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第十章 帰還
7 謝罪 ※
しおりを挟む「ん……っ」
最初は軽く触れられただけのくちづけが、次第に深くなっていく。
押しのけようと思えば簡単なことだし、ブン殴ろうと思えばすぐにできる距離だったが、リョウマはそうはしなかった。
あまりにも久しぶりすぎるその温かさに、あっという間に体が蕩けていく。
「んふ……ん」
むしろ自ら唇を開き、忍び込んでくる舌に応えようとする。魔王の頭を両手で挟み、顔の位置を何度もずらしながら深いくちづけに応えつづけた。舌が絡み合う。強く舌を吸い出され、歯列や口蓋の裏を舐められて、じんじんと下腹により熱いものが集まり始めた。
リョウマは無意識に腰をよじらせ、気が付けば魔王の腰に向かい合うように跨っていた。
互いの唇の間で立つ水音と、温泉の湯が立てる音が混ざり合う。
そしてお互いの股間のものが、張り詰めてこすれ合うのがもどかしい。
ぎゅっとそれを握られて、リョウマは背中をのけぞらせた。
「んあ……っ」
「一旦あがったほうがよい。こんなところで続けては、すぐにのぼせてしまうぞ」
「ん、あ……ん、そんな、言いながら、さわっ、ちゃ……あっ、あっ!」
耳の中に囁きながら、魔王の手はリョウマのそれを握りこんで上下させている。
たまらない。久しぶりなうえにこんな風にされたら、あっというまに気を遣ってしまう。
「あ、バカ……はな、せってっ!」
「ふふ。ずいぶんと感度がいいな」
首筋にちゅっとキスを落とされたと思ったら、魔王はリョウマを両手に抱え、ざばりと湯からあがった。リョウマはふうふう言いながらその首にしがみつき、息を整えようと努める。
少し落ち着いたところで脱衣所の腰かけに下ろされ、体を拭かれた。魔王は自身の体もざっとタオルで拭いてから、簡単に《乾燥》の魔法もかけたようだった。
座ったまま全裸の魔王を見上げつつ、リョウマはなんとなく違和感を覚えてぽろりと言った。
「……お前さ。もとの恰好には戻らねえの」
「もとの? 人間の姿ではイヤか」
「いや。べつに、イヤとかじゃ……ないけど」
ちょっと見慣れねえなと思っただけ、とかなんとかと、思わず目を逸らしてぶつぶつ言ってしまう。すると、魔王の声が妙に嬉しそうな響きを含んだ。
「つまり、あちらの方が好みなのか」
「べっ……べつに! 好みとか言ってねえしっ」
「もう少し魔力が戻ってからにしようかと思っていたのだがな。そなたの要望とあれば是非もなし」
「いや、だからっ──」
慌てて見上げたときにはもう、魔王はもとの《魔王》としての姿に戻っていた。紺色の肌に、金色をした爬虫類の瞳。上背ははるかに大きく、頭部にはねじれた魔族の角。唇から覗く鋭い犬歯。
リョウマが心ひそかに、ずっと会いたいと思ってきた、魔王そのものの姿だった。
「さあ。これで──」
言いかけて、なぜか魔王がぎょっとしたように沈黙した。
「どうした。リョウマ」
言葉とともに、大きな手が優しくリョウマの頬に触れる。親指が目元をそうっと拭ってくれて、それでようやく、自分がぼろぼろ涙を落としていることに気づいた。
「あっ。ちが……ごめん。ちげえ。これは──」
慌てて顔をそむけ、両手でごしごし顔をこする。
(くっそう……!)
あれ以来、自分はすっかり泣き虫になってしまったらしい。以前であったらそんなカッコ悪いこと、人前でするなんてプライドが許さないと思っていたのに。今はなぜか、ほんのちょっとしたことでバカみたいに泣いてしまう。それもこれも、理由はみんなこいつつながりだ。
「リョウマ……」
魔王の手がひどく優しく、リョウマの頬や顎を撫で、涙をぬぐってくれる。やがてそれを吸いとるかのように、目尻に柔らかなキスを落とされた。自然に目を閉じたリョウマに、魔王は続けて瞼に、頬に、鼻先に、顎にとキスを刻みつづけていく。それはあのとき、小さなドラゴンがやってくれたのとそっくりだった。
やがて魔王は両手でそっとリョウマの体をだきしめた。
「……まことに、心配をかけたようだな。此度のことでは、そなたには途方もない心労をかけ、傷つけてしまったようだ。すまなかった、リョウマ。すぐに戻ってこられず、そなたを悲しませてしまった。心から謝罪を申したい。どうか、許してほしい……リョウマ」
「う、……ううう」
せっかく拭ってもらった涙がまた溢れてしまう。
魔王の声は信じられないほど真摯で優しかった。その言葉のひとつひとつが耳朶にしみこむように囁かれるたび、また新たな涙が湧きあがった。どうしようもなかった。
何を言ってもひたすらみっともない泣き声になってしまいそうで、リョウマは痛む喉を押さえつけ、両手で魔王の首ったまに力いっぱい抱きついた。
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