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2章
66.久しぶり
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振り返ると、そこにいたのはラミとネリーだった。
やっぱり、さっきのはラミの声だ。
最後に二人と会ったのは、多分、入学試験の時。ラミは商会の手伝いがあったり、依頼を受けるのも、討伐系が多くなってきて、男子だけで行くことが増えたから、自然と二人と会うことが減った。
仲が悪くなったりしたわけじゃないんだけどね。
「久しぶり。二人も通うんだ」
俺が言うと、ラミが笑顔で答えた。
「もちろん!商会の手伝いをするにも、知っておいた方がいいこといっぱいあるもの!」
「私も、商会のお手伝いしたいなぁって思ってるから」
「ネリーも商会で働くの?」
歩き出しながらルマが聞くと、ネリーはちょっと困った顔をしながら答えた。
「うーん……。まだわからないけど、そうなったらいいかな、とは思ってる」
「そうなったら、長い付き合いになりそうだね」
商会をやっているラミの家と、その商会から調味料を仕入れている食堂を営む俺の家。俺も将来、店を手伝うつもりだし、ネリーが商会で働くなら、大人になってからも、そこそこ顔を合わせることになるだろう。
「えー。それならあたし、家の手伝いやめようかしら」
ラミが大袈裟に肩をすくめて言った。
「ちょっと、それどう言う意味?」
俺が軽く睨んでそう言えば、ラミは『きゃあ怖い』とか言う。
ちっとも怖くなさそうだけど。
「久しぶりだけど、いつも通り、かな」
「ま、それが一番だろ」
ルマが呟くと、ライがそれに返して欠伸をする。
「……ん?なんだ?校門の辺り、なんかあったのか?」
ライの言葉に、みんな揃って校門の方を見る。
あと数メートルのところにある校門には、チラチラと何かを窺う様子の人や、コソコソと話す人、そそくさと逃げ出す様に校門を通って帰る人などがいて、『何かある』と思わせるには十分過ぎる。
「何か、ある……んだよね。きっと」
「まぁ、なんにしたって行くしかないわ。校門を通らなきゃ帰れないもの」
「同感」
少し不安そうな顔のネリーとは反対に、ラミはあっさりとそう言って歩き出す。ライもさっさとそれに続いた。
「ま、そりゃそうか」
一拍遅れて俺も歩き出す。
後ろで小さな溜め息が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだ。
「……ん?」
よく見ると、異質な雰囲気の校門を、『なんともない』という様子で通る人もいる。
なんなら、異質の元凶があると思われる方向に手を振っている子もいる。
あれは、アニーか?初等学校で、同じクラスだった子だ。卒業以来だ、な……。
「…………」
……嫌な予感がする。が、ラミの言う通り、校門を通らなきゃ帰れない。
嫌な予感が的中しないことを願って校門まで歩き、元凶を確認する。
「遅いぞ!まったく、僕を待たせるなんて」
……あぁ、的中してしまった。
豪華な馬車の前に、領主の息子、アレクシオ・パドラ・ファフニース伯爵令息様が立っていた。
「あれ?アレク?」
ルマとネリーも後ろから来て、校門の傍に停めてあるアレクの馬車の側に寄る。
「なんだ、みんな揃っていたのか」
「偶然ね。ラミとネリーはついさっき会ったんだ」
アレクとルマはいつも通りに会話してるけど、他に色々あるでしょ。
「そんなことより!」
俺が言うと、みんなの顔が一斉にこちらを向く。
「移動、だな」
俺の言いたいことを代わりに言ったのは、ライだった。
「ここじゃ目立つ。場所変えた方がいいだろ」
それに、他の人達が萎縮している。貴族がいるんだから、当然だ。
さらに、その貴族にタメ口で話している無礼者。周りから見れば、もはや生きた心地がしない、と言う人もいるだろうというくらいにありえない光景だ。
「別に僕は何もしないんだがなぁ」
アレクは少し、ほんの少しだけ。寂しそうな顔をした気がする。
「お前と俺達は身分が違うんだよ。身分の違いなんて、お前の方がよく分かってんだろ」
貴族の中には、急に街へ出て訳も分からない横暴を働く者もいるらしい、と、以前アレクに聞いたことがあるし、それと似たような噂も聞いたことがある。
もちろん、そんな貴族ばかりじゃないだろうし、真偽のほどは定かではないが、『悪事千里を走る』とはよく言ったもので、悪い噂程よく広まる。貴族に無礼を働かないように、と、平民が気を張るのも仕方ない。
「まぁな……。ミゲリオ、お前は前に行け。この人数だと少し狭いかもしれないが、幌馬車よりはいいだろう。乗ってくれ」
アレクは、馬車の中で待機していたミゲリオさんを御者台の方へ追いやって馬車に乗り込み、俺達も馬車に乗せてくれた。
ミゲリオさん、ごめんなさい。
「ラッキー。お尻痛くならなくて済む!ありがとう、アレク」
そう言って、いの一番に馬車に乗り込んだのはラミだった。
続いて俺とライが乗り、ネリーは『お、お邪魔します』と言いながら、ルマは『何回乗っても緊張するなぁ』と苦笑しながら乗り込んだ。
ギルドで依頼を受ける時も、そうじゃない時も、アレクと一緒に馬車に乗って出掛けるとなると、アレクが幌馬車を嫌がるから、この高級な馬車に乗ることになる。
ここにいる俺達は、毎回全員一緒ってわけじゃないから回数に差はあれど、庶民には不相応な馬車に、実は何回か乗っているのだ。
