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第五章 和平会談
9 長老会議
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「あ。えーと。この人、ダンパさんな。あっちで魔王の騎士団長をしてる。今回、わざわざ俺の護衛のために残ってくれたんだ」
「騎士団長……?」
「あんなにカワイイのに?」
最後のは、この村のちいさな少女のセリフだった。
リョウマはだいぶ見慣れてしまったのでほとんど感じなくなっているが、改めて見ると確かに可愛い。なにしろ彼の顔は愛くるしいパンダそのもの。目尻がさがったように見える目の周りの黒いふちどりも、黒くてふかふかした丸っこい耳も、ただただ「可愛い」と形容するしかないシロモノなのだ。いかに中身が超おカタいクソ真面目な騎士団長の武人だったとしても。
当の本人は恐縮したように黙り込んだまま、両手を広げて周囲から迫る人々からリョウマをかばうように立っているだけである。
小さな女の子からまで「カワイイ」なんぞと言われてこの男が内心どう思っているのかはわからない。ただ、リョウマは知っている。目の周りの黒い部分にひきずられずによくよく見れば、その目は非常に知的かつ鋭い武人のものであることを。
その目がいまは意外な状況に明らかに困惑している。それを見てとって、リョウマは女の子に言った。
「おまえ、カンナ。大の男、しかも騎士団長様に『カワイイ~』とか言ってんじゃねえよ。失礼だぞ? この人、あっちじゃかなり偉い人なんだかんな」
「あっ。ご、ごめんなさい……」
「いえ。自分は構いませぬよ」
ダンパは静かに言うと、少女に向かってこくりとうなずいて見せた。
「褒めていただき、ありがとう存じます。カンナ殿」
「……う、ううん……」
女の子は急にイチゴのように真っ赤になって、ぴゅんっと飛び去り、母親のスカートの後ろに隠れてしまった。
◇
そのまま、リョウマはひとまず長老たちが集まる天幕へ連れていかれた。もちろんダンパとサクヤも同行している。
最初に言われた通り、そこは長老ムサシの住居だった。この村の天幕は、石と粘土で固めた基礎で固定した木の柱に、動物の皮や布を張って作られるものが基本である。下部だけは少し石積みにして、その上に天幕を作っている家もある。全体にお椀を伏せたような形のものが多い。
長老たちが会合に使う天幕は村の中でもかなり大きなものになる。そうでないと全員が入れないからだ。
靴を脱いで中にあがると、幅が十メートルほどある板敷きの客間のスペースにはすでにほかの長老たちが集まっていた。中央には四角く切った囲炉裏があり、火が燃やされている。周囲には藁で編んだ丸い座布団が置かれ、上座から古老らが座り、そこから長老たちが丸く囲炉裏を囲んで座っている。席順は、基本的に年齢順だ。
リョウマとダンパ、そしてサクヤは最も下座に当たる場所を勧められ、そこに座った。
開会の辞が簡単に述べられたあと、まずはムサシとゲンゴが今回の話し合いの概要について説明し、ほかの長老たちが耳を傾けた。時々「そうじゃな、リョウマ?」などと確認のために名を呼ばれ、リョウマもそのときだけは少し説明を加えたが、あとは基本的に黙って座っていることになった。
長老たちは語られる話にかなりの驚きを禁じ得なかったようだ。それは、以前のリョウマやムサシ、ゲンゴと同様だった。
「では此度はケントが人質になったということかの」
「人質っていうのとはちょっと違うかもですけど……まあ、そうです」
隣でサクヤが意味深な目をしてニヤニヤしていたが、リョウマは敢えてガン無視した。
「心配しないでください。『ちゃんと丁重に扱う』って約束したら、あいつはちゃんと約束は守るんで」
「……ほう?」
長老たちが意外そうな目でリョウマを見つめた。
やがてこの中で最年長である古老が口を開いた。
「なにやらお前、『魔王の王配』とやらになったそうじゃが。それはまことなのか」
「え? いや、えーと……。俺は別に了承してるわけじゃねーけど。なんか勝手に、話がどんどんそういうことになっちまって……。あいつが勝手に、家来のみんなに『配殿下と呼べ~』とか言い出して──」
「なんかゾッコンらしいですよ~? 魔王、こいつに」
「うっ、うるせえっ! 黙ってろよサクヤ!」
「あ~ら。だってほんとのことじゃない? じゃなきゃ『子どものときからの許嫁だ』なんて言っちゃった《ブルー》のこと、あんな睨まないでしょうに。そのうえ、あんたと引き換えにあっちに連れてったりしないでしょうよ。一緒にいさせるのすらイヤだったってことでしょうが」
「え、ええっ……?」
なんだ? つまりあれって、そういう意味だったのか。
