには重婚がいやだったら別れる宣言って、自分勝手にも程がある。
エミリーが悪いとしたら、シャーロットにいじめに近い行いをしただけ。私に変わってからレオにはアピールしていない。
「シャーロット、落ちついて話をしよう。君は本当に俺を愛しているのか? 例え廃嫡となって平民になったとしても、愛してくれるのか?」
「は、廃嫡? なんでそうなるの? 私が平民だから?」
「そうだ。君を選んで結婚するとなると、俺は廃嫡しなければならない」
シャーロットと別れると言っておきながら、その問いはなんかずるいと思う。
それでもいいって言われたら、どうするんだろうか?
突然そんなことを言われたシャーロットは逆上し続けるけれど、訳を聞くなり顔色を青ざめる。
「だったら私がエミリーの中にいる女魔王を倒して、聖女になれば良いんでしょ?」
「やはりそれを知ってたのだな。しかしその女魔王はもう改心していて、世界を滅ぼそうとは考えていない。それに君は聖女にはなれない」
不気味に笑うシャーロットは、友太先輩の予想通りのことを言う。
予想通り過ぎてギャラリー内から、笑いを堪えている人が数人。私も表に出ていたら笑いを堪えるのに必死になっていたんだろう。
なのにレオは表情を少し曇らせ、きっぱりと全否定する。エミリーは複雑な気持ちで、二人を黙ったまま見ていた。
「エミリーに騙されてるのね? 可哀そうなレオ。でも大丈夫。私はこの世界の主人公で、エミリーは嫌われ者の悪役令嬢なの」
シャーロットの勝ち誇り憐れみを見る台詞に、私は耳を疑い頭が真っ白になる。多分花音達も同じ。
ここに来てシャーロットも私と一緒で転生者とか言わないよね?
「なっ!? お嬢様は嫌われ者でも悪役令嬢でもありません」
「そうですよ。少なくても私とケイトは、お嬢様が大好きです」
双子達は顔を赤らめ激怒してくれる。その言葉にエミリーは心を打たれ、今この状況なのに涙ぐむ。
嬉しくて感動するのは分かるけれど、今はそれどころではない。
「シャーロット。詳しく話してくれ」
レオが私の望みを叶えてくれる。
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