俺達を乗せた高級馬車は、ゆっくりと動き出した。
やっぱり、さっきのはラミの声だ。
最後に二人と会ったのは、多分、入学試験の時。ラミは商会の手伝いがあったり、依頼を受けるのも、討伐系が多くなってきて、男子だけで行くことが増えたから、自然と二人と会うことが減った。
仲が悪くなったりしたわけじゃないんだけどね。
「久しぶり。二人も通うんだ」
俺が言うと、ラミが笑顔で答えた。
「もちろん!商会の手伝いをするにも、知っておいた方がいいこといっぱいあるもの!」
「私も、商会のお手伝いしたいなぁって思ってるから」
「ネリーも商会で働くの?」
歩き出しながらルマが聞くと、ネリーはちょっと困った顔をしながら答えた。
「うーん……。まだわからないけど、そうなったらいいかな、とは思ってる」
「そうなったら、長い付き合いになりそうだね」
商会をやっているラミの家と、その商会から調味料を仕入れている食堂を営む俺の家。俺も将来、店を手伝うつもりだし、ネリーが商会で働くなら、大人になってからも、そこそこ顔を合わせることになるだろう。
「えー。それならあたし、家の手伝いやめようかしら」
ラミが大袈裟に肩をすくめて言った。
「ちょっと、それどう言う意味?」
俺が軽く睨んでそう言えば、ラミは『きゃあ怖い』とか言う。
ちっとも怖くなさそうだけど。
「久しぶりだけど、いつも通り、かな」
「ま、それが一番だろ」
ルマが呟くと、ライがそれに返して欠伸をする。
「……ん?なんだ?校門の辺り、なんかあったのか?」
ライの言葉に、みんな揃って校門の方を見る。
あと数メートルのところにある校門には、チラチラと何かを窺う様子の人や、コソコソと話す人、そそくさと逃げ出す様に校門を通って帰る人などがいて、『何かある』と思わせるには十分過ぎる。
「何か、ある……んだよね。きっと」
「まぁ、なんにしたって行くしかないわ。校門を通らなきゃ帰れないもの」
「同感」
少し不安そうな顔のネリーとは反対に、ラミはあっさりとそう言って歩き出す。ライもさっさとそれに続いた。
「ま、そりゃそうか」
一拍遅れて俺も歩き出す。
後ろで小さな溜め息が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだ。
「……ん?」
よく見ると、異質な雰囲気の校門を、『なんともない』という様子で通る人もいる。
なんなら、異質の元凶があると思われる方向に手を振っている子もいる。
あれは、アニーか?初等学校で、同じクラスだった子だ。卒業以来だ、な……。
「…………」
……嫌な予感がする。が、ラミの言う通り、校門を通らなきゃ帰れない。
嫌な予感が的中しないことを願って校門まで歩き、元凶を確認する。
「遅いぞ!まったく、僕を待たせるなんて」
……あぁ、的中してしまった。
豪華な馬車の前に、領主の息子、アレクシオ・パドラ・ファフニース伯爵令息様が立っていた。
「あれ?アレク?」
ルマとネリーも後ろから来て、校門の傍に停めてあるアレクの馬車の側に寄る。
「なんだ、みんな揃っていたのか」
「偶然ね。ラミとネリーはついさっき会ったんだ」
アレクとルマはいつも通りに会話してるけど、他に色々あるでしょ。
「そんなことより!」
俺が言うと、みんなの顔が一斉にこちらを向く。
「移動、だな」
俺の言いたいことを代わりに言ったのは、ライだった。
「ここじゃ目立つ。場所変えた方がいいだろ」
それに、他の人達が萎縮している。貴族がいるんだから、当然だ。
さらに、その貴族にタメ口で話している無礼者。周りから見れば、もはや生きた心地がしない、と言う人もいるだろうというくらいにありえない光景だ。
「別に僕は何もしないんだがなぁ」
アレクは少し、ほんの少しだけ。寂しそうな顔をした気がする。
「お前と俺達は身分が違うんだよ。身分の違いなんて、お前の方がよく分かってんだろ」
貴族の中には、急に街へ出て訳も分からない横暴を働く者もいるらしい、と、以前アレクに聞いたことがあるし、それと似たような噂も聞いたことがある。
もちろん、そんな貴族ばかりじゃないだろうし、真偽のほどは定かではないが、『悪事千里を走る』とはよく言ったもので、悪い噂程よく広まる。貴族に無礼を働かないように、と、平民が気を張るのも仕方ない。
「まぁな……。ミゲリオ、お前は前に行け。この人数だと少し狭いかもしれないが、幌馬車よりはいいだろう。乗ってくれ」
アレクは、馬車の中で待機していたミゲリオさんを御者台の方へ追いやって馬車に乗り込み、俺達も馬車に乗せてくれた。
ミゲリオさん、ごめんなさい。
「ラッキー。お尻痛くならなくて済む!ありがとう、アレク」
そう言って、いの一番に馬車に乗り込んだのはラミだった。
続いて俺とライが乗り、ネリーは『お、お邪魔します』と言いながら、ルマは『何回乗っても緊張するなぁ』と苦笑しながら乗り込んだ。
ギルドで依頼を受ける時も、そうじゃない時も、アレクと一緒に馬車に乗って出掛けるとなると、アレクが幌馬車を嫌がるから、この高級な馬車に乗ることになる。
ここにいる俺達は、毎回全員一緒ってわけじゃないから回数に差はあれど、庶民には不相応な馬車に、実は何回か乗っているのだ。
俺達を乗せた高級馬車は、ゆっくりと動き出した。
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