ほんとうに今更だ。今更なのに、またもや勝手に耳のあたりがかあっと熱くなって、リョウマはひとり、どぎまぎした。
「騎士団長……?」
「あんなにカワイイのに?」
最後のは、この村のちいさな少女のセリフだった。
リョウマはだいぶ見慣れてしまったのでほとんど感じなくなっているが、改めて見ると確かに可愛い。なにしろ彼の顔は愛くるしいパンダそのもの。目尻がさがったように見える目の周りの黒いふちどりも、黒くてふかふかした丸っこい耳も、ただただ「可愛い」と形容するしかないシロモノなのだ。いかに中身が超おカタいクソ真面目な騎士団長の武人だったとしても。
当の本人は恐縮したように黙り込んだまま、両手を広げて周囲から迫る人々からリョウマをかばうように立っているだけである。
小さな女の子からまで「カワイイ」なんぞと言われてこの男が内心どう思っているのかはわからない。ただ、リョウマは知っている。目の周りの黒い部分にひきずられずによくよく見れば、その目は非常に知的かつ鋭い武人のものであることを。
その目がいまは意外な状況に明らかに困惑している。それを見てとって、リョウマは女の子に言った。
「おまえ、カンナ。大の男、しかも騎士団長様に『カワイイ~』とか言ってんじゃねえよ。失礼だぞ? この人、あっちじゃかなり偉い人なんだかんな」
「あっ。ご、ごめんなさい……」
「いえ。自分は構いませぬよ」
ダンパは静かに言うと、少女に向かってこくりとうなずいて見せた。
「褒めていただき、ありがとう存じます。カンナ殿」
「……う、ううん……」
女の子は急にイチゴのように真っ赤になって、ぴゅんっと飛び去り、母親のスカートの後ろに隠れてしまった。
◇
そのまま、リョウマはひとまず長老たちが集まる天幕へ連れていかれた。もちろんダンパとサクヤも同行している。
最初に言われた通り、そこは長老ムサシの住居だった。この村の天幕は、石と粘土で固めた基礎で固定した木の柱に、動物の皮や布を張って作られるものが基本である。下部だけは少し石積みにして、その上に天幕を作っている家もある。全体にお椀を伏せたような形のものが多い。
長老たちが会合に使う天幕は村の中でもかなり大きなものになる。そうでないと全員が入れないからだ。
靴を脱いで中にあがると、幅が十メートルほどある板敷きの客間のスペースにはすでにほかの長老たちが集まっていた。中央には四角く切った囲炉裏があり、火が燃やされている。周囲には藁で編んだ丸い座布団が置かれ、上座から古老らが座り、そこから長老たちが丸く囲炉裏を囲んで座っている。席順は、基本的に年齢順だ。
リョウマとダンパ、そしてサクヤは最も下座に当たる場所を勧められ、そこに座った。
開会の辞が簡単に述べられたあと、まずはムサシとゲンゴが今回の話し合いの概要について説明し、ほかの長老たちが耳を傾けた。時々「そうじゃな、リョウマ?」などと確認のために名を呼ばれ、リョウマもそのときだけは少し説明を加えたが、あとは基本的に黙って座っていることになった。
長老たちは語られる話にかなりの驚きを禁じ得なかったようだ。それは、以前のリョウマやムサシ、ゲンゴと同様だった。
「では此度はケントが人質になったということかの」
「人質っていうのとはちょっと違うかもですけど……まあ、そうです」
隣でサクヤが意味深な目をしてニヤニヤしていたが、リョウマは敢えてガン無視した。
「心配しないでください。『ちゃんと丁重に扱う』って約束したら、あいつはちゃんと約束は守るんで」
「……ほう?」
長老たちが意外そうな目でリョウマを見つめた。
やがてこの中で最年長である古老が口を開いた。
「なにやらお前、『魔王の王配』とやらになったそうじゃが。それはまことなのか」
「え? いや、えーと……。俺は別に了承してるわけじゃねーけど。なんか勝手に、話がどんどんそういうことになっちまって……。あいつが勝手に、家来のみんなに『配殿下と呼べ~』とか言い出して──」
「なんかゾッコンらしいですよ~? 魔王、こいつに」
「うっ、うるせえっ! 黙ってろよサクヤ!」
「あ~ら。だってほんとのことじゃない? じゃなきゃ『子どものときからの許嫁だ』なんて言っちゃった《ブルー》のこと、あんな睨まないでしょうに。そのうえ、あんたと引き換えにあっちに連れてったりしないでしょうよ。一緒にいさせるのすらイヤだったってことでしょうが」
「え、ええっ……?」
なんだ? つまりあれって、そういう意味だったのか。
ほんとうに今更だ。今更なのに、またもや勝手に耳のあたりがかあっと熱くなって、リョウマはひとり、どぎまぎした。
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