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第四章 暗躍
7 慰撫 ※
しおりを挟む怜二は俺を抱いたまま、市街から離れて山や森なんかの多い田舎の方へ飛んだ。まあ、怜二自身はなにも説明しなかったから、「たぶん田舎」なんだけど。
もしかしたらもうフランスですらないのかもしれない。何しろ凄い速さで上空を飛んでいるもんだから、俺には距離の感覚がまったくつかめないんだ。というか、自分の身体の状態のことでいっぱいいっぱいで、そういうことをゆっくり考えたり観察したりする余裕はなかった。怜二の腕の中で変な声が出そうになるのを、必死でこらえているのが精いっぱい。
「このあたりは、タカゾネ・グループの土地なんだ。手下のヴァンピールも配置してある。前回よりもはるかに厳重に警備してあるからね」
そう言って、怜二はとある大きな洋風の邸宅に俺をつれていった。邸宅っていうよりは、こういう地方によくある古城なのかもしれない。城とはいっても、直線的なフォルムの灰色の建物が広大な庭園の中にぬっと建っているだけのものだ。
怜二が入り口に降り立つと、日本の怜二の邸と同様、たくさんのメイドさんやフットマンさんたちが怜二を出迎えてくれた。怜二は俺の身体をほとんどすっぽりとマントに包んで横抱きにし、他からは見えないようにしてくれている。
今ではもう、怜二はいつも通りの見た目に戻っている。
そのまま、まっすぐに主寝室らしい部屋に連れていかれた。
「れ……じ。俺、おれっ……もう──」
ベッドに下ろされるのと同時に、俺は怜二にしがみついた。
俺の身体は──特にその一部分だけだけど──もう爆発しそうにせつなくなってしまっている。そのまま、俺はもう恥ずかしいのも何もかなぐり捨てて、自分の股間に手をのばしてしまっていた。ここまで来ちまったら、一回は出さないとどうにもならない。
怜二は俺の身体を抱きしめ返しながらも、戸惑ったようにそっと俺の顔を覗きこんだ。そうして胸のポケットから、前とは色の違う液体の入ったアンプルを取り出した。前のは紫色に光っていたけど、こっちはきれいなグリーンだ。
「あの、勇太。まずはこれを飲んで。中和剤だよ」
「ちゅ、ちゅうわ……?」
「あいつの唾液の影響を中和させる薬だ。実はこういう場合のことも考えて、こちらも開発させていた。まだ完成してなくて、完全な代物ではないんだけど。それでも少しは楽になる。……さ、飲んで。大丈夫だから」
「ん……」
言われるまま、俺は口にあてがわれたアンプルから液体を飲み下した。甘ったるくて変な味。苦い薬を無理やりシロップでわったみたいな感じだった。
「少し時間はかかると思う。……えっと、それで……勇太」
怜二はそこで、困ったみたいに俺を見つめた。
「お手伝い、してもいい……? 君がいやでなければ、なんだけど」
言いながら、自分のものを握ってる俺の手の上から、そっと手を重ねて来た。
俺はもう、夢中で首を縦に振っていた。
もうダメだ。だってもう、我慢できない……!
怜二はするっと俺の背後に回ってきて、後ろから俺を抱くようにした。そうして、俺の手の上から一緒に俺のものを扱き始めた。
「あっ……あ、あ……ん、んうっ」
開いた足がガクガク震える。静かな部屋に、俺の体液の音がくちゅくちゅ響いた。脳の中で、火花が散る。頭の中が真っ白になる。なんにも考えられない。
ただ、出したい。いっぱい出したい──。
「勇太……ゆうた」
耳元で、怜二が初めて聞くみたいな熱い声で囁いている。それがそのまま、俺の耳を、脳を犯す。
「あっ、あっ……あああっ!」
俺と怜二の手の中で、それはあっという間に絶頂を迎えて欲望を吐き出した。怜二の手と俺の手が、俺のものでどろりと白く汚れていく。
でも、欲はまだ止まらない。腰の中に溜まった欲望の渦が、まだちっとも治まっていなかった。
「んあ、あ……だめ、俺、まだ……っ。れいじっ……!」
我慢できずに腰を揺らす俺を、怜二は優しい声で宥めながら、また俺の中心を激しく扱いてくれた。
俺はなんにも我慢なんてできなかった。
めちゃくちゃ甘くて恥ずかしい、女みたいな声が勝手に口から出て行ってしまう。だらしなく足を開いて、大事なところを怜二の目の前に晒しっぱなしで。
ひいひい喘いで、何度も何度も、怜二の手の中で俺は達した。
◆
ぱかっと目を開けたら、外が明るくなっていた。
広くて落ち着いた寝室。大きな窓の外にはバルコニーがあるようだったけど、カーテンで外はよく見えなかった。その隙間から差し込む光が、多分もう午後であることを教えてくれる。
日本時間でいつごろかは分からないけど、暖炉の上にある高そうな置時計の針は午後の二時を指していた。
(そっか。俺……)
俺はゆうべ怜二と過ごしたそのベッドで、パジャマに着替えさせられた状態で眠っていたようだ。
俺はしばらくぼんやりしていたけど、急に昨夜の恐ろしい出来事と、その後の恥ずかしい出来事とがいきなり脳内を占領して、がばっと跳ね起きた。
「そうだ! 凌牙っ……!」
「起きたんだね? 勇太」
「ひゃあっ!?」
情けない声を出して飛び上がっちまう。
怜二だった。ベッドの足元のほうにあるソファセットのところで、怜二はなにかの書類を見ていたようだった。すぐに立ち上がってこっちへやってくる。
「気分はどう? 薬は十分効いていると思うけど」
言いながら、水差しから注いだ水を持ってきてくれた。
「あ、ありがと……怜二。うん、多分、大丈夫……」
一応そう言ったけど、あんまり体調はよくなかった。体がいやに重いし、頭もガンガンする。ちょっと吐き気も感じた。俺の人生で、今までこんなに体調が悪かったことはない。そのぐらいのレベルだった。
その上、頭をおさえて昨夜のことを思い出そうとした途端、ぶわっと昨日のあれやこれやのシーンがまた再現されちまった。
怖いのと、エロいのとだ。かっと全身が熱くなる。
「あのっ。き、昨日……ごめんな」
「どうして謝るの。それは僕のほうだって、昨日も言ったはずだけど」
「う……ん。えっと、ありがとな。ほんとに。助けに来てくれて……」
俺はやっと、昨夜言えなかったお礼の言葉を口にできた。怜二はふっと微笑んで首を左右に振った。
「ううん。月代たちの協力あってのことだったしね」
「あの、凌牙は? それと、ほかの人は? あと、シルヴェストルは──」
俺には聞きたいことがいっぱいあった。
この他にも、なんで俺の居場所がわかったのかとか、他にも色々。
怜二は俺の顔をじっと見て、飲み干したグラスを受け取るとにっこり笑った。
「うん。順を追って説明するから。慌てないでも大丈夫。まずは、少し食事をしないとね」
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