金槐の君へ《外伝》~恋(こひ)はむつかし~

るなかふぇ

文字の大きさ
21 / 25

21 惜しむとも ※

しおりを挟む

(うう……)

 当たり前のことだけれど、海斗の家の風呂場も非常に明るかった。その明るい浴室、さして広くもない浴槽の中で、律はいま海斗とともに湯にかっている。
 ベッドもそうだが、一般的な住居のバスタブは二人の男が余裕をもって入れるような大きさではない。海斗の家もまたそうだった。
 律は海斗の足の間で、彼に背を向ける形で座らされている。ここへ至るまでも当然、すったもんだがあったわけだが、結局この体勢で入浴させられる羽目になったのだ。

(まったくもう。一体なにがどうなったらこんなことに……っ)

 恥ずかしくてたまらない。とはいえいまの時代、「すでにあんな行為をしてしまった関係なのだから気にしなくていいだろう」と考える人が多いのかもしれないけれど、少なくとも律はそちら側の人間ではなかった。
 なんといっても、明るすぎる。あの行為をしている間は、海斗も気を遣ってそんなにライトを明るくしていなかったのだ。
 が、律のそんな気持ちとは正反対に、海斗は妙に嬉しそうに見えた。今も、律を後ろから緩やかに抱きしめた格好のまま、首筋のあたりに何度も口づけを落としている。とてもくすぐったいが、「イヤだ」と振り払えないほどには律も嬉しく感じてしまうのだからどうしようもない。
 そう、どうしようもないのだ。もう自分は。

(こういうのが……し、しあわせ、というものか)

 ぼんやりとそんなことを考える。湯はさほど熱くはないけれど、今にもゆだってしまいそうだ。
 やがて海斗の手がそろそろと湯の中へ沈んでいき、律の肌をあちこちさするような動きに変わった。

「あ……っ」
「洗っておきませんと、ね」
「んうっ。こ、このっ……!」

 だ。絶対にわざとだ、この男!
 そうでなければ、こんな風にいやらしく指先を動かすはずがない。
 海斗の指先が胸の先にある飾りをちょいと弾き、くりくりと淫靡にまさぐっている。

「あ、ん、だめっ……! そ、そんな風に、触るなあっ」

 語尾は半分泣いたように、情けなく震えてしまった。それが余計に律の羞恥心を刺激する。

「こちらはいけませぬか。では、すぐに洗って差し上げましょう」
「あ? あん……んあふぅっ」

 するっと指先が肋骨の脇からおりて臍を伝い、股間へと移動してくる。そのたび、湯を跳ね上げて体を固くしてしまう。それをなだめるように、また海斗が律の首筋や、背中や、肩のあたりに口づけを落とした。
 だが手のほうはまったく止まる気がないようだ。そのまま律の足の間のものをゆるゆると扱き、袋もやわやわと撫でさすっている。

「あ、あん……っや、だめ、んはああっ……」

 律が彼の手の動きに合わせて腰をくねらせると、背中にふ、と海斗の吐息がかかった。笑っているらしい。

「そんな風に、お可愛らしい声をお上げなさいますな。……また我慢ができなくなってしまいまする」
「ば、バカッ……! だったらそんな、するなああっ!」
「はい。左様ですね。……しかし」
「あうっ!?」

 つん、と後ろから固いものが尻のあたりに当たってきたのを感じて、律は戦慄した。

「ま、……まさか。そなた」
「いえ。まさかここでもう一度……などとは考えておりませぬゆえ。ご安心を」
「あ、あたりまえだ、バカぁっ! そ、その手を、やめろと言うのにいっ……あ、ああんっ」

 ぐっと握られてしごかれると、だらしのない自分の嬌声が風呂場の音響効果で耳を余計に犯してくる。
 自分の意に反しているのに、律の体はいうことを聞かなかった。触れられるのに合わせて腰をくねらせ、みっともない嬌声を溢れさせてしまう。

「はあ、あはん……っそ、そなたの言うことは、け、結構信用ならぬぞっ、このあいだから……何度も何度もっ」
「左様ですね。これでも反省はしているのですが」

 言いながら、海斗はまたちゅっと律の肩甲骨の上あたりに口づけた。律の背筋に電撃が走る。

「くはっ?」
「……あなた様が、斯様かようにお可愛らしいのがいけない」
「わ、わたしのせいかよおおおっ!」

 ……そのようなわけで。
 「初夜」であるにも関わらず、律はその後もあと数度、海斗という男に抱かれる羽目になったのだった。


 惜しむとも 今宵こよひあけなば 明日あすよりは 花のたもとを 脱ぎやかへてむ
                     『金槐和歌集』116
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

借金のカタで二十歳上の実業家に嫁いだΩ。鳥かごで一年過ごすだけの契約だったのに、氷の帝王と呼ばれた彼に激しく愛され、唯一無二の番になる

水凪しおん
BL
名家の次男として生まれたΩ(オメガ)の青年、藍沢伊織。彼はある日突然、家の負債の肩代わりとして、二十歳も年上のα(アルファ)である実業家、久遠征四郎の屋敷へと送られる。事実上の政略結婚。しかし伊織を待ち受けていたのは、愛のない契約だった。 「一年間、俺の『鳥』としてこの屋敷で静かに暮らせ。そうすれば君の家族は救おう」 過去に愛する番を亡くし心を凍てつかせた「氷の帝王」こと征四郎。伊織はただ美しい置物として鳥かごの中で生きることを強いられる。しかしその瞳の奥に宿る深い孤独に触れるうち、伊織の心には反発とは違う感情が芽生え始める。 ひたむきな優しさは、氷の心を溶かす陽だまりとなるか。 孤独なαと健気なΩが、偽りの契約から真実の愛を見出すまでの、切なくも美しいシンデレラストーリー。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

処理中です...