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1章
29.遠足当日!
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待ちに待った遠足当日。
この一週間で、グループのメンバーは敬語なし、同じグループにならなかったクラスメイトも、敬語は使ったり使わなかったりするが、アレク相手でも、とりあえず会話が出来るようになった。
教室の雰囲気は未だぎこちないものの、入学時のような緊張感はなくなったように思う。
恐るべし、子どものコミュ力。入学してからの二ヶ月が嘘の様だ。
そのおかげか、アレクの教室内での態度は日に日にデカくなっていった。
こいつ、あれか?人見知りか?
「全員揃いましたかー?いない人ー?」
お約束だけど、いない人は、返事しません。
クラスごとに校庭に集まった一年生は、各担任の指示のもと、グループに分かれて並んでいる。
後ろから服を軽く引っ張られて振り返ると、ネリーが不安そうな顔で言った。
「ねぇ、ロアン君、どうしよう。ラミちゃんがいない……」
そういえば、俺も今日はラミを見ていないな。集合時間まではまだもう少しあるから、そんなに不安にならなくても大丈夫だと思うけど。
「おい、アレク、ルマ。ラミ見た?見当たらないんだけど」
一応二人にも確認するが、
「いや。見ていない」
「俺も」
二人共首を横に振る。
「ラミちゃん、いつもは早めに来るのに……」
確かに、ラミが授業に遅刻してるの見たことない。朝も、俺が学校に着いたら既に教室にいるし。
どこにいるんだろう、なんて軽く探しながら話してたら、集合時間になってしまったようだ。
「時間ですがー……」
先生も、ラミが来ていないことに気付いているっぽい。
どうすんだろ?
と、そこへ、綺麗な赤い髪が走ってくる。
「来たっぽい」
ほら、と校門の方を指差してネリーに教えてあげる。
「ごめんなさーい!っ、はぁ、はぁっ……」
走って来たラミは、息を整えながら言った。
「ギリギリ、セーフ……」
「いえ、残念ながらギリギリアウトですー」
先生にばっさりと返される。
「えっ、うそ」
「本当です。珍しいですねー。どうしたんですか?」
「えぇっとぉ……楽しみで、昨日なかなか寝れなくって……寝坊しました」
ラミは、目を逸らしながら言った。
子どもか!……子どもだな。
にしても、まぁ。本当にそれで遅刻するやつがいるとは。
「はぁ……。まぁー、事故とかではなくてよかったです。じゃあ、馬車に乗るので、順番について来て下さーい」
先生は、呆れ顔で溜め息を吐いてから、クラス全体に向けて言った。
校庭の奥の方に停められている馬車に向かって、先生の後をゾロゾロとついて行く。
並んでいるのは、雨風避けの布がかかった、幌馬車だ。所狭しと並んでいる幌馬車に、クラスを二つに分けて乗り込んでいく。
「これが、馬車か?」
『壊れていないか?』とアレクが言った。
「え、馬車って言ったらこれだろ?」
街の中を走っているのも、街の外へ出る馬車も、基本的には、ここに並んでるのと同じような馬車だ。遠くへ行くやつは、丈夫な作りになっていたり、もうちょっとしっかりした屋根が付いていたりする。
俺が聞くと、アレクは言った。
「僕の知っている馬車は、屋根も壁ももっとしっかりしているし、椅子もふかふかだ」
あ、そうか。
アレクは貴族だから、いつもは、もっといいやつに乗ってるんだ。言われてみれば、いつもアレクを送り迎えしてる馬車は、それはそれは立派なものだ。
あんなのに乗ってたら、これはボロボロに見えるよなぁ。
「アレク、これ。お尻の下に敷くといいよ」
ルマが、手に持っていたクッションをアレクに差し出す。
あー。俺もクッション持ってくればよかった。
「いつもアレクが使ってるフカフカの椅子には敵わないだろうけど、無いよりはマシだと思うから」
「ルマの物だろう?」
「俺はいいよ」
「坊ちゃん、ありがたく借りといた方がいいっすよ」
ミゲリオさんにもそう言われ、アレクはクッションを受け取って座る。
馬車の椅子には、薄いクッションが敷いてあるものの、長時間移動すれば、お尻が痛くなる。いつもフカフカの椅子に座って移動するアレクにとっては、それこそ未知の世界だろう。
「全員乗りましたねー?」
クレイジー先生が、二台の馬車を順番に覗く。
「一組から順番に出発しますー。くれぐれも立つことのないように。怪我しても知りませんよー」
そう言って、先生は先生達が乗る馬車の方へ歩いて行く。
馬車は順番に、校庭側の門から出て行く。入学式の時や、普段使っている門とは別だ。
動き出すと、早速アレクがなんか言い出した。
「おい、待て。揺れるぞ!」
「揺れるっすよ。馬車なんすから」
ミゲリオさんにそう言われたアレクは、驚いた顔で言った。
「揺れる……だと⁉︎」
当たり前だろう。何を言うか。
「貴族の馬車は揺れないのか?」
「いや、揺れるっには揺れるがっ、こんなに、ガタガタしないぞ」
俺が聞くと、アレクは既にガタガタに負けていた。
まだ平坦な道だぞ?せいぜい小石か砂利くらいしか落ちてないが?これからもっと揺れるけど、着いた時には使い物にならなくなってそうだな。
「とりあえず、舌噛まないように、口閉じてるといいんじゃないかしら?」
ラミに言われて、アレクは大人しく口を閉じる。
素直に従うとは、よっぽど危険だと思ったんだな。
しかし、道中俺達が楽しく話している中、アレクが黙っていられるわけもなく、しょっちゅう口を開いては、舌を噛みそうになり、
「もう、いい加減我慢するっす!本当に舌噛むっすよ!」
とミゲリオさんに何度も言われていた。
この一週間で、グループのメンバーは敬語なし、同じグループにならなかったクラスメイトも、敬語は使ったり使わなかったりするが、アレク相手でも、とりあえず会話が出来るようになった。
教室の雰囲気は未だぎこちないものの、入学時のような緊張感はなくなったように思う。
恐るべし、子どものコミュ力。入学してからの二ヶ月が嘘の様だ。
そのおかげか、アレクの教室内での態度は日に日にデカくなっていった。
こいつ、あれか?人見知りか?
