深紅の魔女─レディ・モナルダ─

智慧砂猫

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『深紅の魔女レディ・モナルダとお姫様』

第15話「五年の後悔」

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フローリン・ブレイディ。ブレイディ子爵夫妻が最も愛し、大切に育てた娘。モナルダの友人であり、よく恋愛相談の相手として茶会に呼んだ。

 悪い気はしなかった。恋愛など興味もないが、モナルダはうら若き娘の青春を謳歌する姿を美しく思ったし、喜々として話す様子は愛らしかった。

 なのに。なのに、死んでしまった。死なせてしまった。何度も自分を責めた。子爵夫妻の何もかもを失ったと言わんばかりの絶望を一身に受け止めて。

 驕りがあったと言わざるを得ない。自分は魔女だから、その友人にわざわざ手を出す人間などいるまいと思っていた。それが最初で最後の背負った悲しみ。もう誰とも深く関わるのはやめようと誓って、ニューウォールズを離れた。

 戻ってきたのは偶然だ。バージニアから子爵夫妻が亡くなったのを聞いて、近々、墓参りにでも訪れるべきだろうと決心したばかりのとき。レティを連れてリベルモントへ向かう事になり、それならば、と足を運んだ。

「お前の言葉を聞いて良かった。あのとき、関わらない事を選んでいれば、私は何も知らないままだった。子爵令嬢だけじゃない。夫妻も……」

 見た資料の中には、ビリーから請け負って始末した人間のリストがあった。これまで遺体で見つかったり、行方不明になった令嬢だけではない。ブレイディ子爵は事故に見せかけて殺害されていた。苦に思った夫人は、すぐさま犯人捜しを始めたが、数日後に自宅で首を吊った。いや、吊るされたのだ。

「悔しいよ。私は自分が魔女である事に誇りを持っていた。だから五年前、心を砕かれた。自分のせいで、最後まで一緒にいたのに守ってやれず、令嬢がどれほど苦しく恐ろしい思いをしただろうかと苦悩させられた。なのに……!」

 五年。いや、それ以上とも言える。ビリー・ロッケンは何食わぬ顔でモナルダと接した。心の中で嘲笑しながら、愚か者のレディ・モナルダと呼んでいた事だろう。なんとも腹立たしい男か、と険しい表情を浮かべた。

「偉そうに関わり方を間違えるなと説教しておいて、このザマだ。笑ってもいいぞ、レティ。この恥さらしめと言われても間違っていない」

「えっ。いやいや、そんな事言えないよ。でも……うん、そうだね」

 悲しそうに笑う魔女の背中に、優しく手を触れた。

「ボクは味方だよ。分かった事があるなら徹底的にやろう。ロッケン商会そのものが関係あるかどうかは分からないけど、ビリーは許しちゃいけない人だ」

「……ああ、そうだな。お前も騎士様に一歩近づいたんじゃないか」

 茶化した言い方をしつつも、勇気付けられたと嬉しくなった。後悔などしている時間はない。失ったものを取り戻せないのなら、奪った者に相応しい末路を与えなくてはならない。

「まあ、証拠は手に入れた。だが捏造だと言われるのも困るから、確実に罪に問える瞬間を狙いたいものだ。憲兵も、こちらに抱き込むべきか」

「それはボクに任せて。フフ、こういうときのために────」

 懐から取り出した金のブローチを手に乗せて見せた。入っているのはヴェルディブルグ王家の紋章であり、初代女王の横顔を象ったもの。所有者が王家の人間である事を示す大切な品だ。

「いくら憲兵隊が伯爵家の支援を受けて証拠を処分したとしても、ボクが王家の人間だと分かれば、彼らも協力せざるを得ないはずだよ。これまでの証拠隠蔽の罪を問えないにしろ、今後に対する抑止力にもなるかも。ボクたちが何も知らないていでいれば、むしろ積極的に働いてくれると思う」

 自信たっぷりな饒舌ぶりにはモナルダも意外そうに目を丸くする。これは本当にレティなのか、と思うほど彼女はよく頭が回った。

 これまで犠牲になった人々に対しての申し訳なさと悲しみ、そして犯人に対する怒りを彼女もまた抱えている。王族という民を守るべき立場でありながら、のうのうと王城で暮らすだけなどあってはならない事だ、と。

「まずは憲兵隊の屯所へ行かないとね。ボクたちがこれから行動に移すってときに、ビリーに邪魔をされてしまったら全部無駄になってしまう」

「ああ、そうだな。やはり現行犯で捕まえて、裁判で証拠のファイルブックを出してやるのが最も効果的だと言えるが……」

 どう捕まえるか。ビリーの犯行は計画的で、リスクを取らない。魔女が近くをウロウロしているうえに獲物もいないのであれば、彼はただ静かにやり過ごす事を選ぶのは明白だ。どう焚きつけたものかと考える。

 しかしそれさえも、レティは先に思いついていた。

「ボクに名案がある。ちょっとしたリスクはあるけど」

「リスク……。いや、まずは聞こう。お前の意見には価値がある」

「ふふ~ん! じゃあ、落ち着いて聞いてね」

 こほん、と衣装に引っ張られるように探偵ぶった満ち足りた顔をする。

「知ってるよ、彼はいわゆる銭ゲバという部類の人種なんでしょ。昔読んだ本にそんな言葉が書いてあった。それからいつも狙われているのは令嬢だ。か弱くて、抵抗できないからなのは間違いない。だから────ボクが囮になります!」
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