金槐の君へ《外伝》~恋(こひ)はむつかし~

るなかふぇ

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16 聞かざりき ※

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「いっ……あ、んん……っ」

 ゴムをつけた海斗の指が律のそこへ侵入している。もちろん最初に潤滑剤を使われており、一本だけの指が侵入するのは意外とスムーズだった。
 ただ違和感がひどい。ある種の疾患の場合、医師に同様の診察をされることがあるとは聞いているけれど、その患者もこんな感じの思いを抱くのではなかろうか。少し硬くて暖かい海斗の指が、ぬるぬると律の内側のひだをまさぐっている。
 目的はその場所をなるべくやわらかくほぐすこと。少なくとも、彼の指が三本、いやできれば四本は余裕で入る状態にならなければ、間違いなく本番で律のそこを傷つけてしまう、と海斗は説明してくれた。
 想像すると、なんだか恐ろしくなってくる。自分に本当にそんな行為が可能なのかと不安になってしまうのだ。

(でも……本当だから)

 そうだ。
 同性の男の身で、彼を受け入れたいと願った。その気持ちは本物だ。
 しかし。

「んっ、あ……ううっ」

 こんなことで、他の男性たちは本当に気持ちよくなっているのだろうか? 少なくともここまでは、ただただ異物感が強くて不安しかないのだ。

「大丈夫ですか……? 律くん」

 海斗は横向きに寝た律を後ろから抱くようにしながら、時おりあちこちに口づけを施してくれている。耳の後ろや首筋、それに背中。それ以外にも、律の体が慣れない刺激でびくっと跳ねるたび、背中をさすってくれる。
 正直、気持ち悪さしかないのだが、律は耐えた。海斗の指が律の入口のまわりを丁寧に愛撫し、新たに潤滑剤を足してまた中へ入ってくる。穴の入口を丁寧にゆっくりと広げ、時おり少し奥を探るようにひっかく動きが挟まった。

「はっ……あ!」

 また律の腰が跳ねた。
 入口のところがじんじんして熱い。尻がいうことを聞かず、勝手に震えてくる。

「もう一本、指を増やそうと思いますが……よろしいでしょうか」
「う……うん」

 ぬぷ、と先ほどより大きな質量がまた侵入してきて、律は思わず息を止めた。

「ふっ」
 思わずそこに力が入ってしまい、海斗の指を締め付けてしまう。

「あ、ごめん……っ」
「いいえ。どうか、楽に呼吸してください。難しいとは思いますが」
「ん、うん……」

 海斗の指が少しずつ奥を探りはじめ、縦に横に自由に動き回りはじめた。間違いなく何かを探っているようだ。やがて──

「あっ! あ……?」

 こり、とその部分に彼の指先がかかって、その瞬間前へと突き抜けるような快感が走った。

「……こちらですか?」
「あっ、あ、ああっ……!」

 こりこり、と優しくそこをくすぐられて、はしたなくも腰がびくびくと揺れた。

「な……んだ、これ……っ」
「前立腺でしょう。こちらで感じていただけます」

 よかった、と吐息とともに海斗がつぶやいて、律は後ろを振り向いた。

「よかった……?」
「はい。快感を得にくい体質の方もおられるやに聞いておりましたので。殿がそうでないならば、この行為はしないほうがよいと……そう考えておりましたもので」
「そんな。む、無理に我慢などしないでくれ。そんなのはイヤだ、わたしも」
「ありがとう存じます」

 言って海斗は、一度律の中から手を引いた。

「指をもう一本増やしてみましょうか。いかがしましょう」
「う、うん……たのむ」

 もう一度、あの場所に触れてくれるだろうか。
 いや、触れてほしい。先ほどの、内側から先端へ突き抜けてくるような快楽がもう一度味わってみたい。
 羞恥を忘れることは不可能だったが、そんなあるじの気持ちとは裏腹に体の方は正直で、次の刺激を求めてうずうずと落ち着かなかった。

「は、はやく……やすとき。でも、ゆっくりな」
「はい」

 海斗はそう言うと、律の体を仰向けにさせ、足を広げさせて上から覆いかぶさる形になった。妙に恥ずかしい体勢だ。

「や、やすとき……っ」
「申し訳ありませぬ。……ですが、あなたのお顔をもっとちゃんと見せていただきたく」
「うう……」

 あまりの羞恥で爆発しそうだ。
 だが、それでもやめてほしいとだけは思わなかった。



 聞かざりき 弥生やよひの山の 時鳥ほととぎす 春くははれる 年はありしかど
                     『金槐和歌集』111
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