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1章

19.魔力感知、ステップ2

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「さて、身体の内側の魔力は感じることが出来た。今度は身体の外の魔力を感知してみるとしよう」

「えっ?もう?」

 早くない?もうちょっとゆっくり……
 俺が驚きの声を上げると、校長が言った。

「魔力感知は、慣れじゃ、慣れ。どんどんやって感覚を覚えていくんじゃ」

「えー……」

 俺、初心者だってば。厳しくない?
 校長は、俺の抗議の声など聞かずに、ローブの中をゴソゴソと漁って何かを取り出した。

「それは?」

「魔力石じゃ。魔力を溜める器みたいなものかの」

 校長が持つ魔力石とやらは、手のひらくらいの大きさで、乳白色をしていた。

「今は魔力が入っていないが、ほれ、このように魔力を入れれば……」

 乳白色だった石が、徐々に透明になっていく。

「おぉ……」

「このようになるのか……。実際に魔力を入れるところは見たことがなかったな」

 ということは、坊ちゃんは魔力石を知っていたのか。

「アレクシオ君は魔力石を見たことがあるんじゃな?」

「ああ。僕も家庭教師に魔力感知と操作を教えてもらう時に使っている」

 坊ちゃんの話に、校長は納得したように頷いた。

「魔力の感知と操作を教えるのによく使われるからのぉ」

 ふむふむ、なるほど。
 で、それ使って何するの?

「今、この魔力石には、魔力が入っておる」

 さっき入れてたからね。

「今度はこの魔力石の魔力を感知するんじゃ」

「どうやるんですか?」

「焦るでない。基本的にはさっき身体の内側の魔力を感じた時と同じじゃ。意識を集中して探してみなさい。魔力石に触れた方が、そこにある、という感覚がして分かりやすいと思うぞ」

 校長のアドバイス通り、魔力石に触りながら、目を閉じて意識を集中させる。
 が。

「……。………………」

 ……あれぇ?
 俺が目を開けて首を傾げると、校長が言った。

「ふむ。まぁ、そう簡単にはいかんのぉ」

 えー。すぐ出来ると思ってたんだけどなぁ。
 物語のようにちゃっちゃかちゃーっと出来るようにはなんないかー。

「まぁまぁ。肩を落とすでない。一度や二度で出来るものでもないんじゃ。焦らずゆっくりで良いんじゃよ」

「……はい」

 仕方ない。千里の道も一歩から、だ。地道に頑張りますか。


……………………


 「んん~……?」

 ……出来ない。
 あれからもう三十分は魔力石と向き合っている。それなのに、出来るようになるどころか、集中力が切れてきてるし、魔力のマの字も感じない。

「おい、うるさいぞ。そんなに唸るな」

 坊ちゃんは、校長になんか別のことを教わっている。

「はーい……」

 元気のない返事をして、もう一回……と思ったところで、また声をかけられた。

「なんだ、まだ出来ないのか?」

 出来ないから唸ってんだよぉ!
 自分は出来るからって偉そうに!

「……ハイ。マダデキマセン」

 なーんの感情も込もってない声で言うと、坊ちゃんは

「そうか……」

 とだけ言って、じっと俺の方を見ている。
 ?
 なんか、変なもんでも食べた?てっきり馬鹿にされると思ったけど……。
 てか、居心地悪いからやめて欲しいんだけど。
 なんとも言えない空気になりつつあるところに、ミゲリオさんが口を開いた。

「坊ちゃん、アドバイスとか、何かないんすか?」

 助かったような、そうでもないような。
 坊ちゃんが平民の俺にアドバイスなんかしないだろ。

「まぁ、ないこともない。どうしてもと言うなら教えてやってもいいぞ」

 ほらな。超上から目線じゃん。
 実際に上なんだけどさ。

「いえ、けっこうです」

「なっ!僕が教えてやると言っているのに、なぜ断る!」

 言い方がムカつくから。……とは流石に言えない。

「えっと……」

 返事に困っていると、ミゲリオさんがズバッと言った。

「言い方がダメっすね。上から過ぎっす。坊ちゃん、そんなんじゃ本当に嫌われるっすよ」

 本当にズバッと言った。

「なっ、何がいけないのだ!僕は貴族だぞ」

 そういうとこだぞ。

「はぁー……。こんなんじゃ、夢のまた夢っすね。で、どうするんです?教えてあげるんすか?教えてあげないんすか?」

 ……何か夢があんのか?
 まぁ、いいけど。俺、感知の練習に戻ってもいい?
 坊ちゃんが喋るか授業に戻るかしないと、俺何も出来ないんだよ。だから早くその迷った感じの顔やめて?
 無視するわけにはいかず、かと言って言いたいことも特にないので、坊ちゃんの方を向いたまま待つ。
 すると、坊ちゃんがゆっくり口を開いた。

「……身体の内側の魔力を感知するといい」

 今、身体の外の魔力を感知しようとしてるんだが?

「魔力石は手に持っているんだ。手や指先の魔力のその先に、魔力石の魔力があるイメージを持て。身体の内側から外側へ魔力を辿っていくんだ」

 あ、そういうことね。

「僕は、先に身体の内側の魔力操作をして、指先まで魔力を移動させないと、指先に魔力がある感覚を持てなかった。平民、お前は魔力が馬鹿みたいに多いから、指先の魔力まで感じられるのだろう?」

 褒めてんの?貶してんの?
 でも、まぁ。

「……ありがとうございます」

「ふんっ」

 お礼を言ったが、坊ちゃんはプイっと顔を背けて自分の課題に戻ってしまった。
 俺も、もう一回。
 坊ちゃんのアドバイス通り、まずは身体の内側の魔力を感じることから始める。今回は全身の魔力じゃなくて、魔力石を持っている右手の方に集中していく。そんで、手の先の……。

「!」

 一瞬だったけど、今までとは違う感じがした。何かに触ったような、引っ掛けたような。
 あれが魔力石の魔力か?
 ……。坊ちゃんのアドバイス、すごいな。ちょっとだけ見直した。
 この調子で練習してけば、出来るようになるかも。
 今までの三十分とは違い、道が見えたような感じがして、モチベーションも復活した。俺は、午後の授業が終わる時間まで、ちょっとずつ成長しながら、集中力を切らすことなく練習に励んだ。
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