上 下
45 / 76
1章

44.依頼……?

しおりを挟む
 案内されたのは、壁に取り付けられている大きなコルクボードの前。ギルドの入り口から見ると、右側の壁だ。

「Gランクはここね」

 ランクごとに区切られているボードの、Gランクのところを見ると……。
 薬草採取、小型で危険の少ない動物や魔物の討伐、地域のゴミ拾い……も、まぁ、よしとしよう。

「結構、色々……あるんだな」

 『シウーの乳搾りを手伝ってください!報酬はアイスクリーム』とか、『求む!チェリーの収穫お手伝いさん!お仕事の後はチェリーパイを食べよう!』とか。

「おい、このアイスクリームとはなんだ!」

「あたし、チェリーパイ食べたーい!」

「私は、こっちのママレード……」

 依頼って言うか、体験会だな。全員食べ物目当てだし。

「へー。面白いっすね」

「最初は普通に収穫の手伝いをしてたんだけどね。子どもが行くと、依頼主さんが色々くれたみたいで。結局、報酬として払う金額は少なくして、食べ物だったり、小物だったりを依頼主さんに直接もらうようになったのよ。依頼料も銅貨三枚くらいね」

「安っ!パン一個くらいの値段じゃないっすか」

 チコルさんとミゲリオさんの会話を勝手に聞く。
 なるほどね。
 形式的に依頼料はもらうけど、多分依頼主もそんなに困ってないんだろう。子どもに色々経験させてあげたいっていう大人の気持ちが作った『依頼』なわけだ。
 隣のFランクの依頼を見ると、同じような収穫手伝いの依頼が貼ってある。そっちは多分、正式な依頼だ。依頼書もきっちり書いてある。

「で……」

 『なんか依頼を受けるのか』と聞こうとしたが、既にケンカ勃発してる。

「アイスクリーム!」

「チェリーパイ!」

 乳搾りと、収穫な?
 傍でネリーがオロオロしてるし、ルマは呆れ顔でため息吐いてる。
 アレクもラミも、良くも悪くも自分の意見はハッキリ言う。言い合いになるのは大抵この二人だ。
 ったく……。

「じゃあ、ネリーが言ってたママレードでいいじゃん」

「「よくない!」」

 即答かよ。
 めんどくせー。
 乳搾り、収穫、ママレードの依頼書を読む。ママレードのやつは依頼書って言うか、『ジャム作り体験』って書いてあるけど。

「早めに行っといた方がいいのも、特にないな」

 この世界全体の話なのか、この国だけなのか、あるいはこの領地が特殊なのか、詳しいことはさっぱり分からんが、旬の食べ物ってのがない。常に実をつけているわけではないが、大抵の植物、穀物、その他諸々は、一年中いつでも栽培出来るらしい。
 収穫期、とか言うのがないから、依頼の期間も特に定まってない。

「確かに、これならどれが先でも大丈夫だね。それが一番困るけど……」

 隣に来ていたルマに『そうだよなー』と返しながら、解決方法を考える。
 考える、って言ったって、こうなった場合の対処法は一つだよな。

「ジャンケンしたら?」

 ルマは『おぉ!いいじゃん』と言い、ネリーも頷いてくれた。が。

「何っ!貴族である僕が優先されるのではないのか!」

「冒険者に身分は関係ないってば!実力主義って言ってたでしょ?」

「……っ!だ、だが、ジャンケンなんて、運だろう!」

 どうしてもアイスクリームが食べたいらしい。自分が負ける可能性のある提案は、受けたくないんだろう。
 だが、俺は優しくないぞ。

「運も実力のうちって言うじゃん?」

 だからちゃっちゃと決めてくれ。
 アレクは『うーんー』と唸っているが、ラミは既にジャンケンで決める気らしい。『早くして!』とキレかけている。

「いーい?最初はグーよ?パーなんか出したら握った拳で殴るからね!」

「お、おう……」

 ラミの気合いが入った、と言うか入り過ぎて過激になった発言に、アレクも若干引いてる。

「ラミちゃん……殴っちゃダメだよ」

「本当に殴りはしないわよ」

 ラミがそう言うが、ルマはあんまり信じてないらしい。

「本当に殴りそうだからネリーも言ってるんだよ……」

 俺もそう思う。

「「最初はグー!ジャンケン……ポン!」」

 あれだけ言い合っていたが、ジャンケンは一発で勝負がついた。

「いやぁー!あたしのチェリーパイがぁぁー」

 だから、メインは収穫ね。

「やった!アイスクリームが食べられるぞ!」

 お前もだ。乳搾りをしろ。

「決まったっすか?」

 これが仕事とは言え、待っててくれたミゲリオさんに申し訳ないな。

「チコルさんは受付に戻ったんで、渡しに行くっすよ。依頼書をボードからはがして持ってくっす」

 一番最初なので、今日のところはミゲリオさんがやってくれるらしい。
 もしかして……。

「依頼の受け方、聞いといてくれた感じですか?」

「まぁ、暇だったんで。しばらく決まりそうになかったじゃないすか」

 俺じゃないけど、なんかすいません。

「ありがとうございます」

「いいんすよ。これも仕事のうちっす」

 お礼を言うと、ミゲリオさんはニコッと笑って言ってくれた。
 なんていい人だろうか。

「あら、やっと決まった?今日は依頼受けないで帰っちゃうんじゃないかと思ったわ」

 受付まで依頼書を持って行くと、チコルさんにカラカラと笑われた。
 ミゲリオさんが依頼書を渡すと、チコルさんはテキパキと手続きをしてくれた。

「人数は六人でいいのよね?この依頼は日付を指定してもらうものだけど、いつにするのかしら?」

「明日でいいんじゃない?ちょうど学校休みだし」

 ルマ君、それはとってもいい案だと思うが……。

「俺、明日は朝から店の仕事あるからなー。なんとか午後だけでも空けられるといいんだけど」

「じゃあ、みんなで迎えに行けばいいんじゃない?」

「ついでに〈アスター〉でお昼ご飯食べるっていうのはどう?」

 ルマの意見に、ラミが乗る。
 え、ご飯も食べるの?

「いいと思うよ」

「ふん。僕が直々に迎えに行ってやるんだ。感謝しろよ?」

 うーん。まぁ、アレクも来るなら、両親もダメとは言わないだろう。

「オッケー。分かった。それでいこう」

「じゃあ、明日の午後っすね」

「はーい。依頼主さんには、こちらから連絡を入れておくわ。地図はこれね。それと、この用紙も持って行って。依頼をきちんとこなしたら、依頼主さんにサインをもらってね」

 チコルさんは、地図と用紙をミゲリオさんに渡す。

「依頼達成報告は、達成してから三日以内よ。その時に報酬を渡すことになっているから、忘れずにね」

「了解っす」

 これで依頼を受ける時の手続きは終了か。そしたら今日は解散だな。

「明日ねー」

「おー。店で待ってるー」

 ギルドを出て、それぞれに家に帰る。
 明日、楽しみなんだが、若干不安なのはなんでだろうか。
しおりを挟む

処理中です...