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ケント3
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ケントのあまりの剣幕に、ローティアスはしばし言葉を失っていた。が、やがて複雑な微笑みを浮かべ、ケントの両肩に手を置いた。
「落ち着いてください。大丈夫です。俺が一人じゃないことは知っています。ケントさんはもちろんですけど、リョウマ父上だってエルケニヒ父上だって、サファイラだっています。もちろん、ほかの魔王軍の者たちだっていますから」
「……うん。そうだよ」
「もちろん、一番かっこいいのはケントさんですけどね!」
「は?」
唐突ににかっと笑ったローティアスを見上げて、ケントは変な顔になった。
急になにを言いだすんだ?
「そういえば俺、まだ《BLブルー》になったケントさんを見たことないんですよね。実はリョウマ父上の《鎧装》は、こっそり見せてくれたことがあるんですけど」
「へえ、そうなのか」
「はいっ。めちゃくちゃわがままを言って、誰もいない場所でこっそり《変身》してくださったんです。とってもかっこよくて、あのときは興奮しましたー!」
「そうだろ、そうだろ? リョウマはカッコいいんだよ。ちょっと天然で抜けてるとこはあるけど、基本的に明るくて優しくて前向きで、リーダーにぴったりだ。抜けてるところは俺たちがカバーすればいいことなんだしな。あいつは最高のリーダーさ」
「……そうですね」
「え?」
今の今までにこにこ笑っていたのに、ふっとローティアスの顔から表情が消えて、どきりとする。
(あ。しまった……)
リョウマはローティアスの父親であると同時に、自分が長年片思いを拗らせている相手なのだ。それなのに、自分に対して恋心を抱いているローティアスの前でこんなことを言ってしまうなんて。ひどく無神経なことだったと気づいて、ケントは慌てた。
「ご、ごめんな! 別に、そんなつもりじゃなかったんだけど」
「いいえ。いいんですよ。リョウマ父上がカッコいいのは事実なので」
ローティアスはすぐに表情をもとに戻すと、くるりと振り向いて湖の方を見た。
「ねえ、ケントさん。よかったらあなたの《鎧装》も、見せていただけませんか? こちらを使って頂いていいので」
「え……これって」
差し出されたのは、自分もよく知っている物体だった。《勇者パワー》が籠められた水晶球。これを使えば、自分たちは周囲に《魔素》が充満している地域でも、さらには宇宙空間ででさえも変身することが可能になる。魔王国の高い技術力があってこそ実現した代物だというのが、なんとも皮肉な話だが。
ケントは受け取った水晶球をしばし見つめた。
こんな場所で、こんなことのために消費するには勿体ない品だ。実際の金額はよく知らないが、量産なんてとてもできないと聞いている。非常に高価なものであることは間違いない。それを、「どこで必要になるかわらかぬゆえ」「いざという時には使え」と言って、あの魔王が《レンジャー》全員にいくつか配ってくれたのだ。これがあの魔王が金に糸目を付けずにリョウマのために開発したものであるというのも、これまた皮肉な話だった。
「ぜいたくな望みだってことはわかっています。でも……どうしても、見てみたくて。ずっとずっと、見てみたかったんです……。ダメでしょうか? ケントさん」
「うーん……」
ちょっと悩んだが、その時にはもうケントの心は決まっていた。
「落ち着いてください。大丈夫です。俺が一人じゃないことは知っています。ケントさんはもちろんですけど、リョウマ父上だってエルケニヒ父上だって、サファイラだっています。もちろん、ほかの魔王軍の者たちだっていますから」
「……うん。そうだよ」
「もちろん、一番かっこいいのはケントさんですけどね!」
「は?」
唐突ににかっと笑ったローティアスを見上げて、ケントは変な顔になった。
急になにを言いだすんだ?
「そういえば俺、まだ《BLブルー》になったケントさんを見たことないんですよね。実はリョウマ父上の《鎧装》は、こっそり見せてくれたことがあるんですけど」
「へえ、そうなのか」
「はいっ。めちゃくちゃわがままを言って、誰もいない場所でこっそり《変身》してくださったんです。とってもかっこよくて、あのときは興奮しましたー!」
「そうだろ、そうだろ? リョウマはカッコいいんだよ。ちょっと天然で抜けてるとこはあるけど、基本的に明るくて優しくて前向きで、リーダーにぴったりだ。抜けてるところは俺たちがカバーすればいいことなんだしな。あいつは最高のリーダーさ」
「……そうですね」
「え?」
今の今までにこにこ笑っていたのに、ふっとローティアスの顔から表情が消えて、どきりとする。
(あ。しまった……)
リョウマはローティアスの父親であると同時に、自分が長年片思いを拗らせている相手なのだ。それなのに、自分に対して恋心を抱いているローティアスの前でこんなことを言ってしまうなんて。ひどく無神経なことだったと気づいて、ケントは慌てた。
「ご、ごめんな! 別に、そんなつもりじゃなかったんだけど」
「いいえ。いいんですよ。リョウマ父上がカッコいいのは事実なので」
ローティアスはすぐに表情をもとに戻すと、くるりと振り向いて湖の方を見た。
「ねえ、ケントさん。よかったらあなたの《鎧装》も、見せていただけませんか? こちらを使って頂いていいので」
「え……これって」
差し出されたのは、自分もよく知っている物体だった。《勇者パワー》が籠められた水晶球。これを使えば、自分たちは周囲に《魔素》が充満している地域でも、さらには宇宙空間ででさえも変身することが可能になる。魔王国の高い技術力があってこそ実現した代物だというのが、なんとも皮肉な話だが。
ケントは受け取った水晶球をしばし見つめた。
こんな場所で、こんなことのために消費するには勿体ない品だ。実際の金額はよく知らないが、量産なんてとてもできないと聞いている。非常に高価なものであることは間違いない。それを、「どこで必要になるかわらかぬゆえ」「いざという時には使え」と言って、あの魔王が《レンジャー》全員にいくつか配ってくれたのだ。これがあの魔王が金に糸目を付けずにリョウマのために開発したものであるというのも、これまた皮肉な話だった。
「ぜいたくな望みだってことはわかっています。でも……どうしても、見てみたくて。ずっとずっと、見てみたかったんです……。ダメでしょうか? ケントさん」
「うーん……」
ちょっと悩んだが、その時にはもうケントの心は決まっていた。
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