51 / 209
第五章 輝く世界
15 悦楽 ※
しおりを挟む求めるシディの声を聞いた途端、殿下の匂いがギラッとした。
目の中にも、激しい欲望のうねりがはっきりと出現する。
「いいのか……? シディ」
こくこくこく、と細かく頷いて見せる。もう半分意識が朦朧としている。これでまた意識が飛んだりしたら申し訳なさすぎる。二度とあんな失態は犯したくない。シディは必死で自分の意識を保とうとした。
「すまない。一応こう訊いてはいるが……そろそろ私も限界だ」
ああ、そうなんだ。
嬉しい。
こんな自分の身体を、こんなにも求めてくださるなんて。この人が望めば、自分なんかよりももっときれいで、まっさらな体をした美しい人たちがいくらでもこの人の相手をしてくれるのだろうに。
でもこの方がいま心から求めてくださっているのはこの自分なんだ。
そう思うだけで、じわじわと胸の奥底から温かなものが溢れだす。それはそのままシディの目に滲みだした。
「インテス、さま……」
大好きだ。この人が。
両腕をのばせば、すぐに体を寄せてくださる。シディはその首にしがみついた。
また優しい口づけが下りてくる。
「ん……っ」
きて、と吐息で囁いたのを、インテス様はちゃんと聞き取ったようだった。
開いた両足の間に、ぐっと硬いものが押し当てられる。覚えのある感覚なのに、ちっとも恐怖は感じなかった。以前であれば「また痛い思いをするかも」「今回は早く終わってくれるかな」と、そんなことばかり考えていたけれど。
「ふっ……あ!」
ぐぐっと熱い質量が自分の中に打ち込まれてきて、シディは喘いだ。
「あ……っ、ふあ……っ」
「大丈夫か? シディ」
訊ねる殿下の声も苦しそうだ。
シディは必死で首を上下して見せた。
……大丈夫。「はじめて」であったら出血してしまうことも多々あるけれど、残念ながらというか幸いにしてというか、自分は初めての身体ではない……。それがやっぱり、一抹、寂しい気持ちはするけれど。
(ああ……)
熱い。インテス様はまるで煮えたぎる熱量そのものに思えた。
腹の中がいっぱいになっていく。この人で。
「んっ……んあっ」
少しずつ、その熱量がシディの中へと侵入してくる。奥へ、奥へと。
シディはなるべく息を吐き、力を抜くよう努めた。自分がつらいからというのもあるけれど、そうしないと、インテス様をもっと苦しめてしまうからだ。
はやく、この人としっかりと奥の奥でつながりたい。
そしてこの人に、十分に愉しんでもらいたい──
ぐぷっと最後の一押しがきて、尻にインテス様の腰が密着した。
「ふう……」
ひとつ息をつく。
するとまた、インテスさまが口づけを落としてくださった。
「奥まで入ったな……。苦しくないか? シディ」
「は、い……あのっ」
「ん?」
「き、もちい、ですか……?」
インテス様の目が見開かれる。次にはすぐ、「ああ」と嬉しそうに笑ってくださった。少し苦しげではあったけれど、不快だからでないことはわかっている。
「もちろんだ。……なんだか夢のようだよ。そなたとこうしているなんて」
「オレ、も……です」
「私のことばかり気にするな。そなたにも、十分愉しんで欲しいんだ」
「……へ?」
「そなたの悦いところをもっと教えてくれ。そなたには存分に気持ちよくなってもらいたい」
びっくりした。
そんなこと、今まで考えてみたこともなかったからだ。
自分はただただ「客を愉しませるだけの存在」。そう思ってきた。この行為で自分が愉しもうだなんて、一度も頭に上ったことのない考えだった。
「またそんな、意外そうな顔をする」
インテス様がちょっと肩を落として溜め息をついた。が、やっぱり苦しそうだ。もう動きたいのに違いない。
「そなただって、悦くならねば」
「あうっ!」
ぱん、と腰を進められて変な声が出た。
シディの身体を気遣うように、インテス様はゆっくりと抽挿を始める。
そのたびに、ぐちゅ、ぐちゅっと滑った音が響く。
「あはっ……あんっ……」
熱い。腹の中でインテス様があちこちを突いてくださり、そのたびにまた腰の中の欲望が積み重なっていく。シディの小さなものは小さいなりに硬く張り詰め、殿下の腰のところで天を向いている。
次第に抽挿が速くなりだして、シディの嬌声もまた高くなっていく。
