白と黒のメフィスト

るなかふぇ

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第五章 輝く世界

15 悦楽 ※

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 求めるシディの声を聞いた途端、殿下の匂いが
 目の中にも、激しい欲望のうねりがはっきりと出現する。

「いいのか……? シディ」

 こくこくこく、と細かく頷いて見せる。もう半分意識が朦朧としている。これでまた意識が飛んだりしたら申し訳なさすぎる。二度とあんな失態は犯したくない。シディは必死で自分の意識を保とうとした。

「すまない。一応こう訊いてはいるが……そろそろ私も限界だ」

 ああ、そうなんだ。
 嬉しい。
 こんな自分の身体を、こんなにも求めてくださるなんて。この人が望めば、自分なんかよりももっときれいで、まっさらな体をした美しい人たちがいくらでもこの人の相手をしてくれるのだろうに。
 でもこの方がいま心から求めてくださっているのはこの自分なんだ。
 そう思うだけで、じわじわと胸の奥底から温かなものが溢れだす。それはそのままシディの目に滲みだした。

「インテス、さま……」

 大好きだ。この人が。
 両腕をのばせば、すぐに体を寄せてくださる。シディはその首にしがみついた。
 また優しい口づけが下りてくる。

「ん……っ」

 きて、と吐息で囁いたのを、インテス様はちゃんと聞き取ったようだった。
 開いた両足の間に、ぐっと硬いものが押し当てられる。覚えのある感覚なのに、ちっとも恐怖は感じなかった。以前であれば「また痛い思いをするかも」「今回は早く終わってくれるかな」と、そんなことばかり考えていたけれど。

「ふっ……あ!」

 ぐぐっと熱い質量が自分の中に打ち込まれてきて、シディはあえいだ。

「あ……っ、ふあ……っ」
「大丈夫か? シディ」

 訊ねる殿下の声も苦しそうだ。
 シディは必死で首を上下して見せた。
 ……大丈夫。「はじめて」であったら出血してしまうことも多々あるけれど、残念ながらというか幸いにしてというか、自分は初めての身体ではない……。それがやっぱり、一抹、寂しい気持ちはするけれど。

(ああ……)

 熱い。インテス様はまるで煮えたぎる熱量そのものに思えた。
 腹の中がいっぱいになっていく。この人で。

「んっ……んあっ」

 少しずつ、その熱量がシディの中へと侵入してくる。奥へ、奥へと。
 シディはなるべく息を吐き、力を抜くよう努めた。自分がつらいからというのもあるけれど、そうしないと、インテス様をもっと苦しめてしまうからだ。
 はやく、この人としっかりと奥の奥でつながりたい。
 そしてこの人に、十分に愉しんでもらいたい──
 ぐぷっと最後の一押しがきて、尻にインテス様の腰が密着した。

「ふう……」
 ひとつ息をつく。
 するとまた、インテスさまが口づけを落としてくださった。
「奥まで入ったな……。苦しくないか? シディ」
「は、い……あのっ」
「ん?」
「き、もちい、ですか……?」

 インテス様の目が見開かれる。次にはすぐ、「ああ」と嬉しそうに笑ってくださった。少し苦しげではあったけれど、不快だからでないことはわかっている。

「もちろんだ。……なんだか夢のようだよ。そなたとこうしているなんて」
「オレ、も……です」
「私のことばかり気にするな。そなたにも、十分愉しんで欲しいんだ」
「……へ?」
「そなたの悦いところをもっと教えてくれ。そなたには存分に気持ちよくなってもらいたい」

 びっくりした。
 そんなこと、今まで考えてみたこともなかったからだ。
 自分はただただ「客を愉しませるだけの存在」。そう思ってきた。この行為で自分が愉しもうだなんて、一度も頭に上ったことのない考えだった。

「またそんな、意外そうな顔をする」

 インテス様がちょっと肩を落として溜め息をついた。が、やっぱり苦しそうだ。もう動きたいのに違いない。

「そなただって、悦くならねば」
「あうっ!」

 ぱん、と腰を進められて変な声が出た。
 シディの身体を気遣うように、インテス様はゆっくりと抽挿を始める。
 そのたびに、ぐちゅ、ぐちゅっと滑った音が響く。

「あはっ……あんっ……」

 熱い。腹の中でインテス様があちこちを突いてくださり、そのたびにまた腰の中の欲望が積み重なっていく。シディの小さなものは小さいなりに硬く張り詰め、殿下の腰のところで天を向いている。
 次第に抽挿が速くなりだして、シディの嬌声もまた高くなっていく。

「はっ、はうっ……あん、あんっ!」

 ああ、気持ちがいい。シディのいちばん悦い場所に殿下の先端が当たると、自分でも驚くほどの甘ったるい声が出てしまう。

「あうんっ……わうっ」

 ただただ、温かくて涙が出そうになる。
 客の相手をしていた時は、とにかく「早く終わってくれ」とそのことだけを念じていたものなのに。これが終わってもまたすぐに次の客がやってきて、また散々に玩ばれるのだから、一回一回はなるべくはやく客に満足してもらってお帰りいただきたい。だから嘘でも嬉しそうな声をあげ、痴態を披露して媚びへつらう。……そんなことの繰り返しだった。毎日、毎日。
 ……でも。

(変だ……オレ)

 気持ちいい。ただただ気持ちがいい。
 温かくて、なぜか胸の奥が痛くなる。鼻の奥にツンとした何かが生まれる。
 ずっとずっと、インテス様とこうしていたい。
 この行為でこんな風に思ったのははじめてだった。

「どうした……? シディ」

 ふと気づくと、インテス様が動きを止めていた。心配そうな目でこちらを覗きこんでいる。その手が伸びてきて、そっとシディの目尻を撫でた。

「なぜ泣く? どこかつらいのか……?」
「いいえ」

 ふるふる首を横に振ると、もう片方の目尻からぽろりと雫が落ちていった。そのままの顔で、しっかり笑いかけて差し上げる。
 シディは両足でインテス様の腰を挟みこみ、両腕を首の後ろへ回してしがみつくようにした。

「すごく気持ちよくて……うれしいんです」

 だから、と囁いて殿下の唇にちゅっと吸い付く。

「もっと……してください。インテス様──」

 次の瞬間。シディの中にあるものが、ぐぐっとさらに力と質量を増した。
 腰をガッと両手で掴まれる。

「うわっ……?」
「まったく。煽るなと言うのに」

 そこまでだった。
 突如はじまった激しい抽挿で、すぐになにも分からなくなっていく。シディはひたすらに甘い嬌声を上げ、激しい動きについていくだけで必死になった。
 腹の中をあますところなく突きまくられる。
 脳が蕩けて、霞みがかかる。

「あ、あっ……ひいっい、らめ、ああっ……いん、てす、さまあっ……」

 だめ、と言った次の瞬間、シディはあっさりと自分の精を吐きだしていた。
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