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ローティアス7
1 ※
しおりを挟む「ああ……やっぱり先走ったよなあ、俺。絶対先走ったよ……」
自分に課された多くの執務をこなしながらも、ふと気を抜けば考えるのは彼のことばかりだ。最近の自分の頭の中は「そもそも『初恋』とはそのようなものでしょう」と言うラティモの言葉、そのものだった。
美しい湖畔でケントと二人だけで逢ったあの日から、すでに二週間ほどが過ぎている。秋はさらに深まって、近隣の山の木々はつぎつぎに葉を落とし始めている。特に、自分が担当している北方の地域では寒さが襲ってくる時期は早かった。魔都のあたりでは、まだこれほど風が冷たいことはないはずである。温暖な気候の場所を選ばれたという、ケントのいる《第二人間保護区》もそうだった。
(つぎ、いったいいつ会えるのかな)
気になるのはそのことばかり。だが、だからといって自分は自分の仕事を放棄してしまえる性格でもなかった。自分の仕事が滞れば、結局困るのは民たちだからだ。ケントだってそれは同じで、真面目で多忙であるがゆえに、お互い一緒にいられる時間があまりにも少なすぎる。
(ケントさん……早く会いたい。最近はなんか、様子が変だし)
そうなのだった。
ローティアスの体液に冒されたケントの身体は、あの日突然襲ってきた強い性欲に簡単に翻弄されてしまったのだ。男の体のつくりとして、一度昂ってしまったものはなるべくすぐに解消させておくしかない。自分の責任なのだからと、ローティアスは彼の欲望を発散させる手伝いをした。積極的に。
ケントは相当恥ずかしかったらしい。羞恥のあまり、行為のあとは真っ赤になった顔を覆ってまともにこちらを見てもくれなかった。気を悪くしたわけではないと思うが──その後の通信での会話でも、彼は何度も「気にしないでくれ」と言っていた──どこか態度がよそよそしくなったのは事実だ。
それが、ひどく心配なのだった。
(やっぱりケントさん……そっち側はイヤってことかなあ)
もしかすると自分に向かってはっきりとは言いにくくて、ああいう風に言っただけなのかも。あのケントの性格ならあり得ることだ。
だとしたら、こちらもその場合を想定して、ちゃんと準備をしておかねばならないと思う。
(いや……どうしても想像ができないけど)
あのケントが自分を組み敷いて、自分を抱く。
その絵づらがどうしても脳内に具体的に展開されない。逆にその反対の場面であれば、夜ともなればイヤというほどローティアスの妄想を刺激してくるわけなのだが。
おかげさまで、あの日以来自慰の回数が格段に増えてしまっている。耳に残っているケントの喘ぐ声と甘く蕩けた表情の記憶が、圧倒的な熱量で自分の体を刺激するからだ。これはどうしようもない話だった。
一般的に、こうした体の諸問題を解決するために、歴史的には愛人やら性奴隷やらを貴人の側に置いてきたという過去がある。しかし幸いにしてと言うべきか、魔王国では側室やら愛人やらといった者を傍に置くことをあまりよしとしていない。はっきりと「置いてはいけない」と明文化された何かがあるわけではないが、父、魔王エルケニヒの言葉や態度の端々から、それは如実に感じられるのだ。
もちろんそれは、エルケニヒが唯一の相手として父リョウマを選び、心から愛しているからに他ならない。そのリョウマが聞いているところで「べつに本命ではない奴を閨にあげても構わんぞ」などとは、口が裂けても言えるものではないだろう。そんなことを言ったが最後、リョウマ父上に心底呆れられ、愛想をつかされるに決まっているのだから。あのエルケニヒ父上が、そんな愚かな真似をするはずがないのだ。
というわけで。
今日も今日とて、自分の寝室でローティアスは一人、可哀想な自分のそれを自分で慰めるしかないのだった。もちろん、お供はあの日のケントの痴態である。
(ごめんなさい、ケントさん。ごめんなさいっ……)
そうは思いつつも、猛り立った自分のものを慰める手の速さは少しも緩まない。
思い描くのはひたすらにケントの姿。「いや」とか「やめて」とか言いながらも自分のモノを求めて腰を振る、とんでもなく乱れた彼の姿を妄想する。すると、驚くほど早く絶頂に達して、それはすぐに欲望を吐き出すのだった。
吐き出した自分のものを、ケントにもしたように指先ひとつで霧散させ、ベッドに沈み込む。深いため息が出てしまった。
「はあ……つ、つらい……」
大人になるとは、こういうことなのか?
父上もみんなも、こういうのを過ぎて大人になっているのだろうか。
よくわからない。
ただただ、あの人を抱きたい。
できればあの人も、自分と同じような欲望を持て余して、この夜を過ごしてくれていたらいいのだが……と願いながら。
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