金槐の君へ《外伝》~恋(こひ)はむつかし~

るなかふぇ

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 男が押し入ってくるとてつもない圧迫感に、律は必死に耐えた。とはいえ歯を食いしばって力を入れていたのでは余計につらいので、なんとか呼吸をしようともがく。しかし、いつもの万分の一も空気を吸うことができなかった。

「ふぐ……うっ」
「との、大事──」
「大事ないっ。つづけよ!」
「……は」

 「ぐぐぐ」とか「めりめり」とか、そういう音が聞こえてきそうな圧力だった。彼のものと自分の内側との間にはいっさいの隙がない。潤滑剤に助けられているとはいえ、律のそこはみっちりと、でいっぱいになっている。

「は、んん……う」

 海斗は自分のつらさのことなどまったく意にも介していない。じっと律の反応を窺いつつ、しばしば腰を止めて様子を見ている。

「あ、ああ……。い、いっぱい……っ」

 彼の腰にからまった自分の足がびくびく震えているのがわかる。

「はい……。いっぱいに、ございますな」
「や、やすとき……。気持ち、いい?」

 必死に見上げて訊ねると、海斗の顔が一瞬だけ、くしゃっと泣き出しそうになった。

「……はい。今にも昇天しそうにございます」
「わたしの、中は……どんな、風だ?」
「ひどくあたたこうございます。それに、狭くて……濡れて……いや」
「……いか?」
「はい。……うっ」

 ぴくっと律の中の海斗自身が震えて、海斗がなにかをこらえたようだった。ずいぶん我慢させてしまったのだ。当然だろう。
 もっと奥へしっかりと打ち込んで、もっと激しく動きたいだろうに。それでもこの男は自制することをやめようとはしない。

「もっと……奥」

 律は彼を抱く腕に力をこめた。

「奥へ……きて。海斗さん」
「んっ……」

 さらに海斗の眉間が苦しげに寄せられた。普段あまりみられないほど上気した頬が、ひどく可愛く思えて胸の高鳴りが止まらなくなる。
 そんなことをぼんやり感じた次の瞬間、海斗が律の腰をぐっと握った。

「あ、ああ……っ!」

 腰を進められ、さらに奥へと熱いくさびが打ちこまれてきて全身に鳥肌がたったのがわかった。なにもかも初めてだ。つらい。つらいが、嬉しい。こんな変な気分になったのも初めてだった。
 自分の中が彼でいっぱいになっていく。さらに口づけで口も塞がれて、全部がいっぱいだ。差し込まれてくる彼の舌に、また律は必死で吸いついた。

(き……きもち、い──)

 あまりの快感で、思考が白濁していく。下は確かに苦しいのに、多幸感がなにもかもを凌駕していく。胸がいっぱいになって、ただただ嬉しくて、それが涙を押し出してくる。

「うっ……うごいて。やすとき……っ」
「しかし」
「すっ、すこしで、いいからあっ」

 深い口づけの合い間に必死におねだりをし、腰もそれに合わせて前後に揺らす。
 海斗がぐっと、また何かを堪えた。

「まったく。あなたは……!」
「は……あっ!」

 少し腰が引かれ、つぎにずくっと奥まで突かれた。最初のうちはややゆっくりと。しかしすぐにそのスピードが速くなっていく。

「あっ、は……あん、あっ、あっ……!」

 もう視点も定まらない。律は全身をのけぞらせ、足を開いて彼を受け止めることだけに集中した。
 やがてビリッとあの感覚が全身を貫いた。

「はあっ……!」

 あの場所だ。そこを海斗が、意図的に激しく突いた。
 眼前がちかちかする。腹の奥がじんじんして、「もっと、もっと」とその先を勝手に期待している。

「あ、そこ……あ、ああっ」
「ここですね。わかっております」

 海斗の息も荒い。腰の動きがさらに増して、彼と自分の肉がぶつかる音が激しくたちはじめた。

「あっ、あっ……ふあ、ああんっ、や、ああ、ああんっ……!」

 もう自分が、どんな声で啼いているのかもわからなくなっていた。



 いづかたに きかくるらむ 春霞はるがすみ たちいでて山の にも見えなで
                     『金槐和歌集』114
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