隠れジョブ【自然の支配者】で脱ボッチな異世界生活

破滅

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世界樹への道のり

どうも、どうやら闇の中では覚悟が試されるようです

エルマの古い工房の、冷たく、湿った地下室。俺たちの新しい隠れ家。
外の世界の喧騒は、分厚い石の壁と、重い鉄の扉に遮られ、ここには、蝋燭の炎が揺らめく音と、俺たちの、荒い息遣いだけが、響いていた。

『風待亭』での、あの悪夢のような襲撃から、一夜が明けた。
俺は、まず、エルマに担がれて、意識が朦朧としているシュタの治療に取り掛かった。セラフィーナの『影の糸』による攻撃は、直接的な外傷こそ少ないものの、その邪悪な魔力が、シュタの体内の魔力循環を、酷くかき乱していた。

「……自然操作」

俺は、自分の、清浄な自然エネルギーだけを、慎重に、そして、精密に、彼女の体へと流し込んでいく。それは、濁った水に、一滴ずつ、清流を垂らしていくような、根気のいる作業だった。俺の温かいエネルギーが、彼女の体内にこびりついた、冷たい『穢れ』を、ゆっくりと、溶かしていく。
数時間後、シュタの、苦しげだった呼吸は、ようやく、穏やかな寝息へと変わった。

「……ふぅ。これで、ひとまずは、大丈夫だろう」
「……お前さん、本当に、とんでもねぇ力を持ってるんだな」

俺の治療を、静かに見守っていたエルマが、感心したように、しかし、どこか呆れたように、呟いた。彼女は、俺がシュタを治療している間、休むことなく、この地下室の、防御を固めてくれていた。入り口には、古い鉄格子を組み合わせた、即席のバリケードを築き、壁には、侵入者を感知するための、ドワーフ族に伝わる、警報のルーンを、いくつも刻み込んでいる。

「これであのクソ女どもが来ても、すぐにわかる。ま、気休め程度にしかならないだろうけどね」

その言葉に、俺たちは、改めて、自分たちが置かれた状況の、厳しさを、実感させられた。
俺たちは、追われる身だ。この、ジュッテルという、巨大な、そして、冷酷な都市の中で、完全に、孤立している。
フィンステイン商会に助けを求める、という選択肢も、一瞬、頭をよぎった。だが、すぐに、その考えを打ち消す。『古き理の探求者』は、俺たちが思う以上に、この街の闇に、深く、根を張っている可能性がある。下手に、カールさんたちを巻き込めば、彼らに、多大な迷惑をかけることになるだろう。それに、リアちゃんを、再び、危険な目に遭わせるわけには、絶対にいかない。

(……この問題は、俺たちだけで、片をつける)

俺は、決意を固めた。
その夜、ようやく目を覚ましたシュタを交え、俺たちは、この地下室で、最初の、そして、最も重要な、作戦会議を開いた。

「……まず、現状を、整理しよう」

俺は、乏しい食料である、干し肉と、硬いパンを、皆に配りながら、口火を切った。

「俺たちは、今、二つの組織から、追われている。一つは、『古き理の探求者』。そして、もう一つは、宿屋を、まるごと一軒、派手にぶっ壊した、容疑者として、俺たちを追っているであろう、ジュッテルの都市警備隊だ」
「どっちも、厄介な相手だねぇ。特に、あのセラフィーナとかいう女。あいつは、ヤバい。あたしの勘が言ってる。あいつは、そこらのAランク冒険者なんぞ、比べ物にならねぇくらい、格が違う」

エルマが、苦虫を噛み潰したような顔で言う。俺も、同感だった。
セラフィーナの、あの、影の糸を操る能力。それは、俺の『魔力感知』ですら、捉えきれないほど、異質なものだった。そして、彼女が俺を呼んだ、『器』という言葉。シルフィを、『鍵』と呼んだこと。

「奴らの目的は、シルフィだ。そして、おそらくは、俺の持つ、この『世界樹の木刀』も。……『古き理』とやらを、解き明かすための、鍵、か」

俺の肩の上で、シルフィが、「ピィ……」と、不安げな声を上げる。俺は、その小さな頭を、優しく撫でた。

「だが、このまま、ここに隠れていても、いずれ、見つかる。食料も、水も、いつまでもつか、わからない。……俺は、反撃したいと思う」
「反撃……ですって?ショウさん、相手は、あんなに、強くて……」

シュタが、心配そうに言う。

「ああ。だから、正面から、戦うわけじゃない。奴らが、俺たちに、そうしたように。俺たちも、この街の、闇の中から、奴らを、叩くんだ」

俺の目に、静かな、しかし、冷たい、闘志が宿るのを、仲間たちは、感じ取っていた。

「奴らの、ジュッテルでの活動を、一つ一つ、潰していく。情報を集め、アジトを突き止め、そして、最終的には、この街から、完全に、叩き出す」
「……言うのは、簡単だけどね。で、具体的には、どうするんだい?今のあたしたちには、情報源も、協力者も、何一つ、ないんだぜ?」

エルマの、もっともな指摘。
だが、俺には、一つの、そして、唯一の、活路が見えていた。

「……一つだけ、ある。奴らと、接触できる、可能性がある場所が」
「どこだい、そりゃ」
「……闇市場さ」

俺の言葉に、エルマの目が、鋭く光った。

「奴らは、古代のアーティファクトを、集めている。そんな、表に出せない代物が、取引される場所。それは、このジュッテルの、裏の顔。法も、秩序も、届かない、無法地帯だ。……エルマ、あんたなら、その場所に、心当たりがあるんじゃないか?」

俺がそう言うと、エルマは、ニヤリと、口の端を吊り上げた。

「……へっ。ショウ、あんた、本当に、面白いことを、考えるじゃないか。ああ、知ってるとも。この職人街の、地下。その、さらに下。迷宮みてぇな、下水道の奥に、月に一度だけ、開かれる、秘密の市場がある。そこなら、奴らの、尻尾を、掴めるかもしれないねぇ」

作戦は、決まった。
俺たちは、その、闇市場に、潜入する。そして、そこに現れるであろう、『古き理の探求者』の、下級の構成員を、捕らえ、尋問し、奴らのアジトに関する、情報を、引き出す。
それは、あまりにも、危険な、賭けだった。だが、今の俺たちには、それしか、道はなかった。

翌朝。シュタの体調も、俺の治療と、彼女自身の回復力で、なんとか、動けるまでには、回復していた。

「私も、行きます。もう、ショウさんたちに、守られてるだけなのは、嫌ですから。私の、この力だって、きっと、役に立つはずです」

彼女は、そう言って、その手に、生活魔法の、小さな、しかし、温かい光を、灯して見せた。その瞳には、もう、迷いの色はなかった。

俺たちは、ぼろぼろの、フード付きのローブを、深く被り、顔を隠した。
エルマを先頭に、俺、シュタ、そして、俺のポーチの中に隠れたリルと、フードの中に潜んだシルフィ。
俺たち、新生パーティは、この街の、最も深い、闇の中へと、その、反撃の、第一歩を、踏み出した。
目指すは、下水道の、闇市場。
俺たちの、本当の戦いが、今、この瞬間から、始まるのだ。
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