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第四章 地下世界
7 告白 ※
しおりを挟むぱちゅっ、ぱちゅんと激しい水音と肉のぶつかり合う音が響いている。
周囲の静かな木立の間を、その音だけがこだましている。
「はっ……ああっ、はあん、あんっ……!」
フランの腰をがっしりと掴み、ヴォルフは思うさまそこに腰をぶつけ続けた。
堪らない。ちょっと変になりそうだ。
ぬるぬるの彼の内壁は、どこまでも貪欲だった。いっぱいいっぱいまでヴォルフを受け入れ、激しい突き上げをどこまでも受け止める。
「やあっ……ひゃああんぅっ、いいっ、いいのおっ……!」
フランはもはや、自分でも何を言っているのか分からない様子だった。夢中になって自分でも腰を振っているが、もう目線も定まらない。ただただ、だらしなく口を開いて、そこから甘い啼き声をあげるばかり。
相当に我慢したつもりだったが、一発目は思った以上に早く終わってしまった。彼の奥の奥へ自分の欲望を思うさまぶちまける。
「あひっ……いいんっ!」
びゅく、びゅくと彼とは比べものにならないだろう臭いシロモノを彼の内側へ注ぎ込む。
「あは……あああ……」
びくびくっと彼が震える。
が、彼に休む間などは与えられなかった。
一度抜き、彼をうつぶせにさせ、腰を高くさせておいて、またすぐに激しく突き入れる。
「ひゃああうっ……! あうんっ!」
彼の内股はすでに、彼と自分のものでドロドロだ。二種類の白濁が混ざり合い、たらたらと彼のそこを濡れ光らせている。
それでもヴォルフは止まれなかった。
最初は前から。次に後ろから。
最後は彼を樹の幹に向かって立たせ、下から激しく突き上げた。
「いあっ……ああん、ひゃああん、ああっ……!」
一体、何度注ぎ込んだか。
自分でもいい加減おぼろげになった頃になって、ようやくヴォルフは彼の中からずるりと自分自身を引き抜いた。
フランはもはや、半分気を失ったようになってぐったりしている。二人してその場に倒れたまま、しばらくは荒い息をついていた。
やがてのろのろと彼の腕がのばされてきて、ヴォルフの体にしがみついた。ヴォルフも彼の体を抱きよせ、ゆっくりと抱きしめ合う。自然に互いの唇が近づいて、温かなキスをした。
へろへろながら、フランはうっすらと目を開けて微笑んだ。
「あり、がと……」
快楽のためではない、また別の雫がその目に浮かんでいる。
それを堪えて、必死に笑みを浮かべているのがはっきり分かった。
ヴォルフは黙ってまたそれを吸い取り、もう一度彼の唇をゆっくりとふさいでやった。
◆
そこから抱き合ったまま、二人はほんの少し眠った。目を覚ますと、すでに小一時間は経っていた。あまり時間はなかったが、一度温泉に戻り、そこで体を清めてから服を着ることにした。
幸いにして、服は多少汚れてはいたものの、ひどい臭いにはなっていなかった。フランの体液が人間のものとはまったく違うからだろう。むしろ高級な洗剤でも使ったかのような爽やかな香りがするぐらいだ。
フランは足が笑ってろくに歩けない様子なので、ヴォルフが抱いて移動する。最初は恥ずかしがって「いいよ、歩けるよ」と言い続けていたフランだったが、実際歩けないのだから仕方ない。ヴォルフは苦笑しながらも、最後は問答無用で彼の体を横抱きに抱き上げた。
二人で温泉に身を沈める。
ヴォルフは彼を自分の足の間に座らせて、後ろから抱きしめるようにした。フランも今では甘えるように、ゆったりとヴォルフに背中を預けている。
「いつごろ生まれるんだ? 子供」
「あ、うん……そうだね」
首筋に後ろからキスを落としながら訊ねると、フランはちょっと考えた。なんとなく濡れた髪の先をいじっている。
彼らの場合、子供はまず百発百中でできるものらしい。人間のような「当たりはずれ」などはそもそもないのだ。こういう厳しい環境下にある野生動物が、ほぼそうであるように。
「わりと、すぐかな。人間の女性が妊娠するのとはわけが違うし」
「へえ? そうなのか」
「うん。体形も、そんなに変わらないよ。生まれ方だって本物の人間とはだいぶ違うし」
「ふーん」
「あんなに出産が大変だったら、きっと僕、死んじゃうなー。人間のお母さんって、ほんと凄いよ。尊敬する」
「ぶはっ」
思わず噴き出した。それがあんまりしみじみした声だったからだ。
「なんっだ、そりゃ。けど、なんでお前、そんなこと知ってんだ?」
「ああ。君の部屋で見たドラマとか映画とか、そういうのに出てきたんだよ。もともと、知識としても知ってたけどね」
「ほーん」
「なんか、ふるーい医療ドラマ。めちゃくちゃ痛そうで、大変みたいだったから。ドラマで見ちゃうとなんかこう、インパクトが全然違うって言うか……」
「なるほどな」
この青年、思った以上にあの部屋で、妙な雑学知識を増やしてしまったようである。とは言えまあそんなのは、ほとんど「耳年増」とでも言うべき知識ではあるけれども。
「お前の子……か」
ヴォルフは無意識にフランの髪を撫でながらつぶやいた。
「さぞ可愛いんだろなー? お前似ならよ」
「え? えっと……」
フランが戸惑ったようにこちらを見る。少し、頬が赤いようだ。
「俺は、その子の顔も見られねえのか。……残念だ」
「えと、ヴォルフ……?」
「本当だぜ? 残念だ」
ぎゅっと彼の腰を抱きしめ、後ろからまた耳のあたりにちゅっと音を立ててキスをする。
「ヴォルフ……」
フランはふいとあっちを向いた。
ごく小さな声で、ごめんね、と聞こえる。
その声には明らかに涙が滲んでいるようだった。
(……なんだってんだ)
胸がちりちりと、焼き焦がされるような痛みを覚える。
彼を抱く手に、さらに力を込めて抱きしめる。
気が付けば、ヴォルフは彼の後ろから、その耳に口を寄せて囁いていた。
──『好きだ』、と。
フランの肩が、ぴくりと跳ねて固まった。
「ヤッちまってから言うなんざ、めちゃくちゃ反則だって分かってる。でも」
「ダメだよ。ヴォルフ」
急にぴしゃりと言い放って、フランがきっと振り向いた。
嘘のように固い声。
そして、いやに厳しい瞳だった。
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