美咲と雪乃

序章

新生活

大学時代に同学年の男性と恋に落ちた美咲は同棲を始めた。
1年後には娘である雪乃を授かったが直後に恋人である男性が轢き逃げに遭い帰らぬ人となってしまう。
失意の中にいた美咲だが、残された娘の為にも落ち込んでばかりはいられないと未婚の母として12年間、女手一つで育ててきた。

時は流れ32歳となった美咲。
パートの掛け持ちと徹底した節約でやり繰りしてきたが家賃や生活費で精一杯、貯金に回す程の余裕はない。

（…どうしたものかしら、これ以上は切り詰められないし………）
今のままでは数年後に来るであろう雪乃の高校や大学進学なども厳しいと不安を抱えていた時にネットである情報を目にする。


【田舎暮らしをしてみませんか？村にある空き家を無償譲渡。興味のある方はご連絡ください。】

話だけでもと電話で連絡してみると、村の人口減少問題を解決すべく40歳以下で所有者のいない古民家を最低でも20年間移住してくれることを条件に無償譲渡しているとのこと。
山に囲まれた集落ではあるものの、小中学校はもちろんスーパーなどの生活していく上で必要な店は点在しており、役所や郵便局の臨時職員などは募集していると言う。
譲渡できる古民家は築年数60年は経っており、多少の修繕は必要だが畑や井戸もあり野菜栽培も可能とのこと。
家賃や水道代は不要で自家栽培すれば食費も助かり貯金もできる。
（此処で生きていく）
そう心に決めた美咲は雪乃に相談し引っ越すことを決めた。

雪乃の転校手続きはすんなり終わり、新しい学校でも早々に友達ができたようで一安心出来るかと思っていたが、現実は中々に厳しいもの。
譲り受けた古民家の広さは十分過ぎる程だったが痛みは思ったより酷く、部屋のあちこちから雨漏りした影響で屋根や床が腐り落ちてしまっている部分もある。
襖や押入れの障子張替えなどは簡単だが、素人の美咲では本格的な修繕は難しく応急処置が精一杯。
問題は家だけではない。
事前に調べて出来ると思っていた畑作業も全くと言っていいほど上手くいかず、虫が付いたり枯れたりと散々な有り様。
（…こんな状態で暮らしていけるのかしら……）
新天地で心機一転と意気込んで来たはいいものの何もかも上手くいかないストレスと不安で押し潰されそうになる。