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21 惜しむとも ※
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当たり前のことだけれど、海斗の家の風呂場も非常に明るかった。その明るい浴室、さして広くもない浴槽の中で、律はいま海斗とともに湯に浸かっている。
ベッドもそうだが、一般的な住居のバスタブは二人の男が余裕をもって入れるような大きさではない。海斗の家もまたそうだった。
律は海斗の足の間で、彼に背を向ける形で座らされている。ここへ至るまでも当然、すったもんだがあったわけだが、結局この体勢で入浴させられる羽目になったのだ。
(まったくもう。一体なにがどうなったらこんなことに……っ)
恥ずかしくてたまらない。とはいえいまの時代、「すでにあんな行為をしてしまった関係なのだから気にしなくていいだろう」と考える人が多いのかもしれないけれど、少なくとも律はそちら側の人間ではなかった。
なんといっても、明るすぎる。あの行為をしている間は、海斗も気を遣ってそんなにライトを明るくしていなかったのだ。
が、律のそんな気持ちとは正反対に、海斗は妙に嬉しそうに見えた。今も、律を後ろから緩やかに抱きしめた格好のまま、首筋のあたりに何度も口づけを落としている。とてもくすぐったいが、「イヤだ」と振り払えないほどには律も嬉しく感じてしまうのだからどうしようもない。
そう、どうしようもないのだ。もう自分は。
(こういうのが……し、しあわせ、というものか)
ぼんやりとそんなことを考える。湯はさほど熱くはないけれど、今にも茹ってしまいそうだ。
やがて海斗の手がそろそろと湯の中へ沈んでいき、律の肌をあちこち摩るような動きに変わった。
「あ……っ」
「洗っておきませんと、ね」
「んうっ。こ、このっ……!」
わざとだ。絶対にわざとだ、この男!
そうでなければ、こんな風にいやらしく指先を動かすはずがない。
海斗の指先が胸の先にある飾りをちょいと弾き、くりくりと淫靡にまさぐっている。
「あ、ん、だめっ……! そ、そんな風に、触るなあっ」
語尾は半分泣いたように、情けなく震えてしまった。それが余計に律の羞恥心を刺激する。
「こちらはいけませぬか。では、すぐに洗って差し上げましょう」
「あ? あん……んあふぅっ」
するっと指先が肋骨の脇からおりて臍を伝い、股間へと移動してくる。そのたび、湯を跳ね上げて体を固くしてしまう。それをなだめるように、また海斗が律の首筋や、背中や、肩のあたりに口づけを落とした。
だが手のほうはまったく止まる気がないようだ。そのまま律の足の間のものをゆるゆると扱き、袋もやわやわと撫でさすっている。
「あ、あん……っや、だめ、んはああっ……」
律が彼の手の動きに合わせて腰をくねらせると、背中にふ、と海斗の吐息がかかった。笑っているらしい。
「そんな風に、お可愛らしい声をお上げなさいますな。……また我慢ができなくなってしまいまする」
「ば、バカッ……! だったらそんな、するなああっ!」
「はい。左様ですね。……しかし」
「あうっ!?」
つん、と後ろから固いものが尻のあたりに当たってきたのを感じて、律は戦慄した。
「ま、……まさか。そなた」
「いえ。まさかここでもう一度……などとは考えておりませぬゆえ。ご安心を」
「あ、あたりまえだ、バカぁっ! そ、その手を、やめろと言うのにいっ……あ、ああんっ」
ぐっと握られて扱かれると、だらしのない自分の嬌声が風呂場の音響効果で耳を余計に犯してくる。
自分の意に反しているのに、律の体はいうことを聞かなかった。触れられるのに合わせて腰をくねらせ、みっともない嬌声を溢れさせてしまう。
「はあ、あはん……っそ、そなたの言うことは、け、結構信用ならぬぞっ、このあいだから……何度も何度もっ」
「左様ですね。これでも反省はしているのですが」
言いながら、海斗はまたちゅっと律の肩甲骨の上あたりに口づけた。律の背筋に電撃が走る。
「くはっ?」
「……あなた様が、斯様にお可愛らしいのがいけない」
「わ、わたしのせいかよおおおっ!」
……そのようなわけで。
「初夜」であるにも関わらず、律はその後もあと数度、海斗という男に抱かれる羽目になったのだった。
惜しむとも 今宵あけなば 明日よりは 花の袂を 脱ぎやかへてむ
『金槐和歌集』116
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