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第九章 胎動
4 変化
しおりを挟む地上や海上での捜索とは違い、宇宙空間は上下、左右にも広がっている。それをこまかく分割して、それぞれの掃海艇に巡回区域が割り当てられている。掃海艇から、異物を探知するセンサーを張り巡らせ、スピードを落としてゆっくりと空間を探っていく。実際にやってみてわかったが、これはたいへんな集中力と根気と忍耐力が求められる作業だった。
もちろん、異物の探査そのものは機械がやってくれるわけだが、みつけた物を必要なものか、そうでないものかを判断するのは人間だ。
物体の組成を調べ、魔王とつながりのあるものか否かを判断し、必要ということになれば収容して保存容器へ移動させる。
それをとにかく、丹念に丹念に繰り返すのだ。延々と。
まっくらな宇宙空間では、星がいやに白く強い光を発してぎらぎらしている。まるで、黒いビロードの上にはりついた大小の米粒のようだ。
さまざまな生き物の形質をもつ隊員たちと協力しながら、リョウマも目を皿のようにしてセンサーのデータを見つめつづけた。最初の内、細かな文字やグラフで物体の組成が表示されていくのを見ても、リョウマには何が何やらさっぱりだった。それを、ダンパや、困ったような顔をした同乗の兵たちが少しずつ説明してくれる。非常に申し訳なかったが、それにもだんだんと慣れてきた。
隊員二人ずつがモニターを見て、数時間ごとに交代する。休憩している間も、ほかの隊員は集めた物体の組成をより詳細に分析・分類することに余念がない。もちろん、簡単な食事などもとるのだが。
途中、わずかな休憩をはさみながら、調査は十時間あまり続けられた。
モニターを凝視していたリョウマは、「作業終了」という本部からの連絡が来て初めて、そんなにも時間が経っていることに気がついた。
「本日はここまでといたしましょう」
「いや、まってよ」
ハート中尉の言葉を受けても、リョウマは首をなかなか縦にふれなかった。集中しすぎていたせいか、目や頭がひどく痛むにもかかわらず。
「だって、まだほとんど何も見つかってないのに──」
「ある意味、当然なのです。この宙域は、すでに何度も掃海を行われた場所ですので」
「そうなんですか?」
「はい。あまりにも成果が出ず、少しずつ宙域を拡大して調査が進んでおりますが、一度調査した場所からも物体が発見されたことがありますもので」
「そうなんだ。でも、あの……あと、もうちょっとだけ──」
「配殿下」
ハート中尉の断固とした声で、リョウマはハッとした。それでようやく、モニターから目を離して彼女を見た。ハートは意外にも、やや申し訳なさそうな様子にも見えた。
「お気持ちは重々お察しいたします。しかし、いまこれ以上続けましても、疲弊のために注意散漫になるばかりです。この作業には、なにより明瞭な頭脳と注意力が求められるのです。一度もどって、みな休息をとらなくては」
「あ……」
その時になってはじめて、リョウマはほかの隊員たちがすっかり疲弊し、疲労困憊になっていることに気づいた。にも拘わらず、かれらは黙ってことの成り行きを見守る様子だ。
「ご、ごめん。つい……。本当にごめん。俺、ダメだよな。すみませんでした、ハート中尉。みんな……」
「リョウマ様」
肩を落としてそう言うリョウマに、ダンパがそっと寄り添ってくれる。
それでも、リョウマを責める者はだれひとりいなかった。きっと、言いたいことは山ほどあっただろうと思われるのに。
◇
そのような感じで、探査は十日ほど続けられた。
しかし相変わらず、大した成果は得られないままだった。
「うう……お疲れ。ダンパさん」
「リョウマ様こそ。お疲れ様にございました」
夕食が終わって、自分のベッドに沈没しているリョウマに、いつものようにきりりと一礼をしてダンパが出ていく。
戦艦内の自室は非常にコンパクトな設計になっているが、一応、生活に必要なものはそろっていた。壁の一部が開く機構がたくさんついていて、そのうちの一つには洗濯物を放り込んでおけば自動的に洗濯が終わるようになっているし、欲しいものを選べば飲み物や食事などまで供給されるしくみだ。
ごく小さなシャワールームもついている。水が出てくるわけではないが、洗浄作用のある水蒸気みたいなものが体に吹き付けられるようになっていて、これが意外と気持ちがいい。
リョウマはのろのろとベッドから起き上がると、着ていたものを《自動洗濯装置》のドアに放り込み、自分自身をシャワールームにつっこんだ。
性器から伸びていた《魔法樹》があった場所は、意識的に見ないようにして体を洗浄する。そこを見てしまうと、どうしてもまた胸の痛みに心が張り裂けそうになってしまうからだ。
いつまでも、めそめそ泣いているわけにはいかない。
今はエルケニヒを見つけることこそが最優先だ。
シャワールームから出て、清潔な夜着に着替え、《自動飲料装置》のパネルで炭酸水を選んで、容器からのびるストローに吸い付く。このほかにも普通の水、コーヒーや紅茶、緑茶、チャイ、各種のジュースなど、ソフトドリンクは様々なものが出てくる。ただし、酒だけは出てこない。肝心なときに、兵士が酩酊しているわけにはいかないからだろう。
ひと息ついて、リョウマはこのところすっかり日課になっていることをはじめる。
腰のケースの中に入っている、例の蒼い玉を取り出して眺めることだ。
ほんのりと温かい玉をころりと手の上に出し、ベッドの上でじっくり観察。ほかにやることもないので、この石のどこにどんな風に模様が走っているのか、すっかり覚え込んでしまった。
「……ん?」
なんとなく不思議な違和感を覚える。
いや、気のせいかもしれないが。
しばらく石を上下左右から何度も見なおしてみてから、リョウマはドアの外に声を掛けた。
「ダンパさんっ。ちょっと入ってきてくれない?」
「いかがされましたか」
ダンパは即座に部屋に入ってきた。
「ごめん、別になにも問題はないんだけど。ちょっと見て欲しいんだ。……これ」
「あの玉でございますか?」
「うん。なんか……変わったと思わない?」
「…………」
ダンパは玉に手は出さず、そばに寄ってじっくりとそれを観察した。
「なんとなく、にございますが。少し大きくなっているように感じます」
「やっぱり? そうだよな? なんか大きくなってるよな?」
よかった。自分の勘違いではなかったようだ。
しかし、なぜサイズが変わったのだろう?
まったく、この玉はよくわからない。
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