「全員揃いましたかー?いない人ー?」
お約束だけど、いない人は、返事しません。
クラスごとに校庭に集まった一年生は、各担任の指示のもと、グループに分かれて並んでいる。
後ろから服を軽く引っ張られて振り返ると、ネリーが不安そうな顔で言った。
「ねぇ、ロアン君、どうしよう。ラミちゃんがいない……」
そういえば、俺も今日はラミを見ていないな。集合時間まではまだもう少しあるから、そんなに不安にならなくても大丈夫だと思うけど。
「おい、アレク、ルマ。ラミ見た?見当たらないんだけど」
一応二人にも確認するが、
「いや。見ていない」
「俺も」
二人共首を横に振る。
「ラミちゃん、いつもは早めに来るのに……」
確かに、ラミが授業に遅刻してるの見たことない。朝も、俺が学校に着いたら既に教室にいるし。
どこにいるんだろう、なんて軽く探しながら話してたら、集合時間になってしまったようだ。
「時間ですがー……」
先生も、ラミが来ていないことに気付いているっぽい。
どうすんだろ?
と、そこへ、綺麗な赤い髪が走ってくる。
「来たっぽい」
ほら、と校門の方を指差してネリーに教えてあげる。
「ごめんなさーい!っ、はぁ、はぁっ……」
走って来たラミは、息を整えながら言った。
「ギリギリ、セーフ……」
「いえ、残念ながらギリギリアウトですー」
先生にばっさりと返される。
「えっ、うそ」
「本当です。珍しいですねー。どうしたんですか?」
「えぇっとぉ……楽しみで、昨日なかなか寝れなくって……寝坊しました」
ラミは、目を逸らしながら言った。
子どもか!……子どもだな。
にしても、まぁ。本当にそれで遅刻するやつがいるとは。
「はぁ……。まぁー、事故とかではなくてよかったです。じゃあ、馬車に乗るので、順番について来て下さーい」
先生は、呆れ顔で溜め息を吐いてから、クラス全体に向けて言った。
校庭の奥の方に停められている馬車に向かって、先生の後をゾロゾロとついて行く。
並んでいるのは、雨風避けの布がかかった、幌馬車だ。所狭しと並んでいる幌馬車に、クラスを二つに分けて乗り込んでいく。
「これが、馬車か?」
『壊れていないか?』とアレクが言った。
「え、馬車って言ったらこれだろ?」
街の中を走っているのも、街の外へ出る馬車も、基本的には、ここに並んでるのと同じような馬車だ。遠くへ行くやつは、丈夫な作りになっていたり、もうちょっとしっかりした屋根が付いていたりする。
俺が聞くと、アレクは言った。
「僕の知っている馬車は、屋根も壁ももっとしっかりしているし、椅子もふかふかだ」
あ、そうか。
アレクは貴族だから、いつもは、もっといいやつに乗ってるんだ。言われてみれば、いつもアレクを送り迎えしてる馬車は、それはそれは立派なものだ。
あんなのに乗ってたら、これはボロボロに見えるよなぁ。
「アレク、これ。お尻の下に敷くといいよ」
ルマが、手に持っていたクッションをアレクに差し出す。
あー。俺もクッション持ってくればよかった。
「いつもアレクが使ってるフカフカの椅子には敵わないだろうけど、無いよりはマシだと思うから」
「ルマの物だろう?」
「俺はいいよ」
「坊ちゃん、ありがたく借りといた方がいいっすよ」
ミゲリオさんにもそう言われ、アレクはクッションを受け取って座る。
馬車の椅子には、薄いクッションが敷いてあるものの、長時間移動すれば、お尻が痛くなる。いつもフカフカの椅子に座って移動するアレクにとっては、それこそ未知の世界だろう。
「全員乗りましたねー?」
クレイジー先生が、二台の馬車を順番に覗く。
「一組から順番に出発しますー。くれぐれも立つことのないように。怪我しても知りませんよー」
そう言って、先生は先生達が乗る馬車の方へ歩いて行く。
馬車は順番に、校庭側の門から出て行く。入学式の時や、普段使っている門とは別だ。
動き出すと、早速アレクがなんか言い出した。
「おい、待て。揺れるぞ!」
「揺れるっすよ。馬車なんすから」
ミゲリオさんにそう言われたアレクは、驚いた顔で言った。
「揺れる……だと⁉︎」
当たり前だろう。何を言うか。
「貴族の馬車は揺れないのか?」
「いや、揺れるっには揺れるがっ、こんなに、ガタガタしないぞ」
俺が聞くと、アレクは既にガタガタに負けていた。
まだ平坦な道だぞ?せいぜい小石か砂利くらいしか落ちてないが?これからもっと揺れるけど、着いた時には使い物にならなくなってそうだな。
「とりあえず、舌噛まないように、口閉じてるといいんじゃないかしら?」
ラミに言われて、アレクは大人しく口を閉じる。
素直に従うとは、よっぽど危険だと思ったんだな。
しかし、道中俺達が楽しく話している中、アレクが黙っていられるわけもなく、しょっちゅう口を開いては、舌を噛みそうになり、
「もう、いい加減我慢するっす!本当に舌噛むっすよ!」
とミゲリオさんに何度も言われていた。
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