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「私がシャーロットの胸に手を当て、魂を抜き出せばいいんだね?」
「うん。グレーテルがそう言ってた。私が花音のもう片方の手を握ればうまい具合に取り除けるはず」

 シャーロットを前にして、花音と最終打ち合わせ。
 グレーテルの話しによれば、私が花音の手を強く握りって指示をすればいいとか。
 今はそれを信じるしかなく、言われた通り花音の手を強く握りる
 花音は右手をシャーロット胸に当て、目で合図しあい行動開始。

 温かく優しい気がシャーロットを包み込んだと思えば、邪悪な靄が漂い出す。
 正反対の二つの勢力は激しく衝突。火花を散らす勢いだ。


「朋子、見つけた。右と左どっち?」
「あ、左」

 必死声の花音の唐突な問いに、何も考えずに即答してしまう。

 いくらスキルがあっても、こんな呆気ないモノで良かった?
 疑問に思うほどの一瞬の出来事で、自分の判断なのに自信が持てない。
 これで間違っていたら、取り返しのつかないこと。

「了解。こっちね」

 疑うことなく花音はそう言うと、何やらモヤっとしたものを掴んでいた。
 
「これが魂。暴れていて掴んでるのが大変」
「封印できそう?」

 モヤっとしてる活きのいいのか花音の手の中で暴れる魂に、私も逃げ出さないようそっと手を添える。
 必死に抗っていて本来なら理由を聞くのが聖女なんだろうけれど、そんな時間を与えてしまったらむこうの思うつぼ。卑怯と言われても構わない。

「任せてよ」

と花音は力強く言って封印をしようとした時、魂はうまい具合に手からすり抜ける。
 
「エミリーちゃんのかたき」

 べち

「え~!!」

 逃げようとする魂は、ヌクに叩き落とされ恨み辛みで踏まれ終了。
 その場の全員が予想外てあっけない結末が信じられず、裏返った声を綺麗にハモらせる。
 
「いやいや、これはいくらなんでもなしだろう?」
「魂って浄化しなくても、虫を潰すように倒せるんだね」
「お終わりよければすべてよしって言うし、こう言うのもありだろう?」
「そうなのか? まぁ案外これが現実らしいのかもな」

 みんなはこの理不尽な状況を、無理矢理納得させようとしている。

 そうだ。
 リーダーの言う通り、終わりよければすべてよし。にしとこう。
 ヌクは私のために退治してくれたんだから、目一杯誉めないとね。

「ヌク、ありがとう。すごく助かった」
「えへん。ボク強いでしょ?」

 ヌクを抱き上げ感謝すれば、ヌクは誇らしげに胸を張る。

 そう言うことじゃないんだけれど。


「エミリー、大丈夫なのか?」
『お嬢様、どうしましたか?』

 血相を変えたレオと双子はドアをケリ破る勢いで入ってきて一目散に私の元へ駆け寄る。私達の声に何事かと思ったんだね。

「心配してくれてありがとう。なんでもないわ。ちょっと想定外の終わり方でしたから」
「逃げ出そうとしたから、ボクがトドメを刺したの」
「さすが、ヌクだな」
「ヌクは式神の鏡だね」
「お嬢様を護ってくれてありがとう」

 私達とは違いヌクの行いは勇姿と捉えられ、三人から絶賛誉められ鼻高々。

「どうやら予定どおり出港が出来そうだな。彼女はどうする?」
「我が元居た場所に戻しておく」
「ちょっと待ってください。本当に大丈夫だか確認します。そしたらヘンゼルお願いね」

 フランダー教授の脳内はすでに決行するらしく、教師だしからぬ台詞。ヘンゼルはまぁまともではあるけれど、確認するのを忘れている。

 そう言ったものの前世が残っていたらすごく困ります。
 不安いっぱいのまま、まずはシャーロットの肩を揺らし声を掛けてみる。

「シャーロット、大丈夫?」
「──え? エミリー様にレオ様? ここはどこですか?」

 すぐに目を覚ましキョトンと辺りを見回すシャーロット。私とレオを様付けするのもそうだけど、それ以外でも様子がおかしい。
 優しくほんわかな雰囲気をかもし出しているのは、本来のシャーロットに戻ったからでそこは安心した。

「ひょっとして、記憶がないのか?」
「すみません。私が覚えているのは、入学初日クラスの掲示板──」
「まさか記憶が飛んでいる? しかも入学初日って……プロローグ?」
「でもあれ、今の私は二年生で夏期休暇だから、明日マストと実家に帰ろうとしていて?」

 まさかの記憶喪失だと思えば、そうでもないらしく記憶が曖昧らしい。混乱する愛らしいシャーロットを、無条件で助けたいと思ってしまう。
 
 これが清純派主人公の力なのか? 

「君には今まで良くない物が取り憑いてたんだ。だが、彼女達が退治してくれたからもう大丈夫だ」
「良くない物──? そう言えば確かに魔法学校に入学してからは、身体が重く頭痛もホ酷い。記憶も曖昧でした。でも今はそれがないので、レオ様の言う通りなのですね。ありがとうございます」

 以前のレオなら真っ先に手を差し伸べていたはずなのに、明らかに素っ気なく距離を取っている。シャーロットはシャーロットでレオに恋心がないのか坦々と言葉を返し、納得したのか微笑み心からのお礼をされる。
 素直に可愛いと思えた。

「どういたしまして。このヘンゼルさんが寮まで送ってくれるから安心してね」
「ああ。主様とスワンの頼みでもあるからな」

 それは花音も同じらしくフレンドリーになり、素っ気ないレオの代わりに手を差し伸べる。すべての元凶であるヘンゼルなのに、偉そうな台詞を吐く。

「はい。ヘンゼルさん?もありがとうございます」
「ああ、行くぞ」

 何も覚えてない覚えていないシャーロットは、ヘンゼルに警戒することもなく輝く笑顔を向ける。
 ヘンゼルは一瞬硬直し頬を少し赤く染め、シャーロットの手を持ち消えていく。

 まさかあの人間嫌いのヘンゼルが、こんなんで恋に落ちた?
 嘘?
  
 ささすが清純派主人公。

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