「はっ、はうっ……あん、あんっ!」
ああ、気持ちがいい。シディのいちばん悦い場所に殿下の先端が当たると、自分でも驚くほどの甘ったるい声が出てしまう。
「あうんっ……わうっ」
ただただ、温かくて涙が出そうになる。
客の相手をしていた時は、とにかく「早く終わってくれ」とそのことだけを念じていたものなのに。これが終わってもまたすぐに次の客がやってきて、また散々に玩ばれるのだから、一回一回はなるべくはやく客に満足してもらってお帰りいただきたい。だから嘘でも嬉しそうな声をあげ、痴態を披露して媚びへつらう。……そんなことの繰り返しだった。毎日、毎日。
……でも。
(変だ……オレ)
気持ちいい。ただただ気持ちがいい。
温かくて、なぜか胸の奥が痛くなる。鼻の奥にツンとした何かが生まれる。
ずっとずっと、インテス様とこうしていたい。
この行為でこんな風に思ったのははじめてだった。
「どうした……? シディ」
ふと気づくと、インテス様が動きを止めていた。心配そうな目でこちらを覗きこんでいる。その手が伸びてきて、そっとシディの目尻を撫でた。
「なぜ泣く? どこかつらいのか……?」
「いいえ」
ふるふる首を横に振ると、もう片方の目尻からぽろりと雫が落ちていった。そのままの顔で、しっかり笑いかけて差し上げる。
シディは両足でインテス様の腰を挟みこみ、両腕を首の後ろへ回してしがみつくようにした。
「すごく気持ちよくて……うれしいんです」
だから、と囁いて殿下の唇にちゅっと吸い付く。
「もっと……してください。インテス様──」
次の瞬間。シディの中にあるものが、ぐぐっとさらに力と質量を増した。
腰をガッと両手で掴まれる。
「うわっ……?」
「まったく。煽るなと言うのに」
そこまでだった。
突如はじまった激しい抽挿で、すぐになにも分からなくなっていく。シディはひたすらに甘い嬌声を上げ、激しい動きについていくだけで必死になった。
腹の中をあますところなく突きまくられる。
脳が蕩けて、霞みがかかる。
「あ、あっ……ひいっい、らめ、ああっ……いん、てす、さまあっ……」
だめ、と言った次の瞬間、シディはあっさりと自分の精を吐きだしていた。
1
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
【本編完結】転生したら、チートな僕が世界の男たちに溺愛される件
表示されませんでした
BL
ごく普通のサラリーマンだった織田悠真は、不慮の事故で命を落とし、ファンタジー世界の男爵家の三男ユウマとして生まれ変わる。
病弱だった前世のユウマとは違い、転生した彼は「創造魔法」というチート能力を手にしていた。
この魔法は、ありとあらゆるものを生み出す究極の力。
しかし、その力を使うたび、ユウマの体からは、男たちを狂おしいほどに惹きつける特殊なフェロモンが放出されるようになる。
ユウマの前に現れるのは、冷酷な魔王、忠実な騎士団長、天才魔法使い、ミステリアスな獣人族の王子、そして実の兄と弟。
強大な力と魅惑のフェロモンに翻弄されるユウマは、彼らの熱い視線と独占欲に囲まれ、愛と欲望が渦巻くハーレムの中心に立つことになる。
これは、転生した少年が、最強のチート能力と最強の愛を手に入れるまでの物語。
甘く、激しく、そして少しだけ危険な、ユウマのハーレム生活が今、始まる――。
本編完結しました。
続いて閑話などを書いているので良かったら引き続きお読みください
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
* ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画 です!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
ヴィル×ノィユのお話です。
本編完結しました!
『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました!
時々おまけのお話を更新するかもです。
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる